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桔梗高校の甲子園その2

オリンピック、楽しんでいますか?桔梗高校の甲子園その2をお送りします、

 桔梗(ききょう)学園の大食堂では、野球観戦のため多くの生徒や研究員が集まっていた。

桔梗高校は1回戦をコールド勝ちし、2回戦に駒を進めた。

 桔梗交通のバスは今日も、15台の編成で、深夜甲子園に出発した。

前回運転手として駆り出されて、今回は幸運にもドライバーから外れた研究員達が、昼食を食べながらテレビ観戦をしていた。

「今日の桔梗高校の対戦相手はどこ?」

「1回戦同様初出場の、東北の高校が相手みたい。強豪じゃないみたい。くじ運が強いよね」

「勝てそうなの?」

「山田雄太君が1回戦みたいに三振の山を築いて、兄の一雄がバカスカ打てば、桔梗高校が勝つんじゃないかな。そう上手くいくとは思わないけれど」



「予選ではキャプテンの五十沢(いかざわ)君って、ピッチャーがずっと投げていたんでしょ?」

恰幅の良い研究員は、遠くに紅羽(くれは)がいるのを確認して小声で答えた。

「五十沢選手は、決勝当たりから調子を崩していて、コントロールが定まらないんだって」

「でも、復活すれば、2回戦も突破できるんじゃない?」

「私は、1番を打っていた佐藤君押しなんだけれど」

「私もそう思っていたんだ。色白で元気そうな1年生でしょ?」

「何よぉ。みんな、仮眠取らないで、試合見ていたんだ」

「まあね。甲子園まで行って、試合見ないのもつまらないじゃない。桔梗学園って、野球部ないでしょ?」



 紅羽の耳には、そこここから聞こえる噂話が、嫌でも入ってきた。人の口に戸は立てられないと言うが、五十沢が紅羽のお腹の子の父親だというのは、周知の事実になっているようだ。


 試合は、1回に桔梗高校が手堅くあげた2点を守る緊迫した闘いだった。

0行進が続いた試合が動いたのは、7回だった。雄太の玉に慣れてきた相手の打線が火を噴いた。相手校の1番のバッターがヒットを打ち、2番バッターも手堅くバントで送った。その後、雄太の制球が突如乱れ、フォアボールを与えてしまった。

 一打逆転の場面に、ブルペンの五十沢の出番がやってきた。


緊迫した場面に食い入るように画面を見ていた紅羽に舞子が声をかけた。

「ピッチャー交代みたい」

紅羽の胸がどくんと鳴った。画面に五十沢健太がマウンドに向かう姿が映し出された。

そして、そんな紅羽の姿を、蹴斗がじっと見つめていた。



 健太が、マウンドに上がると、半分涙目の雄太はボールを渡しながら言った。

「すいません。僕が抑えておけば、調子の悪い先輩に回さなくて済んだのに」

その言葉を聞いて、健太はふと、仲村に対して、自分が言ったことを思い出した。

(俺も、かなり失礼なこと言ったよな)


健太は、雄太から貰ったボールで、初めての甲子園のマウンドで投球練習をした。意外なほど、肩の力が抜けていた。夢のマウンドで投げられる嬉しさなのか?

「いいよ。今日は玉が走っている。次は変化球行ってみようか」

聞き慣れた一雄の声が懐かしい。一雄と組むのは最後かも知れない。今日は、一雄の言うとおり何も考えないで投げてみよう。そう考えると、観客の声も耳に届かなくなってきた。


 コントロールの定まった健太は無敵だった。3年間、磨いてきた変化球も、面白いように決まった。剛速球の左腕、雄太の玉にやっと目が慣れてきた相手高校のバッターは、急に変化球を自在に織り交ぜる健太に代わって、全く対応できないまま、9回の最後の打席が来てしまった。

「ストライク、バッターアウト」

サイレンと共に整列する選手に口々に褒められて、健太は試合が終わったことを実感した。



 桔梗学園の食堂は、桔梗高校の勝利に沸いた。

「岐阜分校作戦の開始か」蹴斗が頭をがっくりと下げた。

紅羽がうなだれる蹴斗(しゅうと)に気がついた。

「岐阜分校作戦?」

「ああ、これから鞠斗(まりと)は桔梗高校野球部を連れて、岐阜分校に行くんだ」

「岐阜分校って、米納津雲雀(よのうずひばり)のいるところだよね」

「雲雀だけでは手が足りないから、今、九十九剛太(つくもごうた)達も岐阜分校の手伝いに入っている」

「九十九剛太くん?」

紅羽は、実は剛太と健太が会ってしまうことで、何か起こるのではと不安そうな顔をした。


「心配か?」蹴斗が紅羽の顔をのぞき込んだ。

「私には関係ないことだから」紅羽が顔を(そむ)けた。

「晴崇と入れ替わりに、俺も桔梗高校野球部の世話に行くから」

「行くから、何だって言うの?」

「鞠斗が過労で倒れないようにする」

紅羽は、突然話題をはぐらかされて、肩の力が抜けた。

「そうだね。鞠斗はもうボロボロだろうからね」

紅羽は、明るい笑顔で、椅子から立ち上がり、午後の勉強をするため食堂を後にした。


「もう少し、押した方がいいんじゃない」

(しゅう)が耳元でささやいた。

「すぐ出発しないといけないから」

蹴斗は返事にならない言葉を口にして、食堂を後にした。


やっと、ペースをつかんできました。相変わらず、実際の時間経過と同じ早さでしか書けないのですが、暑い時に暑い?話を書いた方が、気持ちが乗りますね。

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