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涼の生還

涼は流石に柔道選手だけあって、身体が丈夫ですね。

 救急病院から、涼を無理矢理退院させて、4人は「白田(しろた)産業」のビルに戻った。


「じゃあ、明日は朝早いから、二人とも休みなさい。涼のことは私が見ているから」

「ちょっと待ってください、美子(よしこ)さん。こんな涼を置いて行けませんよ」

「大丈夫よ。涼は手を怪我しただけだし、帰りは私が送っていくわ」

「美子さん。鞠斗(まりと)のいうとおりですよ。医者としてこんな状態の患者を置いていけません」

「鮎里はちゃんと手術したじゃない。神経もつないだし、直るのには時間がかかるかも知れないけれど、今からドローンで、桔梗学園に帰るのくらい大丈夫よ」


鞠斗は、目を反らそうとする美子の腕を掴んだ。

「美子さんが『自主的に』ここに来たのは、何かを予想したからですよね」


美子は(てのひら)を小さく上げて降参をした。


「鞠斗には叶わないな。君は今まで、私の行動パターンを先読みして行動してきたんだもんね。隠し事は出来ないね」

「じゃあ、何を予想していたかを、教えてください」


美子は深いため息をついた。

「君たちがもし外国人で、この状況の日本を侵略したいなら、どうするだろう?少なくとも、地震では日本は大きな混乱に陥らなかった。海外からの救援も断るくらいの余裕があった。

では、噴火ではどうだろう」

鞠斗は少し考えて答えた。

「噴火によって、電気設備が使えないことや、首都圏の復興に時間がかかることが、日本に大きなダメージを与えることは想像できますね。でも、福岡や東北、北海道で電気も使えますし、首都機能をそこに分散させるので、日本に大きなダメージを与えることは・・・」


「あっ」

鮎里が声を上げた。

「もっと大きなダメージを与える方法がある」

「鮎里は分かった?富士山の噴火を想定より大きくする方法があるのよ」

鮎里が自分がたどり着いた結論を言った。

「K国は富士山の噴火に合わせて、核爆弾を火口に投げ落とそうとしている」


涼は病室の天井を見上げた。

「いや、それは俺も考えたけれど、火口に近づけない・・・」

「桔梗学園のドローンなら火口に近づけると考えたんじゃないかな」

「うちのドローンが火口まで近づけることを知っているのは、・・・顕現教(けんげんきょう)だけ。まさか、K国と顕現教が(つな)がっている?」


大町(おおまち)技術員によって、全滅させられたと思っていた顕現教な残党がまだいるという可能性を考えて、鮎里はゾクッとした。

「K国と顕現教のつながりは、まだ分からないけれど、三焼山(みやけやま)でドローンの性能を見ていた、()しくは知っている人間がいたら、必ずそれを利用して富士山に近づこうとするんじゃないかと、美規(みのり)は考えたのよ」


「じゃあ、俺達は(おとり)なのか?」

鞠斗が頭を抱えた。

「まさか、あなた達をフィンランドに送るに当たって、なにか危険はないかと考えて、この結論に達したのよ。

美規が可愛いあなたを囮にするなんて、そんな目に遭わせるわけないわ」


鮎里がすぐ反応した。

「可愛い?」

「美規が、薫風庵にいた4人を育てたんだもの。上野動物園の動物移送作戦だって、『かわいそうな象』の話を思い出したから、許可したんでしょ?あんた、大好きだったじゃない?あの絵本。あの本を持って、『みーちゃん、読んで』って美規にせがんでいたじゃない」

「そう・・・だっけ?」

鞠斗が目を泳がせた。


「あの子は、確かに人の気持ちがよく分からないところはあるけれど、子育てって、言葉が話せない子供の気持ちを理解しようとするところから始まるじゃない?」


「あのー」

涼が遠慮深く話を遮った。

「思い出話をする時間はないと思います。今、桔梗学園のドローンは核爆弾を乗せて、富士山の火口に向かっているんですよね」


美子は、手を振った。

「ドローンに乗り込めても、思うように目的地につけると思う?」


鞠斗は、冷静さを取り戻した。

「もし、ドローンが奪われることを想像して、涼に桔梗バンドを渡していたのだとしたら、晴崇がそんなことはさせないはずです」

「そう、最初は富士山に向かっているように思わせて、最終的には、こちらの思うところに運ぶでしょう?」


鞠斗は、青い顔をして小さい声で尋ねた。

「まさか、C国とK国の間の、青頭山(せいとうさん)?」

「やめてよ。そんなところに落としたら、C国も敵に回すし、津波も起こるわ」

「じゃあどこに運ぶんですか?」


「知らないほうがいいよ。晴崇には汚い仕事をさせちゃうけれど、秘密はなるべく少ない人数で共有するほうがいい」


「そんな晴崇が可愛そうじゃないですか」


美子は小さくため息をついた。そして、鮎里に向かって言った。

「これから乗るフェリーも安全かどうか分からない。だから、あなた達2人を指名したのよ。乗船したら、救命ボートを必ず確認しなさい」


鮎里は、何故、鞠斗がフィンランドに行かなければならないか、美子の表情から読み取った。多分、晴崇なら、ドローンに乗っているK国のスパイを殺すことも(いと)わない。しかし、鞠斗はこれから起こる出来事に対して、非情な手段を迷わず取れるほど、割り切れた人間ではないのだ。


「鞠斗、私達だからフィンランドに行けるの。気を引き締めていこう。鞠斗は船酔いに強い?」

「佐渡に向かう船でも酔う」

「よし、今晩は軽く寝て、朝ご飯は抜きでフェリーに乗ろう」

そう言って、鮎里は鞠斗の腕を取って、寝室に引きずっていった。



 2人が病室から出て行った後、涼は美子に目を向けた。

「起き上がっていいですか?」

「いや、救急病院からここへ運ぶのにも無理をさせたから、ストレッチャーを出すよ」

「俺、重いですよ」

「空飛ぶストレッチャーだよ。蓮実水脈(はすみみお)の発明した技術は、乳母車や車椅子以外にも応用できるんだ。ベッドからストレッチャーに移動するのも、自動だよ」


そう言うと、美子は部屋の隅からストレッチャーを運び、涼は身体を動かすことなく、ストレッチャーに移動させられ、2人は九州支社の地下に移動した。


「こんな機械がどんどん発明されれば、看護師の仕事が楽になりますね」

美子は涼も優しい男だなと思った。

「大丈夫?頭はクラクラしない?」

「大丈夫です。自動車はここに置いていくんですか?」


涼の質問に、美子はにやっとして、手に持ったリモコンのスイッチを押した。

「見てごらん」


涼達をキャナルシティに運んだワゴン車のタイヤは格納され、代わりにファンが横に張り出し、ドローンの形状になった。


「え?自動車型ドローンですか?じゃあ、ここまでは、飛んできたのですか?」

「いや、来る時は自動車で来たよ。ドローンだと分かると、この車も狙われるからね。本邦初公開さ。いや、世界初公開かな?」

「このまま、出発するんですか?」

「そう、警察に呼び出されると、富士山の噴火前に帰れないよ。ここから一気に桔梗学園に帰るよ。舞子の目が涙で溶けないうちに」



 美子と涼が乗った最新式ドローンは、地下から地面の天井を持ち上げて、夜の空に飛び立った。

(サンダーバードみたいだ)

涼は祖母と一緒にTVの再放送を見るのが好きだった。


最新式ドローンは、ライトもつけず、AIのナビだけで桔梗学園までまっすぐ飛んでいった。

涼は横になっても見えるモニターに釘付けになった。


「日本海側の都市にだけ、明りが見えるんですね」

「そうだね。太平洋側や四国は人が住んでいないからね」


美子はそう言うが、四国や首都圏の地下では着々と再建工事が進んでいた。


「富士山はまだ静かですね」

「いや、浅い低周波地震が増えているらしい。それに山が大分膨張しているんだ」

「溶岩ドームですか?」

「そうだね。今度の噴火は、宝永の火口とは別の2つの火口から始まるから」

「早く帰りましょう。どうしてそんな危険な富士山の上を飛んでいるんですか」


「例のドローンがいないか確認するため。K国のハッキング技術が、私達を上回っているならその可能性も0じゃない」

「いたらどうするんですか?」

「そのドローンを捕まえて、日本海まで引きずっていく」


涼は美子の目が笑っていないことを確認した。そして静かに言った。

「お供します」

そう言って目をつぶった。


「ありがとうね。桔梗学園から飛ばしたLadybugが8機、静かに山頂に待機しているけれど、所定の位置から動いていないから、大丈夫みたいだ」

涼は目を開いて、美子の顔を再び見た。そして息を吐いた。


「Ladybugって、『天道虫』のことですよね。それは何ですか?」


「ああ、琉や蹴斗から聞いていないのかな?」

「三焼山で使った飛行型映像撮影装置のこと。ソーラーシステムで動くんで、1週間でも充電しないで撮影できるんだよ」


少し安心した涼は、ふっと力が抜け(まぶた)が重くなった。

「寝ていいよ。着いたら起こしてあげる」

そんな優しい声を遠くに聞きながら、涼は気を失うように、眠りに落ちていった。

鞠斗達はフィンランドに旅立っていきました。

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