かけ声は笑顔になれれば何でも良い
ファンタジーな世界観を書いてみようと思いました。
「良かった、晴れてくれた・・・」
窓の外、太陽の光が煌めく見慣れた景色を見て、思わず声が出てしまった。
せっかくの旅立ちの日に雨模様は幸先が悪い。
時刻はもうすぐ昼。
こんな時間まで寝ていると、いつもならドーラ先生に叩き起こされるのだが、このベッドで寝るのは今日が最後だから気を使ってくれたのだろうか?
部屋を出て、顔を洗い、ドーラ先生の部屋に向かう。
「こんにちは、ドーラ先生。」
「おや、起きちまったのかい?そのまま寝過ごしていれば良かったのに・・・」
「そうもいきませんよ・・・ただでさえ出発時間は僕に合わせてもらってるんですから。」
どうやら気を使ってくれたわけではないらしい。
そんなことだろうとは思っていたけど・・・。
ドーラ先生とは十年以上の長い付き合いで、親も同然だ。
この孤児院の主である、いつも不機嫌そうな顔をしている老婆が実は寂しがり屋であることはもう知っている。
「ふん、奴等がお前に合わせるのは当然だろうよ。お前に着いていくんだから。」
「実際、一人旅よりは安全ですから、ありがたいですよ。」
「安全を考える頭があるなら、孤児院を継いであたしを隠居させてほしいんだがねぇ。」
「ははは、ドーラ先生は生涯現役でしょう?」
「はぁ~あ、またこの村の過疎化が進むよ、若者がどんどん出てっちまう。」
「・・・僕以外の二人は最終的に帰って来るんじゃないですかね?」
「ネクス・・・。」
「はい?」
「友達は大切にしろと殴って教えたはずだよ?あの二人がお前を置いて帰って来れると思うかい?」
「・・・そうですね、すいません。」
「それと、十年以上も世話してやった恩を忘れる様なクソガキを育てた覚えもない。あたしが生きているうちは顔を出しな。」
「・・・はい。」
「わかったらとっとと行っちまいな。・・・身体には気をつけるんだよ。」
深く一礼して、部屋を出る。
10年間使っていた部屋の掃除と旅仕度は昨日のうちに済ませてある。
さあ、幼馴染二人との待ち合わせ場所に向かおう。
真面目なロゥはもう待ち合わせ場所にいるかな?
クロは・・・間に合うかなぁ?
大きめのリュックに手持ちの鞄を持って孤児院の外に出る。
名残惜しくはある。
でも、それ以上に、楽しみだ。
僕は闘いの道は選ばなかったから、あの二人と違ってもうここには帰って来れないかもしれないけれど。
それでも良い。
広い世界を見て、美しいモノを多く識る、そんな人生を目指したい。
「ローズ!本当に行くのかい!!?」
「もう!この期に及んで、しつっこいのよ!!!」
バキィッ!!と一人娘がフルスイングした杖が父の頬を殴り飛ばし、地面にぶっ倒す。
「グッハァ!!!」
「旅に出るための条件で出された魔法は全て習得したでしょ!!あんなイカレた量の課題出しておいて今更どうこう言うんじゃないわよ!!」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!!
「痛い!!痛いって!!魔法使いが杖で人を叩いちゃいけませんって!!」
「はぁ、はぁ・・・、大体、私知ってるんだから・・・!」
「な、なにを・・・?」
「ドーラ先生にネクスが孤児院を継げば村に若者は残るし、楽できるとか!孤児院の改修費を出すからなんとかネクスが村を出るのを止められないかとか!唆そうとしてたでしょう!!」
「言ったけど無言でボッコボコにされたよぉぉ!!」
・・・あの孤児院の老婆は村の村長である父だろうが一切の容赦なく殴っただろう。
以前、本気でブチ切れた時は一言も喋らなくなり、ただでさえ怖い顔に眼力がこもって恐ろしいなんてもんじゃなかった。
ザマァミロ、と思うが、聞きたいことはそうじゃない。
「・・・何でそこまで止めたいのよ?」
「・・・お前の旅の目的が、特にしなくても良いことで、危険だからだ。」
「・・・・・・。」
「勇者様は魔王と相打ちになったと言われている。あの勇者様が死ぬなんて私も想像できないが、あれ程の方が身を隠す理由は無い・・・、本当に亡くなられてしまったのだろう。」
勇者ムサシ。
かつてこのトーチ村を救い、果ては〈人間の時代〉を到来させた大英雄。
規格外の武勇と知謀を備えた人物だったとされ、ローズとクロスは子供の頃、その勇者ムサシに間一発のところを助けられたことがあった。
もう一人の幼馴染であるネクスと出会うことができたのも、勇者ムサシのおかげだ。
一言で良い、お礼が言いたい。
亡骸も見つかっていないなら、確定じゃない、探す人間がいても良いはずだ。
恩人を探す、それがローズの旅の目的。
「勇者様が姿を消してからもう十年も経っている。今更お前が探しに行ったところで意味は無い。」
こんな父でも、心配してくれていることは伝わっている。
でも、だからこそ、心配かけない様に頑張って魔法の勉強をし続けたのだ。
「意味があるかはわたしが決める。」
「勇者様の進んだ道は、魔王への道。必ず生き残りの魔族と出会うことになる。」
「そのために、魔法を学んだわ。」
「野郎二人と旅なんてパパ心配!!!」
「それが本音だろうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
今度こそ、バカ親父の意識を刈り取るべく、一人娘は杖を振るった。
物理的に。
ガァンッ!!ゴォン!カン!
木の塊を打ち付け合う音が辺りに響く。
剣の師匠であり、トーチ村警備隊長の父との最後の稽古試合。
額に十字の傷を持つ、この村では最強の戦士は声を張り上げて宣言する。
「次の一合を持って終了とする!!全力で来い!!クロス!!!」
「おぉうっ!!!!」
両手の木剣に渾身の力とスピードを乗せて、全力一振。
バガァ!!!と、父の一刀と自身の二刀が衝突し、どちらも砕け散る。
「・・・おい、バカ親父、今の殺す気じゃねえのか?」
「昨日俺を殺してんだから、当然だろうがよぉ。」
昨日、村を出る前の卒業試験として、親父とガチの試合をした。
剣だけの試合ではなく、降参なしで相手の意識がなくなるまで闘い続ける、ほとんど殺し合いのそれ。
俺は親父に勝利し、旅に出れる実力を認められたはずなのだが・・・。
やっぱり根に持ってやがったか。
「可笑しいと思ったんだよ。卒業試験クリアしてんのに『最後の稽古つけてやる』だもんなぁ?」
「稽古にはなっただろうが、たかが一回勝ったからって油断してっと痛い目見るってよぉ。」
そう言って、俺の手の中に握られている木剣だった物を指す。
「真剣でも結果は同じだぜぇ?お前は〈剣士〉で二本も持ってた癖に得物を失った。」
「・・・ちっ・・・!」
最後の最後でやられた・・・。
剣に対する親父の言葉に嘘は無い。
例え真剣でも、剣は両者ともに砕けていただろう。
そうなると、軍杯は親父に上がることになる。
「昨日の試合は、殴り合いになる前に決着しちまったからなぁ?剣バカのお前は剣でしか勝ち目が無いってわかってたんだろ?」
「・・・ああ!クッソ、そうだよ!腹立たしいけどなぁ!」
勝ち誇った顔しやがってムカつくぜぇ・・・!
「真面目な話、そのまんまだったら旅先で死んじまうぜぇ?あの剣は初見殺しとしては最上級だが、それだけだ。乱戦・不意打ち・再戦、使えないパターンの方が多すぎる。ヨーイドン専用技だ。実際、今使えずに負けたし。」
「グゥッ・・・!」
おのれぇ、ネチネチとわかりきったことを説教しやがって・・・!
だが、実質負けたうえに真実を述べている以上は言い返せねぇ・・・!
わかってて使ってねぇんだから俺の秘剣についての説教関係ねぇだろうが・・・!
「わかってると思うが、死んじまうってのはお前だけのことじゃねぇぞ?そんなんで仲間の盾になれるのかぁ?」
・・・・・・。
ロゥは〈魔法使い〉前衛向きじゃない。
ネクスはそもそも戦職職ですらない。
必然、一番前で身体を張らなくちゃいけないのは俺だ。
それは良い、それが良い。
そのくらいはできなきゃいけねぇ。
「・・・あいつらの前で恥をかく気はねえよ。」
「最強なのは仲間の前だけってか?ちんけな最強だなぁ、お前の目指すもんは。」
「おい調子のんなよ!テメェ帰って来たら覚えてやがれ!!片手でブチのめしてやるからな!!」
「プププッ・・・やってみろぉい、最強未満。」
「今、殺す!!!!」
木剣の残骸を奴の顔面めがけてぶん投げるが、ヒョイっと身をかわして、クソ親父は走り出してしまう。
「おっとぉ!そんじゃ達者でなぁ、バカ息子ぉ!俺は嬢ちゃんにボコられてるだろう村長と感傷に浸ってるドーラの婆さんをおちょくってから帰るから!とっとと行っちまいなぁ!」
「よそ様に迷惑掛けに行くんじゃねぇ!!!バカ親父ぃ!!」
「あ、そうそう!母さんには一言伝えてからいけよー!」
言いたいだけ言って行っちまいやがった・・・。
「たくっ・・・どうしようもねぇ・・・。」
そうつぶやいて、父の走っていった方向に一礼する。
あんたから貰った〈十字〉はいつか必ず叩き返す。
〈最強〉を手に入れて。
幼馴染二人との待ち合わせ場所である、村の出入り口が見えると同時に驚愕した。
「うわぁ!クロが一番乗り!?せっかく晴天で幸先が良いと思ったのに明日は槍かぁ!」
「槍が降る前に俺が刺してやろうかぁ!?」
「冗談、冗談・・・、いや、でも遅刻魔のクロが本当によく遅刻しなかったね?絶対ロゥが一番先に来てクロが最後だと思ってたよ。」
「バカ親父が朝から難癖つけてきやがったんだよ。」
「あぁ・・・なるほど、うちもだけどクロの親父さんも大概寂しがりだよねぇ。」
「いや絶対、昨日一杯食わされたのが悔しかっただけだぜ、あれ。」
「試合見たかったなぁ・・・ちなみに昨日はどっちの切り札使ったの?両方?」
「初見殺しの方で一発よ!親父にも効いたってことは大体の奴には通じるぜ、あれ・・・ヨーイドン専用技って言われたけど。」
「あ-・・・やっぱりあれそういう評価だよねぇ・・・。」
「別に役に立たない訳じゃねえよ、切り札はもう一つあるし。ロゥもいればあれもあるしな。」
「そう言えば、ロゥ遅いね?」
「どうせ村長に泣きつかれてるんだろう?寂しんぼで言ったら村一番だしな。」
「村一番なのは親バカ度合いだと思うけどね。」
「違いねぇ!そこらの男なら文字通り『一蹴』できる女のどこに心配があるんだっての!」
「ごめーん!遅れたぁー!!」
「あ、噂をすればだ。」
「おせぇz、ブゥグゥッ!!!」
「クロォーーーーー!!?」
「はぁ・・・はぁ・・・、何か失礼なこと言ってたのだけはわかったわ・・・。」
「遅れて来て初手顔面パンチって何考えてんだ、テメェ!!?」
「おぉ!さすが生きてた!容赦とか無さそうな一撃だったのに。」
「当たり前だ!・・・あれ?立てねえ?地面がグラグラする・・・。」
「・・・剣士を・・・素手でノックアウトする・・・魔法使い・・・?」
「ネクス?あんたもイッとく?」
「さ!三人揃ったし!出発しようか!ほらクロ、何してんの!早く立って!!」
「ネクスゥ・・・テメェ・・・!」
「出発前にほら、これ。」
「ん?何これ?短い木剣?」
「誕生日プレゼントよ。クロが削り出して、私が魔法でコーティングしたわ。」
「あれ?この木剣の形って・・・?」
「そうだ。勇者が使ってた細い曲刀を木剣で作ってみた。」
「ちなみにあれ、日本刀とかいうらしいわよ?」
「へぇー、そうなんだ。」
「長刀の方はともかく、短刀の方は取り回しが良さそうだったから護身用にちょうど良いと思ってな。」
「どうせ調理用のナイフくらいしか持って来てないんでしょ?」
「・・・荒事はクロとロゥがいれば充分だからね。でもありがとう。貰っとくよ。」
「うん、誕生日おめでとう。」
「感謝しろよなぁー。」
「女の子のパンチでいつまで尻餅ついてるのさクロ?情けないなぁ。」
「そのザマでパーティーの前衛が務まるのかしら?不安だわぁ。」
「俺を煽る時だけ息ピッタリなのは何なの?」
「じゃあ、出発前に始めの記録を撮りましょう!」
「え?無視?俺まだ足が震えてんだけど・・・?」
「早く立たないと、最初の記録は『女の子に負けたクロ』だよ?」
「うぉおおお!!ふざけんなぁああ!!頑張れ俺の両足ぃいいいい!!!!」
〈薔薇〉のローズことロゥ。
職業〈魔法使い〉。
旅の目標は生死不明の勇者ムサシを探すこと。
〈十字〉のクロスことクロ。
職業〈二刀流剣士〉。
旅の目的は武者修行。夢は〈最強〉の称号を手に入れること。
そしてこの僕
〈名無し〉のネクス。
職業〈写真家〉。
旅の目的は世界を見て、色々なことを識り、美しモノを撮ること。
旅のルートはかつて勇者ムサシが通った足跡をなぞる。
その道には、勇者の手がかりが、強敵が、筆舌にしがたい光景の全てがあるはずだ。
「集まってー、撮るよー。」
〈写映〉の魔法を起動し、両手の親指と人差し指だけを伸ばして手の平が自分に向くように「」を作る。
「」の中に鏡の様な薄い膜が展開され、自分と幼馴染二人の顔、その後ろにある故郷の景色が映れば準備OKだ。
「はい、チー・・・「誕生日!!おめでとうーーー!!!」
カシャッと展開された鏡に映しだされた映像が固まり、その一瞬が記録された。
楽しそうに肩をくんだ剣士と魔法使いに挟まれた自身の顔を見て、クスッと笑ってしまった。
「ブレたじゃないか、まったく・・・。」
写真を撮る時のかけ声は、笑顔になれば何でも良いのだ。
初めまして、読んで下さってありがとうございます。
この物語は勇者の足跡を追うことを目的として旅をする仲良し三人組の話です。
「」多めで、キャラクター同士の掛け合いを楽しむことを重視して執筆しようと思っています。
一つの大きな戦争が終わった十年後のファンタジーな世界が世界観です。
ゆるい感じで書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。