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診療所の仲間達

GWが始まりましたね。皆さんは楽しい計画があるのでしょうか?桔梗学園も新しいメンバーを迎えました。乞うご期待。

 診療所に来て貰う医者の面接は、会議の2日後に行われた。

桔梗学園駅に着いた東雲水月(しののめみづき)は、すぐ待ち合わせをしていた青年を見つけた。すらっと背が高くよく日に焼けた肌を、ラフなオープンシャツに包んだ青年だった。彼の方も、水月に気がつき、笑顔を見せて近寄ってきた。

「東雲先生ですか?初めまして、小畑氷高(おばたひだか)です。今日は桔梗村での面接?インタビューかな?に来てくださりありがとうございます。後お二人来ますので、少々お待ちください」

「初めまして、よく私が分かりましたね」

「母が、あなたの写真を送ってくれましたので」

そう言うと、氷高はスマホの中の写真を水月に見せた。


髪をきつく結わいて、ナイロールフレームの眼鏡を掛けた白衣姿の水月がそこには写っていた。

(また、不細工な写真を送って)


水月は、氷高の母が、自分たちの母に生活費を毎月送っていたのを知っていた。弟たちに医大の学費もすべて送っていたのも知っていた。水月の学費までは貰えなかったので、水月は多額の奨学金を借りて、医大を卒業した。今回の募集についても1年働けば、奨学金を肩代わりしてくれるというので、推薦者が氷高の母ということは気に入らなかったが、背に腹は代えられなかった。

「ああ、来ました。光輝(こうき)!」


光輝と呼ばれた、浅黒い肌の小柄で筋肉質の男は、小さく手を挙げた。

石渡光輝(いしわたこうき)は、俺の高校の同級生なんです。そちらが相馬先生?」

光輝は少しはにかみながら、相馬謙三(そうまけんぞう)を紹介した。相馬は頭が少し薄くなり始めているため、35歳というよりはもう少し年上に見えたが、ふっくらした体形の優しい笑顔の男だった。

「初めまして、小畑氷高君ですよね。緊張しますね。面接って何を聞かれるんですかね?」

「別に、話したくないことは無理に話さなくてもいいと思いますよ」


水月は、「話したくないこと」という言葉に少しひっかかりを感じたが、それより、相馬歯科医師の後ろに立っている男に目が奪われた。

誰かを捜しているようなその男は、水月を見つけると笑顔で近づいてきた。水月は視線を素早く()らして知らんふりをしようとしたが、遅かった。


「東雲先生、こんなところでお会いするなんて、縁があるんですかね」

水月は、「こんなところ」という言葉と、馴れ馴れしい言葉遣いにイラッとしたが、流石に10歳も年下の男に目くじら立てるのも大人げないと思い、軽く返事をした。

「そうですね。牛腸(ごちょう)君のご兄弟も一緒ですか?」

「はい。僕らが四つ子って先生もご存知ですよね。一番下の妹が、C大学にいて子供が出来たって聞いたから、兄弟揃って会いに来たんです」



 氷高は桔梗学園の自動運転バスがやってきたので、待ち合わせをしていた3人を誘ってバスに乗り込んだ。

「東雲先生は、さっきの学生さんをご存知なんですか?」

氷高の質問に、水月は何気ない風を装って返事をした。

「知り合いというより、彼がT大学で非常に有名なので、知っているってだけです。理科Ⅲ類なんですが、T大学初の飛び級入学で、先日、インターンとして、内科に回って来たので少し話をしたことがあるだけです」


氷高は、水月が無表情なようだが、実は思っていることが分かりやすい人だという印象を持った。



バスを降りると迎えに出ていたのは、柊だった。

「柊、元気か?地震の日は人命救助をしたんだって?」

「ああ、まあ。後でその辺の話をするよ。心配掛けたからな」

氷高は、柊の指輪を見て、柊に何か良い変化があったことを感じ取った。


 柊はすぐ営業スマイルに変わった。

「面接を受けにいらした皆さんは、手の甲にスタンプを押させてください。正式に採用が決まったら、このようなバンドをつけていただきます」

そう言うと柊は自分の桔梗バンドを目の高さにあげた。



 今日の面接官は、児島内科医師と飯酒盃(いさはい)獣医師の2人だった。面接は、食堂の一角を区切ったスペースで行われた。

「どうぞ。お好きな席におかけになってください。私は桔梗学園の内科医児島です。もう一人は飯酒盃獣医師です。今日は遠路はるばるおいでいただきありがとうございました」

「まず、何か飲み物を飲みませんか?各自、ベンディングマシンでお好きなものを持ってきてください」


戸惑う3人を尻目に、氷高がすっと立ち上がり、珈琲を持ってきた。他の人もそれを真似て、好きな飲み物をカップに入れてきた。

相馬歯科医はアールグレイの紅茶を持ち上げた。

「このカップは、リサイクルなんですね」

「はい。食堂の後方に返却場所がありますよね。あそこに各自で運んで、食器を所定の場所に置くと、洗浄が始まります」

児島の説明に、相馬が続ける。

「残飯はどこに捨てるのですか?見当たらないんですが」

「残飯は基本的に出ません。すべての食事がオーダーメイドの内容と量なので、食べ残さないようになっています。ただ、何らかの理由で食事を残した場合は、食堂を出て、残飯捨て場まで捨てに行かなければなりません」


「オーダーメイド?」

水月の疑問にすぐ、児島が反応した。

「桔梗学園の人間はすべて、この桔梗バンドで健康管理されています。それに合わせて、食事内容や量が決められていますので、すべて食べて貰わないと困ります。

まあ、桔梗学園は医者も少ないので、予防に力を入れているんです」


 飯酒盃医師が、全員が座ったのを確認して、面接を始めた。最初は各自の自己紹介から始まったが、その後が普通の面接と少し違っていた。

氷高はラフな服装で足を組んだまま、人の自己紹介に一々コメントを入れるので、水月は、氷高は既に採用されているのだと思った。

そんな水月の気持ちを察してか、飯酒盃医師が、自己紹介前に面接目的を説明し始めた。


「東雲先生、最初に面接目的の話をしましょうか。基本的に我々は、この4名の方に診療所の運営をお任せしたいと思っています。ただ、採用に当たって、条件などが正確に把握されていないと、ミスマッチが起こるので、皆さんの理解内容を伺って、間違っているところなどあれば、訂正したいと思っています」


児島医師がそれに続けた。

「皆さんには、桔梗村の診療所で働いていただきたいと思っています。村のかかりつけのお医者さんという立ち位置です。ですから、定期的な健康診断が主な仕事で、重病の場合は近隣の総合病院に運びます。仕事がない場合は、好きなことをしていただいて結構です。桔梗バンドで送ったデータで、AIが病気の危険性があると判断した場合は、先生方の方で対象者を呼び出して下さい」


水月が疑問を呈した。

「すいません。飯酒盃先生達は桔梗学園の医師ですよね。桔梗村の医師の面接をどうして桔梗学園の方が行うのですか?桔梗学園と桔梗村は同じ経営なのでしょうか?」


飯酒盃医師が言葉を選んで答えた。

「桔梗学園村は、桔梗村に隣接した村です。ただ、先の震災で桔梗村の住宅はすべて流され、桔梗小学校と桔梗高校に避難した村民が生き残りました。そこで、隣接した桔梗学園村が桔梗村の再建の手伝いをしているという状況です。

 現在、C大学の誘致、新桔梗村の建設、旧桔梗村中心部の整地からコンテナハウスの設置まで、すべて桔梗学園村の援助で行いました。ただ、これから桔梗村に多くの住民が戻ってくると、そのすべての援助を桔梗学園村が行うわけにはいかないので、旧桔梗高校を使って役場の機能を復活させることになりました」


相馬医師が追加質問をした。。

「では、我々は桔梗村に雇われたというわけですか?桔梗村は、財政破綻(はたん)しているんですよね」

飯酒盃医師がそれに答えた。

「皆さんは、桔梗村ではなく「桔梗学園」に雇用されました。1年働けば、奨学金を肩代わりするのも桔梗学園が行います。実は桔梗学園内部には、不本意な妊娠をした女性や、DVで逃げてきた女性もいます。そこで、桔梗学園内部では、桔梗村の住民の診療をしたくないのです」


水月は、飯酒盃医師の言葉を(さえぎ)った。

「わかりました。桔梗村の住民の診療は、外でやって欲しいと言うことですよね。そうすると我々は無給だが、衣食住、医療機器の斡旋などは、桔梗学園がやってくれるということですね」

児島医師が付け加えた。

「患者から、治療費を取って貰っても構わないですよ。奨学金の肩代わりはしますが、衣食住は自分で(まかな)いたいとお考えならば・・・」


今まで黙っていた氷高が手を挙げた。

「3人の医者が、治療費を取ったり取らなかったりするのは、困るな。そこは足並みを揃えませんか。支払いは桔梗バンドでするので、患者サイドには治療費を取っている(てい)で、診療しましょう。ただし、徴収した治療費を桔梗学園に払うか、払わないかは我々医師の都合で決めましょう。

そもそも、レントゲンや歯科の診療ユニットなどを、俺は個人で用意できませんので、桔梗学園には用意をお願いします。住むのは、コンテナハウスでも、診療所の上の階でも、俺は桔梗学園の男子寮でもいいんですけれど。みなさんどうですか?」


水月も氷高の意見に賛成だった。ただ、住居については、「実際に医者が住んでいる場所を見てから決めたい」と申し出た。


相馬医師と石渡歯科衛生士は、それに一部反対だった。

「我々は、奨学金の肩代わりもありません。診療所の場所代を払いますので、治療費を受け取っていいですか?実は中古ですが、診療ユニットやレントゲンなどは、廃業する医者から譲ってもらう話が出来ています。運搬費も払いますし、我々が住むコンテナハウスも購入します」


光輝(こうき)も男子寮に来ればいいのに」

そう言う氷高に、水月は冷たい視線を投げた。光輝は赤い顔をして(うつむ)いた。

「氷高君悪いね。光輝は僕と住みたいんだよ」

氷高はやっと二人の関係に気がついた。


面接の最後に飯酒盃医師が付け加えた。

「本当は女性の産婦人科医と助産師を捜していたのですが、まだ見つかりません。お知り合いで、子育てとの両立に悩んでいるようなお医者様がいたらご紹介ください。それまでは、桔梗学園の方で診療所に医者を派遣します。

後、桔梗学園は禁酒、禁煙ですので、飲み会はしませんが、交流会や茶話会はよく行っています。

最後に、治療代を桔梗学園に払ってくださる水月先生と氷高先生は、3食この食堂を使うことが出来ますので、紫のバンドをお着けください。相馬医師と石渡歯科衛生士さんは、色違いのこの桔梗バンドの装着お願いします」


 食堂を出たところで、氷高は水月に話しかけてきた。

「東雲先生はあの2人の関係がよく分かりましたね。俺は気がつかなかったなぁ。高校の時は、光輝は普通に彼女がいたのにな」

水月は小さくため息をついた。

「デリカシーがないな。隠していたかもよ」


「ところで、水月さんはどうしてT大辞めてここに来たの?」

「奨学金を全額立て替えてくれるなんて好条件は、他にないわよ」

「じゃあ、1年勤めたら辞めるの?」

「あなただって、ほとぼりが冷めたら、北海道に帰るんでしょ?」

「俺は帰りたくないんだよね。まあ、付き合いは短いかも知れないけれど、宜しくお願いします」


そう言うと、氷高は食堂の外で待っていた柊の方向に走り出していた。

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