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桔梗学園の商売

島根分校に送られた舞子と涼は何をしているのか・・・という紹介です。

 6月13日ヘリでの視察を終えた平野復興大臣は、島根に新設された「南海トラフ地震復興庁」にやっと到着した。先に到着していた秘書に迎えられたが、建物の中には誰もおらず、県知事も市長も挨拶に来なかった。

秘書の用意した弁当を、ヘリのパイロットも含む5人で食べていると、窓の外に紫色の飛行物体が見えた。秘書が慌てて屋上のヘリポートに出ると、ヘリの隣に上手に停めた小型のドローンから若者が3人降りてきた。


「お食事中でしたか」

「あ、窓から見えましたか?」

「初めまして、私、桔梗学園島根分校の代表百々梅桃(どどゆすら)です」

「ご丁寧に、屋上では何ですので、大臣がおります会議室までご案内します」


こういう場を舞子は数回経験しているが、涼は初めてなので、どうもギクシャクして、スーツ姿がボディーガードのようにしか見えなかった。


 会議室では、大臣と副大臣、大学教授が立って、桔梗学園からの来客を待っていた。

型どおりの挨拶と名刺交換が終わった後、会議室での話し合いが始まった。


最初に平野復興大臣が話し出した。

「ご存知だと思いますが、私は復興大臣になって、2年目ですが、この南海トラフ地震の対応をするように総理代行に申しつかったのも、昨日ななんですよ。こんなビルしか用意できなくて、おもてなしも出来なくて申し訳ありません」


副大臣が慌てて、大臣の言葉を(さえぎ)ろうとしたが、時は既に遅かった。


「副大臣さんに依頼を受けて用意したのが、『こんなビル』で申し訳ありません。お気に召さなかったようですね。今、高知県からいらした方が多くて、なかなか空きビルが見つからなくて」


険悪な空気の中、舞子がにっこりと笑顔を浮かべて空気を和らげた。


「私どもは、加須総理代行と本学の学園長から、復興大臣様のお手伝いをするよう申しつかっております。復興大臣は既に、被害状況の下見を済まされたと伺っています。

今後、避難した府県民の様子も、視察なさるということで、本学からは水陸両用ドローンを準備しております。運転手もこちらから出しますが、『スタンプ』を押していないと乗り込むことは出来ません」

「あー、いや私も多忙なもので、スタンプを押す機会がなかったのだが」

舞子が涼に視線を送ると、涼は持ち込んだ荷物の中から、スタンプを持ち出した。

勿論、大臣専用のスタンプである。


「それから、島根県など日本海側はスマートホンで連絡が出来ますが、被災地域では通信基地がことごとく倒れています。衛星電話もお持ちしましたが、何台ほど必要でしょうか?」


大臣は秘書の方を見た。

(今あるだけ全部)

「今は、何台ほどお持ちでしょうか?」

涼がそれに答えた。

「今日は20台ほど持って参りました」


副大臣は我慢しきれなくて、涼に話しかけてしまった。

「復興庁の役人を連れてくるにしても、今は、交通網が寸断されていて、引越しもままならないのですよ」


涼は涼しい顔で答えた。

「そうですね。取りあえず20人ほどがいらっしゃるのであれば、こちらから大型ドローンを出してお引っ越しの手伝いは出来ますが、引越しは1台でいいですね?1台に人間であれば、50人。大型バスなら1台そのまま乗れます」


「あの、20人が住む場所は?」

「もうどの建物も避難してきた方でいっぱいです。このビル内であれば、地下に宿泊施設を作ることは出来ます。簡易ベッド、洗濯乾燥機の用意もありますし、風呂には温泉を引くことも出来ます」

「それは何時(いつ)までに出来ますか?」


「1週間もあれば?」

涼が梅桃をちらっと見たが、梅桃がOKマークを出したのを確認して、次を続けた。

「1週間で作りましょう。ところで、相見積(あいみつ)もりは取らなくていいですか?後で、お支払いを渋られても困りますので」


梅桃が平野大臣に語りかけた。


「6月15日には、首都直下地震の対策会議が開かれるそうですね。そうなったら、我々は早めにお仕事を下さったところを優先させていただきます」

「わかりました。ここで仕事が出来るよう1週間で仕上げてください。価格は言い値でいいです。

私も2年間復興庁で働いてきました。その経験を生かして、全力で西日本の皆さんの生活を守るお手伝いをします」


(各地の方々の不満を聞き、調整する係なんだけれど・・・)


梅桃は、心の中で思ったことは表に出さず、商売人の顔で応対した。

「ありがとうございます。今日、契約していただいた御礼に、ドローンのバイオエネルギーが必要な場合は、島根分校にお知らせください。すぐに定価で給油いたします」


最後に、涼は秘書に紙で請求書を出した。秘書は請求書が用意されていたと言うことは、すべて相手の思うとおり、商談が進んだのだと理解した。ただ、そこに示されていたのは、思いのほか安い金額だった。


3人を見送りに出た秘書は、平野大臣に聞こえないところまで来ると、涼に声を掛けた。

「あの、こんなに安い金額でいいのですか」

涼は唇の端を上げて、答えた。

「うちは、中抜きも時価もありません。どの方との商売でも最初に決めた金額で行っております。それに、どこでどのくらいの品物やサービスが必要かは、前もってAIで予測して準備しているので、すぐ出せるんですよ」

「桔梗学園には(もう)けはあるんですか?」

「我々の生活費と学費と研究費、製造にかかるコストが出ればいいので」


涼は知らないが、未来の出来事が分かるということは、手持ちの金を投資で増やすことが出来るのである。地下の情報担当は、資金調達係でもあるのである。



梅桃は、親も付いてきていないので、今まで一人で島根分校を回してきました。ファーストチルドレンの分校担当女子は、なかなか、強かです。

次回は荒れそうな「東日本知事会」です。

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