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舞子と涼の初デートその1

最近、1つの話が長くなっている気がします。すいません。

 「ねえ、出産後もずっとここに住むの?」


今朝は珍しく舞子と(りょう)の2人だけで朝食を食べていた。


「出産後はすぐ舞子の試合だし、俺の実業団の試合もあるよね。当分桔梗(ききょう)学園に住むことになるんじゃないかな」

「私、全日本女子柔道選手権が終わったら、柔道からいったん離れようと思っているんだ」

「1年くらい休養するの?」

「桔梗学園の経営を任されるとしたら、もっと勉強することがあるんじゃない?」

「じゃあ、なおのこと桔梗学園の中にいた方が、勉強になるじゃないか」

理路整然と話をする涼の話し方が気に入らなかったのか、舞子はふぐのように口を膨らませた。

「一度、外の生活をしないと、桔梗学園のことはよく分からないじゃない。ここに来る前にしていた生活は、ひどく閉鎖的だったし、世間というものを知るべきだと思うの。」

「学園の外で暮らすとしたら、子育ては、お互いの親に助けて貰うの?」

「どっちの親も揃っているし、孫を抱きたい人は多いわ。ただし、小学校からの教育はここがいいけれどね」

「そういうかたちで形で学園の外に出て、またここに帰ることができるのかな?」

「戻れる前例を私が作ればいいじゃない」

鞠斗(まりと)と話している時、俺が『保育士の資格を取りたい』と言っていたのを、舞子は寝たふりしていたけれど、聞いていたよね。保育士の資格を取るためには、俺は一度、短期大学か専門学校に行かなければならないよ。その間、ずっと東城寺に戻るの?」

「そうじゃなくてぇ。二人っきりでイチャイチャするお家が欲しいの」

「へ?」

涼は、想定外の感情論に素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げてしまった。

確かにどこかで監視されているような桔梗学園では、二人っきりになっても、抱き合うことはおろか、手をつなぐのもはばかられた。また、学園内でも、唯一の夫婦と言うことで、嫉妬の視線を感じることも多かった。

勿論、涼達は届を出した夫婦なので、他人に気遣いすることもないのだが、ここへ来る女性達の境遇を考えると、軽率な振る舞いは避けたいところである。だから、舞子の希望はもっともではあるが・・・


 「出産後の家について、ここで話し合うのって、気が引けるな。舞子、次の日曜日、桔梗学園の外に出て、話をしないか?」

「それって、デートってこと?」

「まあ、この間2人で外出したのは、お互いの親との食事会だから、今回が初デートというところかな」

嬉しさのあまり抱きつこうとする舞子を片手で制して、涼は(とりあえずN市まで出て、映画でも観るかな?)とぼんやり考えていた。



 日曜日は彼岸(ひがん)過ぎとは言え、まだ残暑が厳しかった。日傘を差した舞子は、珍しく化粧をして、半年ほど伸ばしていた髪を可愛いリボンで結わいていた。手持ちのワンピースは、ふわっとして体型をカバーする形なので、舞子が妊婦だとは外見では分からなかった。

涼も舞子に縫ってもらったオックスフォードシャツが、今は体にぴったりとして、大胸筋が服の下に感じられるくらいになっていた。2人が並ぶと、以前は姉と弟のようだったが、今は立派なカップルに見えるようになった。

 車を持っていない2人は、桔梗学園のバスで桔梗駅に向かおうとしてバス乗り場に向かった。バスの中には、様々な用事で駅に向かう研究員やその子供が乗っていた。

「涼君、今日はデート?」

振り返ると、涼の祖母松子が同じバスに乗り込んできた。涼はすっと立って、松子を舞子の隣の席に座らせた。

「松子ばあちゃん。今日も白萩(しろはぎ)クラフトゾーンで、着物リメイク教室ですか?」

「そうなんだけれど、その前に戎井(えびすい)呉服店の建物を見に行きたいの。白萩地区に古民家として移設されるので、明日の午後から解体なんですって。古民家として再生される場合は、やっぱり手が加えられるから、昔のままの呉服店を目に焼き付けておきたいの」

「私たちも思い出の場所なので、一緒に見に行ってもいいですか。涼も行きたいよね」

「勿論。ところでうちの親は呉服店の解体について、知っているんですか」

「あんたの親は、昨日行ったそうよ。昨日はソーイング部の方で仕事があったから、私は一緒に行けなかったの」

「じゃぁ、なおのこと3人で行きましょうよ」



「あそこね。『ゑびすいROOM』の看板ももう新しいところに移されてているのね」

「でも、あの『戎井呉服店』の大きな屋根看板は、まだあるじゃないか。あれをバックに写真を撮ろうよ」

3人でああでもない、こうでもないとスマートフォンで写真を撮っていると、後ろから誰かに声を掛けられた。

「松子ちゃん?松子ちゃんじゃない。私、若杉よ。若杉ひなた。覚えている?」


 そこからは、若杉さんは、老人ホーム脱出劇の話まで、ノンストップで話し始めた。


「それであなたどうするの?」

「自宅に戻って見ようかと思うの」

「あなたの家って、桔梗駅の向こうのもっと南にあるんじゃなくて?それにもう1,000万円で売ったんでしょ」

「不動産屋さんは、引越しまで家財置いていいって言ったのよ。だから見学のつもりで着の身着のまま、ホームに行ったんじゃない」

舞子と涼は、どうも若杉さんは詐欺(さぎ)に気がついていないのではないかと不安に思った。


「涼、鞠斗(まりと)に電話して」

「わかった」

あの戎井呉服店の詐欺事件の現場にいた鞠斗なら、いい解決策があるかも知れない。

「はい、白萩地区で保護して良いって?白萩バンドは?ああ、入り口ゲートで作ってくれる?じゃあ、連れて行くね」

「鞠斗と連絡ついた?」

「うん。白萩地区で保護してくれるって。今日は動作解析の時お世話になった笹木香さんが、当番でゲートにいるから白萩バンド作っておいてくれるし、古民家の中でばあちゃんが当座住める部屋を用意しておいてくれるらしい」


「若杉さん、今日は暑いし、移動にバスを使いませんか?」

「え?もう行っちゃうの?そんな大金をポケットに持って、元の家に行ったら、ホームの人に捕まっちゃうわよ。私、白萩クラフトゾーンってところで、着物のリメイク教えているの。今日は生徒さんが多くて、助手が欲しいくらいなの」

「着物を何にリメイクするの?」

「それがね。生徒さんそれぞれの希望に添うから、浴衣ほどいて夏掛(なつが)け作っている人もいるし、スカートやバッグにリメイクする人もいるので、なかなか大変。中にはコスプレの衣装を作るとか、お世話人形の服を作るとか。もう大変で猫の手も借りたいのよ」

舞子は自分も行きたくて、うずうずしたが、今日の目的はデートだったので、その気持ちをぐっと押し込んだ。

「小さい服やコスプレ?なんかは私には無理ね」

「違うの。着物をほどくのが大変なの。戎井呉服店で仕立てた着物は手縫いだから、ミシンよりは簡単にほどけるんだけれど、和裁の知識がないと変なところを切るのよ」

「ほどく手伝いくらいなら出来そうね。困っている友人を助けに行きましょうか」


若杉はとことんポジティブな(たち)である。


「あら、このバス運転手さんがいないのに動くのね」

若杉は自動運転のバスが珍しく、キョロキョロしっぱなしであった。

松子が小声で舞子に謝った。

「ご免なさいね。折角のデートなのに、白萩地区まで送って貰うなんて」

「いいえ。私もあの地区の中に入ったことないんで、良い経験です。クラフトゾーンにはどんなお店ができているんですか?」

「女子が好きなものが集まっているわよ。ネイルやアクセサリー、木工細工や焼き物、金属加工もあるし、ちょっことだけ体験すると言うよりは、何日も通って、自分だけのオリジナルを作れることが良いわね」

「一日で出来ないなら、持って帰れないのか」

涼はがっかりした。

「2~3時間で出来るものもあるみたい。指輪や2人で使う布団とかどう?」

松子は舞子の指を見て言った。

「勿論、結婚指輪は後でいいものを買って貰いなさい」

「松子ばあちゃん、結婚指輪は、柔道を引退してこの指の()れがもう少し治ってから、その時のサイズで作りたいの」

「そうね。じゃあ、可愛いピンキーリングを作ったら?」

柔道をすると、突き指をしたり、柔道着で(こすれ)れたりして、関節が腫れて指輪のサイズが女生徒は思えない巨大なものになる。舞子がそういうことを気にしていたとは、意外だった。涼はまだまだ、舞子のことが分かっていないのだと実感した。



 バスは、白萩地区の入り口で停まり、残りの乗客を桔梗駅まで運んでいった。ここで下りたのは、松子たち4人だけだった。3人が桔梗バンドでゲートを通過しようとすると、ゲート脇の小窓が開いて、中のディスプレイがせり出してきた。

「若杉ひなたさんの、白萩バンドを申請していた、榎田涼(えのきだりょう)です」

スピーカーから「若杉ひなたさんの顔を写してください」という声が聞こえた。

ひなたが顔を写すと、スキャンが始まり、次に手のひらをスキャンした。あっという間に登録が完了して、小窓に白いバンドが出てきた。

「松子ちゃん、これを付けると、どうなるの?」

代わりに舞子が答えた。

「入場パスと電子マネーの代わりになります」

「松子ちゃんのバンドは紫なんだね」

「私のは、ここだけじゃなくて、別のところも入れる特別パスなの」

「ネズミーランドとネズミーシーの両方に入れるパスみたいなもんだ」

「まあ、そんなもんね」

松子は、初めて来た3人を先導して中に入った。


 中に入ると広い道路の左脇にクラフトゾーンがあって、多くの店舗が並んでいた。松子が教えている着物リメイク「松子ROOM」の建物は、そのゾーンの入り口にあった。間口(まぐち)は他の建物の3倍くらいあった。布を裁つ作業台が何台もおいてある奥には、ミシンも電子ミシンにロックミシン、何故か足踏みミシンまであった。

「年配の方は、足踏みミシンの方が作業が早い人も多いのよ」

松子は「松子ROOM」に入るともう、背筋がシャンと伸びて講師の顔になっていた。

「じゃあ、もうめいめい始めているみたいだから、そうね、若杉先生は、奥の浴衣をほどいていらっしゃる若い2人のご指導をお願いします」

「若杉先生って・・・」

そう言いながら、ひなたは、まんざらでもない顔で、部屋の奥に進んで行った。

「舞子ちゃん、どうもありがとう。私、お昼までここで教えるので、どうぞ2人でゆっくり回ってください」



 2人でどこを回るか相談しながら「松子ROOM」を出てきた2人は、中学生の女の子に呼び止められた。

「涼さん?お久しぶりです。やっと会えたぁ」

まるで、抱きつかんばかりの勢いでやってきたのは、大神琥珀(おおかみこはく)だった。

「舞子、この子は(りゅう)の妹だよ。玻璃(はり)ちゃんだっけ?」

琥珀(こはく)です!!!」


一瞬、鋭い目つきで涼を見つめていた舞子は、琉の妹で、体育祭で大活躍していた少女ということを思い出すと、戎様(えびすさま)のような優しい顔になった。


「ゴメン。名前間違えちゃった。琥珀ちゃん、『ゑびすいROOM』はこっちに移転したんだよね」

「はい。建物は古民家として住居に生まれ変わるらしいのですが、名前だけ『ゑびすいROOM』を残させて貰って、こっちで子ども食堂などをやらせて貰っています。ほら、紫じゃないけれど、白いバンドも貰いました」

「食堂にはみんな来られている?」

「前に『ゑびすいROOM』に来ていた子は、入り口で顔認識して貰って、1日限定のバンドを受け取るんです。そうすると、中で遊んだり食べたり勉強を教えて貰ったり自由にできます。でも、食べ過ぎ禁止機能がついていて、ある一定以上食べると、遊ぶことも食べることも出来なくなるんです。勿論、わざと遊具を壊したり、ゲームを持ち込んだりした人は、次回からは白萩地区自体に入れないんです。誰がこんな上手い仕組み考えたんですかね」


涼は晴崇(はるたか)がニヤニヤしながら作っている姿を想像した。


「そっか、ところで琥珀ちゃん達の兄弟はここに来ている?」

琥珀の顔が曇った。

「最近、お母さんが私たちの行動に不審を抱いているので、私たちも1人ずつしかここには来られないのです。ただ、ここから貰っていく食べ物のお陰で、兄弟の健康状態は大分良くなりました」

「それも不審がられない?」

「ご飯はいつもの通りの食材で作って、おやつでカロリーを補うようにしています。『玲お兄ちゃんが最近バイトしたお金で、お菓子買ってくれる』って誤魔化(ごまか)しています」


 舞子が口を(はさ)んだ。

「お母さんもお(なか)に赤ちゃんいるんでしょ?」

「お母さんもどんどん()せています。でも、お父さんにマインドコントロールされているんで、私たちの情報は流せません」

「お母さんも含めて、子供全員を桔梗学園で保護できないかな?」

「小さい子供にとっては、やっぱり親が大切なんです。いくら私たちが世話をしても、『ママがいい』とか『パパがいい』とか言われると気が滅入(めい)ります」

「でも、お腹の赤ちゃんは、このままだと低体重児で生まれるかもしれないし、そうなったら障がいが残るかも知れないよ」


琥珀の目から涙がこぼれた。

涼がしゃがみ込んで、優しく琥珀の頭に手を置いて(なぐさ)めた。

「子供が出来ることには限界がある。琥珀ちゃんも玻璃ちゃんも中学生としては十分頑張っているよ」

「私たちも、ここに来れば琥珀ちゃん達に会えるよね。今度は琉を連れてくるね」


「琥珀ちゃん、食料届いたよ。仕分けしよう」

三津(みつ)さん、ありがとう。部活で忙しいのにありがとうございます」

「じゃあ、涼さんと彼女さん、また相談に乗ってください」

山田三津は、舞子と涼の桔梗バンドをちらっと見て、周りに鞠斗がいないか、見回して、少しため息をついて走り去った。



 「舞子、今日はデートだから、したいことはないか?」

沈んだ舞子に、涼は優しく声を掛けた。

「そうだね。クラフトゾーンを少し奥まで歩いてみようか」

そういうと舞子は、涼の腕を取って歩き出した。

「あそこに金属加工の店があるよ。指輪を作るんじゃないの?」

「う~ん。もう少し他の店も見よう」

(涼はすぐ物事を決めたがるのよね。色々迷って、結局同じ結論になっても、まずは後悔しないためにも、いろいろ、ぶらぶら見て回りたいのに)


「木工細工か。桔梗学園にいると、家具とかいらないよな。白萩地区の古民家にも、家具なんかは備え付けなのかな」

「後で松子ばあちゃんの部屋を見せて貰おうか」


「焼き物か、小学校の時、修学旅行でみんな茶碗作ってきたじゃないか」

「そう、学校に後から届いたけれど、結構壊れていたよね」

「それは、男どもがせっかちに何度も粘土(ねんど)(つぶ)しては作り直したから、空気が粘土に入って焼いている時、割れたらしいよ」


一つ一つ見ては思い出話をしているうちに、2人はクラフトゾーンの端までで歩いてしまった。

「疲れた?なんか食べようか」

「賛成、子供達が並んでいるのは何だろう」

「ソフトクリームだ」

2人は、ソフトクリームを桔梗バンドで買うと、それを()めながら(もと)来た道を戻った。

「なんかデートみたい」

「デートしているんですけれど」

「そっちのソフトクリーム美味(おい)しい?」

「トウモロコシ味だって、ほんのり甘いな」

そういうと舞子の方にソフトクリームを差し出した。

「私のも食べる?(べに)はるかの味だよ。甘いサツマイモの味がする」

涼が顔を突き出すと、舞子が少し強めにソフトクリームを涼の口に突っ込んだ。

「おい!鼻までくっついたじゃないか」

「ん~。デートみたい」

(この女はどういうのをデートだと思っているんだ)

ハンカチなど持ち歩かない涼が、困っていると、

「しょうがないんだから」と言って、舞子は斜めがけしている小さなバックからハンカチを出して、涼の顔を拭いた。

誰かの視線を感じて、下を見ると、小さな子供がじっと見つめていた。

「お兄ちゃん達、コイビト?」

2人だけの世界に没入していた2人は、ここが公道だと言うことに気がついて赤面した。


「私ね。一度やってみたかったことがあるの、付き合ってくれる?」

(やっと決まったか)

そういって、舞子が向かったのはネイルの店だった。


「あの~。ネイル初めてなんですが」

店の中には、爪を2色に塗り分けている30代くらいの女性がいた。

「ちょうど良かった。今日は1人なんで、予約の方がいるとお待たせするんですが、今その方終わったんで、どうぞお座りください」

「日曜日なのに、お1人でやっているんですか?」

「土日はN市の大型商業施設で店を出しているんで、スタッフ総出でそっちに行っています。平日はスタッフが交代でここに来て、ネイル教室をしています」

「ネイル教室ですか?」

「そうご年配の方がたくさん来られますよ。家事をしても剥がれないネイルは、主婦の方にも人気です」

「そういえば、柔道している人も爪割れ防止のために、トップコートをしている人いますよね」

「舞子さんも柔道家ですもんね?」

「あれ、なんで私の名前が分かるんですか?」

「私、桔梗学園の研究所所属ですから、以前舞子さんのプレゼンも拝見しましたよ」

「柔道家の手って、ゴツゴツで今までマニキュアなんか似合わないと思ったけれど、今日は勇気を出してやってきました」

「手はその人の生き方を現わすんですもの。スポーツ頑張っていらっしゃるんでしょ?じゃあ、スポーツを補助するマニキュアはどうですか?涼さんも塗ってみますか?色がないものだったら、男性も大丈夫ですよ」

「いや僕はいいです」

「そんなこと言わず、桔梗学園での研究でこれを作ったんですよ。実験台になってください。舞子さん、涼さん」

そう言われて、まずは、舞子が椅子に座った。


綺麗に爪を磨いた後、甘皮(あまかわ)をカットしながら、ネイリストは話し出した。

「爪って剥がれると、力が入らないじゃないですか?逆に力が入る爪ってないか研究してみたんです。今、平日はご年配の方に講習と言って試しているんですけれど、リウマチで握力が弱まった方にも効果があったんです」

そう言いながらネイリストは、爪にオイルを付けて養生した。

「じゃあ行きます。硬い爪にはなりますが、通気性はあって、剥がした後、爪が白くなることもありません。(ちな)みに1週間くらい過ぎると、徐々に()がれていくので、除光液によって爪にダメージを与えることはありません」

「舞子の握力って40kgだっけ?それがどのくらい上がるんですか?」

「分かりません。病人や高齢者でしか試したことがないので。はい、塗り終わりました。紫外線を当てて硬化しますね。さあ、後はお好きな色に塗りますよ」

「爪が長く見える塗り方ってありますか?というか、マニキュア塗ったら、手が細く見えたり・・・しませんよね」

「いいえ、ありますよ。フレンチネイルや縦ストライプも細く見えますし、斜めに色の切り替えを入れるのもいいですね。舞子さんの肌色なら、爪先に濃い珊瑚(さんご)色を入れて、グラデーションにするのがいいかも、ラメも入れましょうか?」

「やって貰えよ。その上からトップコート塗ればいいじゃないか。気に入ったら、その色で試合に出たらどうだ」

「じゃあ、応援に来る時、涼も同じネイルで来てね」

(あちゃー。言い過ぎた)


 舞子の後、涼も二人に押さえつけられ、爪に2本ずつ青と紺色のストライプのカラーを入れられた。

「これもクールでいいわ。次回は私もストライプがいいかな?いや、月のマークにしようかな。息子の冬月に因んで」

「お子さんの名前、月が入るんですか?それまでにかっこいいデザイン考えておきますね。では、握力データは、2週間いただきますね。良かったら、剥がれるたびに来てくださいね。無料で新しいデザインを入れますよ」


 舞子が爪を見ながらニコニコしているのを見て、涼はまた新たな舞子の姿を見た気がした。


 時間は正午を回ったので、2人でイタリアンのランチを食べた後、松子に会うことに決めた。

松子は同じ年代の人が多い白萩地区にも部屋を用意して貰って、桔梗学園と行き来していたのだ。



デートの話も、若杉さんが入ってきたため、2つに分けて書くことにしました。

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