岐阜分校視察
「交流会」は難しくても、「分校視察」に行けることになりました。
仙台への修学旅行の帰り、珊瑚美子から提案された「合同交流会」計画は、久保埜万里を中心に熱い盛り上がりを見せていた。
「『出会いが欲しい』って目的は、修学旅行と同様に、駄目だよね」
相談相手は、袴田明日華だった。
「その目的は他校相手に通用しないと思います。代わりに、交流スポーツ大会だったらいけませんか?選手を集めたのは、舞子さんのお兄さんでしょ?どんな競技の人を集めたのか聞いてみたらどうですか」
「柔道、野球は分かるけれど、バスケットやバレーもいるかな?陸医師のところの双子はバレーボールだったんだよね」
「専門の大会もいいですが、この間の三角ベースみたいに、専門じゃない人も入れる競技も楽しいですね」
「あれ、楽しそうだったよね。うちらもやりたかったな」
「バドミントンもいいかもしれません。狼谷柊さんって、高校時代バドミントン部だったらしいですね」
「深海医師や四十物医師もバドミントン部だったらしいよ。後多いのは、山岳やバイアスロン・・・」
「山岳って、競技あるんですか?」
「なんか、チームで山に登るとか・・・」
「いっそ、3校に広くアンケート取りませんか?」
「ここで3校にすると、後3校から苦情は出ないかな?」
「また、アドバイザーに聞きますか?今回、男子高校生は乗り気じゃないので、悠太郎さんや舞子さん、涼さんに聞いてみたらどうですか?」
と、言うことで、子連れ遠足の余韻覚めやらぬ東城寺の客間に、久保埜万里と袴田明日華が座っているのである。
真面目な悠太郎は、高校生からの相談が嬉しくて、茶菓子まで用意して待機していた。
「悠太郎さん、初めまして。今日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「いや、お彼岸も終わって一段落したところだから大丈夫だよ」
万里は、他の分校の人とスポーツを通して交流がしたいので、どの競技の人が何人くらいいるか知りたいと、単刀直入に悠太郎に質問した。
「どんな競技の人が、何人ぐらいいるかねぇ?」
かなり難しい質問が最初から出て、悠太郎は絶句してしまった。
「俺は最初、女子柔道の有望選手で競技環境が欲しい人に声を掛けて回っていたんだ。そうしたら、柔道以外の競技の人からも問合せが来たんだよ。ただ、女子選手で、監督も女性でって言うと、条件に合わない人も多くて・・・」
万里と明日華は顔に出さないよう苦労したが、明らかにがっかりした。女子選手?話が違う。悠太郎は2人の落胆に気がつかず、そのまま話を続けた。
「それでも、女子野球、バレー、バスケとチーム単位での希望もあって、各分校に運んだんだ。ただ、その人達が今も分校に定着しているとは限らないよ」
舞子が用意したiPadの向こうから声がした。
岐阜分校の代表者米納津雲雀が、悠太郎の話に続けた。
「最初は大学単位で、分校に入ってもらったけれど、今は体育施設の関係で、いくつかの競技に集約して、分校で棲み分けして貰っているんだ。
女子野球、バスケ、剣道は岐阜分校。陸上、ラグビー、バドミントン、柔道は富山分校。卓球とバレーは北海道分校に振り分けてある」
明日華が自分で持ってきたタブレットに、競技と振り分けた分校を書き写していた。
万里がそれを見て、米納津に質問した。
「サッカーがないですね。男子野球やテニス、相撲も」
「うん。プロ化されていて収益が上がっている競技は、競技団体がもう有望選手を保護しているし、海外に拠点を移した人も多い」
明日華も万里に続けた。
「秋田分校、島根分校にはスポーツ選手がいないですね」
舞子がそれに答えた。
「島根は保育士養成に重点を置いているし、秋田分校は今、研究しているものがあって、外部の人は入れられないんだ」
「舞子さん、交流会って出来ると思います?」
「万里はどういう交流会を考えているの?みんなを集めて、この間のC大学との親睦会のような食事会を考えているのか、スポーツ大会を考えているのか、教えて」
「ん~」万里は考え込んでしまった。
競技間の交流会なら、岐阜・富山・北海道分校3校で行えば良い。桔梗学園本校の出番はない。オリンピックのメダリストの交流会に、全くの素人が紛れ込むようなものである。
バスケや野球がしたいなら、岐阜分校に籍を移して毎日思う存分練習すれば良い。
出会いが欲しいなら・・・。
「こういうのはどうだろう」
煮詰まった万里や明日華を、見ていた悠太郎が助け船を出した。
「舞子から許可が出ればと言う前提だが、俺も各分校に選手を運んだ責任がある。各分校を回ってどういう状況なのか見て回りたい。そして、それに君たちも一緒に行くというのはどうだろう」
舞子は眉根を寄せて考えていた。
「お兄ちゃん一人で、分校を回るのは出来ないね。桔梗学園の所属じゃないし、交通手段もない。でも、分校視察は必要だと思うから、誰かうちからドローンパイロットを出さないとね」
涼が右手を挙げた。
「涼は駄目。まだ、怪我が治っていない。鞠斗がいれば、岐阜分校の人と顔見知りだからいいんだけれど」
明日華が手を挙げた。
「私は岐阜の皆さんと顔見知りです。記録もしっかり取って来られます」
「それだったら、一雄や三津でもいいよね」
明日華がしゅんとした。
「舞子、柊君はどう?」
「あー、そうね。鞠斗の後釜だし、ドローンも操縦できるし、適任ね。ただ、万里と明日華を連れて行くのに難色を示すかも知れないね。『男を探しに行くだけなのに』とか言いそう」
万里は頬を膨らませた。
「碧羽先輩と私と笑万で3人で行けば、向こうで3✕3が出来ます」
「万里ちゃん。分校視察から目的が離れてきている。君たちがバスケするなら、野球もしたがるだろう?」
悠太郎は暴走型の万里の本性を見て、連れて行くことに不安を感じ始めていた。
「万里、話を広げないようにしよう。お兄ちゃんと柊で、分校視察をする。明日華ちゃんは記録係、万里は将来の総務候補として視察に同行するってどう?」
万里は小声で「出会いがなさそう」とうそぶき、明日華は「みんなが『抜け駆け狡い』って言いそう」と小さな小さな声で言った。
涼が座卓によじ登ろうとする冬月を抑えながら言った。
「岐阜分校の後は、富山、その後、北海道に行くんだよ。結構、大変な仕事だと思うよ。それにご飯を食べたり遊んだりしなくても、出会いは意外なところにあると思うな。今回の視察で、交流会の話もまとめてくればいいんじゃない?」
「そうね。それなら柊も文句を言わないと思うな」
分校視察旅行については、賛否はあったが、必要な視察だと言うことで、2日後には出発することに決まった。
「笑万、本当に御免」
「万里、気にしなくていいよ。私も忙しいから・・・」
笑万は佐藤颯太との恋愛に忙しかった。
「三津、御免」
「気にしないで、お仕事頑張ってきてね」
三津は、岐阜のみんなに会いたい気持ちはあったが、グッと堪えた。マネージャーは1人でも1人前の仕事が出来るというのが、2人の持論なので、ここで「私も私も」と着いていくのは、プライドが許さなかったのだ。
柊は、分校視察についてはあっさり受け入れた。自分のした仕事のアフターケアは何時かしなければならないと考えていたからだ。子連れ遠足の時、悠太郎と話をして気が合う人だと思っていたし、何より彼もまだ独身と言うことが気に入っていた。
10月に入って、富士山の噴火は大分収まったが、噴煙はまだ激しく吹き出している。今回は、まずは岐阜分校、次に富山分校に行って、一端桔梗学園に戻り、1日おいて、ドローンの整備をして北海道分校に向かうという視察ルートだ。
「柊君、操縦お願いします」
「小型ドローンは、タッチパネル式なんで万里でも操縦できますよ。ただ、高校生までは、学園から遠くまで行かないので、気流や天候変化にはまだ対応できないんですけれどね」
「賀来人はもう外に出て操縦練習していますよね」
「ああ、希望したからね。万里だって、銃の練習をしているし、車の免許も取ったろう?」
「万里さんすごいですね。銃の練習をして、敵を討つんですか?」
「いや、害獣を撃つだけで、人は撃たないよ」
「昨日まで雨が降っていたから、大丈夫だと思ったけれど、まだ噴煙が舞っていますね。ワイパーに黒い汚れがついています。1校行く度に、ドローンは整備して貰わないとならないかも知れませんね」
「岐阜みたいな盆地にもそういう影響があるんだね」
「ところで、柊君はT大学だよね。授業はどうなっている?」
「リモートで配信されているらしいんですが、しょぼい内容なので休学中です。こっちの仕事も突発的に起こるんで、いっそ退学して、海外の大学に行くのもいいかと考えています。悠太郎さんは、仏教系の大学に入り直したんですよね」
「柔道やりたくて、武道学部のある大学に行ったけれど、その時から、こっちにも入学するって約束だったし、俺は一応、リモートで授業を受けているよ。修行が出来なくて申し訳ないけれどね」
「お寺の跡継ぎも大変ですね。彼女はいるんですか?」
万里と明日華の耳が兎のようにピンと立った。
「いる。いや、いたかな?大学の時は付き合っていた子がいたけれど、卒業後、向こうは社会人、俺は大学生でなかなか会えなくなって、その上、地震で彼女は福岡の実家に避難していて、最近はお互い連絡していないな」
「大学の時は、彼女さん、お寺の奥さんになることは了解していたんですか?」
「いや、実家の話はしていなかったな」
「わざと?」
「いや、将来の話をするほどの仲じゃなかったかも」
万里と明日華はグッと拳を握りしめた。柊と悠太郎の話は続いた。
「変な話をしていいですか?地震の後、檀家さんって減りましたよね」
「え?減ってないよ。だって檀家さんのお墓は寺にあるし、避難先や転居先に出張して読経しているし、リモートで墓参りもしていただいているし。お布施は振り込んでいただいているし・・・」
「わぁお。時代に合った寺の経営をしていらっしゃる」
「この間の秋のお彼岸は、舞子に頼んで、墓参り用のドローンを避難先に出したんで、延べにして50人以上のご家族が参拝に来てくださいましたよ」
「流石・・・」
「それにね。桔梗学園の方は、宗教関係なく、みんな東城寺のお墓に入っていただいているんだ。お一人様は老後の心配があるって言うけれど、すべて、寺が取り仕切るんで、跡取りや老後の世話などの心配しなくていいんだ」
「老後の世話?老人ホームも経営していらっしゃるんですか?」
「桔梗学園の関係者で現在まだ寝たきりの人はいないけれど、多分、学園にいれば誰かしら世話するだろうし、少しずつ仕事をしてもらっているとボケないよね」
「ボケたら?」
「ボケると何かまずいことあるかな?徘徊したって、学園の中なら行方不明にならないし、食堂があるから火や刃物は使わないし・・・」
「なるほど。桔梗学園という巨大な檀家があるから、東城寺は潰れないという訳か」
「そう、嫁がどうしても欲しいって訳でもないんだ」
「どうしてですか?」
「後継者に血縁を求めていないから。桔梗学園系列の誰でもいいから有望な子がいたら、経営を引き継げばいいじゃない?」
「それは悠山住職の考えですか?」
「まあ、俺の父親がひどい人だったから、祖父ちゃんも方針をしっかり定めたみたい。祖父ちゃんの次は母さんが跡を継ぐって決まっているけれど、その次は俺より優秀な人材がいれば、俺が跡を継がないかも知れない」
ドローンは、厚い灰色の雲をかき分け、静かに岐阜分校に降りた。下では米納津雲雀が手を振っていた。
如才のない明日華が、ドローンが着陸するや否や挨拶を始めた。
「お久しぶりです。袴田明日華です。甲子園の時はお世話になりました」
「マネージャーしていた子だね。あれ?三津ちゃんは?」
「今回は私1人です。今回は宜しくお願いします」
「ご無沙汰しています。雲雀さん」
「悠太郎さん。その節はありがとうございました」
「久し振りです。狼谷柊です。修学旅行以来ですよね。不二鞠斗の後継として、今回伺いました」
「嫌だぁ。柊君、他人行儀ね。それから・・・万里ちゃん、笑万ちゃん?どっちだっけ?
大きくなったわね。覚えている」
「はい。お久しぶりです。久保埜万里です」
挨拶が一通り終わった後、雲雀は各運動施設を巡って、避難してきた運動部員の練習を見せて回った。最初に体育館に行った。体育館には茨城、栃木、東京の強豪女子バスケットのユニホームを着た選手がいて、話し合いながら練習をしていた。
雲雀が手を挙げると4番をつけたキャプテンと監督達が集まってきた。
「東城寺さん、お久しぶりです」
「狼谷さん、その節はありがとうございました」
不思議そうな顔をした万里に、柊は説明した。
「学校移転は出来なくても、運動部は受け入れられるかもって、話を悠太郎さんにつなげた大学もあるんだ」
悠太郎が雲雀に聞いた。
「各校、メンバーが減りましたね」
「そうですね。女の子は親が心配して、すぐ引き取りに来ますから」
柊が雲雀に声を掛けた。
「このままだとじり貧だね」
「まあ、対策は考えているんだけれど」
「何?」
「大学のバスケ大会を、開催するために、会場を押さえている。目標がないと続けられないからね」
「どのくらいの規模の会場を押さえているの?」
「福岡ドーム、岐阜分校、秋田県民体育館」
「サイズ感バラバラだね」
「福岡ドームは西日本の大学すべて、岐阜分校は中部と北信越。秋田はそれより北の大学の大会を行う予定」
「審判と運営、宿泊地は?」
「審判はAI審判とロボットボールキーパー。運営は岐阜分校他競技の選手。宿泊地は参加校を募らないと、確定はしないけれど、一応押さえてある」
悠太郎はキャプテン達に向き合って、話を聞いた。
「各部活動で困ったことはありますか?」
3人は顔を見合わせた。
「まだ、AI審判とロボットボールキーパーの試合に戸惑っています」
「大会当日に始めて、このシステムだと慣れていないチームが戸惑いますよね」
柊が指を立てた。
「試合の前に出来る対策があります。
対策の1つ目は、皆さんの試合を撮影して、その映像を出場校の皆さんに見て貰うことです。その映像で、AI審判やロボットボールキーパーはどういう動きをするか、解説をします。
対策の2つ目は、参加チームにAI審判とロボットボールキーパーを送って、実際に使って貰うことです」
栃木の大学のキャプテンが口を開いた。
「機械は高価なものなんですよね?」
「まあ、普及すれば、それなりに収入が入ります。何よりにもこの審判システムをスタンダードにしてしまった方が、企業としてはアドバンテージがありますから、先行投資になります。使いにくかったら、どんどん使いやすいように直せばいいですよ」
茨城の大学の監督が、口を挟んだ。
「敢えて審判を機械化する理由はありますか?」
「大会を運営する時、審判や会場係を集めるのに苦労しませんか?」
「そうですね。自分も審判に行くと、1万円の謝礼じゃ割が合わない程走らされますし、審判をするためにシャトルラン練習しているんですが、最近は合格基準ギリギリなんです。若い審判も少ないんで、頑張っているんですが・・」
柊は、同情を込めた目で監督を見つめた。
「ロボットボールキーパーは、各コーナーでボールを拾ったり、ジャンプボールのトスをしたりするためにいるだけですし、判定は8ヶ所に設置したカメラの映像でAIが判断します。判定は壁に設置したボードに表示されますし、得点もそこに表示されます。会場係も時計係も得点係もいりません」
万里が話し合いに首を突っ込んだ。
「どこで困っているか、見せて貰ったらいいと思います」
柊が肩をすくめた。
「すいません。この高校生も混ぜて、バスケの試合をやって貰えないでしょうか?バチバチ反則してやっていいですから」
こんな経緯で、万里も入れてバスケットの試合が始まった。柊も、AI審判を実際に見ることは始めてであった。
試合後、万里の空気を読まない発言に勢いを得て、選手達は思い思いの感想を述べた。明日華は書き取りを諦めて、話し合いを映像に収めた。後で、生成AIに文章起こしをしてもらうことにした。
「ヘルドボールの時、横からだと正確に判定が出ないと思います。上からドローンで見た方がいいんじゃないですか」
(バスケットの審判の身長より高い視線はいるか?それにそもそも審判って2人か3人なんで、視点が8つもある方が正確なはずだが)
「ジャンプボールのトスが、低い位置から上がるので、タイミングがずれる」
(ボールの発射位置をその時だけ高くすればいいかな?)
「壁の表示が一瞬で消えて見落としがち」
(いや、基本は5秒は表示しているけれど、次の反則があると消えているだけで・・・)
話し合いの最後に、雲雀がまとめた。
「積極的な話し合いありがとうございます。すべて改善できるかは分かりませんが、製品の品質向上に役立てたいと思います」
雲雀は柊に耳打ちした。
「まずは、思っていることを吐き出して貰わないとね」
そう言って、ウインクした。
「ところで、大会については大学バスケット協会に連絡してあるのか?」
「いや。草試合って感じで行う。会場も、規模も大きいけれど、協会からはビタ1文貰う気はないね。後援なんて受けたら、ルールに口出しされて、AI審判使えないから」
「3✕3の大会もしないか?人数が少ないチームも出られるよ」
「3✕3にはAI審判いらないよ。それより、連合チームを増やしたほうがいい。5人ぎりぎりのメンバーじゃじゃトーナメントを勝ち上がれない。せめてメンバーは最低8人はいる。登録したメンバーはすべての試合出さなければならないぐらいのルールで楽しくやろうよ」
「優勝賞品は何?」
「ここはお嬢さん達に聞いてみましょうか」
「ねえ、みんな、優勝賞品もらえるとしたら、現金以外で何がいい?」
体育館中から元気な声が次々上がった。
「ダイヤの指輪」「押しのキス」「世界一周の旅」「苺食べ放題」「バスケット専用体育館」「ドローン往復無料券」「ガソリン1年分」「イケメンのお姫様抱っこ」
突然、雲雀が柊の身体を、女子大生に向けて、叫んだ。
「おーいみんな、ここにT大イケメンドローンパイロットがいるが、この程度でいいか?」
「は~い」
「ひーばーりー」
怒った柊から頭を守りながら、「次は剣道場で~す」と言って雲雀は走り去った。
柊は、大きく息を吸い込んで、呼吸を整えた。
(だから女子大生は嫌いだ)
剣道場の見学が終わった後、グランドに出て、女子野球部の練習を見学した。万里と同じように、運動できる準備をしてきた明日華は、早速練習の仲間入りをしていて嬉しそうだった。
「三津ちゃんも来れば良かったのに」
悠太郎の言葉に、柊が肩をすくめた。
「なんか、バランスらしいですよ。女同士の牽制はよく分からないですが・・・」
続けて柊は雲雀に尋ねた。
「ところで、剣道はバスケットのような試合をしないのですか?」
「剣道だけは、AI審判を受け付けないしね」
「どうしてですか?」
「まあ、権威が大事な競技もあるんじゃない?フェンシングのように、打ち込めるポイントに電極を入れて得点を判定すればいいと、部外者は思うんだけれど」
柊は、スポーツの「多様性」も必要なのではないかと考えた。
「でもね。剣道の人が一番、洗濯乾燥システムを気に入ってくれているの。防具も小手も風とイオンで練習後すぐ、汗が除去されるでしょ?『臭い』って言われなくなったって」
温泉に入って汗を流した女子2人が、昼食会場に現れた時、午後はすぐに富山分校に行こうという話が持ち上がっていた。
「ドローンはこのまま飛べるらしいけれど、明日午後から天気が崩れるらしいんだ」
「だから、計画を前倒しにしようかと考えている」
その話を聞いて、万里は慌てて雲雀に交流会の話を持ち出した。
「今日の話を聞いたよね。来年度、4月以降、柔道、バスケ、野球と続けて、試合を運営するので、結構余裕がないんだよね。大会運営スタッフとして、お互い協力し合うから、その時に親睦を深めるってことじゃ駄目かな?」
「はい。是非、その時にお願いします。因みに、後学のために伺いたいのですが、運営スタッフとしてどんな力が必要でしょうか。紅羽先輩は舞子先輩の応援をする時に、『まず、ルールを熟知して、大会全体の流れを把握しないといけない』って言っていました」
「それは最低限だね。柊君みたいにボランティアをして、会場を把握したり、観客の動きを把握したりするのも大切だね」
雲雀は柊が、舞子の全国大会のボランティアをしていたことを、何故知っていたのだろう。
「雲雀さん、良く知っていますね」
「分校のみんなで応援に行っていたのを知らなかったの?」
「試合を肌で知らないと、大会運営は出来ないので、うちらは結構いろんな大会を見に行っているんだ」
食事の後、4人はすぐ富山分校に旅立った。柊が2人に感想を聞いた。
「どうだった?いい汗かけたみたいだけれど」
「岐阜分校って、男子がいないじゃないですか」
「あー。5歳以下の男の子はいるらしいよ。各分校が出来たのは6年前だからね。ファーストチルドレンもそのくらいの年齢だ」
「万里ちゃん、富山分校には男子がいるよ。柔道関係の男子は少なくとも何人かいるから」
悠太郎も、この子達の目的が男子との出会いだと言うことが、うっすら分かってきた。
次回は富山分校に行きます