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旭山動物園とエスコン

話が、色々飛んでしまいましたね。でも、エスコンに実際に行ってみたいな。がちの野球ファンじゃなくても、東京駅の駅地下みたいなお店がいっぱいあるから、楽しそうですよね。

 万里(まり)明日華(あすか)は分校には意外と出会いがないことにがっかりして、次のメンバーに三津(みつ)藍深(あいみ)を推薦した。


「北海道分校に移動したのは、卓球とバレーボールだよね。俺にとっては、直接は知らない人達ばかりなんだよな」

意外と人見知りの悠太郎は、柊に少し愚痴を()らした。


「でも、悠太郎さんの母校のT大学のバレーボールつながりですよね。ただ、T大学には20年くらい前に北海道に系列校があった関係で、宿泊には困らないですよね」

「ああ、あと、茨城の大学のバレー部もバスケット部と一緒に来たんだけれど、バレーボールは北海道に来て貰ったんだ」


2日間で親交を深めた悠太郎と柊は、気軽に話をしていたが、今日から参加の三津は緊張していた。悠太郎は初めて会った人だし、今回は珊瑚美子(さんごよしこ)も一緒にいるからだ。


「美子さん、今回は旭山動物園にも顔を出すんですよね」

「そうだね。だから、最初に旭川まで行って、次に札幌に戻り、北海道分校に顔を出し、姪の志野ちゃんにも会って、最後に五稜郭(ごりょうかく)にも寄って欲しいな」


三津がおどおどしながら、美子に話しかけた。

「あの札幌に行く時、上空からでいいから、エスコンフィールドHOKKAIDOが見たいんですけれど・・・」

「えー、見るだけでいいの?試合は見たくないの?それとも君たちはエスコンのF・VILLAGEに泊まりたかったかな?因みに私は、シャトレーゼ・ガトーキングダムサッポロに志野ちゃん達と泊まるんだけれど・・・」


 かなり贅沢なプランを美子に提案されるが、前回サポートに来た万里と明日華が分校にしか泊まらなかったことを考えると、抜け駆けをしたと考えられて、後が面倒だ。三津は丁寧にお断りすることにした。


「いえ、みんなに(ねた)まれても困ります。上から野球場を拝むだけで結構ですので、宿泊は北海道分校がいいです」

「なんだ、つまらない。最高の施設を見ないと、次に新潟にドーム施設を作る時に、イメージが湧かないよ」


 柊は、美子の発言の意図について考えた。新潟の津波被災地に、大型ドームを作る話が出ていることは知っているが、自分たちがその建設に携わる可能性があるのだろうか?


「美子さん。新潟市の津波跡地に作るドームは、誰が主体で建築するのですか?」

「柊君、九十九カンパニーが費用の1/3は持つんだから、発言権は大ありだよ。C大学の建築を学んでいる子達にもプランニングに参加して貰うし、今回各分校に避難している運動選手達にも、意見を貰いたい」


悠太郎は異次元の話に、理解が追いついていかなかった。


「と、言うことで、君たちには最高級の施設の見学にも付き合って貰おう」

柊は、万里と明日華と一緒でないことにほっとした。この二人がもし行ったら、帰った後、宿泊の体験をペラペラしゃべり回ること確実だからだ。

 

藍深はと言うと、ドローンの窓から初めて見る北海道の風景に釘付けになっていた。


ドローンは徐々に高度を落としていく。最初に訪問するのは、上野動物園の受け入れに賛同してくれた2つ目の動物園だった。



 旭川市旭山動物園は、日本最北欄にある動物園で、動物の行動や生活を見せる「行動展示」を導入したことで、有名な動物園だ。


動物園の正面ゲートには、村田園長が待っていた。

「初めまして、珊瑚美子です。上野動物園からの動物の受け入れについては、本当に無理なお願いを受け入れていただきありがとうございました」

「その節は大変失礼しました。『ペンギンは大丈夫だ」ってお答えしたのに、上野動物園のペンギンはケープペンギンでしたね」


三津がこっそり柊の袖を引いた。

「ケープペンギンって、普通のペンギンと違うんですか?」

「ケープペンギンはアフリカのペンギンだから、寒いところのペンギンと育てる環境が違うんだ」


園長もその会話を続けた。

「そうなんだよ。だから、九十九カンパニーから寄付をいただいて、急遽、ケープペンギン用の施設を作ることが出来たんだ。他にもホッキョクグマやヒグマなど、喉から手が出るほど欲しい動物も無料でいただいて、その上飼育員さんにも来ていただいて、感謝感激雨あられです」

園長さんは、ちょっと乗りのいい人である。


「残念ながら、うちの動物園の代名詞である『ペンギンの散歩』は12月からなので見ることは出来ないのですが、中を楽しんでいってください」


三津がまた柊の袖を引いた。

「柊さん、藍深は動物園ではスケッチに夢中で本当に動かなくなっちゃうんで、滞在時間を決めて下さい。集合時間に、私が入場口に連れて行きます」

「いや、いいよ。僕がついているから、三津は悠太郎さんと回って来て、僕はこの後もドローンの操縦をするんで少し休みたいから」


三津は悠太郎と二人きりになりたくないので、藍深の世話をすると言ったのだが、逆効果になってしまった。それでも、この後も一緒に行動する悠太郎に申し訳ないので、親交を深めることにした。


「すいません。私なんかと一緒に回る羽目になって」

「いやいや、こちらこそ、こんなデブのおっさんと一緒で、申し訳ないね」

「デブなんて・・・、そんなこと言ったら、うちのお兄ちゃんも・・・」


「三津ちゃんは、甲子園に行った山田兄弟の妹さんだったね。家族と離れて、兄妹で桔梗学園にいるんだよね」

「はい。親と一緒にいても野球は出来ませんから。私は、来年の甲子園を目指しているんで。

と言っても『甲子園球場』は今は使えないんですよね」

「そうだね。でも、全国大会でなくても、4月からは各種大会をするつもりで九十九カンパニーは動いているんだろう?」

「はい、目標があるだけで嬉しいんですが、桔梗高校の野球チームのみんなは、今はバラバラになって・・・」

「岐阜分校のチームには入らないの?」

「夏にお世話になった時には、明日華と一緒に転校も考えていたんですけれど、お兄ちゃんが監督になった桔梗高校でも出たいなって考えて・・・今はまだ、悩んでいます」


 三津は兄にも話せなかった悩みを悠太郎に話している。


「そっか、でも最終的に転校するにしても、3月までは悩んでいていいんだろう?」

「まあ、そうですね」

「そこまで、ゆっくり悩んだらいいじゃないか」


「舞子さんは悩みを悠太郎さんに話したりしましたか?」

「三津ちゃん、相談する相手が決まった時は、本人の中で結論が出ている時なんだよ」

「どういうことですか?」

「前に進みたい時は、『前に進め』と言ってくれる人を選ぶってことさ。だから、舞子は涼を選んだんだ」

「涼さんは、舞子さんを止めたりしないってことですか?」

「そう、舞子が悩んでも、涼は『舞子が試合で勝つ』って信じていたから、どんどん背中を押していたみたいだ」

「そういう人と巡り会えたらいいですね」

「そうか?舞子のやったことは、かなり無謀だぜ。下手したら流産するかも知れないリスクがあったんだ。俺なら絶対舞子を止めたよ」


「悠太郎さんは止める人なんですね。それは自分の子供が死ぬかもしれないからですか?」

「いや、流産は母体にもリスクがある。『舞子も死ぬかも知れない』と思ったら、俺は我慢できなかった。三津ちゃんは妊娠しても野球の試合に出るか?お兄さん達に反対されても・・・」

「分からないですね。でも、色々なことを妊婦だからと止められたら、嫌かな?」


2人の意見は堂々巡りだった。


「まあ、その時になったら、その気持ちは変わるかも知れないね。少しお腹が空かないか?」

「食事は柊さん達と一緒に食べませんか?藍深はスケッチ始まると、食事そっちのけなので、柊さんは何も食べられていないと思いますよ」


「藍深ちゃんって、そういう子なんだ」

大人しそうに見える藍深だが、こだわりはすごかった。

「その代わりスケッチはすごいです。一度覗いてみてください。因みに彼女は野球も上手いし、駆け足も早いし、勉強も出来るんです」

「その割には、目立たない子だね。お兄さんは甲子園に行ったピッチャーで、イケメンだって、有名だったけれど」

「そうですか?」


三津は、悠太郎について「いい人なんだけれど、割と普通の人だ」と思った。規格外の舞子の兄とは思えなかった。


「柊さ~ん。お昼食べましたか?」

「いや、ご覧の通りだよ。悠太郎さんとお昼食べた?」

「いえ、一緒に食べようかと思って、戻ってきました。美子さんは園長さんと一緒ですか?」

「ああ、なんか話があるらしくて、「1時にはここに戻る」って言って消えた」

「じゃあ、藍深。食事をみんなで食べよう。スケッチはお終い」

そう言って、藍深からスケッチブックを取り上げた。4人は動物園入り口近くのレストランに入った。


「食べたらまた描いていい?」

「だからって、お握りだけ?」

「イカ昆布美味しそうじゃない」

「藍深ちゃん、1時集合だから、もうスケッチする時間がないよ」

「あと少しでできあがるんですが・・・」

温厚な悠太郎がぼそっと漏らした。

「藍深ちゃんは、スケッチ旅行に来たの?」


柊と三津はその言葉に次の句が継げなかった。


「御免、俺は怒ったわけじゃないんだ。藍深ちゃんのスケッチが、桔梗学園の宣伝等に使われる重要なもので、スケッチ時間も十分取らなければならないなら、藍深ちゃんの要求は聞くべきだよね。

でも、俺は分校の視察に来ていたつもりだから、スケジュールを遵守するほうが大切だと思うんだが、藍深ちゃんだけ特別な任務なの?」


柊は悠太郎達に藍深の立ち位置について、事前に説明すべきだったと後悔した。ただ、それについては、藍深には話すべきものでもなかった。


ただ、藍深自身は分校の視察の手伝いに来たという自覚はあったようで、素直に謝った。

「すいません。悠太郎さん。私は分校視察の手伝いに来ました。そして、『時間があればスケッチしていい』と言われたので、スケッチをしていたので、皆さんのスケジュールを乱してはいけないのだと思います。今後気をつけます」

「いや、だから怒ったわけではないんだ。4人しかいないのに、俺だけ認識が違うのかと思ったから聞いただけなんだ」


気まずい雰囲気を破るような、珊瑚美子の声が背後から聞こえた。

「おーい。まだお昼食べてないの?30分だけ待つから、食べて頂戴」

4人は慌てて、北海道の名物が盛り込まれたお握りや、ジビエコロッケ、ポテトなどを頼んで、お腹を満たした。悠太郎は少し、足りなかったので、テイクアウトを「ほんの少し」買い足した。


 柊はニコニコしている美子に話しかけた。

「動物の受け入れの話でしたか?」

「ん~。結構愚痴を言われたかな?『他の動物園にいた希少動物も移動してくれれば良かったのに』ってさ」

「その割にはニコニコしていらっしゃるから・・・」

「こっちのスタンスは決まっているからね。『桔梗学園や九十九カンパニーは、1企業なので人命救助には全力を尽くす。上野公園の依頼を聞いたのは、たまたま()いていたドローンに人命を脅かす恐れのある猛獣を乗せて移動しただけで、動物の命を助けるのは本来動物園自身が努力すべき仕事だ』と言ってきた」


柊はあのニコニコした園長の顔が固まる様子が、目に浮かんだ。


「まあ、そうですね。でも、どうして上野動物園だけだったんですか?」

「それ聞いちゃう?」

「聞いちゃいけなかったんですか?」

美規(みのり)コンピュータの誤作動だからね」

「え“?」


「柊君、『かわいそうな象』って絵本している?」

藍深(あいみ)が小さく手を挙げた。

「私知っています。第2次世界大戦の時、東京に空襲があって猛獣が逃げたら危ないって、猛獣を殺処分した実話を元にした絵本ですよね。読むと必ず泣いちゃう話です」

「そう、首都直下地震の前にいろんな嘆願書やメールが桔梗学園に届いたんだよね」

「思い出した。僕が上野動物園からの分厚い手紙を持っていったら、晴崇(はるたか)が美規さんに渡してくれたんだ」

「そう、1枚1枚格動物の飼育員からの手書きの手紙が入っていて、美規ちゃんがそれを読んじゃったんだよね」

「美規さんって、感情に余り動かされないから、真子学園長の後任になったんですよね」

「でもね、お姉ちゃんはそう思っているけれど、美規は4人の子供を育てたんだから、子思う親の気持ちは十分育ったんだよね」

「4人とは?」

「最初は京、次に晴崇。最後に蹴斗や鞠斗。学校を経営しているお姉ちゃんだけで育てられるわけないじゃん。私が美規を連れて帰国した後は、結構美規が子守していたし、絵本も読んでいたんだ。『かわいそうな象』もよく子供達を膝に乗せて読んでやっていたよ」

「思い出の本って訳ですか。だから、『誤作動』しちゃったんですね」

「そう、1ヶ所やれば、他から苦情が来ることは目に見えていたじゃない。まあ、最新式ドローンの運搬性能を確認するためって口実はあったけれどね。ということで、想定内の苦情だったから気にもしていないって訳」


 三津は、鞠斗の子供の姿を想像していた。

(可愛かったろうな)

藍深は全く違うことを考えていた。

「あのぅ、上野動物園から来た手紙って残っていますか?」

美子は藍深の言葉の意図を理解した。

「多分、美規が持っているよ。どの手紙も、自分が飼育している動物が如何(いか)に可愛いか、絵が添えてあって・・・美規の部屋に何枚か飾ってあったような。帰ったら、美規に見せてもらいなさい。あの子は断らないと思うよ」

「はい!」

海しか描かなかった藍深の興味は、人物、スポーツ、動物とどんどん広がっていった。



 ドローンは、札幌方向に向かっていた。あまり都市上空を飛ばないようにしていたが、エスコンフィールドへは札幌市内を通らず、山の上空を飛んで、向かうことが出来る。

「三津、見えるか?今、北広島市上空だぞ」

三津は柊の言葉に従って、窓の下を見た。工業団地の南側にエスコンフィールドを含む広大なF・ビレッジが見える。

「どこですか?ドームはどこにも見えないんですけれど」

「札幌ドームとは違うぞ。エスコンは開閉式の三角屋根を捜せ」


美子は片手で、額を押さえた。

「ドームだと思っていたの?上からじゃやっぱり無理だね。実際、エスコンに入ろう」

「いえ、美子さん、私の下調べがちゃんとしていなかったんです」

「いや、当日でも、球場に入れるんだよ。『入場券』というのがあって、観客席には座れないけれど、リポビタンGATEから入れば、中で食事も出来るし、試合も見られる」

「いいですね。スポーツを通した商業や地域おこしの参考になりますね」

柊もかなり乗り気だった。悠太郎は「食事」が出来ると聞いてかなり乗り気になった。


「特に反対する人がいないようだ。ドローンで乗り付けるわけに行かないから、北海道分校の陸匠海(くがたくみ)に連絡しよう」


美子達は北海道分校にドローンをおいて、陸匠海の運転するワゴン車に乗り込んだ。

「久し振り。元気だった?エスコンに行くなら、車で乗り付けてやるよ。三津ちゃんだっけ?もう一人は、五十沢(いかざわ)君の妹?俺たちは何回か行っているから、今日は楽しんでおいで」

「匠海達は、何度も来ているのか?」

「ああ、試合がない日は入場するのはタダだし、遠足やピクニックに来ることあるよ」

「冬も来るのか?」

「冬は雪遊びできるんだ」



 半日、エスコンで過ごした一行は、北海道分校の食堂で代表の陸匠海と夕飯を食べていた。

美子は姪の六車志野(むぐるましの)一家とシャトレーゼガトーキングダムサッポロに泊まりに行ってしまった。

柊は一緒に四国旅行をした六車真悟(むぐるましんご)に会いたい気もあったが、また、会えば、子守をさせられる嫌な予感しかなかった。


「シャトレーゼで何回買い物すれば、1000point貯まるんだか、ポイントでゲットした宿泊券で、美子さんと志野さんは泊まりに行ったらしいぜ。プールもあるから、子供も喜ぶだろうな」

匠海は、ハンバーグを大口で(かじ)りながら、美子達が泊まりに行った次第について話し始めた。


「シャトレーゼって、ホテルもやっていたんですね」

三津は、ほかほかの馬鈴薯(じゃがいも)に入れたバターが溶けるのを待っていた。

「三津ちゃんは、シャトレーゼの店で買ったことある?」

「アイスとか、ヨーグルトとか買って貰ったことはありますけれど、実際にお店で買ったことはないですよ。桔梗村にはお店なかったですから」

「そうか。元々は山梨の菓子屋だったらしいけれど、亀屋万年堂を傘下(さんか)に入れたり、リゾートにも進出したりしているよね」

「ロッテだって、韓国にロッテワールドがあるし、野球チームも持っているよ。ロッテホテルもあるし、菓子メーカーだけにとどまらない会社は多いよ」


 球場でかなり食べてきた悠太郎は、それでも夕飯を1人前食べ、こっそりベルトを緩めていた。

「エスコンでは、日本ハムの商品が食べられるレストランもあったよな」

「悠太郎さんも、大分食べていましたよね」

柊が突っ込んだ。


「まあ、レストランに入れば、球場がよく見えるしね」

「北海道のグルメばかりでなく、他の地域の美味しいものも食べられましたよね。北海道初上陸って宣伝している商品がいっぱいありましたよ。北海道のお客さんにすれば、あそこに行けば日本全国の美味しいものが食べられるって楽しみがありますね」


柊が、ハスカップジュースを飲みながら言った。


「確かにな、新潟のドームで新潟産のものばかり並べても、県内の人は飽きてしまうかも知れないな」

「今日見たお客さんはやっぱり、若い人が多いよね。野球を見に来る従来の観客層とは違う感じがした」

「三津ちゃんは、小さい頃野球を見に行ったことがある?」

「なんか、昔はおじさんばっかりが、ビール飲んで大声で叫んでいた記憶しかないな。でも、今回新しい野球場を2ヶ所見に行ったけれど、カップルや家族連れ、会社員が仲間で仕事帰りに来るって雰囲気に代わったみたい。ビールもノンアルコールもいっぱいあったし」

「ノンアルでも未成年は飲んじゃ駄目だからね」


悠太郎は不思議そうな顔をした。

「法律的には、禁止されていないぞ」

「いや、ビールや酒に興味を持つことに繋がるから駄目だ。桔梗学園では、誰一人アルコールを飲まない」

「そうだね。俺も飲む習慣がないな」

「俺は、大学の寮では飲んでいたな。家は寺なので、飲酒はしないけれど」

「生臭坊主はいないんですね」

柊は随分、悠太郎と仲良くなったようで、気安く冗談を言った。


三津が、父も雄太も自宅で飲む姿を見ていたので、ふと疑問を持った。

「桔梗学園ではどうして飲酒が禁止なのですか?」

「さあ、夜9時までしか起きられないのに、夕飯で飲酒したら、その後まともな運動も仕事も出来ないよね。僕には酔っ払って寝ている人が、アヘンやマリファナで思考力がなくなった人と同じに見える」

「三津ちゃん。でもね、俺たち酒は飲めるんだよ」

「え?洋海さん、どうして飲んだことがないのにそれが分かるんですか?」

「海外では水が飲めなくて、酒しか水分がない国がある。そういう国や地域に行っても仕事が出来るように、・・・・」


柊が匠海に目配せした。

「ここから先は、企業秘密でした」


「でも、桔梗学園が関与したドームでは酒が販売されないってことがあるのかな?そもそも、酒は新潟の産業の大きな部分を占めているよね」

悠太郎の言葉に、柊と匠海は目配せした。

「健康に悪いものを、産業界の圧力で売るっていうのもどうかな?」


どうも、新潟のドームでは酒は楽しめないようだ。


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