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桔梗学園子育て記  作者: 八嶋緋色


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舞子と涼の初デートその2

2人は希望通り「いちゃいちゃ」出来たんですかね。

 舞子と涼が、イタリアンレストランを出ると、笹木香が、「松子ROOM」の前で待っていた。若杉ひなたの今日の宿について、電話で鞠斗(まりと)に頼んでおいたからだ。

「あら?デートですか?」

舞子は反射的に涼の腕を離した。

「いいえ、祖母のお供です」


「そうなんですよ。折角のデートなのに、私のわがまま聞いてくれたの」

講習会が終わった松子が、ひなたを連れて、建物から出てきた。

「こちらの方が、若杉ひなたさんですね。今日、お泊まりになるお部屋に案内します。明日以降、ご都合に合わせて、引越しの手伝いを出しますので、何を持ってくるかお考えください。まずは、部屋の中にある備品を確認してください」

「じゃあね。ひなたちゃん。明日の晩、私はここに戻ってくるから、一緒に夕飯を食べましょう」


「松子ばあちゃんは、今日はまた桔梗学園に帰るんですか?忙しいですね」

「そうね。急用が出来たの」

そう言うと松子はにっこり笑った。

「さて、私の借りている部屋をご案内しましょう。あなた達は初めてのお客さんだわ」


 松子は、戎井呉服店(えびすいごふくてん)の古材を利用した古民家が完成したらそちらに移るつもりで、今の部屋を借りているらしい。白萩(しろはぎ)地区の古民家は基本的に長屋スタイルで、ここには8軒分の部屋があり、現在はその半分に人が入居しているらしい。

基本的な家具はすべて桔梗学園と同じものが揃っているが、高齢者は特に愛着のある自分の家具を手放せないので、一部大型家具を入れることが出来る広さはある。

松子も桐のタンスを2棹(ふたさお)持ち込んでいて、気に入った着物はそこにすべて入れてある。その他に、桔梗学園と違うのは、作り付けのこじんまりとした仏壇があることだ。火災への懸念(けねん)があるので線香は付けられないが、スイッチを入れると、柔らかい光が仏壇を照らしてくれる。備え付けのベッドは希望によって昇降式のものを入れることが出来る。高齢者の住みやすいように、各所に配慮がされている。


「どう?いいでしょ?じゃあ、これは家のスペアキー。明日、桔梗学園で返して頂戴(ちょうだい)。そうそう、月曜日の朝の仕事に間に合うためには、朝5時のバスに乗るとちょうどいいからね」


 2人がぽかんとしている家に、松子はそそくさと部屋を出て行ってしまった。


「どういうこと?」

「ばあちゃんが、2人にお泊まり体験をプレゼントしてくれたってことじゃない?」

涼は涼しい顔で答えたが、舞子は事態を飲み込んで、真っ赤になった。

そんな舞子を促して、涼はまず、松子の部屋の探検を始めた。


「まず、タオルや歯ブラシセットは、風呂に客用があるね。布団は押し入れに2組あるし、食器は朝食分くらいはあるか。ポットも炊飯器もある。冷蔵庫の中は・・・。麦茶もばあちゃんがつくった煮しめもあるな。なんか美味しそうな和菓子もあるし、寝間着はちゃんと2組あるね。ばあちゃん、確信犯だわ」

「ちょっと待って、涼。意味が分からない。説明して」

「松子ばあちゃんは、俺たちが泊まりに来た時の準備をして置いてくれたってことだよ」

開け放した押し入れにある布団を見て、舞子は半分腰を浮かした。

「まあ、もういちゃいちゃしたいんですか?舞子さん。柔道場では積極的だったのに」

舞子が畳に突っ伏して、「勘弁して」と叫んだ。

(あんまりからかうと、また怖いことが起こるのでこの辺にしよう)


「舞子、まずはここに座って、出産後の話をしよう。そういう計画だったよね。今、麦茶とお菓子を持ってくるから、周りの目を気にせず、ゆっくり話そう」


そう、舞子は出産後、2人でいちゃいちゃしたいから、「桔梗学園を出たい」と言っていたが、松子ばあちゃんは先回りをして、その環境を用意してくれていたようだ。


「でも、ばあちゃんはこの部屋を借りているんだよね」

「ああ、戎井呉服店の解体後、それを使って別の古民家を再生するんだろ?そんなすぐには、完成しないよ。安っぽい建売住宅じゃないから。1年後にできるかな?それまではここに、ばあちゃんは住むつもりだよ。そして俺たちはいつ遊びに来ても言い訳だ」

 和菓子を食べた後、涼と舞子はごろんと仰向けに寝転がった。いつも柔道場で練習後、畳に寝転んで休憩する癖がこんなところでも出る。2人で天井を見ながら、将来の話を始めた。


「まず、涼が保育士になりたいって話から、どうやってそれを実現したいかの話からかな」

「そうだね。最初は、桔梗学園の外の短大か専門学校に通おうと思っていたんだ。で、この間、保育施設長の越生(おごせ)先生に相談に乗って貰った」

「越生先生は、高卒資格認定試験を受けて、短期大学を出たんでしょ?」

「もう(しゅう)と2人で、高卒資格認定試験の出願はした。11月に試験があるから勉強も始めている。柊も大学は、T大学か国外の大学への進学を考えているので、昼寝時間や自由時間を使って2人で勉強をしている。まあ、柊に教えて貰いながらやっているから、多分全科目受かると思う」

「短期大学にするの?専門学校にするの?」

「越生先生情報なんだけれど、来年に九十九(つくも)カンパニーが、保育専門学校の認可を取るらしい。九十九カンパニー直営なら、俺たちは授業料無料だし、都合のいい選択肢かな」

「やった。じゃあここから通えるね」

「いや、その専門学校は島根分校に出来るんだ。百々梅桃(どどゆすら)が島根分校の特色として、保育専科を打ち出して、真子学園長にも許可を得たらしい」

「そんなのだったら、N市の保育専門学校の方が近いじゃない」

「梅桃は、生徒募集も始めていて、男子学生が欲しいってことで、俺を希望しているらしい。まあ、越生先生情報で、俺が直接聞いたわけではないから、まだ、他の人には言わないで欲しいけれど」

「そんな~。私と冬月(ふゆつき)を置いて行くの?」

「いや?舞子が良ければ、俺は冬月を連れて島根に行ってもいいんだよ。環境はここと同じで、柊や(りゅう)と同じように子連れ生活をするだけだから」

「え~。2年も離ればなれなの」


(もう、またどう言っても反対だな)

涼は片肘をついて、舞子の方を向いた。そして、舞子の手を取って、今日塗ったマニキュアをしげしげと見つめた。

「なによ」

「ん?マニキュアって、色っぽいなって思って」

「涼がいない間、マニキュア塗っちゃいけないってこと?」

「いや、こんなの塗って柔道したら、俺が集中できないかなって思って」

「やだぁ。私はマニキュア付けた涼に何も感じないよ」

「ふ~ん」

涼は舞子のワンピースの胸元のリボンを、ゆっくり引っ張った。

「舞子って、桔梗学園に来て痩せたけれど、胸は大きくなったよね。


突然、舞子がガバッと起き上がった。

「そうなの。ちょっと見てよ。胸が西瓜(すいか)みたいになっちゃったの」

 そう言うと、舞子は自分から胸のボタンをすべて、外して、ワンピースの胸を広げ、ご丁寧に冷感仕様の下着を持ち上げた。

(ちょっと待って、舞子大胆すぎるんだけれど)

「あー。いつものスポーツブラじゃないから、背中のホックが外れない」

「ワンピースと下着をちゃんと脱いだら、背中向けてごらん。ホック外してやるから」

(そう言えば、ホックってどう(はず)すんだ?)

「そうね。待っていて。はい。外して」

このデートのために、舞子はレースがいっぱい入ったブラジャーをしてきたが、乳腺の発達のせいで日々大きくなる胸を納めるには、そのブラジャーは小さすぎた。背中の肉に食い込んだブラジャーは、ホックを外されると元気よく外れた。

「見て!」

 舞子はその西瓜というか、血管が浮き上がっているところを見ると、メロンのようにも見える胸を、両手で支えて、振り返った。


「人間って哺乳類なんだなぁ」

 涼は思わずつぶやいてしまった。勿論、舞子の逆鱗(げきりん)に触れ、その後、涼は舞子の痛いところ、堅いところのマッサージを命ぜられた。



目覚ましが、朝4時を告げた。

「舞子、5時のバスに乗るぞ」

舞子は隣に寝ているはずの涼を捜したが、涼はもうシャワーを浴びて、歯を磨いていた。

「借りた寝間着とシーツと枕カバーをよこせよ。洗濯乾燥機に入れて置くから、今日の夜にはばあちゃんが取り出してくれるだろう」

「ゴミはどうする?」

「そんなのいいから、俺が片付ける。早く着替えろよ。シャワー浴びたら、タオルも洗濯するから」


もう既に、新婚の雰囲気が薄れつつある2人であった。

バスには、朝飯前の仕事に間に合うように、何人かの桔梗学園の人間が乗っていた。


「昨夜はゆっくり出来ましたか」

2人が横の座席を見ると、鞠斗がニコニコしながら座っていた。

鞠斗は出張帰りだろうか、スーツ姿だ。スーツ姿の時の鞠斗の口調は、非常に丁寧だ。自然と答える涼の口調も改まる。

「お陰様で、若杉さんは家も用意して貰ったようで、今晩、うちの祖母と夕飯を食べるようですよ」

「ほお、おばあさまは、昨夜は桔梗学園に戻っていらっしゃいましたからね」

鞠斗には2人が白萩地区に泊まって、朝帰りしたことが筒抜けだったようだ。


「君たちは、のちのち白萩地区に住みたいと思いましたか?」

「でも、涼が島根に・・」

「舞子、その話は」

「ああ、島根分校の保育科の話を聞いたんですね」

「あそこは、9月入学にする予定なんですよ。舞子さんも4月の大会が終わったら一緒に行って、島根分校で、分校の経営から学びますか?梅桃(ゆすら)も、2人一緒に来てくれたら、スタッフが増えて嬉しいって言っていましたね」

(もっと早くその話を教えてくれたら、昨夜は険悪な雰囲気にならなかったのに)


舞子は以前から、鞠斗に聞きたかった話題があった。

「鞠斗は碧羽(あおば)ちゃんと会っていますか?」

「碧羽と一雄は、秋からも桔梗学園の授業に参加していますから、たまに見かけることはありますね」


 一雄は高校3年なので、もういくら休んでも単位が切れることはない。そこで、学校を休んで、桔梗学園の勉強に参加している。卒業後は九十九農園(つくものうえん)に就職して、桔梗高校の外部指導者として、野球部の監督もやることになっている。


「碧羽ちゃんは、来年度から桔梗学園に来るって話なんですけれど、本当ですか?」

「涼も新しいケースでしたが、碧羽も新しいケースとして入学するようですよ。4月から入試が始まるのだそうです」

「入試科目は?」

「1ヶ月の体験入学後、志望理由書と面接で決めるそうです」

「9月から体験入学しているって訳ですか?」

「まあ、体験入学の許可がなかなか下りないのは、今までと変わりないですから。それより無理矢理妊娠しようなんて考えなくて良いのは、一歩進歩です」

「まさか、鞠斗は碧羽ちゃんに迫られたんですか?」


「バスが着きましたよ」


 肝心な情報は、聞き出せなかった。

みなさん、行間を読んでいただければ、ありがたいです。てへ。

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