旧桔梗高校跡地 その2
村にお店が出来るなら、どんな店を最初に作ったらいいですか?万屋さんですかね。
私だったら、パン屋さんに入って欲しいですが、皆さんはどんな店がいいですか?
次回は、医者の採用面接についてお伝えします。
新潟地方を震度6.0の地震が襲った3日後、旧桔梗高校跡地の利用についての第2回目の話し合いがもたれた。
開口一番、美規が雄太の事件について、話をした。柊もその時に、事件の詳細について知った。
「そう言うことで、五十沢藍深さんは、DV被害者として桔梗学園で保護することになりました。山田雄太は、勿論、富山分校の練習に参加させませんし、桔梗村への立ち入りも禁止しました。同様に山田雄太の両親の桔梗村への立ち入りも禁止しました。
この件を教訓に、今以上に桔梗村への男性の立ち入りについて、慎重に判断しようと思います」
舞子がそれに答えた。
「ではまず、伊勢亀、牛腸、猪又の子供の父親の、桔梗村への出入りはどうしますか?」
3人の雇用主である由梨が、今までの経過を説明した。
「3人の父親は、大学から産休や育休の許可は、下りなかったそうです。また、休学する気もないようなので、父親に子供を見せるために、伊勢亀達は里帰りすればいいのではないかと思っています」
京が発言を希望した。
「牛腸の兄姉は、牛腸永遠の子守を一緒にするつもりなのか、コンテナハウスを購入しましたね。その兄たちへの制限はどうしますか」
ショッキングな藍深の事件で、議論は一気に制限強化に傾いていったが、人生経験豊かな板垣啓子はそれには流されなかった。啓子はため息をついて持論を展開し始めた。
「あれも駄目これも駄目って言うけれど、藍深ちゃんの被害は、桔梗バンドで被害が確認できたんだろ?同様に、コンテナハウスの居住者への監視をしっかりすれば、そんなに男性の出入りを制限しなくてもいいんじゃないか?
氷河医師の弟の氷高君だって、今度募集を掛ける女医だって、どんな指向を持っているか分からないじゃないか。
雄太君だって、今までは普通の青年だとみんなは思っていたはずだ。
あの子の行ったDVは完全な犯罪なので、それに対する処置は適切だと思うけれど、『男は危険で、女は危なくない』という考え方は、賛成できない」
舞子は更に啓子の意見を求めた。
「では啓子さんは、C大学の男子学生3人についてはどう考えていますか?」
「長期休みに、こっちに来て子育て手伝ってもいいんじゃないか?桔梗高校内部に、長期滞在用のホテルを作ってもいいし・・・」
柊がそれに追加意見を述べた。
「長期滞在のホテルは常駐のスタッフが必要ですよね。スタッフがいらない、コンドミニアムのような宿泊施設のほうがいいかもしれませんね。兎に角、誰か男性が来た時に、みんな男子寮が受け入れるのはきついです。
「いいねぇ。昔、湯治場には自炊できる宿があったね。お金を入れるとガスが着く共同の自炊場があって、自前の鍋で雑炊とか作って、1ヶ月くらい湯治したな」
「啓子さん、明治時代の話ですか?」
「昭和の話だ。まあ、今時、ガスコンロは使えないだろうから、備え付けのキッチンでもいいだろう。赤ちゃんを育てるには、キッチンやポット、電子レンジや冷蔵庫くらいはないと困るな」
「では、ミニキッチン付きの宿泊施設を作りますか。ベビーベッドなどは、希望者にレンタルして貰えばいいですね」
美規が手を挙げた。
「宿泊施設を作るのは大賛成。政治家が来る度に薫風庵に泊まるのも、止めて欲しい」
晴崇と京が、共に頷いた。
舞子が話をまとめた。
「では、旧桔梗高校の利用方法は、1階が食品販売などの売店。2階が内科と歯科の診療所、それに村役場。3、4階が長期滞在型宿泊施設の方向で話を進めます。
ところで、柊、氷高君に医者の紹介をして貰いましたか」
柊が、微妙な顔をして、ディスプレイに候補者のデータを示した。
「伝手を当たってくれて、今のところ4人紹介して貰いました。内科医は、東雲水月 30歳女。歯科医は、相馬謙三 35歳男。歯科衛生士 石渡光輝 26歳男。外科医 小畑氷高 26歳男」
「男ばっかり」
由梨の意見に、柊も「分かっている」と手を広げた。
「一応個別に人物について紹介するよ。
まず、東雲水月さんは、以前は、麦穂会東京医療センターで勤務していた。母親はそこの看護師長で、なんと小畑の父親の不倫相手らしい。ただし水月さんは、看護師長の連れ子で、紹介者は小畑姉弟の母親。
相馬歯科医と石渡歯科衛生士は、ゲイのカップル。石渡が氷河君の高校の同級生だったらしい。どうしても二人一緒に暮らしたいという希望がある。
小畑氷高君は、氷河さんの産休代理を希望しているけれど、その後も桔梗村で働きたいらしい。彼も恋子内親王のお相手と言うことで、今マスコミに追われているので、北海道から避難したいらしい」
「なんか、いろいろあるね。東雲水月さんには子供や恋人はいないの?」
舞子の質問に、柊は小首をかしげた。
「そういう話は聞いていない。まあ取りあえず、面接して貰えますか?」
美規は時計を確認した。
「まあ、ではお手すきのお医者さんに、面接して貰いましょう」
話し合いの大枠が決まったところで、詳細については、桔梗学園の食堂会議に掛けることになった。
旧桔梗高校自体の構造のリフォームについては、KKGの一級建築士が「設計したい」と立候補してきた。特に、宿泊施設については、夢があるらしい。
役場のレイアウトは瑛君達、職員の希望を取り入れることにして、電子申請などのシステムについては、四十物李都にすべての設計を任せることにした。勿論、事務を引き受ける佐伯や若槻から、実務についてのアドバイスを貰いながら行う。
1階の売店については、子供達から様々な意見が出て、収拾がつかなくなったので、駄菓子屋で経営の経験を積んだ大神琥珀と玻璃、それに須山猪熊が、中心となって売店の計画を立てることになった。猪熊は中学生の双子に振り回されることが想像されたが、生来の真面目さで、譲れないところはしっかり守るだろうと、舞子が猪熊を強く推薦した。