01 エルフ、追放される
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「レザリア。あなた、パーティ追放ね」
「はい?」
私は突然告げられた言葉に理解が追いつきません。
今はお昼時。ここ冒険者ギルドの喧騒も騒がしい中で、私たちのパーティのリーダーであるリナは、もう一度はっきりと私に告げました。
「だから。レザリア。あなたを私たちのパーティ『白い燕』から追放する」
「……!……そ、そんなっ。いったい私が何を……!」
信じられません。今までリナ……もとい『白い燕』のために身を粉にして貢献してきたというのに。ショックのあまり私はよよと床に崩れ落ちてしまいました。
リナは席から立ち上がり、私の前にしゃがんでため息をつきます。
「いや、何がって心当たりあるでしょ?」
「……グス……私が皆様の役に立てていないからでしょうか……?」
「……いや。あなたには危ないところを何度も助けてもらったよ。頼りにしてたし、感謝もしている」
「……なら……」
なぜ、私が。必死に考え込む私に向かって、パーティ『白い燕』の治癒術師であるライラが困った顔で言いました。
「レザリア。リナもいっぱい我慢してきたんだよ?」
補助術師であるカルデネも後に続きます。
「うん。レザリアほどの射撃能力を持つ人なんて他にいないし、リナもずっと悩んでたんだけど……」
リナ、ライラ、カルデネ。苦楽を共にした三人が私のことを複雑な表情で見つめます。どうしましょう、全く理由が思い当たりません。
「……スン……至らぬところがありましたら、改善しますゆえ……」
「……ねえ、レザリア。質問させて?」
リナは私のことを真っ直ぐな瞳で見つめます。ふわぁ……こんな時ですが、私は彼女の瞳に吸い込まれてしまいます。
「まず、『抱擁は親愛の証』。これはエルフの文化でいいんだよね?」
「ええ、そうです」
私たちエルフ族は、その愛情を持って相手を抱きしめます。もしかして日に数十回ほど抱きしめているのを気にしているのでしょうか? いえ、エルフ族の文化です、文化。
「……そして、『相手の頭を撫でるのは求婚の意味を持つ』。これもエルフの文化だよね?」
「……フフ。はい、でもご安心ください。エルフ族だけの文化だということは重々承知しておりますので、これからも気軽に撫でてください」
そう。私は以前、リナに頭を撫でられたことがあります。当時のリナはその文化を知らなかったようですが——まあ実質プロポーズです。あなたにも責任があるんですよ?
「で、『エルフ族は裸を人に見られるのは恥ずかしくない』。これもそうなんだよね?」
「はい。以前に話した通り、エルフ族は魔物の巣食う森の中、安全を確保するために集団で水浴びをします。なので裸になることを恥ずかしいなどと思ったことはありません」
とはいえ、こちらもエルフ族特有の文化であって、世間一般では違うということは承知しております。いくら私といえど、意味もなく裸になったりはしません。
リナは深くため息をつき、半目になって私を見据えました。
「じゃあさ。毎朝毎朝私が目を覚ますと……全裸のあなたが息を荒くして私を抱きしめてるのは、いったいどういう文化なのかな?」
「……ええと……少々お待ちください、今、考えますゆえ」
なるほど。一つ一つはエルフ族の文化で押し通せても、複合技は無理でしたか。チッ、さすがは私のリナ。
しかし残念ながら、『欲望に忠実であれ』なんて文化はエルフ族にはありません。私たちは誇り高きエルフ族なのですから。
必死に言い訳を考える私。そんな私を見据えながら、三人は立ち上がりました。
「あのさ、毎回やめてくれって、注意してるよね?」
「この前なんて寝ているリナの服、脱がそうとしてたよね?」
「あのね、レザリア。そういうのは良くないと思うの」
くっ、私史上一番のピンチです。このパーティを追い出されたらリナのそばにいることが出来ません。
私は腹を括って、この場で土下座をしました。
「申し訳ありませんっ! これからは二日に一回……いえ、三日に一回にしますのでっ!」
「出てけーーっっ!!」
ポイン。
——こうして私は、私の所属するパーティ『白い燕』を追放されてしまったのでした。