美瑛のガチャ
美瑛に「本山農場」という大規模農家があります。「Neighbor’s」という映画に出演した、そこの息子さんが余りに個性的だったので、少しキャラを借りてしまいました。
9月6日
ちょうど高校生達が修学旅行に出かけた日、一風変わったYouTubeがアップされ、それは瞬く間に世界に広がった。
YouTubeの発信者は北海道の美瑛町にある山本農場の1人息子だった。彼は度重なる夏の暑さで、北海道の農産物が不作になっていることに心を痛めて、何か出来ることはないかと悩んだ挙げ句、北海道を応援するYouTube番組を作ることにしたのだ。
中学から一緒だった友達に協力を仰ぎ、1本目のYouTubeができあがった。
「はい、皆さん。初めまして。僕は北海道美瑛町の山本農場の息子です。今日から、美瑛町の良いところを皆さんに知っていただく、YouTubeを発信していきます。記念すべき第1回はここ花丸食品店さんの自動販売機コーナーです。
ここにですね、昭和レトロな外観のうどんとそばの自動販売機があるのです」
そう言って坊主頭の少年が、自動販売機で天ぷらうどんを出して見せた。
「どうですか?冬はこのうどんで、体も心も温かくなるんです」
真夏なのに、温かいうどんをすすってみせる少年。
「あー。夏に汗をかくのもいいものですね。そして特に僕がお勧めするのは、このかき揚げです」
カリッと、歯並び良い口を大きく開けて、かき揚げを囓ってみる。
「ん~。美味しいですね。このかき揚げに、なんと、山本農場の玉葱が使われているんです。火を通すと甘さが際立って、最高ですっ。」
そう言って、少年は、カメラが回っている間に、うどんを完食してしまった。
「皆さんお待たせしました。折角の食べ物を残してはいけないので、温かくて美味しいうちに食べさせて貰いました。さて、本題はこれからです。みなさん、これを見てください。本来の山本農場の玉葱はこの大きさです」
少年は大きく綺麗な玉葱を左手に乗せて見せた。
「しかし!最近の異常気象で見てください」
少年の右手には、先ほどの玉葱の半分ほどの大きさの玉葱が乗っている。
「玉葱は皮を剥くじゃないですか、こういう加工用の小さいものは、手間も掛かるので畑に漉き込んでしまうんです。そこで僕は玉葱の自動販売機を、花丸食品店さんにお願いしておかせて貰いました。小さい玉葱をガチャのカプセルに入れると、なんて可愛いんでしょう」
いや、返って販売コストが掛かると思ってしまうが、そのまま聞いていると、少年は付加価値をつけたようだ。
「ところで、カプセル1つで100円だと高いですよね。50円だと中途半端だし、10円じゃカプセル代や手間賃が出ない。そこで、玉葱以外もガチャに入れることにしたのです。
では、ガチャを回しますね」
少年は100円玉を入れて、ガチャを回した。
「やった。最初に玉葱が出たらどうしようかと思った。いいものが出ました。このガチャは『黄色の潜水艦』です。当りです。これが出たら、花丸食品店さんで500円の買い物が出来ます。
もう一つ回してみますね。う~ん。今日は僕はついていますね。『黒い潜水艦』が出ました。これは、1つではいけないんです。相棒が出るまで繰り返し回してみますね」
少年は、3回ほど玉葱を出した後、真っ白なカプセルを出した。
「やりました。皆さんお待たせしました」
少年は「We all live in a yellow submarine」と歌いながら、白いカプセルを開けた。中から、プロペラのようなものが出てきた。その機械についているゼンマイを少年が歌いながら、キコキコ捻る。
「すいません。僕、ビートルズ好きなもんで、下手な歌を聞かせちゃいましたね。では、このプロペラの根元を、なんと言うことでしょう、『黒い潜水艦』のカプセルの上にだけ穴が開いているんです。そこに差し込みます。では、ちょっと外に出てみますね。何が起こるでしょうか」
少年の両手に捧げ持たれた『黒い潜水艦』が入ったカプセルは、プロペラがつくと、手から離れ、飛び上がったのです。
プロペラ付きのカプセルは、あっという間に上空に飛んでいったのだが、画面は急にドローンの映像に代わり、カプセルの行方を追いかけ始めたのだ。
少年のYouTubeだと思ってみていた人は、どこまでも北海道を北へ北へ飛んでいくカプセルの映像に釘付けになった。映像は最後に「日本最北端の地の碑」を映してから、宗谷岬の先端に、カプセルが落ちるところまでを映すのだが・・・。
ここで、別のYouTubeに変わる。
それは、自転車で日本一周をしている大学生のYouTubeだ。
「僕は、美瑛の高校生の飛ばしたカプセルの行く先を追って、ここまで来ました。しかし、皆さん見てください。ここに浮かんでいるのは、本当の潜水艦です。それも巨大な球体の中で横倒しになっている潜水艦です」
大学生の映した映像は、まるで特撮映画のようであった。巨大化したカプセルの中に、水がないため横倒しになった弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が見えるのである。全長170mの原子力潜水型は、これまでも度々、海上自衛隊に目撃されていたが、今は丸裸同然。
大学生のYouTubeには、それを見学に来ている数名の旅行者が映っていた。
9月6日に流されたYouTubeによって宗谷岬に、多くの人が集まった。その10分の1ぐらいの人は美瑛町の玉葱自販機を訪れたが、何度やっても、玉葱と『黄色い潜水艦』しか出なかった。
TV各局も、「宗谷岬にR国原子力潜水艦出没」の映像を流したが、数日後には、謎の球体はR国の艦船に曳航されていった。不思議なことに、海上自衛隊はそれを攻撃することなく見送った。
曳航されていった球体は、R国の軍事施設に運ばれていったが、1週間後に内部からの原子力爆発によって跡形もなく消え、不思議な球体の仕組みをR国が把握することは出来なくなった。