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加須総理代行

初の女性総理を狙う3人は、今回も共闘するようです。

 平和な島根分校と違い、首相官邸は戦場のような慌ただしさになった。

まず、6月11日午後に、加須(かぞ)官房長官は蟄居(ちっきょ)を解かれ、総理官邸に呼び出された。

「もっと地震の話を真剣に話してくれれば、私だって、しっかり対策を出来たんだよ。次からはスタンドプレーは止めてくれ」

石頭(いしあたま)総理大臣は、開口一番、加須の予想していた言葉をまくし立てた。


「総理はすぐ対応なさってではありませんか」

一応、石頭総理の機嫌を取った。総理は、地震の直後には『南海トラフ地震臨時情報』を出して、平野復興庁大臣を中心に、臨時会見を開いた。まあ、会見の最中にマグニチュード9.0の地震が起こって、総理が我先に机に潜り込んだ姿がTVに映し出されたが・・・。


「総理、お呼び出しになった理由は何でしょうか?私のお願いした『南海トラフ地震復興庁』を東京ではなく、島根に作る案はお聞き届け願えるのでしょうか?」

「復興庁の大臣は平野和宏(かずひろ)君だよ。彼の意見も聞かなければ」

「昨日の7時のNHKの放送をお聞きましたか?2ヶ月後には、首都直下地震が起こるのに、東京に復興庁をお作りになるのですか?」


石頭総理のようなタイプは、責任を問い詰めるような質問をすると、意固地(いこじ)になってしまう。


「もしかして加須君は、『首都直下地震復興庁』も作るのかな?そして、そっちの大臣になりたいの?」


はっきり言って、南海トラフ地震対策の人命救助に関する仕事は終わった。後は、避難した人々の苦情や避難先との折衝などが主な仕事だ。大阪府知事と福岡県知事にでも主導権を渡してしまった方が楽だ。それに加須官房長官は、東京都知事大池蘭子(おおいけらんこ)が苦手だった。彼女を上手くコントロールする自信がなかった。


「まさか、首都直下地震復興庁大臣こそ、平野大臣が適任だと思います」

「そうだね。君は宮内庁を飛ばして、防衛庁も飛ばして、話をしてしまうからね。根回しが下手すぎるんだよ」


石頭総理は、加須官房長官の人気が出すぎることを警戒していた。

(この女、いっそ、ジャンヌダルクのように最前線に押し出して、最後は責任をかぶせて、

火あぶりにでも、いや、現代ならネット上で「炎上」させれば、政界から追い出せるな)


しかし、そんな石頭総理の考えは、加須官房長官には想定内だった。そこで、「押しても駄目なら引いてみな」作戦を繰り出した。


「そうなんですよ。私、根回しが下手で、男性の皆さんに嫌われているんで、人の上に立つなんて絶対に嫌です。次の地震の対応は、首都移転を伴いますよ。皇居だって移転しないといけないし、右翼の方に⚫されてしまうかも知れませんし、早く、引退して安全な北海道に転居しようと考えているんですよ。是非、石頭総理自ら陣頭指揮を執ってください」


 石頭総理は、「首都移転」と「皇居移転」までは考えていなかった。そんなことをしたら、どんなに上手くいっても最後には、各方面の非難を受けて、総理から引きずり下ろされるのが落ちだ。一旦病気になった振りをして、総理代行をこの女に任せる方が得策かも知れない。


石頭総理は突然胸を押さえてうずくまった。あまり下手な芝居で、うっかり笑ってしまいそうになったが、加須官房長官はもっと下手な芝居で応じた。

「どうなさったんですか。総理、胸が苦しいのでしょうか。誰か、誰か。総理が・・・」



 数時間後、加須官房長官は総理大臣代行になってしまった。

総理大臣執務室に座った加須恵子を見下ろして、牛島防衛大臣と長尾財務大臣は、腹を抱えて笑った。

「よく似合うよ、その椅子」

牛島の笑いは止まらなかった。

「言っておくけれど、まだ代行だからね」

一足先に総理の席に座った親友に牽制(けんせい)を掛けたのは、長尾だった。


「分かっているよ。私は悲しきジャンヌダルク。ガラスの天井を破るのはお二人のどちらかだね。

さあ、椅子を楽しむのはこのくらいにして、まずは平野君に島根に行ってもらおうね。

その後、首都移転と皇居移転。それから東日本知事会の開催だね」


「さて、そこで、これを見てもらおうか。あんた一人に仕事をさせはしないよ」

長尾財務大臣が、紙を一枚机に開いた。

「首都機能移転計画」


「おー。流石、金庫番。仕事が早いね。これって、各県の県庁に各省庁を丸投げする案かな」

「勿論、普通は2ヶ月で移動なんて出来ないよ。でも国家公務員の皆さんはとても優秀でいらっしゃるから、このくらいの無茶振り、いけるんじゃない?」

「防衛省は勿論、北海道だね」

「まあね。皇居を五稜郭に移すに当たっては、早めに動いて貰わないとね。久住(くすみ)兄妹に移動先を当てられちゃったけれど、突貫工事で人が住めるような城を作って欲しい。

言っておくけれど、一夜城だからって張りぼては駄目だよ」


「おいおい。こっちだって、北海道分校と協力を始めて、地下に防空壕も作ってあるんだ。北海道知事にも話は通してある」

流石、自分の城に関しての手回しは早い。


「問題は人の移動だね。今回は、県ごとに姉妹県を作るわけには行かないよね」

加須総理代行の懸念に、長尾財務大臣が答えた。

「そうだね。官公庁や企業が動いた先に人は移動するけれど、農家や小規模小売店の人はなかなか動けないな」


ここで牛島防衛大臣が突飛なアイデアを提示した。


「なあ、無料の出稼ぎ列車を出さないか?」

「はあ?」

「もう、8月に首都直下地震があるって、放送したんだから、避難先の求人情報を公開して、移動するために新幹線代は国家が負担するって、7月限定でキャンペーンを打つんだ。勿論、無料で乗るためには、駅で手の甲にスタンプを押してもらう。そこで人々の移動を把握できるし、税の徴収にも困らない」


求人情報サイトは、すでに晴崇(はるたか)が作ってある。それを牛島は知っていたのだ。


「それ、案外いいかも?外国人は一旦帰国して貰って、その分の仕事を日本人にまかってもらおう。外国人が帰国するための船賃くらい、国庫から出してもいいね」

「引き揚げ船か?」

「そうだね。戦時中と同じ強引さが、必要かも。すべて終わったら、戦犯として会議に掛けられそうだね。あー、でも、うちの墓は埼玉にあるからね」

「大丈夫だよ。靖国神社に合祀(ごうし)なんてしないよ」

「あんたたちの冗談は、もう笑えない域に来ちゃっているよ」



加須総理代行から、6月14日には各官公庁のトップと県知事にメールが届いた。

メールの見出しは「首都直下地震に伴う官公庁移転について」。

東日本知事会は、加須官房長官いや加須総理代行が主導権を握ることになった。

明日は半割れの方が、動きます。東南海トラフ大地震が起こります。

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