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何故私は天使になったのか その2

残酷な描写や子供に対する虐待描写があるので閲覧注意です。

苦手な方や精神的に弱い人どうしても見たい人は自己責任でお願いします。

この物語はフィクションです。

 だけど私は生きている。

なぜだか分からないけど学校の図書室にいた。

ここには思い出がある。

今よりも小さい頃はこの本たちにいろいろな物語に思いを馳せていった。

楽しくてつい自作の鼻歌なんて歌いだしてしまう。


「もしも明日が晴れるならにをしよう~」


 しかしふと考える、神様は意地悪だなぁ。

良い思い出の中で死なせてあげようと思ったんだろうけど。

かえって苦しくなりそうだよ。


「お腹空いたな…」


 幽霊なのに腹は減るんだなぁ。

変なの。


「誰?」

「あ…えっと…」


 そんな時だった。

近くで男の子の声がしていた。


 その男の子は小さくて可愛らしくて優しそうな男の子だった。

確か同じクラスの男の子。

私の思い描いた理想の王子様とは違ってたけど。

私を救ってくれた主人公だった。


 ぐう。

何日食べてないお腹が鳴ってしまった。

恥ずかしい。

幽霊でもお腹は鳴るもんなんだなぁ。


「お腹空いてるの?」

「うん」

「じゃあ…」

「え…?どこへいくの?」


 男の子は私の手を引いてどこへともなく走り出した。

夏の暑さで汗だくになりながら。

暑さも空腹も忘れて。


「夏祭りの屋台」

「今僕学校なんて抜け出して遊びたい気分なんだ」


 たどり着いたのは夏祭りの会場。

確かに食べ物は沢山ありそう。


 それは私という存在の終わりに、神様が最後にくれた。

特別な、長い長い一日だけのかけがえのない大切な思い出になった。


 空はいつの間にか夕暮れ時になっていった。


 私たちは美味しそうな綿あめが売ってる屋台を見つけ。

「これ一緒に食べようよ、美味しそう」

「僕お小遣いはあるからさ」

申し訳なさを感じつつ、男の子にお金を払ってもらってお店から綿あめを二つ購入。

男の子から手渡され二人で歩く。


「私は風雨って言うの」

「僕は熊太郎」

「じゃあ熊君」


 綿あめ二つ片手に二人で歩いて私の名前を自己紹介ついで話していく。

男の子の名前は熊太郎君って言うらしい。


「えーそれで熊君はクラスの殴っちゃたの?」

「あはは…まぁつい勢いで」

「なんていうか…ださいよね」


 男の子は私と似たような家庭らしく(ごはんは食べれてるらしいけど)。

親から言葉や暴力を振るわれてるらしい。

そして今日クラスの子からペットを馬鹿にされて。

それでイライラして同じクラスの子殴ってしまったらしい。

それで教室から逃げ出して。

今に至る。


 私とおんなじだな。

自然と嬉しくなってしまう。

喜ぶことじゃなけいど、多分仲間を見つけたからだ。

私と同じような人が身近にいたんだなぁと。

つい親近感を感じてしまっていた。


 そして羨ましいとも感じていた。

熊君みたいに力が。

運命に抗う力があれば…。


 あの時、あの包丁を自分にむけてなければ。

弟と妹は助かっていたのかな…。


 今頃違う未来ってあったのかなって…。

そう考えずにはいられなかった。

それが口から自然と出てしまっていた。


「そんなことないよ、むしろ羨ましい…あの時迷わず逃げずに戦ってたら違った未来があったのかなー…って」

「え?」


 そして願うことなら私が死ぬ前にあえていれば…。

きっと友達になれてたかな…。


「やっぱ何でもない」

「家族の為に戦えるのは凄いって意味だよ」


 すぐになんでもなかったかのように私は振る舞る。

熊君は心配そうな顔をしてるな。

私は胡麻化そうとお店で売ってる可愛いキーホルダーに大げさに注目してはしゃいで気をそらろうとした。


「あこれ欲しいな可愛いー」


 それを見た私自身もは内心なんだこれと思ったけど。

めちゃくちゃ可愛い。


「なんだこれ…」

「面白いでしょ」


 そのキーホルダーは小さいサイズのたぬきのキーホルダーだった。

ただし金玉が凄いデカい。

顔と同じサイズの金玉は二つぶら下がって、触るとぷにぷにとしたクッション素材となっていった。

きっと熊君は凄く珍妙なキーホルダーだなぁ…って思ってるだろうなぁ。


「はぁ…」


 微妙…そんな表情で熊君は生返事で返していた。

ひょっとして気に入ってくれなかったのかなぁ。

「お揃いだね」

その後は私の猛烈プッシュで熊君は二つ買ってしまった(買わせた)。

しかも嬉しいことに色違いでペアルック仕様。

熊君は青色、私ははピンク。

なんか…まるで恋人みたい。

私の心は人生で一度もなかった高揚感で満ちていた。

でも…。

今日という日ももうすぐ終わるんだね。


「はぁー楽しかったね」

「うん」


 日はもうすっかり暮れていて、空には星が瞬いていた。

私たちは夜の小学校の忍び込んで屋上で花火を見ていた。


「花火だ、きれーだね」


 ドーンと大きな光と音と共に空に火薬の大輪の花が咲く。

僕らは夜空と花火を見ながらこの今に思いをはせていく。

ゆったりと時間が過ぎていく。


「明日からどーしよ」


 そう明日ののこと考えていると。

「熊君はすごいな、私は…」

「もっと強く生きたかった…な」

今まで我慢してたものがこみ上げてくる。

好きな人の前で涙なんて見せたくもないのに。

あふれてしまいそうになる。


「明日か…いいなぁ私に明日はないから」

「え?」


 私ははただ夜空を見上げていた。

悲しみに飲まれてしまわないように。


 望むことなら。

今日だけで何度思ったか。

でも明日には私には消えてる。

なぜか分かってしまう。

死んだ人間が生きてちゃいけないんだ。


 私に自分に明日が無い。

そう自分に言い聞かせる。


「多分今日という日は、神様が一日だけくれた日だっただね」

「本当だったら私もう死んでるの」


 私の言葉は、周りの景色さえ変えていった。

花火大会は中止になった。

周りの音が静かになりゆく。

やがてある一定のリズムの音しかならくなった。

雨が降り。

風が吹く。

蝉が鳴く。

そしか音がしなかった。


 そして私は淡々とは語り始める。

自分の置かれていた境遇(世界)見ていた世界。

昨日までの過酷な日々。

「私、昨日大切な人が私より先に死んでさ…」

「暑さと食べ物が食べれなくて」

「なんだっけ食中毒だっけ?…腐った物食べたものも原因だろうなぁ…」

「まだ小さかったのにっ」

「わたしの大切な弟と妹」

私の語った真実に。

その事実に驚きのあまり熊君は言葉を言えないでいた。


 そして熊君は気づいてしまった。

「育児放棄」

「あはは…」

「かえってこないんだぁ、お父さんもお母さんも」

そうだよ。

死んでるんだよ。

私も、私の大切な兄弟も。

私も死んだはずなのに。

なのに。


「私だけ、生き残っちゃった」


 なぜか私だけ生きている、幽霊となり死にながら。


「昨日死んでた人間が一日だけ生かされたんだ」

「やっと土から出たと思ったらすぐ死んじゃう蝉みたい」

「物語の中の主人公なら救ってくれるのかな」


 まるで蝉のようだなぁ。

やっと自由になれたのになぁ。


 熊君も事情は違えど同じ仲間。


 私は乾いた笑いしかだしてなかった。


 泣いてないのに、心の中大粒の涙がぽろぽろ流れていた

だめだ。

止められない。

なんで。

どうして。

こんなとこ見せたくないのに。


「…なんで」

「なんで死ななくちゃいけなったんだろなぁ」


 涙が止められないよぉ。


 私はボロボロと涙を流してスカートの裾を握りしめていた。

何度も何度も手で涙を拭う。

あふれ出る涙は小さな手では受け止めきれず全てこぼれこぼれ落ちていく。

熊君も涙があふれていた。


「そんな…そんなのって悲しい」


 熊君は私を抱きしめて。

ただ無力感と悲しみにくれて。

泣きながら見つめることしかできない。

でもそれでも良かった。

同じ人がいて悲しんでくれて。


 私を覚えていてくれる人がいれば。


「泣かないで、でも私の為に泣いてくれるだけで十分だよ」

「今の私はちっとも悲しくなんてないよ」

「だって神様が最後にくれたこの一日で」

私は立ち上がり、熊君の前に行き。

「あなたに会えたんだもの」

「幸せだよ」

「でももし明日があれば普通の女の子みたいな恋したいな」

笑顔でそういった。

大きな大輪の花火を背に行った言葉はきっと心からの本心。

今日のこともこれから起こることも。

これっぽちも後悔なんてない。

そんな顔で。

「最後にあなたを助けられて」

「君にあえてよかった」

「友達でいてくれてありがとう」

「好きだよ熊君」

そうして私は。

崖から飛び降り、落ちていき。

消えていった。

最後の耳に聞こえたのは。

蝉の鳴き声と雨と風の音だけが残る。


 そうだ全部思い出した。

 

「全部思いだしたよ」

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