コスプレ大会 その3「白雪姫」
自由に動き回る子供達は、親がいないと舞台で演技できないようですね。
「琉、次はお母さんの出番だぜ」
「俺、トイレ行くわ。恥ずかしいだろ、親のラブシーンとか」
「分からないよ。白雪姫の別バージョンでは、眠った白雪姫の入った大きな箱を、小人がうっかり落としたら、林檎が口からぽろっと出て生き返ったって話もあるからな」
琉の心配をよそに、舞台では、ディズニー映画で有名な「ハイ・ホー」が流れ、白雪姫が1人の赤ちゃんを抱いて入場してきた。
「あれ?舞子だ。じゃあ抱いているのは桂樹だな?舞子のスカートを掴んでいるのは、冬月だ」
「やっぱり、母さんは恥ずかしくて、逃げ切ったな」
琉はほっとして、柊と舞台を見続けた。
2人目の白雪姫は双子の小人の手を引いて入場してきた。
「暁と瞬の手を引いているのは圭だ。風太と琳が珠季を連れてきた。風太は眼鏡をかけた小人だ」
まるで幼稚園のお遊戯会のような様相で、とんがり帽を被った子供達はそれぞれ色違いのベストを身につけている。しかし、子供の可愛さは無敵だ。
ステージ上で自由に遊ぶとんがり帽子の赤ちゃんを、二人のシンデレラは追いかけ回しているのが笑いを誘った。ステージから降りようとする冬月、髪を引っ張り合って喧嘩する暁と瞬。
そんな二人のシンデレラに、まともに台詞を言える小人役の琳が話しかける。
「シンデレラ、今日の夕飯は何にしようか」
続けて風太が台詞を言う番だが、
「僕は、僕は・・・」
琳が続きを教える。(カレーが好き)
「ああそうだ。僕はカレーが好き」
「シンデレラ、森にカレーに入れる林檎を採りに行こう」
「僕は木登りが大好き」
「違うよ。風太、『木登りは出来ない』だよ」
「えー。出来るよ」
琳が頭を掻きむしっていると、向こうからフードを被った大きな魔女がやってきた。
「小人さん。木登りしなくても、ここに林檎があるわ」
声は男である。背格好も男である。しかし、フードの下の赤い唇は限りなく色っぽく、会場中で、「あれは誰だ」の声が広がった。
「ありがとう。白雪姫は林檎入りのカレーが好きなんだ」
「待て。グランピー。知らない人から食べ物を貰っちゃいけないのよ」
突然、圭の扮する白雪姫が、スカートの下からナイフを取り出した。
「私達の命を狙うあなたは誰なの?」
対する魔女も、「そんな短い剣で私のライトサーベルと戦うの?」といって、光る剣を持ち出してきた。
素早い身のこなしの白雪姫も、短剣一本では太刀打ちが出来ないようだ。
倒れる白雪姫の胸に魔女の剣が突き立てられるその時。
「パパー」暁と瞬が魔女に駆け寄っていった。
魔女はフードを取って、剣を捨て、しょうがないという顔で双子を抱え上げた。
「なんだ。晴崇か。誰かと思ったよ」
「えー。晴崇なの?見違えたわ」
小さい頃の晴崇しか知らない研究員のお姉様方からため息が流れた。
フードの下から、怪しくも美しい化粧をした晴崇の顔が現れた。
舞子白雪姫が、晴崇の前に仁王立ちになった。
「駄目じゃない。最後は私が投げ飛ばして勝つってストーリーなのに。しょうがない。小人達、魔女から林檎の籠を奪ってしまいなさい」
突然変ってしまったシナリオに対応したのは、琳だった。
「みんな、魔女にこちょこちょしていいぞ」
小さな小人達に下半身にとりつかれた晴崇は、転んでも潰してしまいそうで、オロオロしてしまった。
「晴崇、籠を置いて退場して」
圭に囁かれて、晴崇ははっと我に返って、「助けてー」と叫びながら、暁と瞬を抱きかかえたまま退場してしまった。
「小人が減っちゃった」
圭は肩をすくめた。
林檎の籠を持ち上げた舞子白雪姫は、圭白雪姫に話しかけた。
「カレーにする前に、林檎の味見をしない?
「いいわね」
かくして、2人の白雪姫は林檎の毒で倒れてしまったのだ。
舞台は暗転して、冬月の「ママー」という泣き声が舞台袖に移動していった。
舞台が再び明るくなった時、人一人入る大きなアクリルの箱の中に、一人の白雪姫が横たわっていた。
舞台袖から大町扮する王子が白いスーツに身を包み、アクリル箱に近づいていった。
大町は静かに横たわる白雪姫を抱き上げた。
「父さん・・・恥ずかしいから止めて」
琉が小さく叫んだ。
そして、白いウエディングドレスに身を包んだ理子に、熱いキスをした。
「大神理子さん。僕と結婚してくれますか?」
理子は何も言わず、大町の首に腕を回した。
ウエディングドレスは、タイトでシンプルだが、胸元からハイカラーの首元までレースが使われ、細身の理子を華やかに見せている。大町に抱き上げられ静かに降ろされた理子に、舞子白雪姫がベールを被せ、圭白雪姫が裾のドレープを綺麗に広げた。
舞台袖から、マントを脱ぎ、司祭の格好をした晴崇が二人に歩み寄った。
「大町信之、汝は大神理子とその子供を生涯愛し、守り抜くことを、会場の皆さんの前で誓いますか」
「誓います」
「大神理子、汝は大町信之を生涯愛し、守り抜くことを、会場の皆さんの前で誓いますか」
「誓います」
会場の袖から、琉を始め7人子供達が花びらを投げながら入場してきた。会場の全員が立ち上がって、この結婚式を祝福した。
「2つ目でこれかーーー。ヤバいね」
今まで側にいた琉がステージで満足な顔をしているのを見て、柊の目にも一筋涙が流れた。
次回は高校生達のパフォーマンスです。