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「近々、エリックの立太子とレイノルド公子とキャサリンの婚約を大々的に発表する。」

「「陛下、承知しました。」」


宰相とアランが執務室を出る。


「さて、シルフィーネ、ヴィンセントは残ってもらおうか?

公子よ、ヴィンセントとの話しが終わるまでキャサリンと過ごしていてもらいたいのだが?」

「もちろんです。というよりも、本日はサフィス家の晩餐に招待されておりますので、ヴィンスを待ちます。

キャシー、行こうか?」

「はい、レイ様。」


執務室にはヴィンスとフィーネが残された。


「さて、ヴィンスよ。」

「はい、陛下。」

前サフィス侯爵夫人(叔母上)から、ヴィンスの新たな婚約者の件で話しがあった。」


ヴィンスたちの祖母は前国王の妹だ。


「お祖母様から?」

「ああ。クリストフの愚行が耳に入ったらしく現侯爵夫人と直接執務室へ来られて、『阿呆王子(クリストフ)に断腸の思いで可愛い孫(娘)を嫁に出そうとしていたのに、この仕打ちは何かしら!?』とお怒りだった。

そして『どうせ、殿下とバネード嬢ではコルディス公子の案内は無理でしょうから、とっとと婚約破棄を成立させておやり!それで、キャシーの新しい婚約者はコルディス公子殿下でヴィンスの新たな婚約者は…』

フィーネにしなさいと元王女らしからぬ大声を出されて宣言された。現夫人も同意だそうだ。」

「わ、私!?」

「陛下、そのお話喜んでお受けいたします。」

「ヴィンセント!?な、何を言って…」

「シルフィーネ様は私がお嫌いですか…?」

「き、嫌いなわけないわ!」

「では、好きですか?」

「!!」

「ヴィンス、フィーネが困っているぞ?」

「シルフィーネ様は本当にお可愛らしいですね。」

「えっ!?ヴィンセント、か、からかわないで!」

「からかったつもりは全くありませんが?

私はいつでも本気ですよ?」

「はうぅ…」

「陛下、シルフィーネ様と少し話してきても?」

「ん?そうだな。」

「出来れば、………に行きたいのですが?」

「いいだろう、許可する。」

「ヴィンセント?」

「シルフィーネ様、行きましょうか?」

「ええ。」


どこへ行くのかわからないまま、ヴィンスはフィーネと国王の執務室を出た。そして到着したのは、王城内に二箇所ある図書室のうちの一つだった。今は禁書が多いため、王族しか入室することが出来ない場所だ。

慣れた手つきで入り進んで行き、とある扉の前で止まった。


「ヴィンセント、ここを知っていたの?」

「はい、勝手に知っておりました。」


………


それは数年前、まだヴィンスとイリスの婚約はなかった時だ。

その日、王城に滞在していた他国の公爵(元皇族)との話し合いの場に従兄アランと参加していたヴィンス。


『では、その方向で進めさせていただきたく存じます。』

『ああ。ノーヴァ家とサフィス家の子息たちは言葉が通じるし、話し合いも楽で助かるよ。』

『『お褒めに預り光栄に存じます。』』

『ときに、サフィス子息はまだ婚約者がおらんな?』

『左様です。』

『どうだろうか?うちの可愛い娘を…』


公爵が自身の娘を進めようとしていたときに、ヴィンスではなくアランが公爵に話しをした。


『閣下、その話しは我がノーヴァ家を通していただかなければならないというのが貴族界のルールなのです。』

『ノーヴァ公に?』

『はい。』「ヴィンセント、この資料を図書室で借りてきてくれるか?第二図書室にあるから。」


ヴィンスは了承し、部屋を出た。

その後、部屋ではアランが『サフィス侯爵は仕事は出来ますが如何せん情に脆いところがあるので、彼と妹の婚約に関しては奥方であるサフィス侯爵夫人かその生家である我が家に伺いをたてることがルールとして知れ渡っているのです。』と説明して公爵は納得していった。


「この資料をアラン=ノーヴァ宰相補佐官より頼まれました。」と図書室の司書にメモを渡す。

時間が掛かるとのことで、自身も資料を探すことを伝えて奥へ進む。


「……あれ?扉が開いている…?」


奥に進むと、入ってはいけない部屋として有名な扉がほんの少し開いているのに気がついた。

彼は好奇心にかられて中へ入る。

ソファとテーブルが一つずつありそのテーブルの上には紅茶とお菓子が乗っていた。

ヴィンスがソファを覗き込むとこの国の王族の特徴である金髪の少女が眠っていた。


「シルフィーネ王女…?」


腰までありそうな長い髪は緩いウェーブがかかっている。

「美しい寝顔…じゃなかった…どうしてこんな所で…?」と思って手元を見ると古語で書かれた本が開いてあった。

テーブルには古語と現代語が書かれた紙があるのでどうやら難しい本で読んでいて疲れたのだろうとヴィンスは思った。

「あっ…この本、第二図書室にあったんだ。

しかし古語を読む女性がいたとは驚きだな。

殿下は古い本がお好きなのかな?」と呟くと、フィーネが「ん…」と起きそうになる。

勝手に寝顔を見てしまったことがバレたら大変だと彼は部屋を出た。

しかしその日から彼の心に彼女…フィーネがいた。

普段から王城へ出入りしていたヴィンスは頻繁に第二図書室を覗いてはフィーネがいるか確かめた。


「本日はいらっしゃるようだ。」


扉が少し開いていた。こっそりと部屋に入るとまた彼女は古語を解読しながら読んでいたようだった。風魔法で彼女の呟きを拾うと、少し違った解釈をしていて読書が進んでいない様子だった。

彼はその部分を丁寧に翻訳したメモを風に乗せてテーブルの近くへ落とす。

すると彼女は気がついてそのメモを拾い「…誰かいるの?」と呟いた。しかし返事をする者はいない。


「これ、翻訳…?わあ!ここ、翻訳が違うから上手く先に進まなかったんだわ!誰かわからないけど、ありがとう!」


と笑顔でお礼を言う彼女の姿にヴィンスの心には躍る。そして時折、ここで会ったときにメモで翻訳やそのヒントを伝えたりしていたのだった。


………


「では、あの翻訳はヴィンセントが?」

「はい。お役に立てていましたか?」

「とても役に立っていたわ!王女教育で古語や多国語は覚えなければいけなかったから、苦労していたの。お兄様はどちらも苦手でキャシーに任せきりだったでしょう…?」

「否定はしませんね。」

「あの時は本当にありがとう。

それより、どうしてサフィス家はこんなに言語に強いの?」

「サフィス家は国交、貿易の要ですから、サフィス家に産まれた者は男女関係なく幼い頃より歴史や文化も含めて多国語も学ぶのです。

それこそ、家族全員で多国語で話しをする日がある程に。」

「そうだったのね。それにしてもあのメモの人物が貴方だったなんて、驚きね。」

「まだ社交デビューしていませんでしたから、御前に出てはいけないと思いまして。」

「それもそうね。」

「シルフィーネ様、先程のお話しですが…」

「大叔母様のお話ね?」


彼は彼女の手を取る。


「はい。私はあの時からシルフィーネ様を想っていました。愛しています。」

「ヴィンセント…」

「私は一度婚約破棄をされた身です。そんな私が王女であるあなたにこの想いを伝えるのはどうかと思いましたが、本日お会いしてご一緒させてもらったら貴女への気持ちが溢れてしまいました。

どうか、この私ヴィンセント=サフィスと結婚していただけませんか?」

「ヴィンセント…

私も貴方を愛しているわ。」

「ほ、本当ですか!?」

「本当よ。初めて王城で会ったときから好きだった。

でも、クリスお兄様とキャシーが婚約したときに私は心に蓋をしたわ…

だって、お兄様たちが婚姻するということは私はヴィンセントに嫁げない。

だから、陛下にも適当な理由をつけて婚約者を据えないでおいて、お兄様たちが婚姻したら他国へ嫁ごうと思っていたのだから…。」

「そうだったのですね…」

「クリスお兄様たちが婚約破棄するとは思っていなかったから、驚いたわ。それに大叔母様たちに私の気持ちがバレていることにも驚いたわ。」

「お祖母様と母上はきっと私の気持ちに気づいていたんだと思います。

当時、妹の付き添いと称して露骨に城へ通っていましたから。」

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