ソーイングルームにて
糸川芙美が初登場。ソーイング部部長でソーイングルームの責任者です。研究員の1人です。
「2806」室で、深海由梨から、舞子、紅羽、涼の3人が手取り足取り、プログラム言語を習っている間、ソーイングルームでは、ソーイング部部長糸川芙美から、柊、琉、圭の3人が猿袴の型紙について習っていた。
理系の彼らにとって、型紙は折り紙のようで楽しかった。また、次のミシンの扱いも機械なので飲み込みが早かった。しかし、練習用の白い反物を渡された後が、大変だった。
バイアスの意味が分からず、生地を斜めに伸ばしてしまって、上下の布の長さがズレてしまったり、股下のたくさんの布が重なった部分で、無理矢理縫い進めて、ミシンの針を折りまくったり、悪戦苦闘だった。
ミシンのまわりに折れた針や外れたまち針が散乱して、芙美から、針探しを命じられた琉は、半べそをかいて午前の1時間を無駄にしてしまっていた。探していた針の最後の一本は、股の縫い代に縫い込まれていて、自分のお尻に刺さって、発見された。
柊は最初の自分の採寸がいい加減だったので、できあがった猿袴が捌けずに頭を抱えてしまった。
圭は祖母がミシンを使うのを小さい頃から見ていたので、難なく進めているようだったが、失敗した場所をほどく時、力任せに糸をひっばって、練習用の古い反物を引きちぎってしまった。
そんな彼らを横目で見ながら、芙美は珍しくソーイングルームに顔を出した鞠斗と打合せをしていた。
「反物が安く手に入るなら嬉しいわ」
「昼休み、顔つなぎに一緒に行きますか?」
「勿論。それから舞子が作った猿袴は、私も見たけれど、売るには表裏の生地の強度が違いすぎると思っていたのよ」
「どういうことですか?」
「古い浴衣生地は、農作業用に頑丈に作られている鶴田縞の強度に負けてしまうと言うこと」
「そうか、新しい浴衣生地を2枚重ねればいいと言うことか?」
「キューバの女性は、その服をどういう用途で着たいの?風呂上がり?日常着として?」
考え込む鞠斗に芙美が提案をした。
「提案なんだけれど、派手で日本人が着そうもない浴衣生地でパンツを作ればいいんじゃない?」
「戦時中のモンペみたいな?」
「そうね。足首がゴムだと古めかしい感じがするけれど、足首もウエストにも可愛いリボンやボタンを付けるとか?ちょっと前に流行ったプリンセスコアって感じはどう?」
「ちょっと分からないんですけれど。ノームコアなら分かりますが」
芙美はちょっと首をかしげて、立ち上がり、見本用に作ってあった白生地で作った猿袴とリボンやレースと派手なボタンを持ってきた。
鞠斗の前で、猿袴の上にリボンやレースを置いて、
「これに柄物の生地を取り合わせるとどうかしら」
「ちょっと想像できませんね。午後に呉服店から実際の反物を持ってきましょう。それからマリア・ガルシアも連れてきて、感想を聞きませんか?」
「いっそ、マリアを連れて、呉服店に行きましょう」
突然、圭がやってきて、「私も行きたい」と主張した。
荷物が多いので、どうもバスで向かうのは無理になってきたようです。
鞠斗と涼の2人で、お婆ちゃん訪問するはずが、どんどんメンバーが増えていきます。