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6月11日 東南海トラフ大地震勃発

ついに東南海トラフ大地震が起こりました。地震の様子は、少し離れた島根分校の内部を表現する程度にとどめました。

 6月11日、島根分校ではいつもと違う朝になっていた。

ここ、島根でも、新潟地震の時の揺れとは、比較にならない揺れが来ると分かっていたからだ。


まず、食器という食器はすべて、引越し業者が使うような食器梱包用のケースに入れられ、安全な場所にしまわれた。そこで、朝食は梅干しと鮭入りのお握りに、紙パック入りのジュース。昼食用には卵とハムが挟まれたコッペパンに、紙パック入りの牛乳が用意されていた。


保健室にある医療用具も、養生(ようじょう)されて箱詰めされた。子供がいる親は、保育施設に集まった。そして、シートベルトのようなものに身体をくくりつけて、その時を待った。

地震の揺れで立っていられないだけでなく、地面を転がってしまうことが想定されるからだ。屋上部分にあるプールからは水がすべて抜かれた。研究員や中高生達は、体育館の観客席シートに設置された、安全ベルトに自分の身体をくくりつけた。そして、通信機器とバリアに繋がる電源以外のブレーカーが落とされた。


9:00


周辺の森や山から鳥が一斉に飛び立った。

ミシミシっと、建物がきしむ音をさせた。と思うと、ドンと下から突き上げるような揺れがやってきた。


椅子にたたきつけられた梅桃が「うー。座布団も必要だった」と尻をさすった。


大きく左右に床が揺れた。揺れ幅は1mもあるだろうか?


涼が「高層ビルにいたら、ひとたまりもないだろうな」と考えながら、冬月を強く抱きしめた。


 柔らかいシート型の大型ディスプレイに、高知上空からの映像が流れた。


真子は過去に見た津波の映像を思い出し、固く目をつぶった。

目の奥に大切な子供達の顔が次々に浮かんだ。

息子の(あきら)や娘の志野(しの)の顔が浮かんだ。

(あの子達は安全なところに逃がしたから大丈夫)


次に、自分の子供のように育てた晴崇(はるたか)(きょう)の顔が浮かんだ。

(薫風庵の耐震構造は大丈夫だろうか、それぞれパートナーと一緒だから大丈夫)


最後に薫風庵で子供の頃から遊んでいた、鞠斗(まりと)蹴斗(しゅうと)の顔が浮かんだ。

(西日本知事会の後、すぐドローンで桔梗学園に帰した鞠斗は、上手く鮎里に気持ちを話すことが出来ただろうか。最後の時は、大切な人と過ごして欲しい)



「きゃー」「うわー」と言う声が、周囲から聞こえたので真子が目を開けると、ディスプレイに過去見たことのない大津波が映った。


東日本大震災の津波の倍はあろうかという大津波が、駿河湾を襲っている。NHKのヘリコプターはその映像を克明に写しだした。ヘリは静岡から愛知へ移動していく。伊勢湾深く水は流れ込み、名古屋を津波が襲う。名古屋城が水の中にぽつんと浮かんで見えた。中部国際空港ももう海の一部だった。

報道のヘリはさらに南下し、津波が、和歌山県の海岸線の小さな港町をすべて飲み込んでいる様子を映し出した。

ヘリはそのまま淡路島を映し出す。大鳴門橋は真二つに割れ、明石海峡大橋は大きく波を打っていた。

大阪の埋め立て地一帯は淀川を(さかのぼ)る水に沈んでしまった。海遊館の屋根がかろうじて見える。ヘリは大阪市内を舐めるように映し出していく。自衛隊の救出により、無人となっている大阪では、駅中心の丸ビルが、真二つに折れて倒れているのが見える。



 保育室は最も耐震基準が厳しい。そして、揺れも吸収されるようになっているので、地震にあっても揺り籠のように、ゆったり揺れるようにはなっていた。親たちは、子供と一緒に安全ベルトに身体をくくりつけて、この時を過ごしていた。

 いつもはTVはつけないのだが、連絡用ディスプレイに今日はNHKの映像が流れるようになっていた。


「あの姿が、東京でも起こるんだね」

舞子の言葉に涼が答える。

「いや、関東で起こる地震は直下型だろう?阪神淡路大震災のように、首都高速やビルがもっとたくさん倒れるんじゃないかな。マグニチュードは小さくても浅いところで起こるので、緊急地震速報が間に合わないかも知れない。それに突き上げるような揺れなので。建物の被害は大きいかも」

「じゃあ、橋の下なんかにいたら危険だね」

「道路の亀裂に落ちることも考えられるよ」



ヘリが映し出す映像は、瀬戸内海周辺を映し出していた。

神戸も、神戸空港や神戸ポートアイランドが、何度も津波に襲われていた。



 体育館では地震の揺れに怯えた子供の泣き声が響く。しかし、シートベルトを外すわけには行かない。10時にはもっと大きな地震が来るのだ。10時までも、数回の余震が感じられた。



10:00


ミシッ。地面が大きく割れるような音がした。

そして、9時よりも情け容赦のない揺れが、もう止めてくれと思うほど長く続いた。


梅桃が真子の異変に気がついて声を掛けた。


「真子学園長?真子学園長?大丈夫ですか?」

真子は過呼吸に陥っていたのだ。荒い呼吸で目がうつろになっている真子を、保健室に連れて行けたのは、10時を30分も過ぎてからだった。10時の揺れの後、何度も余震が続いたからだ。


10:30


梅桃も、島根分校のスタッフに指示を出した。

「取りあえず、大きな地震はやり過ごしましたね。シートベルトを外してください。

安否確認や施設の確認は必ず複数で行ってください。

子供達もトイレに行く時は大きいお姉さんと一緒に行きなさい」


もう、恐怖でお漏らししている子もたくさんいたが、取りあえず、トイレに行かせた。

そして、島根分校の全員で、屋内運動場の芝生の上で、コッペパンで少し早い昼食を取ることにした。



映像には、映画のような津波が映っていて、住宅も流され、高層ビルも破壊されたが、そこに被害者の姿は全く映っていなかった。


長岡の病院でその映像を見た塩澤アナウンサーは、人知れず涙を流した。

自分の仕事で多くの人の命が助かったことが嬉しかったのだ。



 コッペパンでの昼食が終わった島根分校では、事前の打ち合わせ通り、全員で施設内の点検を行った。地震の被害があったところは、次の地震で壊れるかも知れない。

 廃校になった小学校を再利用した建物内部で、水道管の破裂が見つかった。また、旧小学校の体育館の屋根と壁面が一部剥がれたり、亀裂が入っていたりした。

旧小学校は、7月に入ったら補修工事をすることにした。首都圏直下地震で避難してくる人に貸し出すかも知れないからだ。桔梗学園同様、カーペンターズも育成してあるし、修理用の材料のストックもある。工事車両も自前のものが用意してあるのだ。


 12時にはブレーカーを入れて、すべての電気設備の点検をした。余震に怯えながらも、入浴を済ませて、夕飯は温かいご飯とコーンスープ。野菜サラダに、蒸し鶏が出た。

デザートは、なんとデラウエア。

 

翌日は子供達は、楽しく過ごせるように、体育館でボール遊びをした。桔梗学園と違って、出来て数年しか経っていない分校の子供達は、みんな小学生以下で、母親もみんな若かったので、幼稚園のお楽しみ会のような様相になった。

 

 数少ない男性の涼は、保育コースに入ってきた数人の男子と一緒に、ボールから逃げ回る役をやったりして、ヘトヘトだったが、みんなストレスは発散できた。

次回はついに加須官房長官が、権力を手に入れます。

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