7月生の乱
7月生も行動力ありますね。
取りあえず、勢いだけでは話が通らないので、アドバイザーに話を聞いて貰おうと、栗田卓子が選んだのは、鞠斗と鮎里だった。
食堂から出ようとする時、7月生に引き止められた鞠斗と鮎里は怪訝な顔をした。
鞠斗は、結婚式に会った以来、最近話もしていなかったので、鮎里と一緒に呼ばれて少し居心地が悪かった。
「すいません。お忙しいところ、私達の考えにアドバイスをいただきたくてお引き留めしてしまいました」
栗田卓子は、話を仕切る気十分だった。
「先ほどの、深雪の意見を聞いていただいたとおり、美規さんのやり方では、桔梗村の人から不満が出ると思うんです。そこで、私達で、代替案を考えたのですが聞いて貰えますか?」
「鞠斗は分かるけれど、なんで私が?」
鮎里は相変わらずマイペースだった。
「俺もアドバイスできるか、分からないけれどね。まあ、美規さんはああいう人だから、真子学園長と違って、冷たく感じちゃうのはしょうが無いかな」
深雪は手を振って、それを否定した。
「いや、私の意見を村の人の代表的な意見と、捉えてくれたのは有り難かったです。論理的な方だと思いました」
「学園長がね。『年を取ると、人情に動かされて冷静な判断が出来なくなって、みんなを危険に陥れるかも知れないから』って、美規さんを抜擢したんだ」
水脈がぽつっと言った。
「人情を理解しないのも、危険だと思います」
「そうだね。3人の代替案を教えてくれない?」
卓子が口火を切った。
「桔梗村からどうしても出て行きたくない人に、代わりに新しい村を作ったらどうかなって考えたんです」
「どこに?」
「女郎花高台に東側にまだ水没していない土地がありますよね」
「ああ、桔梗学園村の土地だけれど」
「白萩地区への移住を勧めた時、移動しなかった人も今なら動くと思うんです」
「つまり、まずは人を桔梗学園村村民にしてしまってから、土地を接収しようというの?」
深雪が答えた。
「その方が受け入れやすいかと思います」
鮎里が質問した。
「学校はどうするの?」
2人は考え込んだが、卓子は自説を披露した。
「小中高の一貫校を作ったらどうですか?校舎は桔梗小学校を使って」
他の4人は色々突っ込みたいところがあったが、それぞれ黙っていた。
「まあ、学校の件は保留にしておいて、希望している土地に他に利用計画がないか、確認するのと、どういう村を作るのかというアイデアを考えないとな。移動するにしても前もって建物があった方が・・・」
鞠斗の発言に、深雪がストップを掛けた。
「自分の村は、自分たちで計画を立てたくないですか?」
鮎里が反対した。
「自分たちで計画立てると時間がかかるよね。こちらで作った村に『移りたい人は来てください』って行った方が早いよ。
それにお金を払わない人が考えると、予算度外視するからね」
水脈が意見を出した。
「一部は、自由にできる箇所を残したらいいかも?店を開けるゾーンとか」
鞠斗が決定的なことを言った。
「白萩地区のようにすべて無料というわけにはいかないから、そこに入る場合は、うちの関連の工場などで働いて貰わないといけないよね。『働かざる者食うべからず』だから、『働きたい人には住宅を供給します』という形の方が良くないか?」
卓子がまた突飛なアイデアを出した。
「じゃあ、自分の出来ることを登録して貰って、こちらで必要としている技能がある人をこちらで選ぶのはどう?」
深雪が反対した。
「それでは、選ばれないと村には残れないんということになるよ」
鞠斗がため息をついて言った。
「桔梗学園やKKGは、何でも仕事をこなすのが基本だから、これしか出来ないって人はうちでの仕事は出来ないな。まあ、残った人については、ぼちぼち適性を見ながら、希望者には村の住宅に来て貰う方向で、住宅建設始めた方が良くないか」
鮎里が口を挟んだ。
「とりあえず、来たい人がいたら、その分のコンテナハウスを用意したら?」
深雪が遠慮がちに言った。
「コンテナも悪くないですが、竹で作った集合住宅なんて出来たら、いいですよね」
卓子も同意した。
「今研究している、竹の集成材とか、竹セルロースナノファイバーなんか使えるといいね」
鞠斗が「しょうがないな」という笑いを漏らした。
「ワクワクするアイデアが出た時は、前に進めると思うよ。それを持って、美規さんのところに行ってぶつかってみたら。俺からのアドバイスはそこまでだ」
ウキウキして、薫風庵に駆け上がっていく3人を見つめながら、鞠斗は鮎里と2人でいることに気がついた。
「最近会いませんでしたね」
「何故、敬語なの?」
「いや、なんとなく」
「私達はどこに住むの?」
鞠斗はぎょっとして、鮎里を見た。
「そろそろ観念してください。私も待ちきれないよ」
鞠斗は天井を見て、深呼吸をした。
「あの、ここでは人目もありますので」
「では、沈黙の花園で」
「雨が降っているけれど」
「傘の中の方が、俺には都合がいいんです」
タイトルには載せませんでしたが、ついに鞠斗が観念したようです。