嵐の前
今日は短い話ですいません。明日はいよいよ9月15日当日の話です。
今日も、晴崇は「もっと秘密の部屋」で、K国最高指導者の部屋の傍受をしていた。特にR国の潜水艦が、自国に引き上げたことがミサイル発射に影響を与えないかに注目していた。
・・・・・・・・・・・・・・
「何?R国の核搭載原子力潜水艦が爆破されたって?」
「それは違う?故障で引き上げたR国の港で爆発した?」
「R国も大分財政的に逼迫しているな。何時までもおんぼろ潜水艦を使っているからだ。我が国の核搭載中距離弾道ミサイルを見てみろ。素晴らしい威力だ」
「日本上空の天気は良好だ。雲も切れているので、効果も偵察衛星から確認できる。やっぱり、9月15日7時の発射で決定だな」
「あ“? R国からの応援がない?話が違うじゃないか。潜水艦3隻を北海道近海に配備すると約束したはずだ」
「爆発した潜水艦と共に、帰還した?点検のため?」
「関係ない。計画は遂行する。ミサイルを落下させる目標は『桔梗学園秋田分校』だ。富士山の借りは返してやる」
「ミサイルが落下した後はどうするか?多分日本が、迎撃ミサイルを撃ってくるが、それも撃ち落として、日本国内で全面戦争だ。地震と津波、噴火でボロボロの日本だ。1週間も経たないうちに決着はつく。
R国が、北海道から上陸しなくてもこちらの上陸作戦は強行だ。
上陸地点は島根県、島根分校近くに南海トラフ復興庁もあるらしいじゃないか。境港から上陸して、そこを占拠して、九州まで一気に攻め落とす。
日本を制圧したら、朝鮮半島統一までは、あと少しだ」
「東日本はR国が、ぼちぼち攻めるだろう。まあ、北海道くらいはくれてやる。こちらは西日本すべてを手に入れれば、中国とも対等に渡り合えるだろう。」
・・・・・・・・・・・・・・
ヘッドホンを外した晴崇は、京に親指を示した。
「R国の潜水艦が引き上げても、K国は作戦は変えないでいてくれるみたいだな」
「今の傍受音声は、すぐにはU国やC国S国には渡さないんだろう?」
「まあね。DEATH NOTE作戦後には、音声を渡すことになるかも。日本の上空でドンパチやられないように」
「個人的には、DEATH NOTEに名前を書きたい人は他にいるんだけれど」
「こ~らあ、京、冗談でもそんなこと言っちゃ駄目だよ」
美規が京の頭にげんこつを落とした。
「晴崇、美規さんが後ろにいるなら、教えてくれればいいのに」
晴崇は肩をすくめて傍受に戻った。
「あくまで、あなた達は情報収集部隊だから、実行部隊に入れないよ」
晴崇にも京にも、何を誰が「実行」するのかは教えて貰っていない。
「DEATH NOTE作戦」という名前は聞いたことがあるが、詳細は全く分からない。
そもそも、K国の音声を傍受するシステムの詳細も教えて貰っていないのだ。
「美規さん。9月15日当日は加須総理代行とか、外部の人はここに来ないの?」
「いや、来ないよ。加須総理代行は郡山。牛島防衛大臣は北海道で、幕僚の変な動きを抑えて貰う。だって、9月15日は敬老の日だよ。ここでお祝いするんだから、外部の人はお断りだ」
「美規さん。9月15日が敬老の日だったのは2,000年までの話だよ」
「いや、言い間違えた。9月15日は美子母さんの誕生日だ。身内だけで、誕生日会を薫風庵で開くんだ」
晴崇は京の顔を見たが、京は肩をすくめた。
「この緊急事態に誕生会?」
「ミサイルは朝7時に発射されて、秋田分校のバリアに吸収されて消えるんだろう?昼には平和が訪れる」
「いや、美規ちゃんも、K国の音声を聞いていたろう?その後すぐ、境港からK国が上陸作戦を実行するんだ」
「そうだね。隠岐の島の沖に戦術核攻撃潜水艦を配備し、それを脅しに使って、上陸作戦をするらしい」
「何万人が上陸する予定なんだ」
「2024年にウクライナ戦に駆り出されたK国兵は1万人強だったろう?まあ、日本に上陸するにしても、そこまで多くないよ。まず自国の守りが薄くなっては困るからね」
「じゃあどうするの?」
「それは自衛隊の仕事だ。上陸兵をバリアで捕獲するのは手伝っても、その兵に何を使うのかは知らない」
「捕虜に、何をさせるかも知らない?」
「温かい日本で美味しい食事をさせて、災害復興に働いて貰うんじゃない?」
晴崇は、テーブルの菓子盆からチョコレートをつまみ上げ、一かけ口に放り込んだ。
「それで、KKGで埋め込み用マイクロチップを大量に製作しているんだね」
「まあね。ただし、日本国外に出ると、体内に吸収されるような仕様のものだ」
京も、苺のチョコを探し出して囓った。
「スパイ対策も完璧ってわけだ」
「『完璧』と思うと足を掬われるよ」
「ねえ、美規ちゃん。9月15日以降は何が起こるか想像している?次の攻撃はないの?」
「分からんね。これからが私達の勝負だ。ウクライナ戦争で、一部の領土を手に入れたR国が狙うのは日本だろうね。だから我々はK国とR国との戦争を、他国に肩代わりさせたい」
「K国との戦争は、S国がするだろう?」
「晴崇は朝鮮半島がS国に統一されたら困るのはどこだと思う?」
「C国とR国だろう?」
「そうかな」
美規の言葉はそこで終わった。
「まあ、そう言うことで、15日のお昼は空けて置いてね。晴崇も食べ足られるように、ケーキはレアチーズケーキを用意しておくから」