親子
大雪の影響で、生きるのに忙しくて、パソコンに向かう暇がありませんでした。雪も収まり、交通機関もほぼ正常に運行しだしたので、また、ぼちぼち話をアップさせて貰います。皆さんは、雪の影響ありませんでしたか?晴れていたはずの、関東地方でも大分、交通機関の遅延の影響があったみたいですね。
「もっと秘密の部屋」では、今日も危機管理の仕事に、晴崇と京がついている。
舞子はいつもの通り、買い出しに出かけて行って、今帰ってきた。
「舞子、今日はクリスマスマーケットで、何を買ってきたんだよ」
「トルネードポテトに、アーモンドに色々とコーティングされたもの。勿論、ウインナーもいっぱい。瀧食肉加工場が店を出していたよ」
「ジビエソーセージかな?」
「俺は、このシナモンシュガーのアーモンドが好き。ピスタチオコーティングのカヌレもいいな。ドーナッツもある」
「京、3週間連続食べ過ぎだぞ」
「頭を使うと、腹が減らないか?一雄にも会えないから、ストレスたまっているんだ」
「じゃあ、明日出かけろよ。五月蠅くてたまらない」
舞子が部屋の中を見回す。
「あれ?美子さんと美規さんが揃っていないね」
「珍しく揃って、クリスマスマーケットに出かけて行ったよ」
「えーーー。すごく珍しい」
「美規ちゃんも、美子ちゃんのこの間の言葉にショックを覚えていたからね」
「あの、美子さんが『大晦日まで生きていた』って言ったやつ?」
「俺たちも、よく分からないよね。マーは膵臓ガンだから余命が3ヶ月なのは、納得できるんだけれど、美子ちゃんはピンピンしているよね」
「大晦日にみんなで薫風庵に集まっている時に、何かあるのかな?」
「止めて、怖い。突然死なんて考えたくないし」
そんな3人の心配をよそに、美子と美規の母娘は、クリスマスマーケットの灯りの中を、ぶらぶら歩いていた。
「何が食べたい?」
美子の言葉に、美規は暫く考えて答えた。
「腹持ちのいいもの」
「なんで?」
「最初にお腹が膨れていたら、そんなに買い物しないでしょ?」
「えー。遠慮しなくていいのに。じゃあ、ダブルチーズバーガーにしよう。飲み物はコーラ?それともクラムチャウダー?」
「コーンスープ」
美規は少し膨れて答えた。
2人は、旧桔梗高校の前庭に設置されたテーブルの一つを選んで、向かい合わせに座った。
美規はハンバーガーを包むワックスペーパーの、縁を破って広げ、その上にバーガーを置いた。上のバンズを外して、中身を確認して、ピクルスを外すと、またバンズを載せた。
「ピクルス嫌いだっけ?」
「覚えてないよね」
「何?美規の好きな物?」
「いや、アメリカで、ハルペニオン入りのハンバーガー食べて私が大泣きしたの。覚えている?」
「ハルペニオン?あの辛いやつ。あー、思い出したトッピングできる店で、あんたがピクルスと間違えて選んじゃって」
「そう、辛くて辛くて泣き叫んだのを覚えている。だから今でもハルペニオンとピクルス、それにキュウリが食べられない」
「嫌だ。キュウリも食べられないの?アメリカでは、キュウリ水がよく食卓に並んでいたでしょ?」
「飲んだことない」
「えー。気がつかなかったわ。だからご飯の時は不機嫌だったのね。言ってくれれば止めたのに。もしかして、クラムチャウダーも嫌いだった?」
美規は、黙ってハンバーガーを食べ続けた。
「誰も聞いてくれなかったからね。私の好き嫌いを知らないでしょ。でも、話せば聞いてくれるんだね?」
美子は、子供の頃の美規に責められたような気がして、かなり落ち込んだ。
「え?聞くよ。言って頂戴。何が頼みたい?」
「じゃあ、『大晦日まで生きている』って言った意味を教えて」
「あー。それね。真子お姉ちゃんと言わないと約束したんだけれどな」
「姉と娘、どっちが大事?」
「究極の質問だね」
「じゃあ、今から言うことで、今後の行動を変えないと約束してくれる?」
「嫌だ。自殺しようとしたら、止める」
「そういうんじゃないよ」
そう言うと、美規は胸からボールペンを取り出し、ハンバーガーの包み紙に、何やら書き出した。
(盗聴されているから、ここに書くよ)
確かに、ここでの会話は、晴崇達がその気になれば聞き取れるのだ。
(私達がこれからしようとすることが、私達には責任がないと思わせるように、姿を消す)
美規は今後の作戦のすべてを知っている。だから「これからしようとすること」が桔梗学園のせいだと考えられると、学園が大きな危険にさらされることは、想像できる。
「あー、喉も渇いたね。母さん飲みたいものは?」
会話は普通に進めるが、美規は包み紙の「姿を消す」に指を当て、「?」と指で書いた。
美子は「alive」と包み紙に書いた。
(生きているけれど行方不明になるというと言うことね)
「2人分、買ってくるね」
そう言って、美規は指を2本立てた。1本の指で美子を指した。そして、もう一本の指を摘まんで、首をかしげた。
「1人分でいいわ」
美子は、美規の2本目の指を折り曲げた。
(協力者はいない?1人でどこかに行く?)
美規は、近くのジューススタンドで、苺ジュースと紙ナプキンを数枚持ってきた。
「買ってきたよ」
そう言うと、美子のボールペンを使って、「where、until when」と書いた。
美子は口の前で「×」を作った。
「そうだ。クリスマス前に、真子ちゃんのお見舞いのために島根分校に行くね」
美規は、もう涙で声が出なかった。それが最期の別れだと分かったから。
美子は、メモ書きをした紙をぐしゃっと丸めて、近くのたき火にぽいっと投げ込んだ。