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久しぶりに投稿します。


宜しくお願いします。

ヴィンセント=サフィス。

彼はこのカルリア王国の侯爵家の嫡男である。

彼は学院を卒業したら直ぐに家督を継ぐことになっているのにも関わらず、つい最近婚約破棄を告げられてしまったのだ。


………


彼の婚約者だったのは2つ年下のイリス=バネード公爵令嬢。

彼女は傲慢な態度を隠しもせずに、学院のカフェで告げてきた。


「ヴィンセント様!私との婚約を破棄してください!私、真実に想う相手に出会ってしまったの!

我が家の方が格上だからいいですよね!?」


最初は何を言われているのか分からなかった。

そもそも、この婚約は事業で失敗し多額の負債を抱えた矢先に領地でも冷害が酷くなり税収が減り破綻しかけたバネード公爵家が、王国随一の商会を誇るサフィス侯爵家に融資を目的として持ち込んだ縁談だった。


「娘には経営の勉強をしっかりさせてから嫁がせる。

傲慢な態度は今だけだから、少し目を瞑ってほしい。」


それがバネード公爵の口癖だった。

しかし彼女は勉強を嫌がり、終いには「格下の侯爵家に嫁いで()()()のだから、勉強なんて必要ないわ!私は夫人として社交界で輝くのが仕事なのです!」とわからないことを言いはじめ、サフィス邸への訪問を拒否していた。

サフィス家にとってなんの旨味もない婚約だったので早々に解消したかったのだが、情に流されやすい父、サフィス侯爵がバネード公爵の泣き落としに屈し続けていた。

いつまでも格下と見下され、疲れ果てていたのも相まって彼はイリスからの婚約破棄を受け入れることにした。


「イリス嬢。婚約破棄の件、承知いたしました。」

「あら?ありがとう!それでね、私の真実に想う相手なのだけど、聞いてくださいますか?」

「(全く興味がない…けど、これは多分聞かないと開放されないやつだな…面倒だな…)はい、どなたです?」

「クリストフ第一王子殿下です!殿下もね、私のこと好きなんですって!」

「えっ!?クリストフ殿下ですか!?」


この国の王子クリストフ=カルリア王子の名前が出てきてヴィンセントは驚いた。クリストフには婚約者がいる。しかもそれは


「それでは、妹…キャサリンとの婚約はどうなるのです!?」


そう。クリストフの婚約者はヴィンセントの妹のキャサリンだったのだ。


「それなら今頃、殿下がキャサリンさんに破棄を告げているはずですわ。

ふふ。兄妹(きょうだい)揃って婚約破棄なんて可哀想に。」

「(俺の可愛いキャシー(キャサリン)を捨ててこんな傲慢女を婚約者に据えるとは…愚かな王族もいたものだ。)

イリス嬢、()()()()私と貴女の婚約破棄に関する書類が手元にあるので、記入しませんか?」

「あら?気が利くのですね。私たちのサインをしたらお父様にサインを貰えばいいのかしら?」

「いいえ。閣下のサインはあるので大丈夫です。」

「お父様も私とクリストフ殿下の婚姻を喜んでくださっているということかしら?」

「きっとそうだと思いますよ。」

「ふふ。初めてヴィンセント様の()()に役に立ってくれましたわ。」

「時間は有限ですのでサインを。提出はしておきますから、ご安心を。」

「ありがとう、助かりますわ!」


イリスは文面を読むことなくサインをし「では、ご機嫌よう。」とカフェを去っていった。

ちなみに、婚約破棄の書類に公爵のサインがあるのは本当だ。公爵にはイリスが原因での婚約破棄なら同意するという条件でサインをしてもらっていたのだ。しかも、サフィス家がかなり優位になる条件付きである。


「5年以上もあの我儘娘を押し付けてきたのだ。この位の報復は赦されるはずだ。」


と独り言ちながら、ヴィンセントは妹の元へ急いだ。


………


「ヴィンスお兄様、私クリストフ様に…」


やっと見つけた妹の表情は晴れやかでそれを隠そうともせずにヴィンスに抱きつきながらキャシーはとても明るい声をあげた。


「婚約破棄されましたわ!やっと、やっと開放されますわ!」

「キャシー。よかったな。兄は嬉しいよ。」

「お兄様の方も恙無く終わりましたの?きっと私と同じようにイリス様から婚約破棄を言われたのでしょう?」

「ああ。既にイリス嬢からサインを貰ったし、帰りに王城に書類を提出してから方方に通知する手筈になっている。」

「流石はお兄様です。」

「君と殿下の婚約破棄の書類もある。サインしてくれるかい?当主代理で俺のサインもあるから、殿下のサインを貰えば俺たちの仕事はお終い。後は母上()()が何とかするだろう。皆、キャシーの婚約に反対していたから、嬉々として陛下の承諾をもぎとってくれるはずだよ。」


ヴィンスはキャシーの頭を撫でる。

ふたりの母親の実家は代々宰相職に就いているノーヴァ公爵家。国に影響を与えることができる立場にいる人物が多い家なので、後は大人の仕事だ。

父親は商売のことには厳しいが、この件に関しては役に立たないとヴィンスは判断していた。


「ふふ、そうですね。でも、これで王城へ通わなくて済むと思うと嬉しい!」

「こらこら。他国の貴族と会う機会が多いから市場調査できると意気込んでいなかったか?」

「それはそうですけど、でも勉強ばかりでなかなか部屋から出せてはもらえなかったのですわ。

識らないことを学べるならば良いのですが、我が家ではデビュタント前までに勉強することをまたやらされたのですよ?」

「何だって?そんな幼児レベルの教育を今更受けさせられていたというのか?」

「そうなのです!私、お父様にもっとレベルを上げてほしいと嘆願しましたのに、陛下はこのままでないとクリストフ様との差ができるからと…。

お兄様に相談しようと思ったのですが、お兄様は商会のことやイリス様のことで大変でしたので私のために無駄な時間を割くなど…」

「キャシーが幸せになるための行動は無駄ではないよ?」

「ありがとうございます、ヴィンスお兄様。」


ヴィンスは学院が終わるとその足で王城へ向かった。


………


「ヴィンセント=サフィス侯爵代理です。

宰相のノーヴァ公爵と面会を願いたい。」


ヴィンスが門兵に頼み馬車の中で待機していると、宰相補佐をしている彼の従兄であるアランがやってきた。


「ヴィンス、久しいね。父上に用事と聞いたが、今手が離せなくて俺がきたんだ。何かあったのかい?」

「アラン兄さん、忙しいのにごめん。

本日中に受理してほしい書類があるんだ。」

「書類…?」

「イリス=バネード嬢から婚約破棄を告げられたのでその書類を。」

「ちょ、ちょっと待て!婚約破棄!?

と、とにかく俺の執務室へ行こう。詳しくは歩きながら…。」


ヴィンスはアランに自身とキャシーが婚約破棄を宣言されたことを話した。


「おいおい…有り得ないだろう…」


現実を受け入れられないアランは頭を抱える。

そんなとき、伯父である宰相がやってきた。


「ヴィンセント、待たせてすまなかったね。

ん?アラン、どうかしたのか?」

「父上、()()の可愛い可愛いキャシーが婚約破棄を言われたそうです…」

「はあぁ!?ど、どういうことだっ!?」

「私もヴィンスから聞いて驚いております。」


ヴィンスは宰相に経過を伝えた。


「ちっ!ヴィンセント、君たちの婚約破棄の書類を寄越しなさい。そして後は大人に任せるんだ。」

「ありがとうございます、伯父上。」

「アラン、ヴィンセントとイリス嬢の書類は直ぐに受理してもらえ。」

「承知しました。」


宰相からの命令にアランはヴィンスの書類を持ち執務室を出た。


「さて、ヴィンセント。再来月にコルディス大公国の公子殿下がお越しになるのは知っているね?」

「はい。私とキャシーが対応することになっておりましたから。」

「そうだったね。

きっと、陛下はクリストフ殿下とイリス嬢に公子殿下の対応をさせて完璧に出来たら婚約させてやるとでも言うと思う。」

「では、陛下からサインが貰えても、クリストフ殿下とキャシーの婚約破棄はまだ受理されないということですね?」

「そうだ。すまないが、キャサリンにも伝えてくれるかい?」

「承知しました。宜しくお願いします。」

「ああ。気をつけて帰りなさい。」

「はい。失礼します。」


ヴィンスは帰宅し、宰相はいろいろと済ませてから国王の執務室へ向うことにした。

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