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三焼山山頂へ

残酷なシーンがあります。

 地下の格納庫から、先発の蹴斗が遠隔操縦する大型ドローンがせり上がってきた。

「琉、あの大型ドローン『G1』が発射したら、すぐにこちらも出発するからね」


3,2,1 GO


ドローンとは思えないスピードでG1が漆黒の闇に飛び立つ後を、間髪いれず、琉達のドローンが追いかけた。G1に吸い付くような距離で進むドローンは今にもぶつかりそうだったが、2機の間に衝突防止信号が出ているので、ぶつかることはないと分かっていても、あまりの近さに恐怖心が湧く。


「そーらーをこーえてー、ラララ、ほーしーのかーなたぁー。ゆくぞー、いさはい、ジェットのかぎーりー・・・」

飯酒盃医師(いさはいいし)が小さな声で鉄腕アトムの主題歌を口ずさんでいる。

「耳を澄ませ ラララ 目を見張れ そうだ 飯酒盃 油断するな・・・」

(アトムの主題歌って2番ってこんな歌詞なんだ)


「はーい到着。あの水蒸気が噴出しているのが、三焼山だ。琉、暗視ゴーグルの右のボタンを押してごらん」

飯酒盃医師に言われて、ボタンを押すと、水蒸気の向こうに山頂が見えてきた。桔梗学園製暗視ゴーグルは、暗闇だけでなく、水蒸気もカットして、山頂の映像を見せてくれる。


「よし、操縦を交代するよ」

琉に操縦桿(そうじゅうかん)を渡すと、飯酒盃は降下の準備を始めた。

2人はドローンのドアを開けた。途端に水蒸気が機内に入ってくる。

「琉、もう少し、風上側に回り込んでくれ」

G1にその場に留まっていて貰って、琉はドローンを少し回り込ませた。水蒸気が切れると、火口がよく見えた。

火口には人影が3人。冬の山の寒さを防ぐため、銀色のベンチウオーマーを着ている。琉の母、理子(りこ)とおぼしき人影は、縛られて転がされていた。


「蹴斗、Ladybug(テントウムシ)を落とせ」

Got It(了解)

飯酒盃医師の命令で、G1から小さな卵状の物体が、火口の四隅に投げ込まれた。卵は落下すると割れて中から、テントウムシのような小さな虫型ロボットが飛び出した。


「琉、Lのボタンを押せ」

ボタンを押すと、火口にいる人物を映し出した映像が4枚見えた。距離にして1m程度の近距離からの映像で、話している言葉まで聞こえた。虫型ロボットには高性能のカメラとマイクが内蔵されている。



「光二さん。長年連れ添った奥さんとお別れしないんですか?」

「あ?18年も一緒にいたんだぜ。そろそろ解放して貰いたいもんだ。夜明けまであと1時間だ。寒いな」

「光二さん。なんか奥さん動かないですよ」

「おい、理子生きているか?寒いからって眠るなよ。生きている生け贄(いけにえ)が必要なんだからな」

「俺達この後、理子さんの子供の中から、後釜になりそうなのを捕まえに行くんですよね」


「や・め・て。娘にだけは手を出さないで」

理子がゆっくり顔を上げて、涙ながらに訴えた。理子の首からは「(げん)」という命名書が下げられている

「何言っているんだい。理子お前だって前の生け贄の子供だろう?」


「光二さん、後釜ってどうやって決めるんですか?」

「犬神現様の前に、生け贄になった女の産んだ娘をすべて連れて行って、選んで貰うんだ」

「光二さんのところはあの可愛い双子がいるじゃないですか」

「あいつら、ガリガリな上にすばしっこいし小利口だからな。やっと12歳になったけれど」

「光二さん、だって養育費自分で使っちゃっていたじゃないですか。食べるもの食べさせなければガリガリですよ」

「うるさいな。どうせ死ぬんだ。生かさぬように殺さぬように育てればいいんだよ」


ドガ。

光二ともう1人の男の2人が、鮎里と飯酒盃に同時に殴り倒された。


そして、倒された男達は、飯酒盃に、足輪をはめられた。足輪から延びている頑丈な鎖の先についている杭を、鮎里がハンマーで山頂に打ち込んだ。男達が動かれては困るからだ。


「鮎里、先に理子さんを抱えて、ドローンに上がって」

鮎里は、理子を縛っているロープをナイフで切り、銀色のベンチウオーマーごと横抱きに抱えた。火口から少し離れたところに置いてあるストレッチャーに理子を乗せると、合図に従って、琉がストレッチャーを引き上げた。琉は自動運転に切り替え、ドアのところまで移動して、上がってきたストレッチャーを機内に引き込んだ。

 泣いている暇はない。

「かあさん、少し我慢していてね」


ゴゴゴ。


突然、火口周辺が大きく揺れた。2人の信者を拘束するために打ち付けていた杭が外れた。

光二が、銃を構えている飯酒盃に飛びかかろうとした。


バン。


光二が銃を持っている腕を打たれて倒れた。

「正当防衛っと」

倒れた光二を見下ろしながら、もう一人の男に銃を向けた。男は背を向けて、岩場を転がりながら駆け降りていった。


ゴゴゴ


もう1回。地面が大きく揺れると、飯酒盃の身体が大きく倒れた。それを戻ってきた鮎里が支えた。

「銃を抱えて転ぶと危ないですよ」

鮎里は、飯酒盃の身体にサバイバースリングを掛けた。

もう1本を自分の脇に引っ掛けた。


バン


突然銃声がした。鮎里のスリングの片側が外れた。スリングに当たったらしい。

山の下から数人の男が、銃を持って駆け上がってきた。


「おいおい、あいつら猟銃をぶっ放しやがって、熊じゃないんだから。くそ。手の皮1枚駄目にするか」


鮎里が手を上げるとワイヤーが高速で巻き上げられた。

スリングが切れている鮎里は、必死でワイヤーにつかまった。高速なワイヤーは、水蒸気噴火の強風にあおられる。ずるずると鮎里の身体が落ちていく。鮎里は落ちないように必死にワイヤーを(つか)む。


火口から噴煙が上がり、G1の大きな機体が噴煙から守るため、巻き上げられていく2人の下に滑り込むのは、ほぼ同時だった。

G1の下部から、噴石がぶつかる鈍い音が何度も聞こえた。


「ひぇー。間一髪だった。琉、ドアを閉めて」


3人を乗せたドローンはG1と平行に飛行して、火口から離れていく。

「琉、リモート運転を継続。ナビが桔梗学園を目指しているか確認して」

飯酒盃はあくまで冷静だった。


「鮎里、理子さんのベンチウオーマーを脱がして、理子さんの身体をカプセルに入れて」

ベンチウオーマーの下は、白い着物1枚だった。

「かあさん、寒かったね」

琉は母親に抱きつこうとしたが、飯酒盃に止められた。

「琉、そこの箱の中に桔梗バンドがあるからお母さんにはめて。

本部にデーターを早く送って向こうですぐ迎え入れて貰えるようにしないと。」

飯酒盃は指示しながらも、理子に点滴を打ち、保温バックに入れた。聴診器で胎児の心音を確認した。

「心音は聞こえる。かなり弱いけれど」


飯酒盃が治療している間、鮎里は桔梗学園の病室と連絡を取っていた。

「データ送ります。母子ともに緊急を要します。カイザー(帝王切開)の準備もお願いします」


誰も見ていないLadybugの映像には、光二を含め山を駆け上ってきた信者のすべてが、

火砕流に飲み込まれる様子が映っていた。


G1と4人を乗せたドローンがKKGの格納庫に入った時、大勢の医者と研究員が非常態勢で待ち構えていた。



 琉はドローンのエンジン音が消えた後、盛大にドローンの運転席で吐いてしまった。

吐いても吐いても止まらなくて、最後には血の混じった胃液まで吐いていた。


遠隔操作をしていた蹴斗は、自分が乗っていない機体ではあるが、大量の噴石が当たり、その衝撃を我が物のように感じ、操縦桿を握りしめ、恐怖の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。  

余り強く握りしめていたので、操縦桿から手をなかなか離すことが出来ず、KKGの研究員に指を一本ずつ剥がして貰わなければならなかった。


理子はそのまま手術室に運ばれ、帝王切開で現は取り出された。現は一命を取り留め、保育器で安らかに眠っている。

理子は3日間昏睡状態だったが、4日目には意識を回復し、1週間後には子供達と涙の再会を果たした。


飯酒盃医師は、山頂で転んで捻挫をし、膝下にも多少の擦り傷が出来たが、翌日から同僚に自分の武勇伝を嬉々として話していた。


鮎里は、首筋に受けた銃創と、ワイヤーを握っていて擦れた傷が化膿して、しばらく点滴を受けた。

三つ編みの髪も半分はちぎれてしまって、邪魔だったのでナイフで切り落としてしまった。


枕元に置いていた髪を、見舞いに来た鞠斗に「遺髪だ。やる」と言ったら、鞠斗はそれをひったくって怒って病室から出て行ってしまった。


後で、母親の名波医師に「子供をからかうんじゃありません」と怒られた。

この親にしてこの子ありである。


琉君、修羅場を経験しましたね。1つ大人になったかも知れません。

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