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女子大生との懇親会

N女子大とC大学に別段モデルはありません。悪しからず。多少、学部学科を参考にさせていただいた大学はありますが・・・。



 N女子大学の佐藤教授は、夕べの話し合いで疲れた頭をリフレッシュしようと、校舎の裏口から出て、海まで散歩をしようと考えていた。海まで向かう県道中道(なかみち)は、桔梗学園と桔梗高校の避難者で最初に瓦礫を撤去した場所だ。今はそこにアスファルトが敷かれ、大型車両が通れるように整備されている。

 佐藤教授が県道に出ると、海岸方向に歩く大量の女子大生の列に飲み込まれた。


「佐藤教授~」


列の中から佐藤教授を呼び止める声がした。建築学会で旧知の伊藤教授だった。

「昨日はバタバタしていてご挨拶も出来ませんで、すいません。今日はC大学さんは浜辺に行かれるんですか?」

「いや、昨日KKGとの懇親会を申し出たら、桔梗学園の体育館を会場にしてくださるということで、これから学生とお邪魔するところなんですよ」

「KKGですか?『桔梗研究学園』でしたか?ドローン製造なんかやっているところですよね」

「いや、今回の瓦礫の撤去もKKGが(おこな)ったとか。お話伺うのが楽しみです。桔梗村にC大学の学園都市を共同で造るので、どんな方々がいるか、膝詰めでお話ししないと分かりませんよね」

「昼食も出るんですかね?」

「うちが持ち込んだものを供出するって言ったら、禁酒って言われてね。まあ、園芸学部製造のサイダーなんかも持ち込むつもりです」

「ほう?私も参加したいですね」

「N女子大もKKGさんをお誘いしたらどうですか?今回は残念ながら、この入場証がないとは入れないみたいですけれど」

伊藤教授の腕には白いバンドが巻かれていた。見ると女子学生全員の腕に同じものが巻かれている。

「では、あそこが入り口みたいなので、今日はこれで失礼します」


そう言って、伊藤教授は桔梗学園の門の中に消えていった。



今日も仏頂面の柊が、プラカードを持って体育館までの誘導をしていた。

「柊、顔が怖いよ」

「琉は、顔がにやけているよ」


「こんにちはぁ。今日はよろしくお願いします」

そう言われると口の端が上がりそうになる柊だったが、琉の手前、必死に無表情を決めているのだ。


「ねえ、もう一人男の人いたね。桔梗学園って男子禁制じゃないの?」

「私、あの人わかるよ。昨日ドローンの操縦していた人だよ」

「へえ、運転手さんか?」


わかりやすく肩を落とす琉を、柊が肘で小突いた。

「後で、ちゃんと自己紹介しろよ。KKGの男子研究員1号ですって」

「お前なぁ。最近は小学生の四十物李都(あいものりつ)までKKGに出入りしているんだよ」

「あれは、ギフテッドだから、例外、例外」

「でも、李都はさ、体育なんかは最近、小学部と一緒にやっているんだ。小学校の人数が増えて楽しそうだぜ。うちの琳と風太と遊んでいるのを見ると可愛いよ。桔梗小学校から来た子の面倒なんか見ちゃって、少し大人ぶっているんだ」



C大学の列が終わったことを確認して、柊と琉は体育館のグランドに上がって行った。

「舞子達の結婚式が昨日のことのようだね」


 会場入り口で警備の仕事をしている鞠斗を、女子大生はチラチラ見ている。しかし、彼女たちは、鞠斗の左の薬指を見ると、皆一様に落胆する。


「いやだね。鞠斗は女()けに薬指にリングをしているよ」

「鮎里さんが、昨日血相変えて、指輪作っていたのはそういうわけね」

「なんか、鮎里親分が普通の女になってしまって、がっかりだな」

「うちの母親だって、今ラブラブで見ていられないよ。恋をすると女は変わるんだね」

「大町技術員さんが幼なじみだったんだって?」


「ああ、懇親会が始まるよ。じゃあ、自己紹介しなくちゃいけないから、俺は行くね」

琉の背中を、柊は追いながら、ため息をついてボーイの仕事に就いた。



 芝のグランドの中には、木製の大きなトレーが、机代わりに何カ所にも置かれ、それに食べ物を各自運んで、車座になっていた。まだ、余震が続いているので、机を出したくなかったようだ。KKGの面々は、自己紹介のため、今はまとまって座っているが、会が始まるとそれぞれの席に散ることになっている。


四十物李都は、知らない女性達の注目が自分に集まっているので、琉の後ろに半分隠れていた。他にKKGの研究員としてこの場にいる子供は、駒澤賀来人(こまざわかくと)生駒篤(いこまあつし)深海由梨(ふかみゆうり)がいた。当直でない医師や看護師達も数人ここに参加していた。


 

 会の始まりは、大型スクリーンに映った珊瑚美規(さんごみのり)の挨拶からだった。美規は多くの人に囲まれると人酔いするので、画面越しの挨拶だった。今日の画面操作は生駒篤だった。


続いて、C大学を代表して園芸学部の加藤教授と工学部の伊藤教授が挨拶した。

「初めましてKKGの皆さん。私はC大学園芸学部の加藤と申します。今回の首都直下地震を前に大学を移転をすることは難航を極めました。特に園芸学部は広大な圃場(ほじょう)やハウスなどが必要で、東北や北海道は条件が厳しく、半ば諦めておりました。

 今回、桔梗村の津波浸水域の塩害対策を任せていただき、且つ、緑溢れるキャンパスを作るため、造園の機会までいただけたことを感謝しております。KKGさんは、水害後の瓦礫撤去をこの短期間に終わらせるノウハウがあるとのこと、今日の懇親会だけでなく、今後も多くを学び合える関係を構築したいと思っております。

また、本日は我々が用意させていただいたのは、松の葉の酵母を使ったサイダーです。

小さいお子さんや胃腸の弱い方は飲み過ぎに注意ください」


「続いて、工学部の伊藤です。貴重な備品搬出にご協力いただいて深く感謝しています。KKGさんの、瓦礫再生技術や竹材による建築、水没材の再生方法、災害用コンテナ住宅など、多くの学びがあると思います。懇親会以降も多くの交流の場が出来ることを期待しています。

では、皆さんお立ちください。両校の末永い交流を祈念して、乾杯!!」


 乾杯が終わると、KKGの自己紹介と教授陣の自己紹介が始まった。


生駒は数百人の女子大生前で話すのは恥ずかしいので、KKGの自己紹介をビデオに仕立てた。


「KKGとは『桔梗研究学園』

桔梗学園の卒業生を中心に、様々な研究活動をしている」


その後、代表的な研究と共に、研究者の顔が表示される仕組みだ。


瓦礫分別装置 古田円(ふるたまどか)

災害用野菜貯蔵システム 新井虹子(あらいこうこ)

強化スーツ 笹川香

ウエディングドレスデザイン 糸川芙美(いとかわふみ)


 高木紅羽(くれは)のドレス姿が流されると、会場からため息が流れた。


空飛ぶ車椅子 蓮実水脈(はすみみお)

竹材による建築 カーペンターズ(名波(ななみ)、栗田、須山(すやま)・・・)

大型ドローンパイロット、ドローン世界大会出場((もり)大神(おおかみ)、駒澤・・・)

大規模データ集積 深海由梨、四十物李都


最後に、「ビデオ作成」の表示の後に生駒篤の顔が一瞬流れて、ビデオが終わった。

大規模データ集積は、桔梗バンド、スタンプ等のデータ解析と、将来的には「K-pay」という電子マネーを桔梗バンドに付与する研究をしているのだが、とても表に出せない研究なので内容をぼやかしてある。

担当者の名前を表示せず、顔写真だけ表示したのもすべてそういう配慮があってのものだ。杜晴崇(もりはるたか)不二鞠斗(ふじまりと)は、KKGの所属ではなく、桔梗学園の所属なのでビデオの紹介から外されている。



「初めまして、ドローンパイロットの方ですよね」

「はい、大神琉です」

「可愛いですね。お子さんですか?」

琉の膝には李都がちょこんと座っていた。

「違いますよ。李都、誤解されるから膝から下りてくれよ」

「嫌だ。いろんな人に髪をいじられたりするの嫌だから、ここにいる」

琉の肩に手を置いて、李都の母親、四十物李華(あいものりか)小児科医が口を出した。

「すいません。李都の母親です。琉君、今日1日李都を頼むわ」


確かに、李都は黙っていれば、女の子と見えるような透きとった肌の美少年だった。

髪も母と似て、どこまでもまっすぐで、それを腰まで伸ばしているので、色々なタイプの大人から声を掛けられる。晴崇のように前髪を長くしてひげでも伸ばせば、言い寄られることもなくなるのだが、あと10年は無理だろう。

 

「綺麗なのにも、苦労があるんだな」

琉は女性との出会いを諦めて、1日李都と過ごすことにした。

「しょうがないな。李都何か食べ物を取ってこよう」

「喉が渇いた。松葉のサイダーじゃないのがいい」

「そうだな。あれは苦いからね。コケモモのジュースにするか」


「コケモモのジュースがあるんですか?私も行きます」

門のところで会った女子大生が、ついてきた。

「すいません。『ボーイ』さん。コケモモのジュースくださいな」

「しばくぞ、ボケ」

柊がふざけながらも、2人分のジュースを寄越した。

「私もください。この近くにコケモモがあるんですか?」

「はい、桔梗ヶ山と藤ヶ山にあります」


飯酒盃(いさはい)医師が柊の背後から首を出した。

「柊君、説明が足りないよ。お嬢さん、今は震災の後、熊や猪など多くの野生生物が山に逃げ込んでいるので、山に行っちゃ駄目だよ」

「でも、このコケモモはどうやって取ってきたんですか?」

「うちにはハンターがいるから、大丈夫」


柊は暴発事故で鞠斗を誤射したことを思い出してしまった。それを見て飯酒盃は話題を変えた。


「お嬢さん、季節外れだが、ジビエ料理もあるんだよ。匂いがするから、別室に用意してあるんだ。食べるかい?」

「えー。お友達も連れて行っていいですか?」

「いいよ」

「みんなー。ジビエ料理があるんだって-」

女子学生が消えた飲み物コーナーの前で、李都が肩をすくめた。

「琉君、彼女達はまだ、食べ盛りなんだよ。諦めな」



古田と栗田の回りには、教授達が集まっていた。古田はパソコンに瓦礫分別装置を表示して、機能について解説していた。栗田は竹材で作った様々な建築物を表示していた。


「ほー。じゃあ、桔梗村から移住した人達は、自分で重機を操縦して自分の住居を建設中なんですね」

「はい。女性が多いと力仕事が出来なくてと言われますが、そもそも人力でする作業を少なくすればいいんですよ。私は背があまり高くないんですが、この靴には10cm~20cm(かかと)が高くなる機能がついているんで、え?上がっても安定していますよ。履いてみますか?」



窓際で、肉にがっついていた鮎里に、加藤教授と伊藤教授が話しかけてきた。

「あの下に見える庭は綺麗ですね」

「はい。『沈黙の花園』って言うんですよ」

東屋(あずまや)だけじゃなくて、新しい小屋もあるんですね」

「はい。最近カーペンターズで作ったんです。すべて竹材で1軒作れないか作ってみたんですよ」

「あれ、2階のカーテンが動きましたね」

「この学校は、どこにも人目があって、二人っきりになれる場所が少ないんでね」

鮎里は薬指の指輪を見せて、片目をつぶった。


大人の教授達には、それ以上の説明はいらなかった。



「へー。君はドローン世界大会に行ったんだ。じゃあ、君もあの大型ドローンを操縦できるの?」

駒澤賀来人も女子大生に囲まれていた。

「まあ、一応」

にやけている駒澤の横に中1になった深海由梨がちょこんと座った。

「賀来人君、五月(さつき)ちゃんに言いつけちゃうよ」

「あれー。賀来人君彼女いるの?」

「ええ、まあ、世界大会には一緒に行きました」

「いやぁ、世界大会に彼女を連れて行くなんて大人-」


「そうではなんて、子連れで世界大会に行った人の、子守のために連れて行ったんです」

「それって、さっき写った女の方?かっこいい方ね」

「はい。『K』というコードネームで日本チャンピオンだったんです」

「世界大会を最後に、今は引退したの?」


「何故ですか?双子を産んでも、まだまだ活躍してもらいますよ。この大会にはKのお婆さんも参加したんですよ」

「うそー。かっこいい。子供はどこに預けていったの?」

「いや、日本予選の時は連れて行かないで、母乳が溢れて貧血になったから、世界大会の時は連れて行ったんです」

「お祖母ちゃんは子供の世話をする人だったのね?」

「啓子さんはドローン大会の補欠で、子守には専門のナニーを連れていったんです」


女子学生にはよく分からなかったようなので、深海由梨が説明を始めた。

「桔梗学園の卒業生は、九十九(つくも)カンパニーに就職する人が多いのですが、その中にKKGとシスターコーポレーションの2つの部門があるんです。シスターコーポレーションは、女性が子供を連れて仕事をする手助けをするナニーを養成しています」


「ナニーって、保母さんのこと?」

「どちらかと言うと、メアリーポピンズに近いでしょうか。海外出張する場合は、飛行機やホテルの手配から、食事の手配、子供の教育まで賄いますから、『秘書』兼『教師』兼『家政婦』の3役が出来る人です」

「うわー。私も欲しい。ついでに亭主と義父母の世話もして欲しい」

いつの間にか、輪に入っていた伊藤教授が、羨ましそうな声を上げた。


由梨は、少し眉を寄せて続けた。

「そうなんです。日本では結婚したというだけで、女性だけがそれらすべての仕事を無料で行わなければなりません。子作りも含めて、召使いのようではありませんか?」


とても中学生の言葉とは思えない辛辣(しんらつ)な物言いだ。

「シスターコーポレーションは、人によっては社長秘書などより高給取りです。でも、リピーターも多いのです。1週間の出張で、旅費や食費は相手持ちで、30万円が料金の相場です」

「すごい。3週間行ったら100万円近い」


「深海さんはナニーになりたいの?」

「私は、人に合せるのが苦手ですからKKGの方に来ました。賀来人君の彼女は、小学生から子供の世話をしていて、料理も上手です。英語は・・」

「世界大会では、不自由しなかったな。俺たちが先に帰った時も、後からオーストラリア経由で日本にしっかり帰ってきたよ」

賀来人が答えた。

「賀来人君、年上の彼女がいるんですね。子供が出来ても安心ね」

「いや、五月は俺より二つ下だから中学3年生です」


由梨は、いつまでも古い考え方から抜け出さない女子大生にしびれを切らした。

「多分、結婚しても五月は世界を股に掛けたナニーになるんじゃないかな?」

「その間、子供はどうするんですか?」

女子大生はまだ粘った。


「桔梗学園は、ここの学生や卒業生の子供を無料で預かるサービスをしています。土日は母親達が協力して面倒見合うんだけれどね」

賀来人が琉を指さしていった。

「あそこにいる琉君や柊君は、幼い妹を連れてここに入学したけれど、土日は他の子の相手もしながら、自分の子の世話をしていたな」


「便利ですね」

伊藤教授は羨ましそうだった。


賀来人と由梨は、彼らにはなかなか理解されないと諦めた。

あきらめ顔の二人の頭を撫でながら、鮎里が話題に入ってきた。

「便利ですよ。いつでも妊娠できて、出産できて、子育てしながら仕事は辞めなくていい。

男性に搾取(さくしゅ)されることはない。素敵な学校です」


鮎里はそこにあったサンドイッチをひょいと摘まんで、立ち去った。


「あの人は何者ですか?」

伊藤教授が賀来人に聞いた。

「救急救命医師で、登山家でハンターかな?」


鮎里は、鞠斗を、指輪にもめげず近寄る女子学生の輪から救出して、会場から消えてしまった。


鮎里は恋のハンター?でもあるようだ。

東北方面では雪の便りが聞こえるようですが、物語の舞台はまだまだ、炎天下です。そう言えば、物語の1年前は、甲子園に行ったり、花火大会に行ったりしましたね。震災が続いても、楽しい話も書きたいと思っています。

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