首都を襲う6回の地震
今日は複数の話をアップします。
8月6日 桔梗学園と加須総理代行をつなぐ衛星通信に、美規から情報が送られてきた。
「〈地震情報〉
2029
8/13 11:30 M7.9 都心南部直下
8/13 11:33 M6.5 相模湾北西部
8/13 11:38 M7.3 都心南部直下余震
8/13 12:00 M6.5 深谷断層帯
8/13 12:40 M6.8 日光
8/14 14:40 M7.3 都心南部直下余震
12/24 17:05 M7.8 関東平野北西部
〈富士山噴火情報〉
2029
8/30 16:45 2か所から噴火 北西の噴火口からは溶岩流が40㎞にわたり流出
噴煙の排出は4年間続く。特に最初1年間は偏西風の影響で富士山から東方向の市町村への被害が甚大である」
この日は加須総理代行のところに、長尾財務大臣と牛島防衛大臣が訪ねてきていた。
長尾財務大臣は、スタンプを押してある者に、災害給付金をK-payで払う件についての方策を相談に来ていた。
牛島防衛大臣は、「四国自衛隊基地」兼「四国国際空港」の建設についての進捗状況についての報告をしに来ていた。そこへ上記の連絡が届いたのだ。
「地震発災の1週間前に知らせるってどういうこと?」
牛島防衛大臣は、持っていたカップを乱暴に机に置いた。少し残っていたインスタントコーヒーが書類にこぼれたのを気にもせずまくし立てた。
「はぁ?M6.5以上の地震が2日で6回?『都心南部直下地震』の3分後に『相模湾北西部地震』が起こるって、荒川河川周辺と神奈川が津波で壊滅するじゃない?」
長尾財務大臣も繰り返し、メールの数字を見てため息をついた。
「『日光』って『関谷断層』って書いてないのは何故?まさかまだ見つかっていない断層なの?」
加須総理代行は半分投げやりに答えた。
「どうりで、北関東も避難区域だったわけね」
長尾財務大臣にはもう一つ気にくわないことがあった。
「2024年には元旦に能登半島沖地震があったけれど、今度はクリスマスイブに関東北西部にM7.8だよ。本当に『ラストクリスマス』になったらどうするつもりなんだ。人が集まっている時に地震なんて、天国から地獄に落とされるみたいだ」
牛島防衛大臣は立ち上がって、熊のようにうろうろ始めた。
「富士山噴火も4年も噴煙が続くって?折角、四国に飛行場を作っても、飛行機が飛ばせないんじゃないか?
加須恵子!あんたは真子学園長から、今の今までこの情報をもらっていなかったのか?
知らないにしては、随分落ち着いているようだが・・・」
長尾財務大臣も、冷たい目で加須総理代行を見つめた。
「そうだね。私の任期も来年も続きそうだから、私が落ち着いている理由を白状しようか。これは真子学園長と話して決めた話ではないんだが、噴火が4年間続いても、我々が活動できる準備に着手しているからだ」
そう前置きして、加須総理代行は思いがけない作戦を話し出した。
作戦を相談したのはJR、私鉄、電気、水道、ガスの各会社の社長達。
その作戦は、地下に地下シェルター都市を作るということだ。アメリカ合衆国やウクライナ、中国や韓国、スウェーデン、フィンランド、ドイツなどには、地下シェルターがある。
しかし、日本には地下鉄を造る技術があるのに、地下シェルターがない。
この際、火山灰に覆われているうちに、核攻撃にも耐えられる地下シェルター都市を造ってしまおうというものだ。
地下鉄の入り口は、今のところ、水の侵入に備えてすべて封鎖してあるが、年明けから、郡山、前橋、敦賀から地下トンネルを掘り進め、都心の地下鉄網につなげる。同時に大阪、京都と名古屋、神戸の地下鉄も、舞鶴、鳥取からそれぞれ掘り進めつなげる。
「トンネル掘って地下都市まで何の交通機関で行くの?」
長尾財務大臣が尋ねると、即座に加須総理代行は答えた。
「自動運転バス」
「また、桔梗学園のバス?」
「製造は水素エンジンに一日の長があるT社に一任してある」
「『地下シェルター都市』ってくらいだから、日常的に人が住めるの?」
「住むというより、現在の地下街でいいと思うんだ。人がいないと、いざというときに黴臭くて住めないとか、食料もトイレもないとかいうのは困るよね」
「ねえ。都会の地上部分はどうするの?」
「それは私が総理代行から退いた後の話かな?」
「恵子、ふざけないでよ。考えているなら教えなさい」
「えー、私の意見を申し上げるなんて、未来の総理達に僭越ですよ」
「恵子!」
2人の強い言葉に押されて、加須総理代行は渋々持論を展開した。
「古い木造の住宅密集地は、悪いけれど、区画整理をして、平安時代のように碁盤の目のような大通りを前もって作っておく」
「それだけ?」
「そう。それだけ。後は都市計画は各区長か企業にでも、任せればいいんじゃない?桔梗学園のように学園都市にしてもいいし、西武のように大企業が高層住宅を作ってもいい。ただ、戦後のバラックのように、各自が勝手に掘っ立て小屋を作るのを阻止できればいいな」
「元々土地の所有権があった人達の主張は?」
「建物の解体料と相殺すればいいんじゃない?K-payでベイシックインカムを配れば、生活に支障はない。後はこちらで指定したところに住んでもらって、そこが不満なら別の地域に行けばいい。食べ物はマルシェのような市を作って、そこで購入してもらえばいい。
新潟のように、都内の土地は都や国の所有物にして、そこから生活に必要な金が収入として振り込まれるのもいいね」
「税収はどうするの?住民税も固定資産税も入らないよ」
「人口も減れば、住民税も所得税も減る。そもそも破綻する税制なんだ、企業から巻き上げればいいじゃない」
「うわ。社会主義、まっしぐらだね」
「まあ、合理的だね。これだけの災害の後、今までのやり方で、避難民の救助や復興支援なんてしていたら、世界最下層の国になってしまう。それは避けたいね」
長尾財務大臣も、来年からの税収を考えると頭が痛いところだ。
牛島防衛大臣は、強引に地下街を作ろうとしたり、首都を更地にしようとしたりする加須総理代行のやり口に違和感を感じた。以前の彼女は、根回しをしっかりして、話し合いの上に政策を練るタイプだったはずだ。誰かに操られているのか、それとも感化されているのか?
ふと真子の言葉を思い出した。確か四国に飛行場を作る話をしていた時だった。
「そこに潜水艦の基地があっても誰も気づかない」
真子学園長が長年準備してきた新しい日本の形は、独裁政権なのだろうか?軍事政権なのだろうか?
彼女の目指す先にどんな未来があるのだろうか。牛島防衛大臣は真子の真意を確かめたくてしょうがなかった。
ほのぼのとした桔梗学園の話ばかりでは、話が進まないので、加須総理代行達の話も差し込んでいますが、なるべく固くならないように心掛けています。