競技開始
本当はオーロラビジョンと言いたいのですが、商品名らしいので、「大型映像装置」と連呼してしまいました。
プログラムナンバー2 「野菜探し競争」(幼児参加種目)
大型映像装置には再びココちゃんが登場して、種目の説明を始めた。
最後の賞品紹介では、金メダル銀メダルの他に、参加賞のココちゃん付きのメダルも映し出された。
この競争のために、保育施設では、連日、子供達が野菜の名前を覚えた。なのに、カードと違う野菜を持ってくるのは何故だろう。
にんじん、じゃがいも、トウモロコシ、枝豆、トマト、ピーマンのカードを持った幼児が、籠に入った本物の野菜を取りに走っていく。子供は自分の好きな野菜に一目散に走って行く。ピーマンのカードを引いた子は「ピーマン嫌い」と座り込んで泣くし、担当者の生駒千駿は頭を抱えてしまった。それでも、越生五月や紅羽、舞子が駆けつけ、幼児をなだめてはゴールまで連れて行った。
いよいよ瑠璃の出番である。観客席では琥珀と玻璃が、「瑠璃頑張れ」と叫んでいる。瑠璃は懐かしい姉の言葉を聞きつけ、「おねーたん?」とゴールと逆方向に走り出してしまった。
しょうがなく、琉が瑠璃を抱き上げ、「後でお姉ちゃんにお野菜持っていってあげよう」とささやいて、残っていたトウモロコシのカードを持って、無事、トウモロコシの籠までたどりついた。
競技はグランド上部のディスプレイに映し出され、会場中の人が涙を流して笑った。
「かわいい」
「違う野菜を持っていっちゃった」
「野菜の取り合いしている」
そう言う意味では、大成功の競技であった。競技後、幼児は保育施設まで戻って、おやつの時間になる。
琉は、観客席まで走って上がって、琥珀と玻璃を連れて、3人で保育施設まで行った。
おやつを食べ終わった瑠璃は、おやつを食べて、お気に入りの犬を姉たちに見せて、姉の間で安心して居眠りを始めた。
双子と兄はその後、この1ヶ月の積もる話をした。そして、母がまた妊娠したという衝撃の事実が伝えられた。
「玲兄ちゃんは、その子と一緒に、桔梗学園に来られないかって言っているの」
琉は玲の学力が自分ほど高くないことを知っていた。
「簡単には来られないと思う」琉は、ぽつっと言った。
「他の競技も見に来るかい?俺はグランドに仕事しに戻るけど」
瑠璃は目を覚ますと姉がいないことを知って、大泣きをするだろう。でも、帰る時も同じく大泣きすることに変わりがない。双子はそう考えて、観客席に戻ることを選んだ。2人にとっても、子守もお金の心配もなく、子供らしい楽しみをすることは初めての経験だったのだから。
プログラムナンバー3 「逃げる玉入れ」(小学校低学年)
今度は深海小児科医師の娘、深海由梨の出番だ。小学校高学年の足の早い4名が、筍籠を背負った。籠の内側には、由梨のアイデアで、厚手の透明ゴミ袋が装着されていて、どのくらい玉が入ったか、観客席からも見えるようになっている。
グランドには、プロジェクションマッピングで、大きな長方形が描かれた。長方形の外側には、断崖絶壁が映し出されている。会場から歓声が沸いた。
大型映像装置には、ココちゃんが笛を口に咥えて、開始の合図を響かせた。
逃げる籠を追いかけて、低学年が玉を入れようと走る。
大型映像装置の時計は、残り10分を示している。残る玉は後、2個。
そこで生駒千駿が、「ラスト10分」と号令をかけた。小学校低学年が、二手に分かれて手をつないで大きな円を作って、逃げる籠を2カ所で追い詰めていく。1つの籠が追い詰められ、玉を籠に入れられる。この作戦は、千駿の兄、篤が妹に伝授したものだ。
もう一つの円も完全に籠を追い詰めると、安心したその一瞬を狙って、中の背の高い少女が腕を飛び越した。しかし、着地したその瞬間、彼女は転んで、背中の籠の玉をこぼしてしまった。
大型映像装置のココちゃんが、笛を吹いた。
「反則負け」の文字が大きく流れ、「WINNER 低学年」の文字が、画面でピカピカ光った。
小学低学年は手をつないだまま、全員でジャンプして喜んだ。
転んだ少女は芝をたたいて悔しがった。籠持ちの他の3名に慰められているが、泣きながら退場していった。
最後に、賞品「デザート交換券」の文字が躍った。
食堂会議で質問した生徒が、「やったー」と大声を上げた。
時間外労働ができない小学生は、五月のように夜の「デザート」にありつくことが今までできなかった。彼らが期待した以上の賞品だったのだ。
プログラムナンバー4 「お祭り障害物ゲーム」(小学校高学年)
いよいよ五月の考案したゲームである。中学生が協力して、トラックに会場を作った。
スタートラインの前には、ヨーヨーを釣るための釣り竿。割り箸とたこ糸とS字フックで作られている。
そこから50メートル離れたところには、子供用プールがあり、水にヨーヨーが浮かんでいる。
ヨーヨーを釣り上げた子が次に向かうところは、50メートル先の射的場だ。
割り箸で作った精巧な輪ゴム銃が並んでいる。走ってきた子は自分で輪ゴムをセットした銃で、的を倒すのだ。
射的場には、お祭りのように段の上に景品が乗っているのだが、景品といっても、トイレットペーパーの芯のまわりに紙が巻いてあるものだ。倒した後、そこに書かれている景品が渡される。ランナーはそこに置いてある団扇に、景品を乗せて残り50メートル走らなければならない。1位で、入賞しなければその景品は自分のものにならない。
ココちゃんがそんな説明をした後、画面には「急募 レースに参加したい小学生高学年!」との表示が出た。涼のお母さんが、琥珀と玻璃の背中を押して「行きなさいよ。お兄さんが下で呼んでいるわよ」と押し出された。
2人は召集場で、桔梗学園の在校生と一緒に並んだ。学園の子は、体操着というものがないので、2人はごく自然に列に溶け込んだ。実はこの会場に来ている小学生は、琉の妹だけなので、柊が気を利かせてくれたのだ。
レースが始まって、先に琥珀の番が来た。50メートルを1番で駆け抜け、ヨーヨーはさっとつり上げて、射的に向かった。割り箸銃は良く作っていたので、銃の中でも3連銃を見つけて、輪ゴム3本を架けて一気に撃った。最も大きい的が倒れ、渡された景品は「レジンで作った押し花入りの髪ゴム」だった。涼が学園に咲く小振りな花を選んで、ブローチの型に入れてレジンで固めたものだった。琥珀は髪飾りのあまりのかわいさに見入って、1人に抜かれてしまったが、団扇の上に髪留めをのせたまま、あっという間に先行の少女を抜き返し、ゴールした。
続くレースは玻璃の番だった。背の高い女子、体格のいい男子と難敵が並ぶ中、最後までデットヒートを繰り広げ、僅差の1位でゴールした。賞品は琥珀と色違いの髪ゴムだった。
いつもはツインテールの玻璃も、琥珀のようにポニーテールにして2人でお揃いにして、観客席に上がっていった。途中で、碧羽に「似合うね」と言われて2人は有頂天になった。
プログラムナンバー5 「男女混合騎馬戦」(中学生)
大型映像装置のココちゃんが「お祭り障害物レース」の各優勝者の喜ぶ顔をすべて映し出した後、突然ビーグル犬から馬の姿に変わった。次は「男女混合騎馬戦」だ。
「ほんとの競馬のようですねぇ」圭のお婆ちゃんが、舞子と涼の母親に話しかける。
「あら、お婆ちゃん手首のバンドがピカピカ光っていますよ」涼の母親が、自分の簡易桔梗バンドも光っていることに気がつく。
馬に変わったココちゃんが、大型映像装置の中で話し出す。
「みなさん、これから始まる騎馬戦は、観客も参加できる騎馬戦です。
皆さんの腕に今光っているバンドの数字が見えるのが分かりますか?
これから皆さんには最後まで生き残る『馬』を予想してもらいます。
騎馬戦の勝敗は次の2パターンのいずれかで決まります。
1つ目は、10分内に多く騎馬が残っているチームが勝ちです
2つ目は、時間内に相手のすべての馬を落としてしまった場合です。
観客の皆さんは、生き残る馬の番号を一つ選んでもらいます。当選した方が多数の場合は、厳正な抽選を行い、4名の方に、午後からのドローン試乗体験に参加する権利を差し上げます。」
「え?ドローンに乗れるの?」観客の興奮が最高点に達した。
「では、参加する騎馬とその番号を紹介しま~す」
赤組には体育祭実行委員の生駒篤がいる。彼は、ひょろっと背の高いガリ勉タイプの3人と組み、戦っている騎馬の後ろから、漁夫の利を取るという作戦を考えた。
白組には、実行委員長の越生五月が所属している。彼女は、俊足の女子3人の上で、舞子に習った柔道技で、相手を引き倒すという作戦を用意していた。
各チーム、合計体重と作戦が披露された。
板垣のお婆ちゃんは、真剣に馬の状態を眺めている。
「データも大事だが、作った馬の安定度も大切だな」お婆ちゃん、賭け事好きですね?
子供達もドローン試乗と言えば、真剣だ。
「玻璃、私1人が乗れても恨みっこなしよ」
「琥珀、私は、あの大型騎馬に票を入れるから、マネしないでね」
「碧羽ちゃんは何番にするの?」
「あの背が高いガリ勉タイプの馬が、逃げ切れると思うのよ」生駒篤の騎馬に1票が入った。
「賭け事なんて、いいんですかね?」真面目な涼の母親真理が言うと、
「でも、桔梗学園の子供達は賭けていませんよ。観客だけみたいですね。ドローンに乗って、その体験を小学校の生徒さん達に話して差し上げればいいじゃないですか」
舞子の母勝子が答える。
どうもお二人は気が合ったようですね。
「あーあ、携帯やビデオがあれば、いいのに」
「でも、そう言うものがあったら、自分の子供を写すのに一生懸命で、他の子供の活躍を見なかったかも知れませんね」
真理は、小学校の運動会で親たちが、撮影のためなら何でもするという姿を思い出した。
「本当にそうですね」
騎馬の紹介が終わると、投票が始まる。観客はそれぞれ簡易桔梗バンドに話しかけた。
「3番」「12番」・・・・。
大型映像装置のココちゃんが、すべての投票が終わったことを知らせ、各馬の人気順位が示された。生駒篤達の騎馬は、意外と人気があり、3位の順位が付けられた。
順位が高いと言うことは、マークされると言うことだ
篤は作戦変更を余儀なくされた。
「俺たち背も高くて目立つな。壁際作戦に変更だ」
全員が壁際にいたら、騎馬戦は面白くないぞ。篤それでいいのか。
グランドには、左右に発馬機の映像が映し出され、それぞれの騎馬がそこで馬を組み立てる。
まず、旗手役の頭に係員が鉢巻を蝶結びで結ぶ。
次に、先頭の馬の肩に、後ろの二人が手をクロスして置く。そこに騎手役の子がまたがる。
鐙は、先頭の子と後ろの子が指を組み合わせて作る。
係員は、鉢巻の結び直しを禁止するだけでなく、落下しそうな騎手を補助する役割をする。
係員には、医師、高校3年生男子、高校3年三川杏、研究所からガタイのいいメンバーが選出され、全員黄色のビブスを身につけた。
プロジェクションマッピングで描かれた発馬機のゲートの中に、全員が馬を作って立ち上がると、皆さんご存じの競馬のファンファーレが鳴った。そして、ゲートが開く音がした。
ガシャン。
流石、中学生ほとんどの騎馬が中央に向かって走り出した。中央では男女混合とは言え、ほぼ互角の戦いが繰り広げられた。
騎馬の鉢巻が取られても、まだ戦おうとする馬がすぐ鞠斗に制止されて、すごすごと騎馬を崩して開始線に戻っていった。
相手の手からのけぞろうと体勢を崩して、下の騎馬が支えられなくなった騎手は、涼にお姫様抱っこされて、首からの落下を免れた。
白組3騎で、大柄な男子のみの騎馬を取り囲んでいるところへ、五月の騎馬が助太刀助太刀に行った。
「どいてどいてどいて」
なんと、男子騎馬の側面に体当たりしたのだ。
大柄男子を騎手にしている騎馬は、太い手を振り回している騎手をやっとのことで支えていたので、突然の衝撃に、肩に置いている手が2本とも外れてしまった。騎馬を支え直す暇を与えないように、4騎の騎馬で、赤組の騎馬を押しまくった。
「きたねーぞ。てめーら」と泣き叫びながら、地面に落ちかける少年の脇を、蹴斗が抱えて助け起こす。
「ふん。男のくせに、泣くんじゃねえ」と白組騎馬の少女がののしる。
蹴斗が、少女の耳に口を寄せて、「それも性差別だよ」とささやく。
少女ははっとして、泣いている少年に「ゴメン」と言った。
謝られて返って、少年の惨めさが増してしまったようで、泣き声が一層大きくグランドに響き渡った。
ジャンヌダルクのような気分で、五月の騎馬を先頭に4騎の騎馬が向かったのは、端でまったりしている篤の騎馬だった。
「あっちゃん、4騎も来たよ」
「焦るな。引き寄せろ。後ろから追いかけてくる赤組の騎馬が追いつくまで、焦って逃げ回るふりをしろ」
観客席は、上空から騎馬の様子がよく見える。五月の母は、この時間だけ保育施設から抜け出してきたようだ。グランドに向かって叫ぶ。「五月、後ろに注意」
振り返った五月の鉢巻に篤の手が伸びた。
「ひっかかったな」五月が篤の手首をつかんで、一気に引き出し関節技をかける。
一発で技が効かなかったのが五月の敗因だった。
何度も関節技を掛けようと、もたもたしているうちに、五月についてきた白組の騎馬3騎が、背後から忍び寄る赤組の騎馬に鉢巻を取られてしまったのだ。
一気に4騎の騎馬に囲まれて、五月の騎馬は時間ギリギリまで抵抗したが、最後は篤の長い手で、鉢巻を取られてあえなく敗退してしまった。
篤の騎馬に1票入れていた碧羽が「よしっ!」と拳を握った。
時間をココちゃんが知らせ、大型映像装置に生き残った騎馬の面々が映し出される。
赤組は篤の騎馬を含め4騎が残った。
白組はずーっと逃げ回っていた1騎しか残らなかった。
「赤組の勝利 賞品は赤組全員に『おかわり券』進呈」
食べ盛りの中学生は大喜びであった。
そして、投票をしてくれた観客の抽選が始まった。生き残った騎馬に投票した人の中から、4名にドローン体験乗車のチャンスが回ってくる。
観客全員が固唾をのんで見つめる中、当選者の顔が1名ずつ大型映像装置に映し出される。
顔が映し出された中に、残念ながら碧羽の顔はなかった。
碧羽は、智恵子叔母ちゃんに「また、機会があるかもよ」と慰められた。
最後に板垣のお婆ちゃんの顔が映し出された。
「いい冥土の土産ができたわぃ」と立ち上がってガッツポーズをするお婆ちゃんの姿に、会場中が爆笑の渦に巻き込まれた。
子供の招待客が本当に少なかったみたいですね。