浴衣とお祭り準備
少し短い話ですいません。ほのぼのしてください
話はトントン拍子に広まった。ちょうど今はお盆。地震があってそれどころでなかったが、桔梗村の子供達も呼んで、盆踊り大会をすることが決まった。
ソーイング部と松子さんは、今ある浴衣を直したり、甚平を縫ったりして、フル回転だった。松子は涼達が島根に行ってしまったので、気の抜けた生活を送っていたが、お祭りと聞いて、俄然張り切りだした。桔梗村のメンバーもこれを機に、研究員達とも白萩地区の仲間とも打ち解け、睡眠する間も惜しんで、裁縫に明け暮れた。
西願寺の宮司の妻である西山悠子も、今年は盆踊りが出来ないとがっかりしていたが、藤ヶ山でできなくても祭りが出来ると言うことで、提灯や踊り櫓を倉庫から引き出してきた。
「祭り」の決行は、8月18日土曜日。
藤ヶ山の参道は上れないので、桔梗学園の周りを金魚の台輪を引いて一周して、それから体育館の中のグランドで盆踊りをすることにした。そして、グランドで花火大会でもしようという計画だった。
そんな美味しい話を聞き逃す久住プロデューサーではなかった。
長岡の業者と話をつけて、花火は浜辺で上げてくれることになった。KKGも調子に乗って、ドローン花火なるものを上げると盛り上がった。
今年は、桔梗村に残っている桔梗高校の男子も参加すると言うことで、久保埜姉妹もかなり張り切っている。紅羽の浴衣は、碧羽が着るということで、久保埜姉妹は碧羽のお下がりをもらおうと思って、碧羽のところに来た。しかし、そこで想定外の話を聞かされた。
「私の浴衣は丈を直して、五十沢藍深に貸すつもりだったんだけれど」
「碧羽さん、なんで私達に浴衣のお下がりくれないんですか?」
久保埜万里が根に持っていったが、碧羽はすました顔で答えた。
「浴衣は1枚しかないんだから、二人は喧嘩するに決まっているでしょ」
「じゃんけんするのに・・・」
久保埜笑万も頬を膨らませた。
「久保埜先生に浴衣をおねだりした?藍深は両親が近くにいないんだから、しょうがないでしょ?」
「私は浴衣を着なくてもいいんで、お二人が着てください」
藍深は3人の言い争いから、逃げるように去って行った。実際、藍深にとって、祭りの絵を描くことの方が楽しいので、浴衣を着なくても良かった。また、浴衣が原因で双子に目の敵にされるのも遠慮したかった。
琉も、今年は妹たちに浴衣を着て欲しかった。栄養失調で細かった玻璃と琥珀は、最近肉付きも良くなって、年相応の体つきになってきていた。頬もふっくらしてきて、兄から見てもなかなかかわいいと思っている。
「琉、これどう思う?」
「大町さん、この浴衣はどうしたんですか?」
「この間、実家に行った時、姉たちからお下がりの服や俺の小さい時の服をもらってきたんだ。浴衣もあったからもらってきてよ」
(大町の姉であれば、自分の伯母に当たるな)
朝顔の柄に、向日葵の柄など、瑠璃と琥珀に似合いそうな柄だった。
「いいですね。喜びそうです。帯もいろいろなのがありますね」
大町の姉たちは、毎年、浴衣を着ていたんだろう。博多や紅型の半幅、兵児帯まであった。その上、祭り用の法被も何枚かあった。大町が小さい頃、着ていたものだろう。
「これは琳と、友達の風太にちょうどいいくらいですね。大町さんから渡してあげてください。みんな喜びますよ」
「そうか?」
大町は口元をほころばせた。
柊は今年は、祭りの裏方に徹すると、金魚すくいや射的などのお祭り道具を引きずり出して、準備に余念がなかった。
「手伝います」
振り返ると、須山美鹿が立っていた。桔梗小学校の子達は、昨年の体育祭を知らないので、祭り道具に興味津々であった。それを見て、琳と風太、四十物李都や生駒千駿までやってきた。
「千駿は去年やったんだから、みんなをリードしてやってくれよ。重いのは僕が支えてやるからな」
「柊さんって、こんなにいい人なのに、彼女いないんですか?」
(その質問の答えは僕が知りたいんですよ)
「はいはい。おしゃべりしていると、危ないよ。あー、美鹿ちゃん。無理しちゃ駄目!」
美鹿が身の丈に余る柱を、支えきれずにふらついたので、柊が飛び出してそれを支えた。
「すいません」
美鹿は小学校低学年ではあるが身体が大きいので、つい力仕事をしてしまう。
李都が美鹿に近寄って声を掛けた。
「美鹿、無理するなよ。熱があるんじゃないか?」
「そ、そんなことないよ」
美鹿は頬に手を当てた。
「柊君、私も手伝いましょうか。大人が2人いたほうがいいですね」
生駒の元叔父、今は女性の鵜飼羊がそこに立っていた。
「羊さん。助かります」
「今日は体育館の保健室当番なんですよ。みんな楽しそうで良かったですよ。千駿は今年こそ玲君と踊るのかな?」
「羊さんの馬鹿」
「あの人、知り合い?」
プンプンしながら倉庫に向かった千駿に追いついた美鹿は、鵜飼羊について聞いた。
「あの人、私の元叔父さん。うちの母さんの弟」
「元って?」
「今は女性になったから、叔母さんかな。でも結婚しているよ。お嫁さんもいるし」
美鹿は話の内容をよく理解できなかったが、この美しい人が、今は女性だと言うことが分かった。しょぼんとして金魚すくいのプールに戻ると、柊が美鹿の顔をのぞき込んできた。
「李都に聞いたよ。熱があるかも知れないって?どれ」
おでこに手を当てられ、ますます赤くなる美鹿であった。
お祭りシリーズは続きます