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桔梗学園の秘密

本校の男子と、分校の男子、喧嘩は収拾するのでしょうか

 その頃まだ、湯船でくつろいでいる男子の様子を見てみよう。


温泉浴場には、蹴斗(しゅうと)鞠斗(まりと)晴崇(はるたか)、涼と分校から来た匠海(たくみ)洋海(ひろみ)の双子に、九十九(つくも)農園の孫、剛太が残っていた。浴場の端の方の寝湯(ねゆ)では、男子バスの運転手、真子学園長の息子、五十嵐瑛(いからしあきら)が、疲れたのか、小さないびきをかきながら眠っていた。


「ぬるい湯は妊婦にはいいかもしれないが、もう少し熱い風呂とか、サウナとか欲しかったよな」

剛太は湯船に寝転びながら、誰にともなくつぶやいた。

「次回は、サウナ巡りとか、川の中に湧く温泉みたいな開放的な温泉がいいな」

洋海がそれに答えた。

「富山だったら『宇奈月(うなづき)温泉』があるじゃないか。黒部峡谷見て、トロッコに乗って、温泉に入る。いいね」

匠海ものんびり答えた。


さっきの険悪な雰囲気にならないよう、気を使ってか、蹴斗達はだんまりを決めていた。


それを意識してか、無意識にか分からないが、涼が突然、安全そうな話題に引っ張っていった。

「ところで、剛太君、九十九カンパニー所属で実業団の試合に出たって話を、もう少し聞きたいな」

「そうそう、その話を詰めたいと俺も思っていたんだ。富山分校に柔道部があるんだ。現在、部員は俺を入れて4人。高3が俺、高2が2人。それから奥さんが桔梗学園富山分校にいて、分校に品物を納入している会社の20歳の人が、『九十九カンパニー』の柔道着を着て、富山県で行われる、国民スポーツ大会の県予選やジュニア大会なんかに出ていたんだ。でも、富山件は大杉高校なんかが強くて、なかなか県予選を勝ち抜けなかったんだ。

 でもさ、実業団の大会ならエントリーすれば、全国大会じゃないか。流石(さすが)に1部や2部には出られないけれど、涼君もかなりパワーアップしたじゃん。君も入って5人制に出たら、いいなって思ったんだ。今も練習しているんだろ?」

「いや、女子相手に投げ込み人形になっているばっかりで、先月、T大に舞子のお兄さんの伝手(つて)で、1日出稽古に行ったんだけれど、ボロ雑巾みたいに投げられたよ」

「T大か、いいな。俺もそういう練習会に行きたいな」

「監督さんとは顔なじみだったからね。でも、俺はホテル取れるほど金がないから、舞子のお兄さんの部屋に泊まらせて貰った」


鞠斗が「『あの頃は金がなかった』だよな」と()ぜっ返した。


剛太が「宝くじでも当たったのか?」と冗談半分で聞いた。

涼が、少し顔を曇らせて言った。

「金があるって言っても、今は真子学園長が預かっているから、自由になる訳ではないけれどね」


「はいはい、真子学園長ね。いつでも俺らを子供扱いするよな」

匠海の言葉に、洋海が(うなづ)く。


地雷を踏み抜いてしまったようだ。


晴崇が、蹴斗が止めるより早く、噛みついた。

「学園長のやり方が気にくわなければ、桔梗学園を出て行く選択肢だって合ったはずだ。

普通高校へ何故進学しなかった」


「高校1年になった途端に分校に飛ばされると分かっていたら、俺たちだって、近くの普通高校に進学したよ。このまま、桔梗学園にいられると思っていたから、そうしなかったんだ」

匠海が吐き捨てるように言った。洋海も続けて不満を述べる。

「俺たち、分校の5人が選ばれた基準だって、説明は一言もない。4月に薫風庵(くんぷうあん)に呼び出されて『明日から各自、分校に行くように』と言われて、『はい、そうですか』って行けるか」


蹴斗が、興奮している晴崇を抱え込みながら言った。

「ハーフの俺や鞠斗が、田舎の学校に行って、いじめられずに仕事できると思っているのか?」

蹴斗の黒い顔や縮れた髪を見て、(くが)兄弟はそれ以上何も言えなかった。


「では、女子の選抜基準は何だ?」

剛太が寝っ転がった姿勢から、座る姿勢に戻して話に加わった。


「剛太、(きょう)(あん)が、分校に行ってやっていけると思うか?」

晴崇は憮然(ぶぜん)として言った。


確かに、京は地下からほとんど出てこない引きこもり体質で、今回は晴崇や圭がいるから、参加しているので、普段は大食堂にだって顔を出せない。

そして杏を除く全員が、中学卒業時には高校の学習が終わっていたのだが、杏だけは高校1年のカリキュラムがやっと終わった程度だった。勿論、他校の中学生と比べれば、1年も先取りの学習をしているが、比べる対象が悪すぎた。

「まあ、2人とも別の意味で無理だな。じゃあ、晴崇は何故、分校に行かなかったのだ」


「悪かったな。それは俺が頼んで、晴崇に残って貰ったんだ」

突然、寝湯でいびきをかいて寝ていたと思われた五十嵐(あきら)が声を上げた。

「瑛さん」晴崇が瑛の発言を止めようとした。

「いいんだよ。ハル。お前が恨まれる必要はないんだから。晴崇には俺らが、うちの母親の側にいて健康管理をして欲しいって頼んだんだ」

瑛は腰にタオルを巻き付けながら、みんなの入っている湯船に近づいてきた。そして、晴崇の脇に体を沈めると、真子学園長の健康の話をし始めた。


 今から5年前、分校立ち上げに着手した頃、大きな困難がいくつも立ち(ふさ)がっていた。コロナの蔓延(まんえん)、能登半島沖地震による富山分校への被害。真子学園長は事態の収拾(しゅうしゅう)奔走(ほんそう)していた。それは、60歳を越えた真子学園長が1人で切り盛りする限界を超えていた。

健康管理だけでも、家族が行うべきだったが、瑛のうちには2人目の子供が誕生し、瑛の妹は夫の転勤先の名古屋で、双子の出産育児でとてもこちらにはやってこられなかった。


「あー。だから、飯の世話から家の管理まで晴崇がしているんだ」

涼がつぶやいた。

「それで晴崇が桔梗学園に残ったんですか?」

剛太が瑛に確認するように顔を向けた。

「最初は晴崇も分校メンバーだったんだが、俺たちが晴崇に、母さんと一緒に住んで健康管理してくれって頼んだんだ」


「ちょうどその時、陸先生が双子の1人を選ぶなんて難しいから、2人とも出してっておっしゃって、君たちが決まった」


「お袋め。すべての元凶はうちの母親か!?」陸兄弟が天井を仰いだ。


「つまり、論理的に考えてこの選択肢しかなかったんだよ」

鞠斗がまとめるように言ったが、

「それでも話し合いの場が欲しかった。例え、分校の経営がビジネスの場所だとしても」

剛太が仰向けに倒れながら言った。


「おーい。貸し切りの時間が、後15分で終わるから出て」

(りゅう)ののんびりした声が、風呂場に響いた。

「まあ、わだかまりも話し合いで解決するといいな。うちの母親の健康問題については、ここだけの話しにしてくれよ」


瑛が剛太の頭を軽くたたいて、浴室から脱衣場に出て行った。


なんか、今回はこれで不満は収まったのでしょうかね。

次はバーベキューです。闖入者が・・・・。

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