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桔梗学園子育て記  作者: 八嶋緋色


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コスプレ大会 その2「シンデレラ」

今回紹介する「ツーインワンドレス(2in1)」とは、1枚を2通りに着られるという服ではなく、1枚目の中に2枚目を仕込んでいて、簡単に早着替えができる服です。歌舞伎の早着替えを想像して貰えればよいかと・・・。

 コスプレ大会当日の熱気はすごかった。

会場の体育館にはステージがしつらえてあり、ステージの上のモニターでは、桔梗学園キャラクターのビーグル犬のココが司会を務めていた。

特別ゲスト加須恵子(かぞけいこ)は、美規(みのり)と2人でステージ前の机に座っていた。美規の希望で、パフォーマー1組ずつに採点はしない。採点すると楽しめないからだそうだ。

採点はすべてパフォーマーが登場し終わって、最後に1人1票一番良いと思ったパフォーマンスに投票するのだ。登場順はくじ引き。最後になれば、記憶に残るので優位だからだ。

その優勝賞金は100万円。


 加須恵子と美規はそれぞれ「審査員特別賞」を授与することが出来る。賞品は3つの中から自由に選べる。

1つは「スペシャルデザート券」。九十九(つくも)農園が開発中の苺スイーツの試食券が10枚貰えるそうだ。

2つ目は、戎井(えびすい)呉服店秘蔵の反物(たんもの)から1反選び、好きな物を仕立てて貰える券。勿論、啓子が狙っていたの結城紬(ゆうきつむぎ)の反物もそこにあった。

3つ目は、エスコンフィールド野球観戦券+宿泊券。これは修学旅行で高校生が行った野球観戦が羨ましいとの声を受けて、作られた賞品だ。資金はなんと、加須恵子様が出して下さるそうだ。



 柊は、体育館の隅でライバルのパフォーマンスをこっそり観察していた。観客席で衣装のまま観覧している参加者もいるが、(こずえ)の機嫌も取らないと行けないので、柊は観客席に座らずにいることを選んだのだ。

 

1組目は「九十九農園チーム シンデレラ」

 

「シンデレラ?私達はお城の舞踏会に行っているけれど、ここの掃除をしていてね」

会場はクスクス笑いに包まれている。継母役は九十九農園の珠子(たまこ)だったからだ。いつもの作業着姿でドレスを着ていると、どこかユーモラスだ。

「叔母さん・・・」

美規も笑いを堪えて肩をふるわせている。

「お母様の言う通りよ。私達は王子様に見初めて貰えるかしら」

「勿論よ、そのために踊りの練習もたくさんしたのだから・・・。シンデレラ、ここに(ほうき)があるわ。ほら」

(れい)の妹、琥珀(こはく)玻璃(はり)が綺麗なドレスのまま、シンデレラの深海由梨(ふかみゆうり)に壊れた箒を投げつけ、笑いを誘った。


柊の横で、琉が裏事情を教えてくれた。

「あいつら、由梨に苺スイーツで釣られたらしい」


 そして魔女が登場すると、会場は一瞬息を飲んだ。腰まであるウェーブした髪が背中いっぱいに広がり、黒いドレスと真っ赤な口紅が肌の白さを際立たせていた。元々長いまつげには更につけまつげが盛られ、ゆっくりと目線を上げると会場中の観客が息を飲んだ。

「駄目だろう。京が化粧したら、由梨がかすんでしまうぞ」

「柊、一雄がこの劇に参加する条件が、『京を美しい魔女として登場させろ』ってことだったらしい」

「まさか、化粧講習会に一雄がいたのはこのためか?」

「いやいや、一朝一夕でこんな化粧できるわけがないだろう?」


 静かな会場にハスキーな京の声が響いた。

「お前はいつも部屋を綺麗にしてくれている。今日はお前の願いを3つ聞いてやろう」


(ん?なんか話が変っていないか?)


「ありがとうございます。実は掃除をするにも箒が折れていて困っています。これを直してくだされば、いつも以上に部屋が綺麗になります」

会場中がずっこけた。そして、次はどうなるかという期待が膨らんでいく。

「わかった。ほら、空も飛べるほどの箒にしてやったぞ。次の願いはなんだ」


そこへ突如、机の上の携帯電話が鳴り出した。

「ちょっと待ってください。お姉様から電話です。はい、シンデレラです。え?忘れ物?手袋が肘まである長いものじゃなければいけないですって?そんなもの、家にないわよ」


審査員の加須恵子がクスクス笑い出した。美規が顔を覗き込むと、恵子が美規に小声でそのわけを教えた。


「現在の上皇后が、婚約会見の時、本来肘上までの手袋すべきところを、東宮御所から短い手袋が届けられたという『手袋事件』というのがあったの。まあ、『いじめ』ね。それを思い出したの。もしそれが意図されたとしたら、この台本を書いたのはなかなかの知恵者ね」


 舞台ではシンデレラが2つ目のお願いをしているところだった。

「3組の肘上まである手袋を出してください。持っていかないと怒られます」

「いいのかい?もう2つもお願いを使ってしまったよ。3つ目はどうしよう?」

「舞踏会に潜り込めるように、給仕の服装にさせてください。このままでは、空飛ぶ箒で宮中にたどり着いても、お姉様達に手袋を届けられません」


 場面は暗転して、舞台中央には手袋届け終わったシンデレラがいた。

「ああ、良かった。お姉様に達に無事に手袋を届けられたわ。あれ?ここに置いてあった箒がないわ」

そこに王子様の格好をした玲が、箒を持って歩いてきた。


「君が捜している箒はこれかい?」

「はい、それは私のニンバス2000です。どうか、お返しください」

「これは空飛ぶ箒だ。僕に譲ってくれ」

2人が箒を取り合っているうちに、シンデレラの服の肩の紐が取れてしまった。


なんとシンデレラが来ていた給仕の服は、肩紐を外すとするするっとドレスに早変わりするツーインワンドレスだったのだ。そして、髪留めを一本外すと、三つ編みにまとめられていた髪がほどけ、波打つ髪が出てきた。


「ああ、なんと素晴らしい女性だ。僕の理想の人だ」

(ひざまづ)く王子、恥じらうシンデレラ。そこで物語は終わらなかった。


 舞台の袖から、2人の姉が登場したのだ。

「まあ、王子様こんなところにいらしたの?」

「私達のうちどちらと、ファーストダンスを踊ってくださるの?」

そう言うが早いか、琥珀と玻璃はスカートを摘まんですごい勢いで走り出した。

そして、恐怖におののいて抱き合っている王子とシンデレラを追い抜いて、反対の端の・・・。

そこにスポットライトが当たると、なんと一雄が王子様の格好をして立っていたのだ。琥珀と玻璃は、その前で急ストップをして、優雅なカーテシーで挨拶をした。


「やばい。一雄の王子様。どう見ても、あの貫禄は王様だ」

琉が(ささや)いた。それでも妹たちがどうなるか、気になって目が離せないでいた。

王子の姿をした一雄は、

「面を上げよ。ふむ。なかなか美しい娘だな。顔だけの第二王子より、私を選ぶとは、なかなか感心だ。・・・」


王子に扮した一雄が突然目を押さえた。

「なんだ。眩しいぞ」

舞台上方から強い光を背に、魔女の京が1人乗りドローンに乗って降りてきた。


「私というものがありながら、若い娘に目を奪われるとは・・・」


 舞台は暗転した。

ナレーションが流れる。それに応じて1ヶ所ずつ、スポットライトが当たった。

「第一王子はかねてから付き合っていた、魔女を妃に迎えた」

京をお姫様抱っこした一雄にスボットライトが当たる.

「第二王子はシンデレラと結ばれ、箒に乗って、自由な世界に旅立った」

箒に2人乗りして幸せな笑顔に2人にスポットライトが当たった。

「2人の姉と義理の母親は、九十九農園でいつものように苺の新作作りをしていた」

珠子と双子は、作業着姿に戻り、新作スイーツのポスターを前に仲良く立っていた。


「最後は宣伝かよ」

「最初にこれをやられると次の仮装は苦しいな。台本もすごいけれど、魔女の化粧とツーインワンの衣装は誰の手助けだよ」


 観客席には、新作苺スイーツのバームクーヘンを(かじ)っている講内研究員と、ソーイング部部長の糸川が満足した顔で座っていた。

今日は祝日なので、もう1話アップします。

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