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新潟地震の日 島根分校で

1回書いたものを、書き換えてしまいました。難しい話題ですよね。

 6月2日、全国に新潟地震の被害が届けられた。それは今までの震災報道とは全く、(おもむき)が異なるものだった。

新聞の見出しの大部分は「新潟の奇跡」。たまたま、新潟市全域で「新潟県広域交流会」が開催され、たまたま同日、新潟警察や医療機関などで、長岡に集まり合同訓練を行っていた。また、「命を救ったタトゥースタンプ」という技術も日本全国に宣伝された。




 6月2日、島根分校ではいつもの朝を送っていた。

百々梅桃(どどゆすら)はいつもの朝の30km走に出かけていき、舞子と涼はグランドでランニングしていた。グランドの中央に置かれた「ちぐら」の中で、冬月が気持ちよさそうに一人遊びをしていた。身体が大きいので、なかなか首が据わらないと心配していたが、据わってしまえば、「ちぐら」の中でちゃんとお座りをして、親が走って近づくと、ニコニコと姿を追っている。

梅桃が帰ってくると舞子に走りながら話しかけた。


「新潟の地震は何時だっけ?」

「11時って聞いているけれど」

「山を走っていたら、なんか動物がそわそわしているし、鳥も高い梢に集まってとまっているんだよね」

「野生の勘かな?うちらもシャワーを浴びて、新潟からの連絡が来るのを待っていようか」

「新潟より、官房長官とか西日本の知事さん達からの連絡かもね」


「涼~。そろそろ上がろうよ。地震に備えてシャワー浴びて着替えちゃおう」


半周先を走っていた涼が、手で大きく○を作った。



 準備が終わって、冬月の授乳も終わった舞子は、保育施設に預けに行った。

場合によっては、外部からの対応で、冬月の相手を出来なくなる可能性もあったから。


ディスプレイの前で3人は、11時を待った。


「緊急地震速報」「緊急地震速報」


「うわ、ここも耐震化が完璧なのに、かなり揺れるね」

「長いね」

TVでは、すべての番組が地震報道に変わった。


「うわー。凄い津波だ。信濃川を遡上していく」

「涼、今日は桔梗高校の体育祭だよね。春佳(はるか)ちゃん大丈夫かな」

涼は少し眉を曇らせた。

「あー。一雄が三津(みつ)ちゃんに、『津波が来たら、ジャイアントスワンの一番上まで逃げろ』って伝えてくれたらしい」

「小学校も運動会だよね」

「うん。あそこは高台だから、親父達は大丈夫だと思う」


「涼君は、冷静ですね」

梅桃が言うと、涼は汗びっしょりの手を、梅桃の目の前に出した。

「そんな訳ないよ。ただ、仲間を信じるしかないから。多分、夜には一雄がドローンを回して助けてくれると思うし、富山と秋田からもドローンが救出に行くって聞いているから」


 家族から離れ、遠方でじれったい思いをしている涼や舞子のところに、想定通り加須(かぞ)官房長官からTV電話がかかってきた。


「真子学園長はいますか?」

「はいはい。起きていますよ」

「本当に新潟に想定通りの日時と震度で、地震が来ましたね」

「嘘は言っていませんよ」


「これで、西日本の知事が本気を出して動いてくれるといいんですが・・・」

「今から動いても、かなり遅いんですがね」


「実は、あの会議の後、知事達はそれぞれ家族を避難させているんですよ」

「そうみたいですね。それをSNSで拡散させた人がいるみたいですね」

「真子学園長が拡散させたのですか?」

「まさか、でも知事達は、駅に集合して貰ったので、目立ったでしょうね。その上、島根駅周辺で姉妹県同士、親睦を深めていたみたいですし、・・・」

「まあ、そうですね。酒が入れば大声で話すでしょうし・・・」


「それで、6月15日の東日本知事会の相談ですか?」

「え?遅くないですか?」

「新潟の地震だけでは人ごとです。南海トラフ大地震を見るからこそ、真剣に動くんじゃないですか?現に西日本知事会に副知事を送った県は、まだ本格的に動き出していないですよ」

「そうですね。特に高知が遅いです。島根県知事が何度連絡しても重い腰を上げません」


梅桃もそれについては、島根県知事と相談を重ねている。あまりに動かないので、まず高知の教育委員会に声を掛けた。高知大学が一番早く動いてくれた。いち早く夏期休暇に入り、双方の大学の間で機材の受け入れなどの話し合いをしてもらった。教授や大学職員や地元出身の大学生には、島根大学の近くに1棟学生用マンションを借り上げ、移動して貰った。


高知大学がすべて移動をした様子を見て、高校から小学校までが、廃校になった小中学校や高校に避難した。廃校のグランドにはコンテナ住宅を一面に並べ、先着順に入居させた。


残念ながら、全く動かないのは官公庁だった。兎に角(とにかく)、県知事が号令を掛けないのでは動きが取れない。ただ、県民すべてにスタンプを押すことだけは徹底できたのが救いだった。


「加須官房長官、明日夕方には、『南海トラフ地震復興庁』を島根に作るという話は、どうなりましたか?」

「それが、東京に作るって、石頭(いしあたま)首相が主張しているんだよね」


舞子が自分の肩を叩き始めた。

「では、しばらく開店休業という感じでいいですか?」


「でも、九十九カンパニーからは多くの物資を供出して貰わないと困るのよね」

「加須官房長官、『供出』ではなく、販売です。我々は1企業ですから。新潟に出したコンテナも、島根に出したコンテナも、それぞれの県知事からちゃんと支払いをしてもらっています。大阪と福岡は西日本知事会の翌日には、大量注文をいただいています」


真子がのんびりした口調で、話し始めた。


「加須官房長官、やっぱり東日本知事会は南海トラフ大地震を見てからじゃないと動けないって理解して貰えましたか?その会議の時は、同様に『首都直下地震』の日時を公表します」

「何故、早めに言わないのですか?」

「怪しい宗教が、自分たちが日時を当てたと布教しないためです。知事が集まるその会で初めて公表することが、その後の混乱を防ぐことに繋がります」


「それって、新潟焼山(やけやま)での顕現教(けんげんきょう)事件のことを指すのですか?」

「その事件は、まだ教祖がつかまっていないので、終わっていません」


「あー。もう時間です。最後に一つ伺ってもいいですか?」

「それは、『広域避難訓練』を打ち出す前に避難が始まったことですか?」

「はい、計画が一部破綻(はたん)しましたよね」


真子はにっこり笑って、手をひらひらしながら最後の言葉を言った。

「知事達が自分の家族を逃がすことも、株を売ることも想定内ですし、それをSNSが広めたことも計画通りです。そして、被害者が0になるなんてことは不可能だと言うことも、それぞれの県が仲良く共存できないと言うことも織り込み済みです」


「え?あっ回線を切らないで・・・」



 舞子と涼は、真子の考えていることの深淵を覗いたような気がした。


「西日本では、新潟と同じ結果が出ないんですか?」

「新潟はね、現在知事の力がそこそこあるし、花口(はなぐち)知事は新潟出身なので、腹を(くく)ってくれると思っていたわ。でも、知事って、その県出身の人ばかりではないし、そもそも旧藩同士のわだかまりも強いのが西日本。ただ、帰るところがなければ、1,2年は我慢するんじゃない?その後は、『故郷に帰りたい』って動きが出てくるはず・・・」



また、TV電話がかかってきた。今度は舞子や涼が知らない人物だった。

「初めまして、私、防衛大臣の牛島藤美(うしじまふじみ)です。真子学園長でしょうか」


牛島は、加須官房長官と長尾菱子(りょうこ)財務大臣と同期のライバルではあるが、数十年来の親友でもある。真子はわざと、牛島を外して加須と長尾に会ったのだ。その話は必ず、牛島に流れ、自分から真子にコンタクトを取りに来ると読んでの作戦だった。



「初めまして、お待ちしていました」

「私が連絡を取ることがおわかりでしたか?」

「防衛省が考える被害想定地域と、被害想定人数とは違う資料を加須官房長官にお渡ししましたからね」


「時間がないので、ズバリお伺いしたい。6月11日に東南海トラフ大地震が起こり、13日に残りの西南海トラフ大地震が起こると言った、新潟大学の某教授とはあなたですよね」


「こんなおばさんが言ったことなんて、普通信じますか?人は『権威』か『宗教』しか信じませんからね」

「では、自衛隊はどこに何時、派遣すべきだと思いますか?」

「それを防衛大臣が聞いて、自衛隊の皆さんはその通り動きますか?」



牛島はしばらく考えていたが、顔を上げてきっぱり宣言した。

「動かなければ、統合幕僚長と差し違えてもいいです」

「まあ、怖い。でも、6月11日9時に大阪上空に、13日10時に高知上空に人命救助のヘリを多数配置していただくと嬉しいですね。

大阪にはまだGPSデータで見るところ避難していない人が多数います。帰国できなかった海外からの技能実習者達が取り残されているようです。

高知県知事は避難のための作戦を立てていないので、真面目な県庁職員や警察官、消防隊の人達が、残っています。ヘリも地上にあるので、多分津波に飲み込まれて避難に使えないと思います」


「その他の一般人は?」

「新潟の救助に来た自衛隊と新潟県警察に、人命救助用のタブレットを貸してあるんですが、返してくれないので、そこに取りに行ってください。不足は島根分校にありますが、これも返してくれないと困るんですよね。首都直下地震が2ヶ月後に起こるんで」



「さらっと、怖いことをおっしゃっていますが、その情報はまだこちらで入手していませんが、一体、それは何時なんですか?」

「6月15日の東日本知事会でお話しすると、先ほど官房長官とお約束したので」

「加須官房長官はもう、その日時は知っているのですか?」

「まだお話ししていませんよ」



「困ります。教えてください。こちらも災害支援計画を立てなければならないですから」

「被害者が少なければ、そんなにたいそうな計画を立てなくてもいいのでは?多分、あなた達は、西日本に準備のために大隊を移動させると、新潟には道路を作る隊すら残さないでしょ?」

「それは・・・」

「分かっていますよ。新潟も、もっと救助の手が届かない桔梗村も、それなりの対策と計画がありますから」


「大型ドローンを使うんでしょう?」

「人命救助だけでなく、道路敷設の計画もありますから。

そちらの中型ドーザには負けますが、こちらにもいろいろありますんで」


「では、これ以上何も教えてくださらないんですか?」

「ここから先は、私の独り言ですが。南海トラフ地震と首都直下地震が同時に起こると、日本の国際空港が使えなくなりますよね。航空自衛隊の大きな基地も関東にありますよね」

「何が言いたいんですか」

「新潟市は市全域が壊滅状態なので、更地にして、バイオエネルギーの材料の作物を広域農業で作ります。桔梗村は学園都市を造ります」


牛島は真子が何を言いたいのか、まだ分からなかった。

「素晴らしい作戦ですね」

「もし、関東も関西も地震で壊滅状態の時、あなただったらどこ攻めたら日本が手に入りますか」

「日本海側と北海道」

「そうですよね。攻めるのは九州からでもいいですよ。

つまり、災害派遣だけを考えていたら、日本自体が他国からのっとられるんです。

だからまずは、人的被害を最小限にし、被害に遭った土地はさっさと更地(さらち)にして、新しい都市や工場、施設を作らなければなりません」


牛島は頭のいい人物だが、真子のような老獪(ろうかい)さはなかった。


「四国は更地にして、最初の3年程度は自衛隊の救援基地にしませんか?西日本への災害派遣と言えば、いいじゃないですか。そして、そこにしっかりした軍備があるとほのめかせば、他国は簡単に攻め込みはしませんよ」


「最初の3年程度とは?」

「その後は、高知に国際空港を作るのです。成田や関西国際空港の代わりの大きな空港を。誰も騒音被害を訴えませんよ。勿論、一部は自衛隊の施設は残したままです。海外から来た人は日本の防衛設備をしっかり見学して貰えばいいですし、当分、本州とつなぐ橋が3本とも使えないので、四国で潜水艦の基地が地下に出来ていても誰も気がつきませんよ」


「あなたは・・・。それでは、四国に一般人は住まないのですか」


「瀬戸内海側には、防音設備がしっかりした半導体工場やIT系の会社を作り、日本海側で高度なIT教育を受けた人達に、就職して貰います。

毎日、ドローンで日本海側から出勤すればいいのです。住む必要はありません。

『瀬戸内シリコンベイ』とでも名前をつければ、いいですね。九州に繋がる四国山脈は美しい水をもたらしますし、山の麓で素晴らしい環境で働けるとなれば、日本中の優秀な人材が集まります」


「そんな・・・」


「あら、ごめんなさい。独り言が長すぎました。では、11日の件は早めに指示しないと手遅れになりますよ。お昼の時間なので失礼します」


真子はまたも手をひらひらさせて、回線を切った。



こんな話を書いているのに、地震が起きてしまいました。怖くて風呂には入れそうもないよぉ。皆さんのところは大丈夫でしたか?

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