桔梗学園、桔梗高校合同修学旅行
さて懸案の第2回修学旅行が動き始めました。
翌日の朝食の時間に、浜昼顔地区の食堂「海棠」に桔梗高校と桔梗学園の高校生が集められた。
賀来人が万里に囁いた。
「薫風庵は借りられなかったの?」
「晴崇に怒られた。でも、修学旅行の日程と目的地の許可は下りたし、予算もゲットしてきた」
まあそうですよね。薫風庵では、もっと大切な話し合いが繰り広げられていますから、部外者を薫風庵に上げるなんて、もっての外です。
鞠斗に代わって、会計担当になっている狼谷柊が、今回はお目付役で、食堂のテーブルに座っている。それに前年の修学旅行担当 大神琉も仲良く座っている。
旅行のメンバーは、桔梗学園3年 久保埜万里、笑万、2年 駒澤賀来人、1年 生駒篤、九十九農園職員 大神玲、桔梗高校3年 山田雄太、高木碧羽、2年 山田三津、佐藤颯太、須山猪熊、袴田明日華、榎田春佳 1年 五十沢藍深、それに野球部監督 山田一雄。
「急に集まっていただきすいません。私、桔梗学園3年の久保埜万里です。実は、珊瑚美子さんが9月7日日曜日、楽天モバイルパーク宮城での17時の試合を20名分取ってくださったので、折角ですから、桔梗高校の野球部の方もお誘いして、修学旅行のようなものをしたいと計画しました。費用はすべて桔梗学園持ちです」
桔梗高校の面々は、突然の話に戸惑いの表情を浮かべた。
「突然の話で、驚く方もいるでしょうが、そこにいる大神琉さんが、昨年第1回桔梗学園修学旅行を計画しました。その時は分校の皆さんも参加して、1泊で温泉旅行に行って、親睦も深まり楽しかったと伺っています。そして、今年3年になった私達も第2回を楽しみにしていたのですが、ご覧の通り3年は2名、1年まで合わせても4名しかいません。そこで、桔梗高校の方もお誘いしようと思ったわけです」
佐藤颯太が、突然手を挙げた。
「今、野球は公式戦がないですよね。何のゲームがあるんですか?」
万里は想定内の質問なので、自信を持って答え始めた。
「はい、震災で今パリーグの3つの野球場しか残っていませんが、お互いに協力し合って、なるべく試合をしようと言うことで、今回は楽天とバッファローズの試合が見られます」
「えー。登録メンバーは?」
「すいません。それは・・・」
一雄がそこに助けに入った。
「なるべく試合をして、野球ファンを増やし、来年以降、高校生の全国大会が出来るような機運を作りたいらしい。高野連は、来年、男女メンバーで、フリー参加の夏の大会を、東日本は北海道、西日本は福岡で開きたいそうだ」
雄太が兄に向かって鋭い質問をした。
「で、なんで俺らが楽天の試合に行けるの?」
「珊瑚美子さんが、楽天イーグルスの関係者さんと知り合いらしくて。今、富士山噴火などの影響で、球場にはお偉いさんが来ないらしい。そこで空いた席に、昨年甲子園に出場した『桔梗高校野球部』を招待してくれることになったんだ。その上、始球式に出してくれるそうだ。た・だ・し、女子選手」
三津が突然の話に目を丸くした。
「私か、明日華ちゃんってこと?」
「いや、お前だ。去年甲子園に出場した『選手』の妹で、かつ来年の男女混合試合に出る選手と言えば、お前しかいない」
明日華と春佳が、ニコニコして、小さく拍手した。
佐藤颯太が少し悔しそうに言った。
「良かったな。今日から特訓だな」
「女子選手なら、岐阜分校にたくさんいるのに・・・」
「練習しよう。協力するよ」
明日華に肩を叩かれて、三津は小さく頷いた。
万里が話を続けた。
「では、野球がそれほどお好きでない方もいらっしゃると思いますので、それ以外の目的地の話もします。前日には東北最大の八木山動物公園と震災遺稿 荒浜小学校を見学します。
宿泊は仙台駅前のビジネスホテル。夕飯は仙台駅周辺で自由行動(1人食費は2,000円渡します)。
日曜日の午前から、楽天モバイルパーク宮城で過ごし、17時から試合見学をします。
試合後は再び同じホテルに泊まって、松島観光後、桔梗村に戻ります」
猪熊が遠慮がちに話をした。
「本当に俺たちお金払わなくてもいいんですか?小遣いまで貰っていいんですか?
俺も行っていいんですか?」
「勿論です。そうですよね。琉さん、柊さん」
琉が頷く。
「俺たちも、全額ただで行ったよ。子連れだったけれど」
一雄が玲の背中に手を当てて言った。
「玲も一緒に行こう。俺も含めて、九十九農園は3日間休みをくれるって」
「兄貴も行くのか?卒業しているじゃん」
雄太の言葉に対して、一雄は涼しい顔をして答えた。
「うるさい。こんなチャンスないからな。引率者としてついて行く!!」
柊が万里に質問した。
「で?ドローンの操縦者兼引率者は誰にするの?一雄も19歳だから、引率にしては若すぎるよ」
「あの、親は行かない方向で考えると、飯酒盃医師でお願いしたいのですが」
琉が突っ込んだ。
「ドローンの操縦者は2人はいるよ。飯酒盃医師を入れても15名。チケットは5枚も余るじゃないか」
食堂に珊瑚美子が現れた。
「私も行かないと駄目だよ。楽天の球団関係者に話しもあるし」
柊が「これで16名」と数える。
「本当は久保埜医師がいいけれど、あとは小児科から深海医師か四十物医師かな?」
琉がそう言うと、琉の肩に手を置く人物がいた。
「俺も野球好きなんだよな。特にオリックス。最高だぜ。オリホー」
琉と玲が、大町の登場に眉をひそめた。
(いや、修学旅行であって、野球観戦ではない)
しかし、大町の参加は美子の一言ですぐ決まってしまった。
「いいですね。大町さんは新しいドローンの操縦も上手いですし、可愛いお嬢さん達のボディーガードにもなりそうですし・・・」
久保埜姉妹は頬に手を当てて、「可愛いなんて」と照れていたが、実際は違う。
今回、K国にドローンの情報を与えたのが顕現教だとすると、玲にはボディーガードがいるかも知れないからだ。
賀来人は少し考えて発言した。
「前回は妊婦がいたから、医者2人に引率を頼んだけれど、今回は子供も妊婦もいないよね。ドローン2機に操縦できるのが、飯酒盃医師、大町さん、美子さん、一雄も来るんだよね。それに20人無理に連れて行かなくてもいいんじゃないか。なんか現地で増えそうな気もするし・・・」
次回は修学旅行に行きたくない2人について、話を展開します。お楽しみに。