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顕現教

ついに大神家につきまとっていた宗教団体の正体が分かります。

  走り込んできたのは琥珀(こはく)玻璃(るり)だった。後ろからは児玉医師と一雄が続いて入ってきた。


(りゅう)兄ちゃん、どうしよう、お母さんがいなくなっちゃったの」

「お父さんもいないの」


「また研修旅行とかじゃないのか?」

琉がいぶかしげに聞いた。


(りん)琵琶(びわ)が言うには、朝、黒い車がやってきて、お母さんを無理矢理車に押し込んでいったんだって。その時お父さんが『命名書』を()がして、一緒に乗っていったんだって」


「児玉医師、『顕現教(けんげんきょう)』の動きは予想より早かったですね」

鮎里(あゆり)ちゃんが、いてよかったわ。飯酒盃(いさはい)医師にはもうKKGききょうけんきゅうがくえんに向かって貰っている」


琉は児玉医師と鮎里の会話から、自分の両親が何かとてつもないことに巻き込まれていることを察した。

「児玉医師、俺にも分かるように話してください」

「その前に、一雄君、琥珀と玻璃を連れて、琳と琵琶を白萩地区に連れてきて。九十九農園にいる玲にも、こっちに来るように電話して。理由は後、一刻を争うから。(しゅ)、3人分の白萩バンドを作ってきて、門のところで待機していて」


柊は、理由は分からなくてもすぐ、一雄に的確な指示を出した。

「一雄、大神(おおかみ)兄弟が揃ったら、宿泊施設に泊れるように手配して置くから、地下を走るバスを使って、大神のうちまで行ってくれ。くれぐれも気をつけろよ」


一雄と柊が、琥珀と玻璃を連れて飛び出していった後、作戦会議が始まった。

指示はすべて児玉医師が出した。児玉は顕現教について、ずっと調査を続けていたのだ。

「鞠斗、蹴斗にKKGへ行くように指示して。遠隔操作で無人ドローンを操作させる」


「よし、琉、これから説明するから、画面を見て。あなたがお母さんを助けに行くんだからね」

児島医師が、壁面のディスプレイを作動させた。


「琉君のお母さんの出身地って、三焼山(みやけやま)(ふもと)だよね」

琉はこくんと頷いた。

「三焼山の麓に、山を守る犬神神社というのがある。小さな神社だけれど、活火山である三焼山の噴火の被害に一度も会わなかったので、地元の人から『鎮火の神社』とも言われているんだ。


三焼山は1773年に日本海まで達した大噴火を起こしたが、その時から未だに水蒸気噴火が起こっている。

1773年の噴火の後、犬神現いぬかみあらたという男が、顕現教という宗教を作ったんだ。

その男は、「三焼山は24年に1回ずつ噴火が起こるが、それを収めるためには8人目の子供を身ごもった女を火口から投げ込めば、山の怒りが収まる』と人々に広めた」


「児島医師、計算が合いませんよ。1773年から24の倍数経っているなら、前回は2013年、次回は2037年です」

「琉君の家のように双子が生まれれば、8人目の子供は24年経たなくてもいいわけだ。

3年ごとに8人生まれるなんて、そうそう都合のいい女性がいるわけない。だから、候補の女性を何人も作るわけだ」

琉は頭が真っ白になった。


「家の母さんがその候補だって言うわけですね」

「そう、そして君がお父さんだと思っていた人間は、7人の子供が無事育ち、8人目を妊娠することが出来るか監視する顕現教の人間だ」

鞠斗がそっと、琉の両肩を押さえた。

「じゃあ、俺達の父親は・・・」


 児島医師も流石にそれは口に出して言えなかった。彼らの本当の父親は江戸時代から続く、何代目かの「犬神現」だからだ。琉達の「大神」という姓も、本来は「犬神」だが、素性を隠すために名を似たものに変えたのだろう。



「さあ準備が出来たようだ、鮎里も準備はいいか」

鮎里が立ち上がった。髪を結ぼうとして、手首にはめていたゴムを使おうとしたが、バチンと切れてしまった。

「縁起でもないや。まあ、説明はそれくらいにして、今日のミッションについて児島医師、確認をお願いします」


「琉のお母さんは、もう三焼山の火口に連れて行かれていると思う。夜明けと共に火口に投げ込むという儀式らしい。だから今晩、2機のドローンで火口まで行って、火口からお母さんを奪還する。

1機は蹴斗が遠隔操作するドローンで、一番下を飛んで私達が乗っているドローンを隠して貰う。

大きな水蒸気噴火や突然の噴石が飛んできても、大きな機体で守れる。

もう1機は飯酒盃医師と琉が操縦するドローン。夜の視界が悪いところは飯酒盃医師に操縦して貰うが、火口上空で飯酒盃医師と鮎里が下に降りて、お母さんを救出するので、その間、琉がしっかり機体を保持するんだ」


「鞠斗、鮎里の髪をまた結んでやってくれ。三つ編みでぎっちり固く」

「その前にトイレに行かせて。上空でもよおすと困るから」


「あーすっきりした。スパゲッティー2皿分出たよ。琉もしっかり食べていけ。シャリバテしたら、意識飛ぶぞ。明日の朝までかかるからな。美容師君、髪を宜しく」

「美容師君じゃない」

そう言いながらも、鞠斗は「無事に帰って来るように」と祈りを込めて、鮎里の髪を三つ編みに結い上げた。

「よし、固くて、振り回すと武器になりそうだ。ありがとよ。帰って来たら、また解いて肩もみ頼むぜ」

鮎里は立ち上がって、座っている鞠斗の髪をくしゃっとなでた。



 KKGの建物の地下部分に、ステルス性能を持つドローンは格納されていた。

鮎里は、最新の機能を持った飛行スーツに着替え、太ももに刃渡り30センチはあるナイフを装着した。ヘルメットをつけて暗視ゴーグルを降ろした。

琉も下着姿になった後は、研究員のお姉さん方に着替えを手伝って貰いながら、どうにかそれらしい格好になった。各種ボタンの位置を教えて貰ったが、上の空だった。


ボカ!


頭に強い衝撃が走った。鮎里に頭を殴られたのだ。

「話をしっかり聞け。家族を守るって言った言葉に嘘はないだろう。それに衝撃吸収スーツだから、多少ぶつけても痛くないだろう。舞子達が被験体になって作った素材だから感謝しろよ」


琉は2人の医師の後に続いて、今晩自分の命を守るドローンに乗り込んだ。

飯酒盃医師の隣の席に座って、シートベルトをすると、ドローンの静かなエンジン音がシートを伝って身体に響いてきた。

鮎里は後部座席に座って、琉の母親、大神理子(おおかみりこ)を寝かせるベッドの確認をしていた。ベッドはカプセル型になっていて、山頂で冷えた身体を温め、酸素も補給できるようになっている。栄養補給用の点滴も装備されていた。

その装備を見ると、自分の母親が山頂で、寒くて怖い思いをしていることが感じられ、勇気が湧き上がってきた。

「かあさん、待っていて。(げん)、元気でいてくれ」



明日は、山頂での出来事を書きます。怖い話になるかな。

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