食堂会議 体育祭について
やっと、体育祭のプレゼンが終わりました。まだ、計画段階なのに、満足してしまった人がいます。
「次は、体育祭実行委員会委員長 越生五月さん、どうぞ」
司会の「アイちゃん」が、五月の出番を告げた。
盛り上がった会場を前に、「やりにくい」と小声でうそぶきながら、五月はステージに上がった。かぶりつきに何故か、高校3年生の6人が並んで、小さく手を振っている。
「今年度の体育祭の詳細が決まりました。プレゼン資料を映像で用意しましたのでご覧ください。40分ほどかかりますが、質問、ご意見はその後承ります」
副委員長の賀来人がプレゼン資料をスクリーンに映し出した。
「はじめまして、みなさん。私はビーグル犬の『ココちゃん』です。今日の説明は僕がしますね」
会場から温かい笑いが溢れた。「かわいい」「ココちゃんだ」と小学生が声を上げた。
幼稚園児の競技から始めて、ココちゃんが色々な競技にチャレンジするのを見て、食堂のみんなはアニメ映画でも見ている気分でほのぼのした。最後の、「3ポイントシュートゲーム」にはどこか、紅羽に似たゴールデンレトリバーまで登場し、シュートしている映像まで加わっている。
紅羽につつかれて、柊が「僕じゃない」といって、賀来人をにらんだ。賀来人が映像に手を加えたようだ。
競技説明の後は打って変わって、競技計画が表で流れたが、柊の計画通り、「詳しくは後で、サイトでご確認ください」とのテロップの後、予想参加者数と総予算数が大きく示された。
その後、「1人が招待客1人しか呼べない」との情報の後、2人呼ぶと膨らむ予算と、そのために必要なスタッフ、作業時間などを示して、不満を押さえ込んだ。
最後に、招待期限が示されると、もうみんなの心は、「誰を呼ぶか」という考えに占領されてしまった。
「以上で、実行委員会からの説明を終わります。質問のある方は挙手をお願いします」
AIの「アイちゃん」が、質問者を募った。
最初に手を挙げたのは、30歳前後の研究所の女性だった。
「研究発表をする場所や時間を教えてください」
想定内の質問だった。落ち着いて、五月は答え始めた。
「はい、午前の競技が終わった後、昼休みにグランドで3ポイントシュートゲームを行いますが、同じ時間に来場者の方には、食堂で食事をしていただきます。研究発表も午前競技が終わった時間から体育館で行っていただきます。現在、発表希望が出ている部門は以下の通りです」
映像に「ドローンレース部」「トイレ発電施設」などが並んだ。
「現在、発表部門の希望者を募集しております。来週金曜日が〆切になっておりますので、ふるってご参加ください。発表場所や時間については、参加者が出揃ってから決めたいと思います」
次に手を挙げたのは、女子高校生だった。
「2人招待したいんですけれど、どうすればいいですか」
これも想定内だった。
「もし、招待する人がいない方が、周囲にいましたら招待の権利を譲ってもらってください。申し訳ありませんが、その仲介は実行委員会では人員不足でできません」
最後に手を挙げたのは、小学生の男の子だった。
「小学生高学年は賞品が出るんですが、低学年は籠に玉を全部入れても賞品がありません。ずるいと思います」
想定外だった。
「何が賞品だったら嬉しいですか?希望がすべて叶うかは分かりませんが、検討させてください」
「僕はアイスが欲しいです」
質問者以外の子も次々に叫びだした。
「俺はTシャツ」「私はアクセサリー」「ココのグッズ」・・・。
AIは、発言者の意見を聞き取り、次々とスクリーンに映し出した。
(これは、負けても賞品が欲しいと騒ぐんじゃないかな)
「はい。貴重なご意見ありがとうございます。予算も含め、実行委員会で再検討させていただきます。時間になりましたの、実行委員会の説明を終わらせていただきます。招待客申し込みサイトはもう開いておりますので、時間厳守で入力お願いします」
五月は明るい声でプレゼンを終わらせた。かぶりつきの高校3年生はみんな親指を上に上げて、ニコニコしている。
「本日は皆様、ご多忙の折、食堂会議にご参加ありがとうございます」
司会者の「アイちゃん」は閉会を宣言した。
柊は、五月のプレゼンが上手く終わったことで、十分満足してしまった。
五月は明日、鞠斗に予算交渉することから始めなければと考えながら、ステージを下りた。
「上出来」と賀来人に肩をたたかれたことすら、気がつかないほど疲れ切っていた。
紅羽が五月に近づいて、「鞠斗のところに1人で行くの?付いて行ってあげようか?」と言った。
賀来人が、「いいですか?俺もそろそろドローンレース部の活動に参加したいんですよ」とほっとしたように言った。この男も柊に似ているところがある。
明日から、体育祭の実際の準備が始まります。
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