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プリニー式噴火

明日は大晦日ですね。「桔梗学園子育て記」を書き始めて、半年が経ちました。今更ながら、「子育て」要素が少ないような気がしますが、子持ち高校生の活躍は書き続けていきたいと思います。

 宝永大噴火 

今から322年前、江戸時代中期に起こった富士山の噴火であり、その時の噴火は2週間続いたと記録には残っている。そして、「今回の噴火もその時と同様に大量の軽石や火山灰を高く噴き上げるプリニー式噴火になる」という情報が、地震学の研究をしている大学にもたらされた。。


「やばくない?うちらのHP、北西の噴火口に一番近いところじゃん。HPのアクセスがバンバン来るよ」

東京科学大学の森山小豆(あずき)が椅子の上ではねながら、側にいる那智(なち)美鈴に話しかけているが、美鈴はあまりの忙しさに無視を続けている。

東京科学大学は2024年東京工業大学と東京医科歯科大学が統合してできた大学だが、東京工業大学の時代から、草津白根火山の観測を中心に行ってきた。今回も、草津白根火山も連動して噴火するかも知れないと、ここから避難せず観測を続けていたのだ。

「美鈴ちゃん、今まで水蒸気噴火の観測ばっかりだったけれど、今回は火山雷も、火砕流や火砕サージも観測できるんだよ」


助教の小豆の大声に流石の美鈴も、諦めて相手をすることにした。

「はいはい、森山助教はキラウエア火山みたいな火山の研究がしたかったんですものね」

「いやー。イザベラ・バードみたいに実際に火山を見たいって気持ち。普通みんな持っているでしょ?」

「だからって、あなたみたいに大怪我してまでも、この現場に戻る人はいませんよ」

「いやぁ、運が悪かっただけだよ。噴石を避けながら逃げられるって思ったら、転んでね。でも、ただの火傷だから」

「女の子が左腕半分大やけどでケロイド出来たら、普通、親が止めるでしょ?」

「まあ、だから水蒸気爆発の観測中心の草津にいるわけで・・・」


ため息はつくが、研究員の美鈴は、このぽっちゃり太った明るい女性が嫌いではなかった。

「もしかしたら、圭さんが私達にいいとこの映像くれたってことは?」

「圭さんも晴崇さんもそんな贔屓(ひいき)する人じゃないでしょ」

「そうだよね。七福神でも私達、補欠だったもんね。覚えていないかな?」


そう、森山小豆は「大黒天」、那智美鈴は「福禄寿」というコードネームで、「七福神」のメンバーだった。ただ、数少ない観測メンバーの二人が長期にわたってドバイに行けるわけもなく、群馬の山奥で寂しく応援をしていたというわけだ。


「それでも、転がり込んだ一番いい映像を、世界中に届けるために、ミスは許されないよね」

「万が一にも、うちの大学のHPがダウンしないように、今回はYouTuberの海老鹿子(えびかのこ)にも、助けを求めたんでしょ?」

「うん、あいつのうちの旅館は、地震の被害がなくても今、群馬だからって、閑古鳥(かんこどり)が鳴いているからね。暇だから手伝ってくれるらしいよ、そろそろ来るよ。

本当に、今まで、温泉の宣伝のためにHPを充実させてきたのにね」


「おーい。土産持ってきたぞ」

「鹿子、何この草津温泉土産の山」

「大学のHPに、ちょっと宣伝を入れて貰った御礼に貰ってきました」

「え?あっ、なにげに大学のHPにバナーが貼り付けてある」

「大丈夫よ。どの大学もHPに来た客を逃がさないように、工夫を凝らしているんだから、うちらも避難勧告が終わったら、是非草津に来て貰わなきゃ」


「ちょっと小豆さん、もう食べてる」

「北海道産小豆を使った『松むら饅頭』に、『草津温泉たまごボーロ』。今日から長丁場ですかならね。ほら、『湯畑プリン』と『夜の湯畑プリン』のSNS映えすることよ」


そんな話をしながらも、噴火の時間が迫ってきた。



8月30日16:45


ついに北西の噴火口から巨大な噴煙が上がった。

噴煙は予報通り、高く高く30m上空まで上がり、キノコ雲のように円を描いて広がっていく。

「キター。噴火したよ。宝永噴火は冬だったから、北西の季節風に噴煙が流されたけれど、今回は夏。南東の季節風で、日本海、大陸方向に流されていくね」

「本栖湖や精進湖が埋まってしまうかも知れません」

「噴煙だけじゃなくて、火柱も上がってきた。甲府市方面に向かって、火砕流が・・・」


海老鹿子は、HPのアクセス数を確認した。

「凄いアクセス数だぁ。コメントも多い。長野方面では、今上空に黒い雲が流れてきたって・・・」

小豆が眉をひそめた。

「しまった。コメントを切って」

「なんで?ああ、そのコメントの真偽がうちらには確かめられないからだよ」

「このアクセス数だ。コメントも世界に流れてしまう」


HPへのアクセス数が300万を越えた時には、3人とも冷や汗が出てきた。

「他の大学のHPも見て」

「2つめの火口の担当、名古屋大学が凄い。250万アクセス」

「名古屋大学って今どこに移転しているの?」

「富山大学」


「ねえ。もう、深夜だけれど」

「時差のある海外が反応している」

「交代して寝ないと、身体が持たないよ」


海老鹿子が最初に寝ることになった。研究室の床の寝袋に潜り込んで少ししたところで、寝袋から鹿子が顔を出した。


「ねえ、長岡の花火にベスビアスって花火があるじゃん」

「ああ、巨大なスターマイン花火のこと?どうしたの、急に」

「寝ようと思ったら、目の前に花火と火山の映像がチカチカしちゃって・・・」

「ああ、でも映像越しで良かったよね。自分の住んでいる目の前で、噴火して、一晩にして灰に埋まるなんて考えたくないよね」

「そうだね。噴火を知らずに富士山の周辺に住んでいたら、ポンペイのように町ごと土石流に埋もれるところだね」


噴火の映像は、ショッキングだが、ずっとそれを観察するのはなかなかの苦痛だった。


美鈴が血走った目に、目薬を差しながら答えた。

「私の弟、鹿屋(かのや)体育大学だったんだ。桜島の近くにあって、ランニングするといつも鼻の穴が黒くなるって言ってた。阿蘇や、桜島の人達って、火山の近くで生活しているんだよね。我々もこれからそういう生活するんだね」

小豆が、ハッカ飴をなめながら答えた。

「鼻毛が伸びそうだね」


今まで興奮していた小豆のテンションも今は小康状態になったようだ。


「ねえ、美鈴はジャレド・ダイヤモンドの『文明崩壊』って読んだことがある?」

「勿論、イースター島が何故滅びたかの話があるやつでしょ?高校の教科書にその一節が引用されていたよ。まあ、その一節のために本を買ったのは私くらいだけれど」

「その本に『太平洋の島々の森林破壊には何が影響しているのか?』という質問があってさ。

『森林破壊の激しさが増すのはー』という答えがあったんだよ。答えは9つ。

湿潤な島より、乾燥した島

赤道付近の温暖な島より、高緯度にある寒冷な島

新しい火山島より、古い火山島

火山灰が大気中を降下する島より、降下しない島・・・」


美鈴はすぐさま答えた。

「日本は『湿潤』『温暖』で『新しい火山』もあって『火山灰が大気中を降下する』、つまり、森林は破壊されない。反対に、イースター島の人々は、あの巨大な像を運ぶのに、島中の木を切り倒して滅んだよね。小豆さんは、日本の文明は滅びないって言いたいんでしょ?」

「んー。私がこの一節が心に残っているのは、ちょっと違うな」


寝袋から鹿子が顔を出した。

「火山の力が文明を支えているってところ?」

「そう、新しい溶岩と灰から派生した土壌には生物の生長に欠かせない養分が含まれているんだ。

災害列島と言われる日本は、実は火山の力もあって、地力が豊かなんだ。先進国の中で、フィンランドに次いで、2番目に森林が多い。森林が国土の7割近くあるんだよ」

「豊かな島なんだね」


ドーン ドーン


「来たよ。2ヶ所目の火口からの水蒸気噴火が始まった」

「富士山の横にまた新しい山ができるんですかね?それとも、カルデラが出来るかな?」

「分からん。最後にはどんな形が完成形になるのか」


美鈴が、他大学の担当の画面に顔を近づけた。

「小豆さん、見てください。北海道大学の画面」

「凄い噴石がやってきます」

「カメラが壊れるかな?」

「いや、カメラは動いていないんですが、噴石が破壊されているみたいなんです」


 Ladybugは、固定されていて、すべて小さいバリアに守られているので、画面上には噴石が破壊されているように見えている。

流石に1mを越える噴石が飛んでくると、バリア越しに振動は来るが、Ladybugの映像は乱れない。

その上、噴煙で太陽光線が遮られても、バッテリーが持つように、半年は持つような巨大なバッテリーが、映像に映らない場所に設置してあるのだ。

バリアは空振(くうしん)でも破壊されない強度で、東京科学大学の受け持ったLadybugは、火砕流に流されないように、地上4mの高さに浮上して、撮影を続けている。だから足元を、火砕流が流れていく映像が見られるようになっている。このスリルもHPのアクセス数を押し上げている。



9月2日

 

台風10号が日本を縦断した。

平年の8月の2倍の降水量が、噴火の被害地域に降った。

噴火の雲と台風の大きな渦が混ざり合う姿は、世界中の耳目を集めた。そして、台風はそこから90度進路を変え、朝鮮半島を越え、大陸方向に富士山からの魔の贈り物をもたらした。


 人ごとのように、HPの映像に見入っていた大陸に住む人々は、アスファルトの上にこびりつく雨を含んだ火山灰の撤去に必死になった。

勿論、日本でも富士山周辺の河川は、火山灰を含んだ泥流のせいで、何度も洪水を繰り返し、今後数年間、田畑が使えない状況になった。

そして千曲川など一級河川に流れ込んだ火山灰は、川底に溜まり、周辺の平野に洪水をもたらした。


 加須総理代行は、今回の噴火を「令和大噴火」と名付けた。


富士山の噴火は、多くの地域に甚大な被害をもたらしたが、人的被害はほとんどなかった。

予想外の広範囲に火山灰が広がったが、ゴーグルや防塵マスクの製造も早くから着手していたし、建物の空調の吸気口には防塵フィルターを設置してあったし、会社や学校の窓ガラスの多くは二重サッシにされていて、室内には火山灰がほとんど入らないような対策が立てられていた。

休みに入ったので、暫く、毎日アップできるかな?

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