《⭐︎》推し活が嫌いだ!
《⭐︎》さらっと読めるショートショートです。
俺は推し活が嫌いだ。
世は推し活ブーム。
若い女性が親族でも婚約者でも無い男性に熱を上げて歓声をあげて団扇を振って追いかけ回すなどという、ちょっと前なら「はしたない」と眉を顰められていた行いが、「推し活なら仕方ない」「堂々と愛情を表現するのは健康的」と好意的に受けとめられている。
女性の淑やかさ、慎ましさはどこへ行った?
……まあ、そんなの個人の自由と言われれば仕方ない。
だが、『推し』の対象が舞台の人気俳優とか、騎士団の麗しい聖騎士なら分かる。
何故、俺たち街の治安を守るだけの平民の寄せ集め衛兵隊が「会いに行けるアイドル」になるんだ?
今までは、たまに身内が自分の子供や父親を見に来る事しか無かった練習場の塀の周りは、いつの間にか推しグッズを手にした女性に囲まれるようになってしまった。
入り待ち、出待ちの人波に、練習場に入るのも一苦労。
勝手に「担当カラー」が決められ、まずは誰のファンか決めて、その人の色を持たないといけない。持っていない者はファンの中に入れられないという謎ルールが生まれているらしい。
ふざけんな!
と言う俺の声は皆に相手にしてもらえなかった。
だって、俺セルジュ・サンドが一番人気だったから。
「まあまあ、ファンサービスだと思って」
「衛兵隊が身近になるのはいい事だ」
「何? モテアピールですか?」
練習場に入るたび、待ち構えていた同じ色の集団の女たちに腕や胸板をぺたぺたと触られる気持ち悪さが分かるか?
「きゃっ、たくましい」
って、お前らの神経の方がずっとたくましいわ!
そんな過熱していく推し活で、ついに事故が起きた。
俺に抱きついたファンを突き飛ばす事が出来ずにそのままバランスを崩して倒れ、俺は頭を強打したのだ。
さすがに「あいつらはファンという名の痴女、集団痴漢、セクハラだ」と言ってた俺の言葉が分かったらしい。
練習の公開は週に一度。隊員に近づく事、触る事は禁止と決まった。
これで堂々と女性たちをシカト出来るようになり多少は安寧な日々となったが、俺のファンは減らなかった。
「不幸な事故で心身共に傷ついたセルジュ様を見守って差し上げなくては!」
という事らしい。
他の隊員たちの目が、やっと同情になった。
分かってくれたか? 推し活をやっている女たちの図太さを。
そんなわけで俺は推し活が嫌いだ。
練習公開の今日もまた、推しの色を身にまとって団扇を持った女性たちが塀に群がって大騒ぎだ。
そいつらよりも、彼女たちの後ろでお弁当を食べながら息子を見ているどこかのおばさんの方が癒される俺は、同じように彼女たちから距離をとって練習を見ている女性がいる事に気が付いた。
その、ふわふわとした薄い茶色の髪の小柄な女性は、決して大声で声援を送る事などせず、塀に張り付く女性たちの邪魔にならないよう離れた所から見ている。慣れた様子だから、前からいたのだろうが気付かなかった。
カラーを身につけていないので誰が推しなのか分からないが、俺の事を見ている気がしないでもなくはない。
やがて、その可憐さから密かに「鈴蘭の君」などと呼んで、練習公開に来てくれるか一喜一憂し、見かけると有頂天になるようになった俺だった。
そんなある日。
「おっ、アラン!」
休日に街で偶然同僚を見かけた俺は考えもせず声をかけたが、アランには連れの女性がいた。
「あ、失礼……」
鈴蘭の君!、と思ったらあっという間に彼女は全力疾走で走り去ってしまった。
「ごめん、なんか邪魔した?」
「大丈夫、大丈夫。あいつ、俺の嫁さん」
「嫁?!」
さよなら、俺の恋。
……鈴蘭の君は俺じゃなくアランを見てたのか。自分の自惚れに苦笑いする。
だが、アランは予想外の事を言った。
「あいつ、大のセルジュ推しなんだ」
「俺っ??」
でも逃げていきましたよ?
「剣のフォームが一番綺麗らしい。走り込みも他の人より多くやってるって」
そんな所を見ていてくれたんだと嬉しくなるが、素直に喜ぶわけには行かない。
「でも、アランの嫁さんなんだろ?」
「旦那と推しは別らしい」
「……わからん」
アランは笑って
「だよなー。無理に理解しなくていいよ。そーゆーもんだ、と受け入れて」
と言うが、いいのかそれで。
鈴蘭の君のイメージがガラガラと崩れて行く。
「あのさ、今度奥さんと話せないかな。もちろんアランも一緒に」
下心は無い。無いったら無い。
「あー、悪い。うちの嫁さん『推しに認識されたく無いファン』なんだ。だからこの話も聞かなかった事にして、これからも視界に入れたり話しかけたりしないでくれる?」
は? 毎週のように通ってるのに『認識されたく無い』?
「わからんーーー!!」
アランは相変わらず「理解しなくていいよ。そのまま受け入れて」と笑っているが、こちとら二重に失恋した気分だ。
やっぱり俺は推し活が嫌いだ!




