ゴルフ場の石頭首相
新たな登場人物が出てきました。腹黒いのか、利口なのか、乞うご期待です。
第1期1話~99話 桔梗学園 2028年
100話 登場人物紹介 その1
2028年6月入学生6名、ファーストチルドレン9名、五十嵐三姉妹とその家族、医師
第2期101話~199話 日本を襲う天災 2029年
の最終話でした。
石頭首相は、ハワイのゴルフ場で頭を抱えていた。
秘書から、KKGは現在正月休みで連絡が取れないとの電話があったからだ。
島根分校に連絡しようにも、そちらも同様の対応をされたようだ。
ただ、石頭総理は、加須総理代行が敷いたレールに乗って、KKGを利用して華々しく政界に復活しようという目論見が甘かったことをまだ理解はしていなかった。
「7日に通常国会を開催するにも、天皇陛下に福島に来て貰うにも、政府専用機を使うしかないか?
それに、国会議員の福島滞在の宿泊費が跳ね上がっているのだが、正月に各県に戻って貰いたいよ。
しかし、各県から毎回、ヘリコプターは出せないと言われてしまったし、いっそ、KKGのドローンはすべて、国家が非常事態だと入って、接収してしまうか?」
そう考えている石頭総理は、海外視察の名目で、政府専用機を使って、ハワイでゴルフをしているのだが・・・。
「明日はアメリカのハリスン大統領との面会だったな。彼女はゴルフ外交をしないそうで、話が通じなくて困ったな。ハワイからアメリカ本土に渡って、復興支援の約束を取り付けて、それを通常国会でひけらかすしかないか。しかし、アメリカさんに日本に来て貰うにしても、国際空港も、米軍基地のほとんども使えないから困ったものだ」
「総理、次は総理の番です。まだお体は本調子ではないんですか?」
ハワイまで帯同してきた、黒州三郎外務大臣から声をかけられて、石頭総理は我に返った。
「ああ、すまん。体は大丈夫なんだが、明日の会談のことを考えていたんだよ」
「仕事熱心でいらっしゃいますね」
「ああ、加須が何もかも放り出して消えてしまったからな。引き継ぎも何もあったもんじゃない。無責任な女だ」
(自分は、何もかも放り出して病欠をしたくせに)
黒須は思ったが、おくびにも出さなかった。
「加須さんは、どこにいるんでしょうね?」
「どうせ、仲良しの桔梗学園に匿って貰っているんだろう?」
「桔梗学園やKKGとの協力関係は、加須総理代行との個人的な関係だったそうですね」
「全く、だから加須が頼んだものは、ほとんどタダみたいに金額で、提供されたんで、国家予算が余ってしょうがなかった」
「自分は南海トラフ地震復興大臣の平野和宏と大学同期なんですが、加須さんが辞任された翌日から、島根の復興庁の建物に入れなくなったそうです」
「どういうことだ?」
「復興庁の建物は九十九カンパニーから借りていたそうなんですが、賃貸契約が解消されたそうです」
「この暮れは、復興庁職員全員が近くの小学校の体育館を借りて、避難所暮らしをしているそうです」
「徳島県から島根県に避難していった避難民はどうしているんだ?」
「もう既に全員、島根県移住計画の元、公的住宅に入って、就職もしているそうです」
「九十九カンパニーから借り上げた仮設住宅はどうした?」
「コンテナハウスのことですか?あれは買うことが出来るんです。中での生活が気に入って、皆さん購入して、島根県が用意した土地に新たな「新徳島市」を作って、新生活を送っているそうです」
「黒州は良く知っているな」
立て板に水のごとく答える黒州を、石頭総理は不快に思った。
しかし、黒州はその気色に気づかないふりをして、答えた。
「先生のところと違って、うちの実家も埼玉から避難した口なんですが、コンテナハウスを買って秋田で新たな生活を始めました。」
「外務省と造幣局は秋田に移転したんだっけ?」
「そうです。秋田県知事から、公務員宿舎も用意して貰ったんですが、官公庁が分散するって話もあるんで、皆さん競って土地を購入しているんで、僕が買った時より、今は地価が上がっているんですよ」
「田舎暮らしは楽しいか?」
「いいですね。子供達も新しい学校に慣れて来ましたし」
自分がハワイにいる間に、日本は大きく変ってきていることに、石頭総理は今更ながら気がついた。
「しかし、皇居が東京にある限り、日本の中心は東京だからな」
「そうですね。宮内庁の仲間から聞きました。皇居の被害はほとんどなかったそうなので、年明けに、天皇ご一家と皇嗣ご一家が皇居に戻られるそうですね」
「ああ、そうらしいな」
国会対策に夢中で、そんな報告を受けていたことも今の今まで忘れていた総理であった。
皇族は皇宮警察の所有するヘリコプターを使って、昭和天皇のように、被災地巡行の旅にお出ましになるのだろう。
「そうそう、初場所の観戦に、天皇陛下は福岡にお出ましになるそうですね」
「相撲の初場所は福岡で行われるのか。今回は表彰式に出ないとならないな。無観客で行うんだろう?」
「何言っているんですか?相撲協会は、九十九カンパニーのドローンをすべて借り上げて、北海道、秋田、福島、島根から観客を運ぶんです。だから、今回の観戦料にはドローンの運賃も含まれているんです。でもうちの親父は、50万円の枡席を買いましたけれどね。
家族4人で弁当とドローン付きなんて、ワクワクしますよね」
「君も行くのか?」
「勿論。自分は国会の会期中なので、土曜日の日帰りコースで頼みました。福島から結構多くの国会議員の方が行かれますよ。親父達はうちの嫁さんを連れて、秋田から1泊して、福岡観光して帰るそうです」
なんだか、浦島太郎になった気分の石頭総理だったが、大変なことに気がついた。
「もしかして、九十九カンパニーのドローンは大相撲の開催中は1機も使えないのか?」
「会場の準備もあるから、3週間は使えないんじゃないですか?」
「通常国会は、1月7日には開催するんだぞ。こうしてはいられない」
石頭総理は、長尾財務大臣に急遽電話をした。
「おい、国会期間中の国会議員は、ずっと福島に滞在するのだが、予算は取ってあるのか?」
「はい、勿論です。決算書に載せてありましたが、ご覧になりましたよね。
ただし、臨時国会の分は来年度の予算で取らなければならないので、野党と上手く話をすりあわせて、予算と法案を通すことを最優先にしていただかないと困ります」
長尾は、加須総理代行への問責決議なんて馬鹿なことに、会期を使わないように釘を刺した。
「先ずは、国会議事堂の改修と会期中に国会議員が宿泊できるタワマンの改修。
家族も住むほどの戸数がないので、単身で赴任していただかないとなりません。
食に関しては、当座、マンション内への宅配か、議事堂内の食堂の活用ですね。
予算にも限度があるので、国会審議は遠隔参加でも良いという法案を可決して、デジタル庁にはそれが出来るように、インフラ整備をして貰わないとなりませんね」
料亭での会合など御法度にして欲しい。
「次に交通インフラですね。福島・東京間の新幹線の開通と、高速道路の開通を急がないといけませんね」
「飛行場はどうするんだ?」
「飛行機の燃料が、国内にはほとんど残っていないので、輸入するか、代替燃料で飛べる機体を増やすしかないですね」
「九十九カンパニーのドローンの燃料は何だ?」
「自前で燃料電池を作っているみたいですし、バイオ燃料も使える機体があるみたいです。
でも、ご安心ください。九十九カンパニーから技術供与を受けて、国内の自動車産業がドローンを作っていますから、50人乗りぐらいまでは、4月から運行できるらしいです。
パイロットも1月から訓練が始まると聞いています」
「ちょっと待て、大型機械を運べるドローンは、そこでは自動車会社では製造できないのか?」
「それについては、実証実験中らしいですね。九十九カンパニーでも大型ドローンは10機無いんじゃないですか?操縦できる人間も、それほどいないみたいですね」
「長尾君は、九十九カンパニーのことを良く知っているな」
「加須総理代行に教えて貰いましたから」
次の総理を狙っている長尾財務大臣は、いない人間を利用するくらいなんとも思っていない。
「ところで、石頭総理は今、ハワイのゴルフ場ですか?お電話代が掛かるので、これで失礼します」
「今の長尾さんですよね。電話でも大きな声でよく聞こえますよね」
黒州は、長尾が「石頭総理がハワイにいる」と嫌みを言って通話を切ったことが面白くてしょうがない。しかし、それを指摘するほど愚かではなかった。
「まっ、明日の会談では、アメリカさんに燃料の輸入についてお願いするとしようか」
どこまでも、楽天的な石頭総理であった。
黒州は、石頭総理を蹴落とすのは簡単だが、長尾財務大臣を蹴落とすには、いくつか作戦が入ると考えた。黒州外務大臣も、次期総理を狙う一人だった。
しかし、利口な彼は長尾財務大臣が次の総理になって、復興に弾みがついてから総理になるのも美味しい選択肢だと考えていた。
そのためには、長尾財務大臣に近づこうと考え始めた。
次回は、登場人物紹介 その2
桔梗学園の生徒たち、ドローン大会ライバルチーム、政治家達。新登場の人達
年齢学年は、2029年で紹介します。