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氷の姫

少し短い話です。次の話は、全く違う内容なので、2つに分けました。次回もお楽しみに。

 久保埜(くぼの)姉妹の後に、紫の桔梗バンドをつけることになったのは、山田三津(みつ)榎田春佳(えのきだはるか)だった。三津と同じく、桔梗高校の女子野球部員でマネージャーの袴田明日華(はかまだあすか)は、陸上部の榎田春佳が選ばれたことに不満があったが、久保埜姉妹の代わりに、寮の中の雑用を一手に引き受ける仕事があると聞いて、「春佳の方が向いているかも」と思い直した。


 一方、春佳は藍深(あいみ)が選ばれると思っていたが、自分が選ばれ、兄や義姉の側で過ごせると聞いて、ほっとした。両親の近くにいて、何時までも子供扱いされていたので、一歩大人に近づいた気持ちで嬉しかった。



 そして、外科医師の補充としてやってきたのは、北海道分校からがやってきた。すらっと背が高い細身の女性だった。


柊が小畑氷河(おばたひょうが)に会ったのは、彼女が桔梗学園に来た日の昼食だった。

「柊君?一緒に食事していいですか?」

柊の返事も待たずに、氷河は柊の前の席に座った。柊がいぶかしげにしているので、氷河は続けて話し出した。

「北海道分校で、一緒に食事をしましたよね。小畑氷魚(ひお)の妹、小畑氷河です」

そう言われて、顔をまじまじと見ると、陸匠海(くがたくみ)の妻、小畑氷魚と雰囲気がよく似ていた。

「あー、匠海の彼女の・・・」

「覚えていてくれましたね。今日から私、桔梗学園の外科担当として来ました」


久保埜医師の代わりと聞くと、柊は心に重いものが降りてきた感じがした。

「ここには牧場はないんですね」

「はい。牧場があるのは、北海道分校だけなんです」

「でも、ここは本校なんでしょ?KKGもあるし、楽しみです」

「何か、研究テーマがあるのですか?」

にっこり笑って、氷河は自分の(すね)をスプーンの持ち手で叩いた。


カンカン


「え?義足?」

「ちょっと見分からないでしょ?」

「いや、全く分かりませんでした」

「今日は、身長180cmのスーパーモデル体型にしてみたの」

「へ?」

「義足の長さによって、膝下の長さが変えられるの。私の研究テーマはサイボーグ。

ここでは空飛ぶ車椅子や乳母車を開発しているでしょ?私は自由に動く義足を開発したいのよ」

「空飛ぶ乳母車は蓮実水脈(はすみみお)さんが、娘さんのために開発したんです。後で水脈さんを紹介しますね」


「柊君は、何か研究テーマがあるのかな?」

「嫌、僕は単なる下働きでして」

「いやだ。謙遜しないで、研究馬鹿を支える人がいないと、彼らは暴走するだけだから、スーパーコーディネーターの存在が必要ね」

「スーパーコーディネーター?」

「この学園のことで困ったことがあれば、あなたに聞けば何でも教えて貰えるって聞いたわ」

(誰が言ったやら・・・)


「それから、私は、バドミントンと水泳がしたいんだけれど。車椅子バドミントンは、フロアを傷つけるって嫌がられるところもある・・・」

柊はすっと手を挙げて話を止めた。

「桔梗学園では、そんなことは言いません。傷がついたら補修すればいいし、気になるなら、傷がつかないコーティングをすればいいだけです。僕は夕食後、8時くらいまで時間が空いていますので、体育館を案内しますよ」

「ついでに、バドミントンの相手もして貰えるかしら」

氷河(ひょうが)は片目をつぶった。

柊は何か仕組まれた感じがしたが、嫌な気はしなかった。何より、身体を動かせば嫌な記憶から解放されると思った。



 氷河とのバドミントンは、かなりハードだった。どこへ打っても、決まる気がしないし、車椅子から大きく()()って打ち返すシャトルは、かなり強烈だった。最後には向きになって、ジャンピングスマッシュまで打ってしまった。

 言いラリーが続いて、就寝時間が近づくのが惜しかった。しかし、無理をしたのか、柊は足がつってしまった。

「ださっ。足がつった・・・」

 寝転がってふくらはぎを伸ばしていると、上から氷河が覗き込んできた。

「私も久し振りにやったけれど、背中がつりそう。医者の不養生(ふようじょう)ね」


 柊は身体を起こして、体育館の上からニヤニヤ2人を見ている琉に声を掛けた。

「おーい。何(のぞ)いているんだ」


「友達?」

「あいつは、僕の同期で大神琉というんですけれど、KKGの所属ですので、明日はあいつに案内させます。蓮実も紹介させます」

「柊君はKKG所属じゃないの?」


「僕は、研究職じゃないので。それに明日は、新しく桔梗学園に入った子達に、仕事を教えたり、勉強プログラムを組んだりしないと」

「本当に何でも出来るのね。明日の夜も忙しい?」


柊はぐいぐい来る氷河に、軽いジャブを入れた。

「児島医師に頼まれたんですか?大丈夫ですよ。僕は。

氷河さんも来たばかりなので、仕事に慣れる方を優先してください」


柊は氷河が、児島精神科内科医師の指示を受けて、また自殺しないように監視しに来たと思っていた。


「可愛くないな。こんな美人が来たばかりで、寂しい夜を送るのに付き合ってくれないの?」

「児島医師の関与は、否定しないんですね。いいでしょう。明日もお願いします。夕食後に待っています」


 男子寮の方から一雄の声がした。

「柊、梢はもう引き取ってきたよ。ゆっくり上がって来いよ」

「ちっ。本当にあいつ梢を引き取る気なんじゃないか」

そう言うと、氷河に軽く会釈をして足を引きずりながら、柊は男子寮に上がって行った。

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