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久し振りの同期会

海外の分校に行っていた2組のカップルを、忘れたわけじゃないんです。久し振りに登場して貰います。

「久し振り~。紅羽(くれは)は元気?」

舞子の元気な声に、オーストラリアからの映像の中の紅羽が、ガッツポーズをしながら答えた。

「日本は今、7時?こっちは元旦の9時だから、目もぱっちりです。翠斗(すいと)も元気ですよ~」

紅羽の涼しげな目元を見事に受け継いだ翠斗は、カメラに向かって、一生懸命手を伸ばしていた。


鞠斗(まりと)のいるスウェーデンは、日本より8時間くらい遅れているってことは・・・」

「そう、まだ大晦日の深夜。眠いよ。後ろにいるおばさん達は異常に喜んでいるけれど」

蹴斗(しゅうと)ぉー。元気?こっちの2日から普通に仕事なんで、年を越えたら、シャンパンでお祝いして、寝ます」

蹴斗の母、一村遊(いちむらゆう)はゆったりしたバスローブ姿で、既にシャンパンを傾けていた。

遊の肩に頭を持たせて、もう既にできあがっている鞠斗の母、不二登子(ふじとうこ)が手を振っている。

「蹴斗君、鞠斗と鮎里(あゆり)ちゃんの赤ちゃんも、順調で夏には生まれるよぉ」


日本とオーストラリア双方で、拍手が起きた。美規(みのり)はそっぽを向いているが、きっと涙を堪えているのだろう。


「鞠斗ぉ。こちらも紅羽と僕の子が春に生まれるからね。女の子って分かったから、名前ももう決めたよ」

「なんて決めたの?」

「藍色の『(あい)』。AIじゃないけれど、Loveの意味は含ませたよ」

蹴斗を押しのけて、紅羽が画面に近づいて、舞子に語りかけた。

「舞子のところは何時(いつ)生まれるの?」

「春だよ?うちは今度も男で、『榎田桂樹(えのきだけいじゅ)』って名前を涼が考えてくれた」


「今度は、榎田の姓をつけるんだっけね。ところで、冬月も元気そうだね。今、クリームのホールケーキに、両手を突っ込んで食べているのが、冬月だよね」

薫風庵のみんなが、紅羽の指が指す方向を見ると、冬月が、デザートに用意しておいたホールケーキを半分ほど食べ尽くしている。

「冬月―。あー、みんな御免。デザートなくなった」

「子供のお(なか)の心配はしないのかよ」

スウェーデンの鞠斗が呆れた声を出した。


晴崇(はるたか)は、冬月からケーキを取り上げ、無事な半分を切り落として、また残りのケーキを冬月の膝の皿に戻した。

「晴崇、その半分は?」

「え?(あき)(しゅん)に食わそうかと思って」

「いやいや、普通の赤ちゃんは、その半分でも多いって、一口ずつスプーンで食べさせてあげなよ」


珍しく美規(みのり)が口を挟んだ。

「晴崇、最初にクリームを食べたら、他のものが食べられないよ」

「まあまあ、正月はチートでいいんだろう?」

「晴崇は、お菓子を食べ過ぎ」

美規と圭が声を合せて、注意した。


蹴斗が明るい声で、加須(かぞ)恵子を送って、戻ってきた涼に手を振った。

「涼、元気か?6月の試合出るんだって?」

「蹴斗、久し振りー。勿論だよ。練習は始めているよ。今は、猪熊(いくま)猪熊(いくま)に相手をして貰っているけれど、2月からは、富山分校に行って、チームで練習するつもりだ」

「2月?早くない?」

舞子が心配そうな声を上げた。

「おーい。舞子。自分に厳しく俺には甘いよな。団体戦だから、体重無差別なんだよ。練習始めて当然だろう」


蹴斗を押しのけて、紅羽が顔を前面に出した。

「4月にまた、全日本女子柔道選手権開催するんでしょ?1年経ったね。また会場で柔道の試合を見たいな」

「紅羽、あの時は応援ありがとう。今度の全日本はオユンが出るらしいよ」

「オユンは、『九十九オユン』で試合に出たら、その後、子作りするらしい」

富山分校の九十九剛太(つくもごうた)と結婚したオユンも幸せらしい。


「会場は秋田県立武道館でしょ?どのくらいの人が参加できるかな?」

「2月に各地区で予選が行われるみたい。避難先で予選に出るから、どの地区もかなり激戦だね」

「主催は、全日本柔道連盟なんでしょ?」

「うん。そして九十九カンパニーが後援する。予選を通過した人で、規定に添った柔道着がない人には、柔道着も用意するよ」


鞠斗が話題に入ってきた。

「6月の団体戦も後援するのか?」

「いや、後援はしないけれど、富山分校が会場と宿泊所を貸し出す予定だ」

涼は続けて説明した。

「富山県は、小杉総合体育センターでいつもは大会をするらしいんだけれど、地震で屋根が崩落したらしいんだ」

「どの地震で崩落したんだ?」

「クリスマスの首都直下地震」

「相次ぐ地震で、いろんな建物にダメージがあったんだね」


 オーストラリア分校とスウェーデン分校と分かれていても、同期の気安さで、会話は無限に広がった。


 その話題をかき分けるように、美規が鞠斗に声をかけた。

「鞠斗はスウェーデンでどんな風に過ごしているの?」

「俺はまず、スウェーデン語を覚えて、こちらの教育システムの勉強をしている。後は結構、日本から移住してきてくる人が多くて、そういう人の受け入れもしている」

「防衛関係の交渉は上手くいっている?」

「勿論だよ。バリア技術あっての、移住なんだから」


オーストラリアとスウェーデンへの分校建設に関して、桔梗学園は双方の国に、「有事の際はバリアでその国の重要施設を守る」という約束をしてある。


蹴斗も賛同した。

「オーストラリアもそうだな。K国のバリア包囲に関して、世界中が興味を持っていて、こちらにも、アメリカやイギリスなどから問合せが来ている」



 鞠斗が、一番気になる問合せを持ち出した。

「日本の外交カードとして、政府がバリア技術を取り上げようとしているって噂が立っているんだけれど大丈夫?」

蹴斗も乗ってきた。

「大型ドローンを接収しようという動きもあるってSNSで流れているんだけれど・・・」


舞子が美規の顔色をうかがって、答えた。

「多分、石頭(いしあたま)総理の復活に伴って、そういう噂が一人歩きしているんだろうね。今実は、加須前総理代行が桔梗学園にいるんだ。2ヶ月ほどかけて、桔梗学園の理念や方針などを理解していただき、再度官房長官になった時、桔梗学園の味方になって貰おうと考えている」


紅羽が不安そうな顔をした。

「大丈夫?加須大臣にKKGの技術も見せるんでしょ?」


「技術を見せる時は、マイクロチップ入れて貰うさ」

晴崇が何事もないように答えた。

「これからは、スタンプだけではドローンに乗れない。1月に大型ドローンを全機貸し出す相撲協会も、スタンプを購入して貰ったけれど、1ヶ月しか使えないスタンプなんだ」



 いままで黙っていた鮎里が、突然別の話題を振ってきた。

「SNSで、恋子内親王が桔梗学園の誰かと結婚するって話が流れているんだけれど、それは誰のことを指しているの?」


薫風庵の全員が、それぞれ顔を見合わせた。その場に居合わせた舞子が、嫌そうな顔で答えた。

狼谷柊(かみやしゅう)が、恋子内親王と面会した時に、ドローンを運転していったから、そういう噂が立ったのかな?」

「狼谷柊は、そんな高貴な家柄の出なの?」

鮎里の追求は止まらなかった。

「お母さんは外務省なのが、現皇后と似ているから?」

舞子の歯切れは悪かった。


美規が爆弾発言をした。

「もし、恋子内親王が狼谷柊に固執したら、『女性天皇になったら離婚する』って条件だせばいいじゃない」

「みーは、なんてこと言うんだ」

いつも冷静な晴崇もたじろいだ。


この場合は、圭の方が冷静だった。

「確かに、狼谷柊は決まった相手がいなくて、ふらふらした感じがするよね。自分が必要とされたら、YESって言っちゃうかも」

「内親王という立場の人に、なかなか結婚相手は見つからない。まして、天皇の一人娘で、女性天皇案が通ったら、次期天皇になること必至だ。

でも、離婚を前提に結婚するってことは、もし、柊との間に男子が生まれたら、柊は離婚した後、子供と会えないことになるよ。みーは、それが分かって言っている?」


「柊は再婚すればいいじゃない?」

「じゃあ、みーは、どうして離婚するって、条件で内親王との結婚を考えたの?」

「内親王が柊と結婚したら、桔梗学園に住むんでしょ?ここの暮らしが出来て、内親王も自由に暮らせるじゃない?法律が改正されて、女性天皇になったら、その頃には、既に子供も複数生まれているだろうから、次の天皇の心配もせずに、生活できるじゃない」


「美規さん、柊の気持ちはどうなるの?」

「柊はその時に、子供や恋子さんに愛着があれば離婚しないで、『皇配』の役割を全うすればいいじゃない。まあ、そもそもこの議論は、恋子内親王が柊に固執しているって前提と、柊が断れないかもという前提を立てた後の議論だけれどね」



柊を弟のように思っている鮎里は引かなかった。

「ところで、今、柊と恋愛関係になりそうな女性はいないの?」

涼が肩をすくめた。

「最近は、小畑氷河(おばたひょうが)さんという新しく来た外科医さんと毎日バドミントンしています。

山田三津も柊が好きだし、五十沢藍深(いかざわあいみ)も兄のように慕っているし、小学生の須山美鹿(すやまみか)ちゃんは泣くほど柊に憧れている。

そもそも、鞠斗がいなくなって研究員の『アイドル』の座をあいつが手に入れたと言っても過言ではない」

「それなら誰か、強烈に迫ればいいじゃない(私みたいに)」

「それがですね。柊に強烈に迫った子がいて、レイプと見なされて退学になったんです。

それ以来、みんな中々迫れないんですよ」


全員がその話は知っていた。そして、柊が1人でいる原因がそこにあるという事実を再確認した。


「やばいね。小畑さんは積極的じゃないの?」

舞子が申し訳なさそうに答えた。

「実は、うちの兄が最初に結婚を申し込んだんです。でも、母が『嫁として相応(ふさわ)しくない』と言ったと、氷河さんが勘違いなさって、破談になったんですよ。柊のプライドとしては、自分を選ばないで、他の人のところに行った事実が、許せないんじゃないかな?」


「三津ちゃんも藍深ちゃんもいい子だけどね」

紅羽が呟いた。涼が呟いた。

「藍深ちゃんには、生駒篤が張り付いているからね」


鞠斗がちょっと声を上げた。

「篤?あー。確か同い年?だな。柊に『藍深を守れ』って言っておいたのに」

「鞠斗の妹でもないのに」

鮎里が鞠斗を睨んだ。


涼が再度申し訳なさそうな顔をした。

「そこにも、悲しい事件があって・・・。柊は火のついたドローンから藍深ちゃんを守ろうとしたんだが、自分がドローンに突っ込んで大火傷(やけど)をしたという事件があって・・」


紅羽が最後に叫んだ。

「そんな不幸な星の下に生まれた柊は、山田三津に守って貰おう」

舞子が胸を叩いた。

「よし、私が一肌脱ごう」

涼が蚊の鳴くような声でつぶやいた。


「嫌な予感しかしない・・・」

次回は、柊のコスプレ作戦について・・・かな?







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