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兄たちの自由時間

 食事中、(けい)と話していた(りゅう)は、食事が終わると(しゅう)のところに来た。

「俺、自由時間の最初に、保育施設に瑠璃(るり)を迎えに行くけど、柊はどうする?」

「琉は、今晩、ドローンレース部に行くんだろう?」

「瑠璃を連れていくことにしたんだ。賀来人(かくと)が瑠璃を遊ばせておけるようなサークルを作ってくれたんだ」

「いいな。(こずえ)も預かってくれるか?」

「おっ、ついにお前もドローンレース部に入る気になったか」

「いや、昨日の分の睡眠を取り戻す」

「はあ?じゃあ、明日は2人連れて部屋に帰ってくれるのか?」

琉の声がだんだん大きくなってきた。

「大きな声出すなよ。女子が怖がっているだろう。明日も頼むよ。他に友達がいるんだろ」

「お前だって、友達作ればいいじゃないか。部活も一緒に入ろうって誘っているのに」

「僕は、早さのみを考えて数学をする男だ。色々な対応策を考えなければならないドローンレース部になんて僕の居場所はないよ」


(けい)が立ち上がって、琉の腕をつかんで小さい声で言った。「今日の柊は何言っても聞いてくれない。もう少し、お互い頭を冷やしてから、話した方がいいよ。まずは、瑠璃ちゃんを迎えに行こう」

 

 琉と圭がいなくなった後、食堂中の好奇の視線が暑苦しくて、柊が立ち上がろうとすると、誰かが柊の肩を押さえた。

「大声で騒いじゃ駄目だよ」

カチューシャで前髪を上げた黒目がちの青年が声をかけてきた。柊がいぶかしそうにすると、青年は前髪を下ろして、「これでもわからないかな?杜晴崇(もりはるたか)だよ」と優しい声で言った。

「晴崇?あの初日に妹を保育施設に連れて行ってくれた」

「薫風庵での映像も見てくれたじゃない。珈琲飲む?タンポポ珈琲だけど」

礼を言ってカップに入れた珈琲を受け取ると、蹴斗はその珈琲に、お日様に匂いを感じながら、ゆっくりと味わった。


「この食堂には珈琲はないんだ。薫風庵からポットに入れて持ってきた。おかわりもある。ところで柊君は自由時間、本当は何をしたいの」晴崇は椅子に座りながら、柊に話しかけた。

「特にやりたいことはないんです。妹がいなければ、図書館で本を読んでもいいんですけど。勉強は・・・勉強時間以外はしちゃ駄目ですよね」

「いや、自動車教習所の勉強とか、学校で与えられた基礎学習以外の勉強ならしてもいいんだ」

「妹がいるんで静かに勉強はできません」

「昨夜は大変だったね。梢ちゃん初日だから興奮したんじゃない?今日は大丈夫かも。夜の自由時間は、妹とゆっくり触れ合う時間にしてもいいんだよ。嫌だと思うから泣くんじゃないかな。

男子寮のラウンジにサークルを置いてそのそばで勉強するって手もある。教習所の教本なら貸せるよ。早く免許取りたかったんじゃないの。蹴斗(しゅうと)が言ってた」


柊は長男でいつも気を張っていた。父親も自分の仕事にばかり神経を注いでいて、優秀な息子は放っておいても自然に自分のようになると考えるような男だった。だからいつも人と戦って、誰よりも早く、誰よりも優秀でいなければならないという呪縛(じゅばく)にとらわれていたのだ。

ここに来た日は、蹴斗が相談相手になるかと思ったが、蹴斗は優しいがいつも先を歩いて、背中でついてこいというタイプだ。

こんな風に自分に親身になってくれる人は今までいなかった。晴崇はそっと柊の椅子を引いて、「行こう。まずはベビーサークルを設置しなくちゃね」と柊の背中を押した。


 2時間後、男子寮のラウンジの片隅にサークルに囲まれた、4畳ほどの幼児の遊び場ができていた。柔道の投げ込みマットも中に敷いた。勿論、三上の許可を得て使用前の新品のマットを借りてきたのだ。涼も「俺は投げ込みマットはいらない」と言ってくれた。

これで赤ちゃんが倒れても、頭を打つ心配がなくなった。

柊はサークルの中に入って、片目で梢の様子を見ながら、自動車教習の本を読んでいた。

梢は、保育施設から持ってきたお気に入りの積み木で遊んでいた。


 涼と琉が8時過ぎに、男子寮に上がってきた時は、梢は、柊の膝を枕に幸せな顔で寝ていた。琉は食堂での(いさか)いを気に病んでいたので、自分から柊に声をかけた。

「このサークルはどうしたの?」

「晴崇と僕とで持ってきた。柔道場のマットも借りてきた。しばらくここに置いていいらしい。晴崇が、男子施設部門の施設長の許可も貰ってきてくれた」

そう言えば、ドローンレース部の部活の最中に、晴崇さんが、賀来人君のところに来てなんかしゃべっていたと、琉は思い出した。しかし、「晴崇」なんて呼んで、そんなに親しくなったのかと、琉の胸が少し痛んだ。柊の親友だとずっと思っていたから。


「自動車免許取るんだ」と教本に気づいた涼が聞いた。

「みんなのように今、すべきこともないし、一足先に自動車免許取ろうかなと思って。もう時間だ、明日も早いんで寝ようぜ」と言って、柊は、梢を優しく抱き上げて、自室に入っていった。


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