第六話:公爵家
「ほう……。ため息が出る程、素晴らしい居住塔城ですわ……」
お手紙を頂いてから一月。私は公爵家からの迎えの馬車に揺られ、ルベラロイ公爵家へと迎え入れて頂きましたの。
居住塔城に到着した日の内に、私のご主人さまとなられるルベラロイ公爵夫人とはご挨拶と、お仕えする儀礼も終わりましたわ。夕食前には、公爵閣下にもご挨拶がさせて頂けましたの。
翌日の今日は、疲れているでしょうから、一日ゆっくりしていてとの事。
有難いお言葉に甘え、お昼までゆっくりして旅の疲れを癒やさせて頂いたの。移動に、馬車で一週間以上かかりましたから。馬車の中でじっとしているだけでしたから、とても疲れていたもの。
午後になり、今は居住塔城の広い庭園を散歩させて頂いておりますわ。
「城塞ではない城って、とても暮らしやすいのね」
まず驚いたのは、伯爵領で暮らしていた城塞とも、今の領主館とも違う形状の城。
要塞としての機能は持たず、生活しやすさを重視した最新の城なのですわ。
小さな丘全体を城壁で囲んだ物と、城壁の代わりに地下に広大な避難場所が作られた物があってよ。集団暴走への備えですわね。
こちらは前者。広大な庭の中に尖塔のない、平たい城、居住塔城が聳えていますの。
今、多くの貴族が好んで建てている形状の城ですわ。
居住塔城の裏手には、洗濯小屋や厩といった建物がある一方、整えられた裏庭と言う庭もあってよ。
城塞とは全く暮らし易さが違って、驚きの連続ですわ。お庭も、城塞はこんな風に花々で彩られておりませんもの。
戦の備えの場ですもの。当然ですわね。
城塞であれば、ぐるりは城塞で囲まれており、庭もその中。それが、庭の中に居住塔城があるだけで、目が白黒する程の驚きでしてよ。
まあ。見た事のない、美しい花々。部屋に飾りたいけれど、お庭のお花は摘んではいけないとの事でしたわね。残念ですわ。
お仕事の事、立場の事、注意事項を簡単にお聞かせ下さった中に、お花の事もありましたもの。決まりを破る事はなりませんわね。
お仕事先は、ルベラロイ公爵家。ご主人さまは、ルベラロイ公爵夫人マリエッタ・トゥアーモ・レラ=ロワイエット・フォロモッティエさま。
ルベラロイ領を治める、フォロモッティエ家。爵位は公爵であられるわ。
お仕事は、マリエッタさまのお友達。マリエッタさまがお読みになった同じ本も含め、様々な本を読んで、その本についてのお話。流行の宗教劇や神話劇、ファッションのお話。お茶を共に頂く。本当に、お友達とするような事がお仕事。
立場は上級メイドではなく、有給ではあるものの、マリエッタさまのお友達であり客人。
客人ですから、小間使いなど、数人のメイドまで付けて下さいましたの。
お給料は、妥当かどうか分からないのだけれど……。もうない役職なんですもの……
お兄様や執事のライズの考えでは、上級メイドでもそんなに頂いていないお給料だろう。客人としてメイドまで付けて下さるのだ、破格の給金だろうとの事でしたわ。
高給を頂くのですもの。しっかりお仕え致しませんと。
「やあ。貴女がマリエッタの『お友達』だね?」
いきなり話しかけられ、心臓が飛び出しそうな程、酷く驚きましたわ。
それでもお返事とご挨拶せねばと、淑女らしい気品は失わないように気を付けて振り返り……
初夏の午後の光を受け、艷やかな光を放っているようにも見える、淡い色調の金髪。伝統的な、長髪を後ろで束ねた髪型が良くお似合いだわ。
柔らかな弧を描いた、整った黛眉。男性も清潔感を好むお国柄の為、眉墨程度は男性も使われますが……。元が整っていらっしゃるのか、女性の私が羨ましくなるような美しい眉になっておられますわ。
その眉の下、高くすっと伸びた鼻筋。
笑みを湛えた、血色の良い薄い唇。
そこには神話にある、美しい男神とは斯くあらんと言うような、見惚れる美貌の男性がおられましたの。
中でも一番印象的なのは、少し潤んだ、春の湖の様な碧い瞳ですわね。
私はそんな瞳の男性を見た事がなく、息を呑み、しばし見詰めてしまいましたわ。
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