高3生、大集合
ファーストチルドレン11名の名前は、1から順番に数字で苗字を付けました。5がなくて不思議の思った方がいるでしょうが、実は5でも9でもある人がいます。杜は、十一という数字で、7は狼谷柊の母親が「星」という旧姓なんですが、「七夕」からの連想で「星」と付けました。
琉が真子学園長と「修学旅行」について話がしたいと申し出たところ、「高校3年生を全員連れて、日曜日に薫風庵にいらっしゃい」と言われた。
薫風庵に集まったのは、6月入学生 大神琉、狼谷柊、榎田涼、高木紅羽、東城寺舞子、板垣圭
7月入学生 須山深雪、栗田卓子、蓮実水脈
海外からの留学生 マリア・ガルシア、オユン
桔梗学園にいるファーストチルドレン 一村蹴斗、不二鞠斗、三川杏、四之宮京、杜晴崇
ネットで参加している 陸洋海、匠海、米納津雲雀、九十九剛太、百々梅桃
女子12名、男子9名の21名。日曜日なので、子供が5名ほど別室で遊んでいる。
そして何故かアドバイザーとして、陸産婦人科医他、数名の医者が部屋の奥の方に座っている。
今日は畳の部屋を三間ぶち抜いて、広い会場にしてある。いつものように縁側の籐椅子に真子が座り、中央の畳の部屋の壁にスクリーンが下がっている。スクリーンの正面に、現在分校で働いている、ネット参加の5人の顔が映し出されている。
琉は緊張の面持ちで、スクリーンの脇に立っている。柊は映像を操作するために、琉の脇の椅子に座って、膝にパソコンを載せて待機している。何がかんだ言っても、親友である。
「おはよう。久しぶりに会う子もいるわね。日曜日に予定もあるところ集まってくれて嬉しいわ。今日はここにいる大神琉君がみなさんに「修学旅行」の提案をしたいと言うことで、それを聞いて欲しいの」
真子学園長はサラッと今日の説明をすると、バトンを琉に渡した。
修学旅行を提案する経緯については、個別に説明をしているので、琉はすぐ修学旅行の詳細について話し始めた。
「今回の修学旅行の目的は、1 温泉を楽しむ 2 交流を図る 3 震災について学ぶ 4 自然に親しむ の4つです。
一応、『修学』なので、平和学習などを考えたのですが、今回訪ねる場所は、2004年に大きな震災のあった場所なので、震災学習を組み込んでみました」
真子が縁側で満足そうに小さく頷いた。
「交通手段はバスを使います。
宿泊場所は「山里村交流施設」と「滞在棟」を借ります。」
柊が施設外観写真をスクリーンに映す。
「風呂は、近くの共同温泉浴場を借りますが、2時間貸し切りができるようです。ここの温泉は、『子宝の湯』で有名で・・・」
早速、圭から突っ込みが入った。
「もう子供はできているんですけれど」
会場から爆笑が起こった。お陰で会場の雰囲気は一気に緩くなった。
翻訳機を耳にしているマリアとオユンもニヤニヤしている。
「ここの湯は、ぬるくて単純泉なんです。妊婦でも、お子さんでも安心して入れると言うことで、『子宝の湯』と言われているのではないかと思っています。近所のお年寄りは、そこで湯につかって歌を歌ったり、長々と過ごすそうです。そんなお年寄りの憩いの場でしたが、震災後、この地区は人口減が激しく、この温泉の湯守の方も来年は引退されるそうです」
「子宝の湯」が人口減に苦しむとは、皮肉なことである。
「食事は、最初の昼は桔梗学園からお弁当を持って行き、夜は材料を持ち込みBBQ、朝は自炊して、昼は持ち込んだ米でお握りを作って食べるという計画です」
画面向こうから、陸の双子が叫んだ。
「せめてラーメンぐらい食べて帰ろうぜ」
部屋の奥の方から、陸医師がその倍の声量で怒鳴った。
「あんた達、週に8回はラーメン食べているくせに、まだ食べたいの?」
くすくす笑いがやんだのを見計らって、琉が説明を続ける。
「小さい子供を5人連れて行くと、外食する場所として、30人は入れる広間を借りなければならないのですが、予算の関係で諦めました」
外食しないのは、本当は、オリンピック選手を辞退した舞子や紅羽が人目につかないためであるが・・・・
また画面の向こうから、富山分校にいる九十九剛太が発言した。
「1泊なら、子供は保育施設に預けて行けるのではないでしょうか?折角の『修学旅行』なんですよね」
実は子供をおいていく件では、この会合の前に一悶着あったのだ。最初は琉も柊も、妹を置いてのんびり旅行できると考えたのだが、蓮実がまず「子供をおいていくなら行けない」と宣言した。そして、マリアもオユンも同じ反応を示したのだ。
圭からは「子供を置いて羽を伸ばしたいって男の発想だ」と罵られ、保育施設長の越生からは「遊びに行く人の子供は預かれない」と断られた。
陸医師からも「学園に来たばかりの子供は、1回でも置いて行かれると、次も置いて行かれると不安になるから、今回の旅行は連れて行くべきだ」と釘を刺された。
琉は冷たい女性軍の視線を浴びながら、緊張しながら返答した。この返答いかんでは、修学旅行計画自体が潰れるかも知れない。
「勿論、一般の修学旅行では、子供連れは参加できないでしょう。私自身も柊も小さい妹の存在が原因で、修学旅行に行けませんでした。しかし、今回は「桔梗学園の」修学旅行です。20人で協力すれば、5人の小さい子を連れて行くのは簡単です。私たちも、子連れ旅行の勉強をしましょう。そして、この5人に家族旅行の体験もさせてあげましょう」
期せずして、拍手が沸いた。
「剛ちゃんも家族旅行したことないわよね。ママを連れてきてあげようか?」
陸医師から痛烈な一言が飛んだ。九十九剛太の母は九十九那由。九十九一生、珠子の娘である。現在、剛太と同じ富山分校にいる。
しかし、この一言は陸医師にも帰ってきてしまった。
「母さんは、帯同医師として来る気じゃないよな。そこは反対する」
「そうだ、子連れはいいが、ママ連れは、『修学旅行』にならない!」
陸の兄弟が揃って声を上げる。
顔を真っ赤にした陸医師が立ち上がろうとすると、その肩を優しく押さえて、名波産婦人科医師が発言する。
「陸さん、残念。私が修学旅行帯同医師として参加するわ。早く子離れしなさい」
なし崩しに、名波産婦人科医師と、大型免許を持っている久保埜千尋が医師として、帯同することが決まった。久保埜は現地で、舞子の運動のサポートをするだけでなく、来年も「修学旅行」が続くなら、現在高校2年の娘達のため、下見したいという気持ちを持っていた。
「最後に行程表と予算をお示しします。これを今週末の『食堂会議』に提案したいと思います。もし、寄付が少なければ、またご相談したいと思います」琉の説明はこれで終わるはずだった。
「もし寄付金が余ったらどうする?」鞠斗が疑問を提示した。
「そうなったらありがたいですね。余ったら、下学年の修学旅行のために貯金すると言うことでどうでしょう。いいですよね。久保埜先生」
「勿論!」現在高校2年生の双子がいる久保埜医師が力強く首を縦に振った。
「参加については『食堂会議』の結果を踏まえて、確認します。蓮実さん、それまで考えておいてください。決まったら、旅行のために役割分担をしたいと思いますので、再度集合を掛けます」
「分校からは、是非差し入れを持って行きたいと思います」
岐阜分校から、ネット参加している米納津雲雀が声を上げた。
「久しぶりにみんなに会えるね。楽しみにしています。京も必ず来いよ!」
島根分校の百々梅桃が、四之宮京を指さしていった。
その週末の「食堂会議」では、修学旅行のために多くの寄付が集まった。今、懐が温かい涼もこっそり10万円ほど寄付をした。
修学旅行に出発日する日は、ロサンゼルスオリンピックの女子バスケットの試合がある日だった。
紅羽の妹、高木碧羽が出場するので、桔梗村役場に特設パブリックビューイングが設けられ、桔梗高校バスケット部が応援することになっている。勿論、高木の両親は現地の会場で応援するため、渡米している。
紅羽はその日、桔梗学園のみんなと一緒にいられることで、ほっとしている。
ファーストチルドレンの名前は、「陸」は六、「米」は「八十八」という数字でできています。ところで「米納津屋」というお菓子屋さんに「雲隠」というお菓子があります。そこからの「雲雀」という命名でした。登場人物が多いとお思いの方。今回の話で、少し登場人物をまとめて出してみました。