晴れと褻
年明け早々、雪が降りましたね。というわけで、今日は短編です。
「晴れと褻」という言葉がある。祭りのような「晴れ」を支えるのは、「褻」という日常だ。
修学旅行最終日の朝から、全員で広瀬川まで走った。
勿論、雄太と颯太もみんなと一緒に走った。
今日は、日本三景松島まで行って、上空をドローンで見学して帰るという計画だ。
「遊覧船には乗らないのかい?」
大町技術員が賀来人に聞いた。
「ドローンから見る方が、遊覧船より贅沢な景色が見えませんか?」
「まあ、確かに。それに早く帰ったほうがいい」
「そうですね。なんか、みんな祭りの後って感じで、腑抜けていますしね」
「賀来人もお疲れ。予算内に収まったかい?」
「三木君のお陰?で、野球場での食事は十分でしたから」
「そうだね。最近の物価高騰で、夕飯や野球場の小遣いが2,000円は少なすぎたぞ」
「すいません。俺たち結構、外界に疎い『浦島太郎』なもんで」
「桔梗学園は、自給自足だからね。外の物価の変動なんて、よく分からないよね」
「でも、海外との交流が少なくなったり、地産地消が推進されたりしたら、物価ってどうなるんでしょう」
「う~ん。俺も、経済に詳しくないからよく分からないけれど、桔梗学園は野球場や動物園に金銭的援助しているよね」
「まあ、僕は、人の生活は『日常』の他に、『娯楽』がないといけないと思っているんですよ。『娯楽』のために生きている人もいますが、バランスですよね」
「三角ベースみたいな野球もいいけれど、プロ野球も大切だもんな」
「そうですね。祭りと言えば、次の案もあるんです。冬にクリスマスマーケットやりませんか?」
「玲が由梨由梨ちゃんと行って楽しかったってやつか?去年のクリスマスは、新潟市でも盛大にクリスマスマーケットやっていたよな」
「女子大生の皆さんもお誘いしたら、楽しそうですね」
「ところで、新潟市と言えば、新潟島の再開発は、まだなのか?」
「大町さんは、新潟島に何を作りたいですか?ドーム式球場?」
「勿論だ。雪国にドームがないなんて、おかしいだろう?夏は暑くなる一方だし」
「4つくらいドームがあるといいですね」
「野球とサッカーの他は?」
「水泳とスケートパーク」
「スケートって、アイススケートか?」
「スケートボードもありですね」
「5つめのドームで、子供の遊園地も欲しいな。昔、安田アイランドってあったんだ」
「子供の足で行けるといいですね。下町風で、駄菓子屋なんかもあるといいですね。今は、家族連れでお金を掛けてくるまで行く場所ばかりもてはやされていますが、毎日、路地や空き地で遊んでいた時代もあったんですよね」
「そうだね。浜昼顔の住宅が完成したら、次に子供の遊び場を作っちまおうか」
「いいですね。下町遊園地」
女子のドローンでは、まだまだ元気な女子が最後の話に興じていた。
「颯太君と笑万さんが、付き合うことになったんですね」
明日華が万里に気を使いながらも、ウキウキした声で笑万に詳細を聞いていた。
碧羽が万里に遠慮がちに聞いた。
「雄太は、付き合うって言ってくれなかったんだ」
「う~ん。あの日、雄太君は遅刻して落ち込んでいたので、気持ちが恋愛に向かなかったみたい。まあ、いざとなったら押し倒してもいいし・・」
「ちょっとぉ、過激少女だね」
「うちら、ちょっと恋愛ごっこを楽しんでその後、妊娠できたらいいんで、別に結婚したいとも思ってないし」
「え?相手は誰でもいいの?」
「まさか、一応相手は選びますよ。それなりに格好よくって、運動神経や頭も良い男じゃないと困ります」
「結婚願望がないのは、桔梗学園の考え方なの?」
「ん~。少なくとも、学園生まれの女子が普通に持っている考え方かも」
「男子も女子のそういう考え方を理解しているの?」
碧羽は傷ついた鞠斗の顔を思い出した。
「そうだね。選んで貰うのを待っている感じの人は多いかも。篤みたいに積極的なのは、よっぽど相手が気に入った場合だよね。晴崇さんもそうだったかな?」
サバサバ言う万里に、碧羽は少し不安になった。
「でもね、桔梗高校の男子は、選んで貰うのを待っているとは限らないよ。あんまり積極的に迫られると、嫌がる人が多いかも」
「そうなんですね。分かりました。アドバイスありがとうございます。
ところで、碧羽先輩はいい人いないんですか?いつまで、鞠斗さんとの件を引っ張っているんですか?柊さんとか琉さんとか、お薦め物件ですよ」
「あの2人?万里は彼らは恋愛対象になるの?」
「顔と身体が好みじゃない」
「身も蓋もないね」
「柊さんって、もともとファーストチルドレンなんですよ。私達は中の人にはあんまり興味ないですね。
外部の人に引かれるんですよ」
今まで、妹のように思っていた万里の意外な一面を見た。どこかサイボーグのような印象すら感じる。つい、腕を触ってみると、筋肉質な上腕二頭筋に触れた。
「いやだぁ。私は女性をそういう対象には見ていませんから、先輩も変な気を持たないでください」
突然後ろの席から春佳が乗り出した。
「じゃあ、万里先輩は雄太さんを諦めたんですか?」
「春佳ぁ。今日はタイミングが悪かっただけ、もう少し、じわじわと攻めるから。春佳の番は後だよ」
「残念。私も雄太さんをちょっといいと思っていたのになぁ」
珊瑚美子が突如、話に加わった。
「そんなに男子との出会いが欲しいなら、富山分校や岐阜分校に、悠太郎が集めた有望スポーツ選手がいっぱいいるよ。交流会したらいいんじゃない?」
「はい、はい。私も参加します」明日華と笑万が、手を挙げた。
ここでも、冬のイベントの話が盛り上がったのであった。
次回は、9月15日の停電への対策ですが・・・なんか、見当違いな方向に動いているようです