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三本の矢

なんか難しい話になってしまいましたが、今後の話の展開のためには、必然的に書かねばならない内容だったので、退屈な方は斜めに読み飛ばしてください。各県に対する個人的な思い入れや悪意は全くありません。すべて、話の都合なので、フィクションだと思って受け取ってください。

 この震災で、外務省は秋田、防衛省は北海道、財務省は宮城に移転した。当然、長尾景子(ながおけいこ)財務大臣も宮城県仙台市に移り住んだ。これはその長尾家での話である。


「久し振り、恵子。やっぱり桔梗学園に潜り込んでいたんだね」

「まあ、招待されたからしょうがなく・・・ね」

戦友長尾に対しても、健康情報は軽率に漏らすわけには行かない。加須恵子(かぞけいこ)は自らの病気のことはおくびにも出さなかった。


今日は牛島藤美(うしじまふじみ)防衛大臣も、この席にいる。

「3人揃うのも久し振りだね」

「私が、『桔梗学園に行った』って娘の景子に漏らしたのが桔梗学園にバレて、のけ者にされていたからね。信用回復するのに苦労したよ」

「回復できたの?」


「わからん。でも、12月に島根分校に行って、真子(まさこ)さんの病室に入れて貰った」

「ああ、そこでK国にバリア張る作戦を美子(よしこ)さんに聞いたんだもんね。

あれ、恵子は珈琲じゃないの」

「まあ、最近は麦茶とかほうじ茶が好きなんだ」

「総理代行はストレスで、胃を壊したんじゃない?大事にしなよ。で?また、姿を現わしたのは政界復帰したいから?」


「何故、姿を現わしたと思う?牛島防衛大臣」

「私に質問するの?石頭総理がそろそろヤバいんで、今度こそ次の総裁を狙うために現れたとか?」

「違うね。次、同じ質問だよ。長尾財務大臣」

「えー?次の総理を黒須(くろす)三郎外務大臣にやらせるくらいなら、私か藤美のどちらかがいいと思っているから」


恵子はゆっくりと温かいほうじ茶をすすった。

「答えとしては近い。ところで、黒州はそんなにあからさまに総理になるために動いているの?」

長尾財務大臣はブラック珈琲の香りを確かめながら、ゆっくりと口に含んだ。

「確かな筋からの情報だと、星外務官に近づいているらしい」


牛島防衛大臣は眉を寄せた。

「星外務官って、ここで何の関係があるの?」

「ああ、藤美は知らないか。星外務官は、桔梗学園の狼谷柊(かみやしゅう)の母親なんだ。実は恋子(こいこ)内親王はかなり狼谷柊が気に入っていて、お婿さん候補の筆頭なんだ。

もしも恋子内親王が女性天皇になったら、その夫は皇配(こうはい)になるじゃない?」

「将を射んと欲すればまず馬を射よ・・・か」


数か月政界から離れていた恵子は、もう話題について行くのに必死だった。

「女性天皇の可能性は高いの?石頭(いしあたま)総理他、男系天皇を強く進める派閥は、春仁(はるひと)様ご婚約で勢いづいているじゃなかった?」


長尾が3杯目の珈琲を注ぎながら答えた。

「恵子は自分のことだから、よく分からないだろうけれど、海外のSNSでは『日本の危機を救った加須総理代行をジャンヌダルクのように、日本の政界は葬り去った』って、今かなり炎上しているんだよね」

「そのSNSは私も見たよ。つまり、黒州外務大臣がこのまま総理になっても、『ジャンヌダルクを犠牲にして総理になった』と、女性からのバッシングが多いことが予想されるんで、一端『女性天皇』を擁立して、非難の矛先を反らせようとしているのかな?」


恵子は麦茶をゆっくり飲みながら、(そんなに簡単に殺さないで欲しいな)と考えていた。


そんな恵子を横目で見ながら長尾財務大臣は、再度、恵子に質問をした。


「降参だよ。何故、私達の前に姿を現わしたの?このまま政界に出て行けば、党員剥奪、証人喚問なんかが必至だから、私達は、恵子は数年間姿をくらますかも知れないと考えていたのに」


「ん~。私は確かに、今回の災害の死者をほぼ0に抑えることに貢献した。でも、それだけだったら、政治家としては不合格なんだと思う。やっぱり、災害復興まで手をつけるのが政治家なんだよね。

私としては、今回の災害は大変不幸だったけれど、私はこれを千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスと捉えたい。

日本は地震も噴火も多いし、台風も多い。温暖化でどんどん災害が増えている。

だから、これに耐えられる街を作らなければいけないし、何より世界一の少子高齢化社会をこのまま放置していたら、どうなるか?と考えると、最後まで仕事をするべきだろうと考えたんだ」


「で?私か、藤美を総理大臣にして、後ろからバックアップしようと・・・。つまり、政治家としての正義感?」

牛島防衛大臣は、きつい目で、長尾財務大臣を見上げた。

「心にもないことを言うなよ。『私が総理大臣になるから、恵子に桔梗学園とのパイプになってくれ』って言いたいんだろう?」


長尾財務大臣は涼しい顔をして、牛島防衛大臣の真意を確認した。

「藤美こそ最初に『ガラスの天井』を破りたかったんだろう?」


牛島は肩をすくめたが、深くため息をついて答えた。


「まあね。でも、私が総理になっても、私の代わりに防衛大臣になって自衛隊を抑えきれる人間がいない。それは自覚している。

今、米軍が福生(ふっさ)の横田飛行場を早く直せって、五月蠅(うるさ)いんだよね。まだ、火山灰が降っていて、電気設備を復旧できないって言うのにだ。

私は、この機会に日本にある米軍基地を減らしたいのに何を言ってくるんだって感じ」

「今回の災害を言い訳に、『思いやり予算』を減らすくらいは出来そうだけれどね。まあ、『お友達作戦』みたいに目立つパフォーマンスの方が、あちらさんは喜びそうだけれど」


「よし、石頭総理の後、震災処理は不肖(ふしょう)長尾景子が承ります」

「おいおい、立候補が早いな」


恵子がニヤニヤした。

「まあ、腹の探り合いに時間を取られたくないから、私のカードを開くね」

「待っていました。桔梗学園からどんな指令が来たのかな?」


「もう、司令は来ないよ。でも、KKGから新たな武器は紹介して貰った」


長尾もすっと手を挙げた。

「実はうちにもスタッフとして、SNS担当者を増員したんだ」

「娘さんの友達?スタイリストも?(笑)」

からかいついでに、牛島防衛大臣は核心を突いた。

「それで、先ずは公約をどうするの?」


「1.災害に強い豊かなローカル

 2.新交通網と未来サテライト都市

 3.200年後の子孫に贈り物を残そう

この3本立てでいきたい」


恵子は少し考えて、長尾の話を促した。

「まあ、言いたいことは分かる。ただ、地震と噴火の被災地の復興はどうする?まるまる県がなくなった高知なんかは、知事が黙っちゃいないだろう?」


「まずは道州制を採用しないとどうもならないよね」


牛島防衛大臣もそれに同意した。

「景子もそう考えた?私もそれしかないと思う。

昔から道州制の議論はあり、様々な区割り案があるけれど、今回の区割りは必ず、太平洋側と日本海側をくっつけて輪切りにしないとね」


「同じ考えならまず、私の区割り案を言うね。

全国を、7道州にして災害被害がほとんどなかった東北は5県。

北関東州には、福島・新潟・北関東3県。

南関東州は長野・富山・静岡を入れて、フォッサマグナの西の中部関西州は愛知・石川から兵庫まで、後は、中国四国州、九州と沖縄をまとめて九州。

これに北海道を入れるのが私の案」

「大きく(くく)ったね。でも、それぞれに桔梗学園の分校があるんだね。北海道は北海道分校、東北州は秋田分校、北関東州は新潟の本校、南関東州は富山分校、中部関西州は岐阜分校、中国四国州は島根分校。あれ?あと1つ九州は?」


恵子がそれに答えた。


「福岡に人は常駐していないけれど、桔梗学園の施設があるらしい。

ただ、今まで道州制がまとまらなかったのは、州都の場所なんだけれど、それはどうするつもり?2人の意見は?」


「ドラフト制度みたいに公開くじ引きは?引き当てた都府知事が最初の州知事になるってことで、どう?」

牛島防衛大臣の案は、なかなか乱暴であるが、意外といいかもしれない。


「じゃあ、くじに当たった県知事の県庁所在地に州都が来るってこと?」


恵子の質問に長尾財務大臣が代わりに答えた。

「いくらくじ運が良くても、住民がほとんど避難したところでは政治は始められないよね。そこは利害が絡む。仮の州都があってもいいかも」


「ほう?復興が進めば、『遷都』するんだね」

自分が総理大臣候補から外れたものだから、牛島防衛大臣の口はかなり軽くなっている。

「ついでにさぁ、州ごとに国会議員が4人くらいだと28人の国会だから話が早いよね。

ただそれにすると、国民の声が反映されないという反対意見が出るなぁ?」


それには恵子が答えた。

「実は、KKGがね、国民の意見を吸い上げるアプリを作ってくれたんだよね。それから、デジタル投票システムも」

「そのデジタル投票システムって、10代や20代の票は2倍になるとか言うシステム?」

「よく分かったね。10代や20代は3倍、30代や40代は2倍だって。

それに、自分たちの意見を聞いてもらったら、若者ももっと投票するよね」


「国民の意見は、自己中心的な意見も多いけれどそれもすべて取り上げるの?」

長尾財務大臣が不安そうな顔をした。


景子がKKGの秘密兵器の解説を続けた。

「AIが意見の内容は精査するよ。国民の意見にも『費用対効果指数』や『子孫への被害指数』なんかも表示できる。つまり、「200年後の子孫」の贈り物になるかどうかを明らかにするんだ。借金ばかりでは困るだろう?

それからどういう意見が必要なのか分かるように、こちらからもデータを内閣のHPやSNSでどんどん載せる。

その担当者も用意してある。お役所仕事のHPじゃ、若者には読んで貰えないものね」


「私達が20代だったら、こんな話は夢物語だけれど、この年だから実現できると思うんだ。勝負をかけて『日本改造』に取り組むよ」

「景子の本音が出たね。政治家なら一度は夢見るよね。『日本改造論』!」


「でもね、田中角栄氏のように『本州から北海道まで金に糸目をつけずに掘れ』とは言えないお財布事情だから、難しさは100倍だよ。まずは、東京都知事、女帝大池蘭子と勝負だね」

「その勝負のデータも揃っているんでしょ?なんと言っても、東京を初めとして、噴火の降灰地域は後回しだからね。大池都知事は怒り狂っているよね」


「まあ、大池蘭子も必死に灰を片付けているみたいだけれど、(さい)の河原で石を積んでいる状態だからね。

まあ、空っぽの国の財布を見せて、『お預け』に我慢して貰おう。

こちとら『小さい政府』にして、外交、財務、国防など仕事を絞ろうとしているんだ。

後は各州に予算内で、頑張って貰おう」




 この会談の翌日、石頭総理が脳溢血(のういっけつ)を起こし、総理を引退した。


総裁選は、10人の候補者が乱立したが、クリアな未来ビジョンを示した長尾景子が、黒須三郎を僅差で交わし、初の女性総理大臣に輝いた。


長尾景子は当選するとすぐ、道州制の制定に着手し、各州の州知事を決めるくじ引きのTV放送は、60%越えの視聴率を稼いだ。


その後、各県知事の話し合いが1週間以内に行われ、各州都は、北海道は札幌市、東北州は仙台市、北関東州は宇都宮市、南関東州は西東京市、中部関西州は金沢市、中国四国州は広島市、九州は福岡市に決まった。

中部関西州は、名古屋、大阪、京都、神戸の被害が大きいので、取りあえず州都は金沢になった。

しかし、東京都も同様に被害が大きかったが、大池蘭子に誰も逆らえず、西東京市が州都に決まった。

東京23区にもいくつか高台が多かったが、既に高級住宅地ができあがっていたり、高層ビルの長周期振動による被害が計り知れなかったりしたので、比較的富士山からの降灰が少なかった西東京市を一応、州都に選んだらしい。


 州都が決まると、すぐ予算削減のため、衆参両院同時選挙が行われた。冗談のようだが、本当に各州男女2人ずつ計4人の国会議員が選ばれた。衆参両院合わせると各州8人。誰一人として、国会で居眠りをしたりするような者は選ばれなかった。平均年齢は両院合せて40歳という議員ばかりで、各州の有権者の希望を反映した政策を、積極的に取り入れようとの意欲があった。


 そして、当面の州知事と各州選出の国会議員の仕事は、如何(いか)に自分の州が魅力的で、移り住むのに相応しいかというPRをしていくかだった。州で集めた「州税」は州が自由に使える財源になるので、人口増は喫緊(きっきん)の課題なのだ。 


そのため、4月末に秋田で行われる「全日本柔道大会」は、東北州が打ち出した「スポーツ州構想」の一環として、当初計画していた桔梗学園の想定を大きく外れた広がりを見せた。

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