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震災体験センター

今日は体験学習です。皆さんの修学旅行の時は、体験学習ありましたか?

 バスは最初の目的地、「震災体験センター」に着いた。子供達は、道の駅で十分遊んだので、すやすやと眠っている。女子バスの後部の座席を折りたたんで、フラットにして昼寝をさせた。バスには五十嵐瑛(いからしあきら)久保埜(くぼの)医師がつき、他の生徒と名波(ななみ)医師が震災体験センターに向かった。一応、名波医師が引率教師という(てい)である。勿論、総務の(りゅう)が交渉はすべて行う。


「よろしくお願いします。本日お世話になります。桔梗(ききょう)学園です」琉がみんなを代表して挨拶した。

「お待ちしておりました。予約されたコースは「避難所運営ワークショップ」と「災害体験人生ゲーム」ですね」

センターの案内役の女性が、にこやかに答えた。



「避難所運営ワークショップ」には、ファーストチルドレンの10名が行くことになっている。

会議室のようなところに、10名が案内役の女性について行く。

 桔梗学園は災害時、桔梗村全域から避難者を受け入れることになっている。避難所の運営は、避難者自身が行うことになっているが、桔梗学園の場合は、スタッフとなっている者が中心となって運営することになっているので、意気込みが違った。


 残った6月入学生と7月入学生、マリアとオユンの11名が「災害体験人生ゲーム」に向かった。「災害体験人生ゲーム」は、全員がゴーグルを付けて、実際に日本で起こった災害を体験するものだ。


選んだ選択肢によって、それぞれ次の展開が変わってくる。


間違った選択をすると、ゲームオーバーで、90分間生き残るのは、なかなか大変なゲームだ。


では、最後まで生き残った紅羽(くれは)の体験を見てみよう。


ナレーター「皆さんは災害のために何を用意しますか」

紅羽「全部と言いたいところだけれど、どこに何をどのくらいという選択肢が難しいな」

ナレーター「では、あなたは今、自宅に赤ちゃんと二人きりでいます。あなたの住まいは鉄筋コンクリートの5階建ての築20年のアパートです」

紅羽「今は、洗濯をして、赤ちゃん用のお湯を沸かしているんだね。あのお湯に気をつけないと」


「緊急地震速報。緊急地震速報」


紅羽「何度聞いても、この音、嫌だな。まず、玄関を開けて逃げ道確保。靴履いて、おんぶ紐と一緒に赤ちゃんと、・・・キター」


大地が揺れる音、物が落ちる音、ガラスが割れる音、家がきしむ音・・・・


紅羽「危機一髪でダイニングテーブルの下に入ったけれど、やばい。地震は超長かったな。6月入学組は悪阻が治まっていないから、気持ち悪くならなかったかな。冷蔵庫とテレビが倒れている。食器棚は転倒防止ストッパーがついているから、ガラスの散乱が少ない。あー、逃げる前にブレーカー落とさなくちゃ」


「大津波警報発令。大津波警報発令」


紅羽「やばい。泣きっ面に蜂だな。ここは鉄筋コンクリート5階建てだったよね。周囲の情報は紙製の地図を用意してあったので確認。ラジオを付けて。ふおー。40mの津波か。と言うことは、この地震は東日本大震災なのね。ここは確か、一級河川の脇のビルって設定だよね。河川(かせん)津波が遡上(そじょう)してくる」


ナレーター「同じ階の住民が、10名います。あなたはどうしますか」

紅羽「助け合うに決まっているでしょ」


ナレーター「下の階から住民が上がってきます。近隣住人が上がってきます」

紅羽「10月の設定でよかった。夏や冬だったら厳しいかも。とりあえず、部屋のガラスを片付けて、この部屋に何人か泊まれるようにしよう。簡易トイレも作って、シーツを使ってベランダに、SOSを出そう」


この後、3日間近所の人10人と助け合って、紅羽と赤ちゃんは救助された。


紅羽がゴーグルを取ると、他の10人は既にゲームオーバーだったらしく、ニヤニヤしながら、紅羽がゴーグルを付けて、体を動かすのを見ていたようだ。

「嫌だ。みんなもう終わったの?」

紅羽の言葉に、(しゅう)が答えた。

「僕は同じ階の住民を部屋に入れなくて、飢え死にした。まるで『蜘蛛(くも)の糸』だぜ」

舞子はおかしくてしょうがないという感じで話した。

「私は、トイレにバケツで水を流し入れて、逆流により、う●こまみれになった」


う●こまみれでも、衛生状況が悪くて、ゲームオーバーになるとは・・・


(りゅう)(りょう)が悲しそうに自分の最期について語った。

「俺は妹の手を引いて、外に脱出しようとして、津波にのみ込まれた」

「俺は車で高台に避難しようとして、水浸しで、どこが農道か分からなくなって田圃(たんぼ)に脱輪して、ゲームオーバー」


どうも男子は危険を顧みず、脱出する傾向がある。


卓子(たかこ)は?」

「私は限界集落の住民という設定を引いたらしく、土砂崩(どしゃくずれ)れで孤立した。その土砂を1人でのけようとして、生き埋めになった」


この女子は力頼みで、脱出しようとしたようだ。地震後の雨で地盤が(ゆる)んでいたようだ。


水脈(みお)はこともあろうに、津波の中を泳ごうとしたし、深雪は、関東大震災の体験で生まれた「地震の時はすぐ消火」を実践しようとして、コンロの脇にあったポットのお湯を(かぶ)ってしまった。


マリアやオユンは、そもそも地震の体験がなかったので、前もって準備する品物が全く分からず、即ゲームオーバー。あまりにあっけなかったので、センターの人に紅羽の映像を見せて貰っていた。



「避難所運営ワークショップ」の面々も、90分後は充実した顔で戻ってきた。


「俺たち、考えてみたらいつもこんな仕事しているから、簡単だったな」

「でも、ごり押し祖父さんや、お節介(せっかい)叔母さん、泥棒(どろぼう)に性犯罪者まで、桔梗学園のように良い子ちゃんばかりじゃないので、対処に困ったな」

「高齢者や障がいのある人までは、どうにか想像できたけど、色覚異常のある人への、情報伝達は悩んだ」


桔梗学園のスタッフとして、よい体験ができたようだ。



「震災体験センター」での体験コースを終えた面々は、センターの前の広場で、昼食を取ることにした。7月の正午近い日差しは、外で食事するのに厳しいだろうが、そのために桔梗学園から多くの便利品を持ち込んでいたのだ。

 昼食会場の広場に2台のバスを置き、その屋根をつないで、フラクタル日よけを設置した。その上に、風が通過すると涼しい風になる特殊な壁を風上にセットした。床には断熱マットを敷いて、寝っ転がれるようにした。


 公園で遊んでいた親子連れが、(うらや)ましそうな顔をして見ている中、桔梗学園の皆さんが作った、愛情たっぷり弁当が広げられた。

 お握りだけでなく、若者が愛してやまない鶏の唐揚げにコーン入りの卵焼き。冷凍ブロッコリーや、小さなカップに入った冷凍小松菜の塩昆布和(しおこんぶあ)えもここに来るまでにほどよく解凍されていた。昼寝から起きた子供達も大喜びのメニューだった。勿論、梢ちゃんには特別離乳食メニューも用意されていた。


「なんか、小学校の遠足みたいだな」柊が言うと、鞠斗(まりと)が「俺の子供時代を帰せ」と仰向けに寝転がった。いつも28歳に見られる鞠斗は、たまにこういう子供返りをする。

ファーストチルドレンの子供時代に、校外遠足がなかったようだ。


「今度さぁ、みんな分校に来てよ。うちら寂しいよ」

島根分校の梅桃(ゆすら)がよく冷えた梅ジュースを飲みながら言った。

梅桃から、梅ジュースのポットを受け取って、鞠斗(まりと)が答える。

「来年、分校と合同体育祭やるって話は聞いているの」

「少し聞いているけれど、本校じゃなくて、うちらのところに来て欲しいって話」


「秋には、紅羽や柊が各分校を見て回るかも知れないけれど」

蹴斗(しゅうと)が、鞠斗に余計なことを言うなという目線を送った。案の定(あんのじょう)、岐阜分校の雲雀(ひばり)が食い付いた。

「なんで、分校に来るのが、スタッフの蹴斗や鞠斗じゃないの?」


少し離れたところで、(こずえ)とダンゴムシを捕って遊んでいた柊が聞き耳を立てた。


「俺たちは本校の運営で、手一杯だからじゃない?他の4人でもいいんだけれど、今4人とも大会が迫っているから」

蹴斗はドローンレース部の2人をどうしても手放したくないようだ。


「分校に飛ばされた俺たちには、様々な不満があるわけ。本校に残れた人に、分校を見に来て欲しいんだ」

釧路に飛ばされたと思っている陸匠海(くがたくみ)が口を(はさ)んだ。


「1人でも任せられると信頼されているとは思わないわけ?」

パソコンで、(きょう)とリモートワークをしていた晴崇(はるたか)が、口を挟んできた。

「現地でスタッフを育成しないと、いつまでも1人でやっているという気持ちになるよ」

晴崇はいつも正論で話す。


「いいよな。晴崇と京は、血がつながっていなくても学園長から特別にひいきされているし」

九十九剛太には、今までにたまっていたものがあるようだ。

「じゃあ、どうしたいんだ」鞠斗が結論を()かす。

代替(だいたい)案もなく、文句だけ言われてもなぁ」

晴崇に似合わない大声が出てしまった。


鞠斗!晴崇!そのままでは喧嘩(けんか)が始まってしまう・・・。


「うわ~ん」

突然、梢が泣き出した。


京が晴崇をたしなめる。

「赤ちゃんが、びっくりしちゃったよ」

晴崇が「泣く子と地頭には勝てないね」と言って、パソコンを片付けるために、バスに向かった。


なんか、分校と本校のチルドレンの喧嘩で終わってしまいました。梢ちゃんは、本当に大きな声にびっくりして泣いたんでしょうかね?次回はいよいよ温泉です。

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