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修学旅行の夜

雄太君はなんか、やらかしたみたいですね。

 荒浜小学校見学の後、ドローンは津波の影響がなくなったエリアで着地し、ファンを畳んで、バスに変形し市街を走り、仙台駅近くのビジネスホテルに着いた。


「お疲れ様でした。運転ありがとうございました」

体育会系の生徒達は、気持ちよく挨拶をして降りていった。無料朝食会場にもなる広い部屋で、賀来人から明日までの連絡が伝えられた。


「班長会議とか、部長会議ってくそ長いけれど、賀来人の話は短くていいね」

猪熊(いくま)は、修学旅行の夜が楽しみでしょうがなかった。


「夕飯は、1人2,000円です。スマホの中の電子マネーを使って下さい。明日の球場で使う2,000円も入っています。三角ベースの勝利ポイントも加算されています。

部屋割りはこちらで決めました。ルームキーは1人1枚。

朝食は無料ビュッフェを利用して下さい。バスの出発は10時です。解散」

夕飯の食費としては、少ない気もするが・・・。


猪熊は賀来人を捕まえて、「門限や就寝時間は?」と聞くが、賀来人は「それを決める必要ってあるの?」と答えて、全員に部屋のカードキーを配る手を止めなかった。


部屋割りは、「万里(まり)藍深(あいみ)」「笑万(えま)、三津」「碧羽(あおば)、春佳、明日華」「美子、飯酒盃」

男子は「雄太、篤」「颯太、賀来人(かくと)」「玲、猪熊(いくま)」「一雄、大町」

親睦を深める意図があるのか、仲良しで固めていないので、何人かは眉をひそめた。


「さあ、飯酒盃医師、牛タンに行きますか」

珊瑚美子(さんごよしこ)達は、さっさと高級牛タンを食べに出かけてしまった。


万里と笑万は碧羽先輩とやっとゆっくり話が出来ると、仙台のデパ地下を目指して消えてしまった。

大町は玲一人を誘うわけにも行かず、一雄と何をしでかすか分からない猪熊とを誘って、ホテル近くのレストランに向かった。


「どうする?ファミレスでいいよね」

三津、春佳、明日華は、藍深を誘って、明るいファミレスに行ってしまった。


雄太と颯太は万里や笑万から誘われるかと思って待っていたが、さっさと彼女たちが食事に行ってしまって拍子抜けをしてしまった。

「賀来人、どこかいい店知らないか?」

「君たちは食べ放題がいいんじゃないですか?しゃぶしゃぶ食べ放題の店がそこに見えるよ」

ホテルの向かいに、「しゃぶしゃぶ食べ放題1,980円」という看板が見える。

「交流を深めるなら、4人で行かないか?」

颯太が篤の肩を組んで歩き出した。

「まあ、僕らもたまにはチートな夕飯食べますか。いいよね。篤」

「仰せのままに」


 4人は、ホテルから徒歩5分のところにあるしゃぶしゃぶの店に入った。

雄太が兄貴(かぜ)を吹かせて、店員に注文を始めた。

「『食べ放題飲み放題税込み1,980円』って、飲み物はここに載っているソフトドリンクだけ?」

「アルコールが入ると、2,980円のコースになります」

雄太が、アルコール入りのコースを選ぼうか悩んでいると、賀来人がスマホを示した。

「僕らの夕飯の予算は2,000円だよ」

賀来人は雄太を制して、素早く1,980円のソフトドリンクコースを4人前注文した。


 店員がいなくなって、賀来人はメニューで口元を隠して、雄太に話しかけた。

「脇が甘いんだよ。明日は君たち、『甲子園球児』って紹介されるんだろう?」


「俺は18歳なんだけれど、ノンアルビールならいいかなって」

「誰かに写真撮られてSNSにアップされたら、例え、ノンアルでも、人は飲酒している未成年としか見ません。李下(りか)に冠を正さず」

篤が続きを付け加えた。

瓜田(かでん)(くつ)()れず」


篤は無邪気な顔をして雄太に言った。

「日本高校では、18歳から飲酒が許されているんですか?」

「いや、駄目だけれど」

「じゃあ、どうして酒を飲んじゃいけないんですか?」

「健康に悪いから・・・かな?」

「そうですよね。アルコールは大人でも身体に悪いんですよね」

颯太が、反撃にでた。

「でもな、お酒の席で親睦を深める時、アルコールに弱いと困るだろう?だから、少しずつ鍛えなきゃいけないんだ」


篤が涼しい顔で答えた。

「桔梗学園の人は、学園の中で1滴も飲みませんけれど、全員、アルコール耐性はありますよ」

雄太と颯太が、話が理解できなくて固まっているので、賀来人が説明した。

「僕たち、海外で仕事する機会もあるので、アルコール耐性を持たせるための注射を、数回に分けて受けています。海外では、水質が悪くて、アルコールの方が安全な国が多いですし、寒さを防ぐのに高アルコールのものを飲まなければならないこともありますから・・・」


颯太が好奇心に満ちた目で賀来人を見つめた。

「じゃあ、賀来人はドバイのパーティーで、高い酒飲んできたんだ」

賀来人がこめかみを()まんだ。

「UAEはイスラム教ですので、公共の場で飲酒したら、監獄行きか国外追放ですよ」


 話が盛り上がっているところに、店員がソフトドリンクと1回目のしゃぶしゃぶの具材を持ってきた。

雄太が店員に言った。

「ありがとう。後、2皿追加でお願い」

「え?まだ、食べていないのに・・・」

颯太がニコニコして答えた。

「しゃぶしゃぶは、『飲み物』だから」

賀来人が篤に小声で言った。

「篤、見たか?食べ放題だと元を取ろうと、残すことも(いと)わず頼むという心理状態を」

「勉強になります」


 ゆっくり噛みながら肉を食べる二人を見て、颯太がまた構った。

「辛気くさい!もっと大口で、がぶっと食えよ」

賀来人が涼しい顔で答えた。

「自分の適量は知っているので、気にしないで。良質の睡眠を取るために、夜は消化の悪いものは食べないようにしているし、量にも気をつけているんだ」

雄太が半分やけになって反論した。

「胃が小さいんじゃないのか?」

「まあ、たまにチートデイがあると嬉しいけれどね」

篤は水菜を頬張りながら、ニコニコしていた。



 雄太は突然、今日の動物園での出来事を思い出した。

「ところで、今日、万里と笑万といっしょに、ライオンを見に行ったんだ。その時、ミッションって言っていたけれど、あれは何?」

「万里は教えてくれなかったの?」

「ライオンが元気か見てくることって、誤魔化された」

「いや、誤魔化していないよ。そのままだ。桔梗学園が動物の移送を頼まれて、八木山動物公園に運んだんだけれど、『運んだ先の動物は元気か見て来て』って、(りゅう)にでも頼まれたんじゃない?」

「上野動物園から運んだの?」

「そうみたいだね。上野動物園1ヶ所から運んだかどうかは俺は知らないけれど」

賀来人は、移送方法やどこの動物園から移送したかなど、微妙に誤魔化しながら、答えた。


 颯太も思い出したように付け加えた。

「その上、あいつら、海外から動物を持ってくることより、里山の動物に目を向けるべきだなんて、飼育員に喧嘩売っていたぞ」

「ほんと?」

雄太は歯切れが悪かった。

「いや、喧嘩ってほどじゃないんだけれど、飼育員の人は気を悪くしていた感じだった」

「まあ、いいんじゃない?子供の素直な意見に耳を傾けるのも、動物園の仕事だから。さてもう、1時間たったね、帰ろうか」

「2時間食べ放題だよ?」

「俺は、満腹だな。ホテルで休もうよ。後、2時間で就寝時間だ。明日の予習もしないと駄目だし、睡眠1時間前までに調べを終わらせないと、目に悪いし」


颯太が、3杯目のソフトドリンクを飲み干して、賀来人に食らいついた。

「消灯時間なんって決まっていないじゃないか」

「いつもは9時だから寝るのは9時でいいんじゃない?6時から1時間ランニングをして、朝食を7時30分から。9時30分から出発の準備をするのでいいんじゃないか?」

「だから、そんな決まり聞いていないよ」

「野球部なのに朝トレしないの?」

「いや、ジャージ持ってきていないし・・・」

雄太と颯太は、岐阜分校での暗い過去を思い出した。

「三津達は持ってきていたりして・・・」


 

 翌朝、雄太は篤が浴びるシャワーの音で目覚めた。

「お早う。起きちゃった?もう、朝ご飯食べちゃったけれど、起こした方が良かったかな?」

「いや?今何時、9時?10時出発だし、ここに連泊するから荷物片付けなくていいよね」


シャワーを浴びた篤は、パリッとした服を着ている。

「2枚目も持ってきたの?」

「いや、朝ランニングに使ったジャージを洗濯乾燥機に入れた時、昨日乾かしておいた服を持ってきたんだ」

「篤君もランニングするんだ」

「みんなで、青葉城趾まで走ったんだ。今日は快晴だよ」

雄太は嫌な汗が背中を伝った。

「みんなって?昨日、朝練するって誰か言った?」

「いや、桔梗学園生は朝、6時半から朝仕事する癖がついているから、その代わりに走ろうと思って、ホテルの前に出たら、調度みんないたから一緒に走ったんだ。三津ちゃんも一雄さんもいたよ」


「『みんな』にいなかったのは?」

「颯太君と猪熊君かな?美子さんも散歩していたし、大町さんと飯酒盃医師は運転ばかりしていると腰が痛いとか言って、ダッシュで山を駆け上っていた。勿論、三津ちゃんは軽く走った後、キャッチボールをしていたよ」



 慌てて朝食会場に向かった雄太は、残り少なくなった朝食バイキングのおかずをかきこみ、10時ギリギリにドローンの前に立ったが、誰もいなかった。

焦って、スマホで颯太に連絡した。

「おい、ドローンの前に来たけれど、みんなどこにいるんだ?」

「雄太さん、今日は球場までのシャトルバスに乗るんですよ」

「それどこから乗るんだ?」

「仙台駅前です。もう出ますから、先輩、俺たちは先に行きますね」


(そう言えば、夕べ、賀来人が『明日の予習』って言っていたな。球場までの行き方も下調べしないといけなかったのか?)


雄太達は今まで、野球の遠征も遠足も、貸切バスで目的地まで行っていた。自力で電車やバスの時間を調べたり、道順を調べたりしたことがなかった。しかし、仙台の駅前で1日立っているわけにも行かず、人に聞きながら、どうにかシャトルバスに乗った。


(野球場の前に行けば誰か待っていてくれるだろう)


雄太の期待はむなしく、球場の前には誰もいなかった。

都会のように交通機関が発達していない地方では、子供は親が車で送迎することが普通です。駅まで車で30分という場所もあります。雪がない時はバイクで通学する子もいますが、冬場は遭難してしまいますから。遠征も貸切バスを使うことが多いですね。

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