体育祭実行委員会(生徒会室にて)
ついに体育祭の準備が始まりました。これから越生五月ちゃんが、中心になる回が増えるかも知れませんが、それを支えるのも高校3年生6人組です。
「皆さんお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。定例の体育祭実行委員会を開催いたします」委員長の越生五月がいつものように緊張気味に開会を宣言した。
体育祭実行委員長は例年、高校生が立候補するが、誰よりも早く越生が立候補したので、立候補を考えていた高校生も「お手並み拝見」とばかり、縁の下の力持ちに回ってくれたのだ。
越生の呼びかけに従って体育祭実行委員に立候補したのは、以下の通り。
小学生低学年代表の生駒助産師の子、小学4年生の生駒千駿。
小学生高学年代表の深海由梨、深海小児科医師の連れ子で小学6年生
中学生代表は体育祭実行委員長、中学2年生の越生五月と、生駒千駿の兄、中学3年生の生駒篤
高校生代表は文化実行副委員長の駒澤賀来人と同じく高校2年生のバスケット大好き双子の片割れ、久保埜万里、そして運動施設管理者の立場から高校3年生の三川杏の総勢6名。
「では、各代表者から、競技案の発表をお願いします。まず、幼児の競技について、千駿お願い」
「はい、『野菜探し競争』をします。野菜のカードと同じ、本物の野菜を持ってゴールします」
「みなさん、何か質問ありますか」
「野菜は何種類考えていますか?走る距離はどのくらいですか?参加者はどのくらいを見込んでいますか?」
容赦のない万里が立て続けに質問をする。千駿は、兄の篤の方をチラチラ見ながら答えた。
「えっと、野菜はにんじん、じゃがいも、アスパラ、枝豆、トマト、ピーマンを考えています」
「アスパラは旬が過ぎるかな。代わりにトウモロコシはどうですか?」万里が言う。
「あー。いいと思います。それと走る距離は、カードまで2メートル、カードからゴールまで3メートルで、途中で歩けなくなったりすると思うんで、1人に1人ずつ係がつきます。参加者は、これから調べます」
兄の助けを得て、千駿の質疑応答が終わった。多分、運営にも兄の篤が手助けするのだろう。
「次に小学生低学年の競技を、深海さんお願いします」
「私たちは『逃げる玉入れ』をします。バレーボールコート位の大きさの範囲で、小学生高学年4名が背負った籠の中に、低学年が玉を投げ入れます。4名の籠を背負った人は、10分間逃げ続けます。200個の玉がすべて入ってしまったら、低学年の勝ちです」
去年も委員をやった深海は、練りに練った原稿をしっかり読み上げた。
「去年もやったゲームですね。去年は、玉はいくつ入りましたか?」生駒篤が質問した。
「えっと、確か高学年が勝ちました」突然の質問に戸惑ってしまい、とんちんかんな応えをしてしまった。越生が助け船を出す。「10個ぐらい、下に落ちていましたね」
「続けて、小学生高学年については私が説明します」と言って、自信満々に越生が模造紙をホワイトボードに広げた。「小学生高学年には『お祭り障害物レース』をやって貰います」と言って、模造紙に書いたイラストを一つずつ指して説明を始めた。
「最初はヨーヨー釣り、次は射的。輪ゴム銃を用意します。最後に、射的で取ったものを、団扇に乗せて落とさずに走ります」
「射的にはどんな景品を用意するんですか」参加するわけではないのに、千駿が食い付いた。
「えっと。何がいいですかね?」そこは考えてないのか。みんながガクッと首を落とした。
「ていうか、小学生は何が当たったら嬉しい?」立ち直りの早い、越生であった。
「ゲームのキャラクターグッズかな?ポケ●ンとか、マ●オとか?」小3の千駿が答える。
高校生の賀来人が突っ込む。「グッズは買ってくると予算化しないといけないし、作ると著作権違反だよ」
「いっそ、『肩たたき券』みたいに校内の誰かにお願いできる券は、どうかな。1位でゴールした人だけ、それが貰えるとか。例えば鞠斗君デザインのTシャツとか」
三川杏は自分の欲求が口をついて出た。
昨年の1位の賞品は、鞠斗のデザインしたTシャツで、それは格好が良くて、今でもこれ見よがしに着ているものが多い。
「それって、今年も1位の賞品にするつもりなんだけど?」越生が結構強く言う。
「じゃあ。射的の景品は、鞠斗君のデザインのハンドタオルとか」と少し小声で杏が言う。
「鞠斗以外にも、オリジナル商品作れる人探してみたら?」賀来人が言う。
「例えばどんなの?」杏が尋ねる。賀来人は、個人情報なので濁して言った。
「えー。言っていいのかな?今年入学した舞子さんや涼さんは、色々なものを手作りするらしいよ。
涼さんの作るアクセサリーなんて売り物になるレベルだって」
上級生はそのアクセサリーが誰に贈られたものか、すぐ想像がつき、頬を赤らめてしまった。
「きゃー。ラブだね」
「恋する男は、本当に尽くすね」
口々に言うが、千駿だけは、それが意味することがなんだか分からず、
「私は可愛いピン止め作って欲しい」と、とんちんかんな感想を漏らした。
「兎に角、景品製作者は、研究科にもいるかも知れない。一般公募してみよう。でも体育祭まで後、1ヶ月ないから早めに聞いてみて、情報が入ったら、直接交渉しよう」
「就寝時間が迫ってくるので、話し合いを先に進めます。高校生のゲームはどうしますか」
賀来人が映像を使って説明始めた。
「中学生には男女混合で騎馬戦をしてもらおうかと考えた」
中学生の五月と篤が目を見合わせた。
「男女混合ですか?危険じゃないですか」篤が聞く。
「危険じゃないように組み合わせを考えればいいじゃないか。チームはAIに体重、筋力などを参考に決めて貰う。体育の時間に、それぞれのチームで作戦を練って練習すればいいし、グランドでやれば、落ちても痛くないだろう?取るのは鉢巻きだし、結び方はこちらで考えて指示する。髪に結びつけたり、固結びして取れないようにしなければ、すぐ勝敗は決まるよ」
本当にそうだろうか。楽観的ではないかと考えるが、後の対策は他の人の意見も聞こうと、高校3年の三川は考えた。
中学生2人は、その話をした時の中学生の雄叫びが目に浮かんだ。「騎馬戦」なんて、今まで1回もしたことがないので、わくわくする。当日がますます楽しみになってきた。
「最後に、高校生は何の競技するつもりですか」五月が賀来人に聞く。
「今年は、観客を入れるので、体育館で『借り人ゲーム』をします。観客の中から条件に合った人を探して、その人と手をつないでゴールします。小さい子なら抱っこしてもいいし、必ず体のどこかが触れ合ってゴールします。前もって、招待客のリストを手に入れて、AIに条件を決めて貰います」
「AIの条件が、期待通りにならなかったら?」万里が突っ込む。
「それも一興」と賀来人は胸を張る。「前もってシミュレーションはするよ。勿論」
「委員長。もう一つゲームを考えてもいいですか」予定通り、万里が手を挙げた。
「高校生で、バスケットの3ポイントシュートゲームをしたいです。当日参加や観客参加もありでやりたいです。連続で入った数で勝敗を決めます」
「高木姉妹が出たら反則だよ」賀来人が言う。
「2人が出たら、センターラインから打って貰います」
「おっ、えげつない」賀来人が目をむく。
「時間がかかるから、昼食休憩中に、校舎中で見られるように配信しよう」三川が現実的な案でまとめた。
「競技の時間配分や当日のスケジュールは、次回決めましょう。今日は最後に急ぎの案件を話し合います。招待客の条件についてです。以下が条件のたたき台です。ご意見をお願いします。学園長にはこの条件なら良いと、今のところ確認は取れています」
最後に今日絶対決めなければならない案件を、五月が提案してきた。
【招待客の条件】
・在校生1人あたり、女性1名まで招待して良い。
・前もって招待した客以外の入場は禁止。
【体育祭時の注意事項】
・入場料は1人1,000円。中での飲食等、おむつ、生理用品などは無料。
・持ち込み禁止品 酒・煙草・食品・スマホ等電子機器・カメラやビデオなど撮影機器など。
・禁止行為 西棟1階から6階以外への立ち入り。
「どうですか。皆さんの意見を聞きたいです」
「男性立ち入り禁止は何故ですか」
生駒篤が、答えは予想できているが、一応聞くという感じで質問してきた。
「高校3年生や研究科の中には、周囲の人に話さずにここに来ている人もいます。DVから逃げてきた人もいますので、この条件を付けました」
「私たちの撮影も禁止ですか」万里が聞いた。
「真子学園長は、『自分の目で見て、心に刻みなさい』といつもおっしゃいます。私もそう思います」
三川杏が代わりの答えた。
「時間になりました。食事会議でこれを提案する前に、『タブちゃん』に表示します。当日出た質問への応答については、皆さんもご協力お願いします」そう言って、杏は委員会を終わらせた。
委員の最後の1人が生徒会室を出た後、杏はこれからの長い道のりを考えて、うずくまってしまった。(中学生にこんな大役、重すぎる。なんで立候補してしまったんだろう)
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