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全日本女子柔道選手権その2

今日は準決勝だけです。明日、決勝をアップしたいと思います。

 準決勝1試合は、期待の新星長崎美仁(みにー)と、オリンピックの金メダリスト熊本成美(なるみ)との対決だ。

試合場の下には、カメラマンがずらっと並んだ。

試合はいつものように熊本のローキックから始まった。長崎は少し顔をしかめたが、すぐ次の瞬間には、ローキックをさばいて燕返(つばめがえ)しで反撃し、片膝をついた熊本を押し込んで、ポイントにつなげた。熊本は下から三角固(さんかくがため)を狙ったが、中学生の長崎は、関節技はまだ苦手なようで、すぐ立ち上がって、寝技に応じなかった。


「なんか、長崎の足技って、舞子の中学時代に似ているな」

涼がつぶやいた。


舞子も中学時代はセンスだけで柔道をしていた。しかし、長崎はそれだけではなかった。大きな身体の熊本を腰に乗せて、大腰(おおごし)を仕掛けたり、支え釣込足(ささえつりこみあし)を仕掛けたり、怒濤(どとう)の技の連続で、熊本の体力を奪い、最後は大外刈で仕留めて見せたのだ。


「ワクワクするね。私も頑張って決勝に行こう」

舞子は前の試合をしっかり目に焼き付けて、次の試合に臨んだ。



 準決勝2試合目の舞子の相手は、巴投(ともえな)げを得意とする自衛隊の奈良選手だ。彼女もロサンゼルスオリンピックの中量級の金メダリストだ。オリンピックが終わって、体重制限がなくなった奈良選手は本来の体重を遙かに超える体重になっていた。全日本女子柔道選手権の優勝を花道に、引退するという話である。

彼女の巴投げは相手の両袖をつかんで投げる。足の力も強いので、足に乗ってしまうと必ずどこかに落とされてポイントに(つな)がる。

舞子は、腕を捕まれて引き込まれる時、普通は引き込まれないように後方に重心を下げるが、それと逆の動きをしたらどうだろうと考えて奈良選手への対策を立てた。


試合開始直後は、お互い相四(あいよ)つで、組んでは離れと警戒し合っていたが、舞子が思いきり低い大内刈から、足を取って小さなポイントを挙げた。

次に舞子が同じモーションをすると、奈良はすかさず下に潜り込んで巴投げを仕掛けてきた。次の動作は、奈良の想定を大きく(くつがえ)した。「馬は人を踏まない」というが、人もなかなか人間を踏めないものだ。しかし、舞子は巴投げに来た相手の足の間に、自分の足を差し込んで相手の腹を踏みつけたのだ。


 まあ、巴投げも天地を逆にすれば、相手の腹を踏んでいるのだが、そんなことを考える人間はなかなかいない。一瞬だが腹を踏みつけられた奈良は足の力が抜けた。舞子はそれを利用して伸ばしている奈良の腕を取り、腕ひしぎ十字固に入った。

舞子の技のレパートリーにはなかった技なので、奈良も自衛隊の監督も呆然とした。しかし、折れる寸前までいっても奈良は「参った」をしなかった。他の人より肘が柔らかい「猿腕(さるうで)」なのだろう。しかしダメージは大きく、取られた腕にはもう、巴投げをする力はなかった。


 そこで手加減をする舞子ではなかった。「始め」の合図で飛び出し、すかさず背負投を掛けた。涼と練習して身につけた低い背負い投げだった。奈良選手は、慌てて畳に手をついてしまい、腕が亜脱臼(あだっきゅう)してしまい、ドクターストップがかかった。


 ついに舞子は決勝の舞台に上がることが決まった。相手は、中学3年生の長崎美仁だ。


応援席は我が事のように盛り上がっている。

「やばいよ。無理だと思っていたけれど、舞子さん、決勝まで上がっちゃったね」

「嬉しい。私の研究の成果が舞子さんの勝利に繋がったのね」

「決勝の応援は、例のヤツね。桔梗学園のみんなもスタンバイしているか確認して」


 紅羽も今までの応援が、ピタリピタリとはまって興奮している。しかし、彼女はここから先が長く険しいことを知っている。


 麓にいる時は、高い山の登頂は簡単だと思う。しかし、頂上が近くになるにつれて、登頂は困難になっていくのだ。それでも、「雲の上のあの頂に登りたい」とアスリートは思う。

紅羽は、ここまで来て2位で終わることの悔しさを知っている。


 舞子には是非優勝を勝ち取って欲しいと心から思った。


決勝は長めになるので、今日はこれでアップさせてください。

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