拝啓、黄泉の国にて
「君は何を楽しんでいる」
私は君に疑問を投げかける。僕たちは虐げられ、誰にも相手にされなかった弱者で、君を殺して死のうとしているのに、
「だって、やっと死ねるのよ、一緒に地獄に落ちようね」
「この世界に地獄があるとは思えないけどな」
僕はそう言った。彼女はそれでも笑顔で
「なら、次も一緒に産まれようね」
そう言った。
…………
「初めまして、みなみさん」
大きい声で目が覚める。目を開けると、執事のような人間が目に入る。どうやらここは街のようだ。
現在時刻は夜。僕は、路地裏で寝てしまったらしい。
「初めまして、あなたは何者ですか」
路地裏に立つ足のない執事にそう話しかける。足がない理由は聞いてはいけない気がして、聞かないことにした。
「私はこの街の案内人でございます。この地獄の案内人ですよ」
「あれ?あの世には三途の川があるんじゃないのか?」
「そんな場所もありますが、そこは罪を自覚し罰を望むものがいく場所、輪廻天性を望む貴方には、縁のない場所です。」
そう執事は言った。僕は何も知らない。この世界がどうなのか、でも疑問は浮かばなかった。まるでそれが当たり前のように感じて、
「かつて罪人は閻魔様が直々に罰を下しておりました。ですが今は人が増え過ぎてしまいました。なので、罪人も種類をつけたのです。」
執事がポケットからメモ帳を取り出す。そういえば、真実の鏡だか手帳やらでつみがわかるのだったか、
「貴方の罪状は、自殺、殺人ですね、あとは信号無視が少々です。ああ、虫を殺した関連は気にしなくて大丈夫です。ハチも蚊も意味なく殺してるので」
俺は思い出す。俺は彼女と死んだということを、心中し彼女と一緒に死んだということを
「ただ自殺はこの世界のルールに反する重大な罰なのです。なので貴方は輪廻転生できません。」
「それはどういうことだ、僕は彼女と生まれ変わるためにここにきたのに」
「彼女とも会えません。あの人は今天国にいますから」
天国、あいつは天国に行ったのか、よかった。でも、彼女といたい。俺は彼女と一緒にいたい。
「誰も貴方を止めませんよ、この世界では意味のない死こそが最大の罪、貴方が天国も目指そうと止めません。この世界に来た以上、もうルールに縛られなくていいんですから」
ルールに縛られなくていいと、執事は言った。僕は死にたくなって首を絞めた。
「苦しくない」
「ああ、記憶というのは本当に呪いなのですね、貴方の障がいや病気は治っているというのに、記憶によって死にたくなってしまう」
執事は記憶こそが呪いと言った。人間は経験すればするほど成長するものと成長できないものがあると、何故僕は後者だったのだろう。何故僕は前者になれないのだろう。
「大丈夫、また会えますよ。貴方にはここで幸せになってもらうのですから」
執事に手を引かれ、僕は路地裏を出た。そこには異様な光景が広がっていた。まるでラスベガスの中にある日本庭園のようなそこは、どこにあるかもわからない四角い空間に閉じ込められていた。上を見ても下も見ても左も見ても右も見ても前を見ても後ろを見ても、街街街街街、現実にこんなものがあるのだろうか、
「ここには全てが揃っています。食べ物、寝床、女にギャンブル、貴方が望めば全てが手に入る。それがここ地獄でございます」
ここは地獄、全てが叶う地獄である執事は言った「天国とは節度を持った人間がいく理想郷である」と執事は言った「煉獄とは、節度を持たない人間がいく理想郷だある」と、そして執事は「地獄こそが虐げられてきた人間がいく理想郷である」と、彼女は天国へ行った。つまり、虐げられていなかったということなのだろうか。
「さて、貴方は何を望みますか、みなみさま」
僕が望むものを考える。僕が望むものは彼女に甘えることだ
そう考えると、目の前の風景が変わる。どうやら、ここは豪邸のようだ。貴族が暮らす豪邸。そこに彼女がいた。
「◼️◼️くん」
そう彼女は言った。違う、彼女は豪邸にいない。彼女はいつも、僕を救ってくれる場所にいた。
次に現れたのは、彼女を殺した場所だった。なんのへんてつもない。放置された山小屋。
「殺して?」
そう言われて、彼女の首を絞める。違う、これは理想じゃない。僕は彼女を救いたかった。
「貴方は強欲ですね。みなみさま」
次に目覚めると、僕は元の場所に戻っていた。どうやら僕は死んでしまったようだ。
「貴方は救いたいと言う願いと救われたいと言う願いを持っている。それは矛盾なのですよ。みなみさま、両方救われることなどありません。どんなに救ったとしてもどちらかが苦しむのです。自殺というのは」
執事が言った言葉は、無茶苦茶だったけど、的を得ている気がした。
「なら、どうすればいいんだ?」
「簡単です。思いつくまで、街を歩けばいいのです。貴方の別の理想が見つかるかもしれません。」
執事はそう言った。そうか、そうかもしれない、僕は街を歩き始めた。
最初に辿り着いたのは日本庭園だった。ここは真ん中にある日本庭園、そこでは、たくさんの美人が踊り、侍が歩いていた。
「こんにちは、貴方結構可愛いわね、名前は」
「もうない」
「最初に執事さんに呼ばれた名前があるでしょ、それがここの名前よ」
「そうか、みなみだ」
「そうなの、みなみちゃん、一緒に床に入らない?」
どうやら僕は誘惑されていたらしい、着物の美人の女性はその場で服を脱ぐと、周りの風景が屋敷の寝室へとかわった。
「貴方が後悔するくらいめちゃくちゃにしていいのよ」
僕は少し考える。確かにこれは理想だろう。だが、僕の理想じゃない。
「これは違う、僕の理想じゃない」
そういうと、全裸の女性に着物が現れる。
「もうイケナイコね、でも、その誠実さはいいと思うわよ、頑張りなさい」
彼女はそういうと、街の方へと帰っていった。
次に辿り着いたのはラスベガス、そこではたくさんのギャンブラーがいた。
「こんにちは、ブラックジャックやっていきますか?」
そうディーラーに言われる。俺はいわれるがまま、席に座った。そこからは勝ちの連続だった。ポーカーでも勝ち、スロットでも勝ち、ギャンブルでも勝った。
「それで、ここは貴方の理想なのですか?」
たくさんの人が僕に質問した。確かに、ここはギャンブラーにとっては理想の場所かもしれない。でも
「違う、僕の理想じゃない」
そういうと、彼らは呆れるでもなく、ただ、笑顔を向けた。
「それでいい、旅を続けなさい。」
そう言われて、僕は次の街へと向かった。
次着いたのは、自由の女神の街だった。ここには、食べ物や飲み物がわんさかあった。三つ星のレストランも、ファーストフードもあるここでは、たくさんの人々が料理を作り、食べていた。
「いらっしゃいお兄さん、食べて行きなよ。美味しいものがいっぱいだよ」
そう彼らがいうと、僕の目の前に、ピザやハンバーガー、ポテトが出現した。
僕はそれを食べてみる。食べてみるともう止まらないほど美味しかった。食べた瞬間空腹になり、食べ終えた瞬間満腹になる。かと思えば空腹になり、また食べたくなる。
「どうだいにいちゃん、ここは君の理想の場所かい?」
そう料理人と客が言った。確かにここは美味しいものを食べたい人には理想の場所だろう。だが
「違う、僕の理想じゃない」
そういうと、やはり彼らは嫌な顔をせず、ただ笑顔で
「それでいい、旅を続けなさい」
そういつそう言った。
次に訪れたのは、ただベットだけがある無数の空間、ここではたくさんの人が寝ていた。僕がいくら歩いても彼らは気が付かない。
「いらっしゃいお客さん、君はどんな眠りがご所望だい?」
そう彼らは言った。僕が眠りたい理由などたくさんあるが、僕は彼女の膝の上で寝たかった。
「そうかい、なら、君の理想を見るといい」
そう彼が言った瞬間、僕の意識は途絶えた。
僕は学校にいた。僕の机には相変わらず落書きがあり、教室には僕と彼女がいた。
「ねえ、死んじゃおっか、私たち」
そう言った彼女の目は本当にいますぐにでもしんでしまいそうで、
「じゃあ、山で2人だけで死のう。」
そう提案した。
僕たちは山を登る。アプリで見た山小屋を目指す。今は登山の季節じゃないから、誰もいないはずだ。
「ねえ、なんで私についてきてくれるの?」
そう彼女は言った。それは彼女を救いたかったから、僕は
「君が好きだから」
「あはは、何それ、私もだよ」
そう彼女は言った。今すぐにでも自殺を止めたい。彼女を幸せにしたい。でも、彼女を幸せにする方法などわからない。
やがて、山小屋に着くと、僕たちは2人でベンチに座った。
「君は今から殺人をするんだ、君は私を殺して、死ぬ。その覚悟はあるの?」
「あるさ、君のためなら、なんだってするよ」
彼女の手が僕の頭に伸びて、僕の頭が彼女の膝に乗せられる。
「本当は君と体を重ねたかった。でも限界だから、ごめんね」
「別にいいよ、君と一緒にいられるなら」
そうだ、君といたかった。君と話したかった。君を救いたかった。君と一緒に生きたかった。
「夢の続きは見られましたか、みなみさま」
僕が目を覚ますと、執事が現れた。どうやらここが、僕の旅の終着点のようだ。
「意味のない死は駄目と申したでしょう。彼女が天国に行き、貴方が地獄へ行った訳がわかりましたか?」
そうか、僕は、僕が地獄に来た理由は、
「生きたいのに、自殺をしたからなのか」
「そうです。みなみさま、貴方は生きたいのに自殺をした。それは矛盾であり罪です。天国に行くには、死んだ理由がなければいけません。貴方にはそれがない。だから、貴方は地獄にいるのですよ」
これが僕の罪、僕の理由か
「さて、みなみさま、この街で理想は見つかりましたか?」
俺は考える。この街で昔の記憶を見るのは、何もない人間にとっての理想だろう。だが、それは僕の理想じゃない。でも
「ああ、見つかった。」
そういうと、執事は笑顔で
「何よりです。さてこれから何をしますか?」
「決まってる。手紙を書くんだ。彼女に届くまで書き続ける」
僕は手紙を書くことにした。執事や眠っていた人は拍手をしてくれる。
「おめでとうございます。では、この道を進みなさい。
そこにあったのは、果てしない荒野だった。燃える木、砂しかない光景、その先に、本当に豆粒のように見える場所に、白い町があった。
「あそこまで歩いて行きなさい。それまで、手紙を書き続けなさい。さすれば天国へと行けるでしょう」
普通の人なら、無理と思うかもしれない。でも、その先に彼女がいるならば
「ありがとう、みなさん。お世話になりました。」
ぼくはあるきだす。紙とペンを持って、いつか彼女と一緒に暮らすために、
歩く
歩く
歩く
歩く
歩く
歩く
歩き続ける
この間手紙を書くことをやめない。
歩く
歩く
俺は街の目の前へと辿り着いた。白いこの街は、ドームで囲われており、入口がなかった。
ああ、おれは何もできなかったのか、
俺は砂漠で倒れ、息絶えた。
背景、僕の愛する人へ
貴方を死なせてしまってごめんなさい。
僕は貴方を救いたかった。
貴方を知りたかった。
貴方に甘えたかった。
貴方を愛したかった。
でも、もう叶わないから、もう貴方を抱きしめられないから
貴方に手紙を書き続けます。
貴方を想い続けます。
貴方に今は届かなくても、貴方に届くまで、
だから、もし、貴方と会えたなら、
僕と幸せになってほしいです。
僕は誰かに抱きしめられる。
彼女は誰だっけ、彼女は誰だったっけ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
そうだ、彼女の名前は、
「み…なみ…」
「しゅうくん…ごめんなさい…私、貴方と幸せになりたかったのに…貴方と生きていたかったのに…貴方から逃げてしまった…私…貴方を幸せにできる自信がなかったの…ごめんなさい…」
ああ、もういいんだ。君はそこにいるから、君がそこにいてくれるから、僕は君と一緒にいたかったから…
彼女を抱きしめ返す。そうだ、この温もりが欲しかった。彼女に触れたかった。彼女を感じたかった。
「好き…貴方を愛してます…しゅうくん…」
「…愛してる…みなみ…」
僕は抱きしめる。彼女を必死に抱きしめる。
天使たちが拍手をする。その中にあの執事がいた。
「これにて達成でございます。貴方の死は彼女と出会ったことで意味のあるものになった。それこそが天国に行くための鍵なのです。」
執事は消える。僕たちはただ、泣いて、泣いて、泣き終わったら、笑い合って、手を取り合って、2人で歩き始めた。
彼女の手を握る。彼女をもう逃してしまわないように、彼女を殺してしまわないように、
ああ、ありがとう神様、僕は幸せになりました。
拝啓、黄泉の国にて、神様へ
お元気ですか、
あのあと、僕たちはただ、
2人でできなかったことをしています。
普通にデートをしたり、自宅でテレビを見たり、
愛し合ったり、この生活は楽しいです。
僕たちの暮らしていた世界は理不尽の連続でした。
でも、それから逃げたのは僕たちで、
立ち向かう事を諦めてしまった。
だから、貴方には感謝しています。
今頃貴方は、地獄で他の人を導いているのでしょうか、
あの世界は辛いことばかりです。
なので、せめて、この世界では、黄泉の国では
僕たちのように幸せにしてあげてください。
しゅうより
ポストに手紙を送ると、次の日に手紙が返ってきた。
一枚の紙、封筒にも入っていない手紙にはただ、一言
「人間の幸せは
私が叶えますから
安心して、幸せになってください」
そう書かれてあった。僕は嬉しくなって、ただ、その手紙を家の中に大事に大事に閉まった。