第三話:報告と方向性
「そうだね。我が国の貴族は、まだ領地から上がってくる税収で暮らすもの。貴族たるもの、働かずして暮らすものという古い考えが強いが……」
「そう習いましたわ。この国は寒く、育てられる作物も少ないのだもの。
もっと商業に力を入れて、そちらからの税収を増やすのも良いかと思うのよ」
領主館に帰り、夕食の席であれこれ見てきた事、思っている事をお話したの。
夕食には、お父様、お母様、新領主たるお兄様、弟が一人と妹が二人。それと、以前は伯爵領の領主館で隠居生活なさっていた、お祖父様とお祖母様が揃っているわ。
男爵の領主館の狭い食堂は、家族でひしめいている。
「それはいけないよ。貴族は」
「父上は口を挟まないで下さいませんか?」
「そうだとも。領地経営の才のないそなたは、黙っておれ」
お父様が意見を述べようとすると、すかさずお兄様とお祖父様が窘められる。
お兄様は当主なので当然。お祖父様は当主は譲ったのだからと、領地経営に口を差し挟む事はなさらないようにしていらしたの。それをお止めになったみたい。
だけど、皆、お父様が嫌いではないのよ。ただ、領地経営の才がないのは骨身に染みて理解したから、そちらへ口を挟むのは禁止っていうだけなの。
お父様は、とても領民を大切にされる方だったわ。殆どの領地では、公七私三という重税が殆ど。お祖父様は、公六私四で。お父様は災害や不作があれば、被害に応じて公二私八にまで減税なさる方だったの。
それは、お祖父様にすらできなかった事。そうしてでも、お父様は領民が飢えないようにしていらしたのよ。
才はなくっても、領民を思う心は三代のなかで随一。そして、それを実行なさる事もできた領主であられたの。
それは誰もが認める、お父様の素晴らしい点であり、なかなか真似のできる事ではない事も分かっているからよ。
うふふ。そんな優しいお父様だから、我が家はいつも貧乏だったけれど。理由が理由だから、贅沢ができなくっても、文句を言う気にならなかったわ。
「ふう……。まあ、爵位はこれ以上落ちようはないのだし。税収だけで賄うには、限界に来ているのも分かっていた事。サヴォーも、商業はやるべきという考えだしね。
やってみても良いだろう」
「ええ、それが一番だと思うわ」
「その目玉に、育つのが早く、旨い脂の牛。赤針ルチルといった、カナリアの見てきた物もというのは、私も調べてから判断するよ」
「勿論だわ。そうなさって下さいな」
調べる事は大切だもの。見込みがありそうなら採用で良いの。
「話は変わるが、カナリアは剣も魔法も、かなり筋が良いと、護衛に付いていた者達が褒めていたよ」
「まあ、本当?」
「ああ、我が国は、女性であっても自衛できる事は美徳とされている。もうすぐ十四歳になる貴族子女が、ランクCの単体の魔物まで落ち着いて対応できるのはそうないと言っていたよ」
「倒すのは無理でも、対応は何とか……」
「それで良いよ。逃げ延び、命があれば良いのだから」
「そうですわね。まだ研鑽は積みますが……、本当にまた教師をお雇いになるの?」
「カナリアにも、まだ小さい下の弟妹にも教師は必要だ。高給が必要な評判の良い教師は雇えないが、なるべく良い教師を探して付けるよ」
「分かる範囲なら、私が教えても良いぞ」
「お祖父様が? それも有難い事ですわ」
領地経営が軌道に乗るまでは、お祖父様とお祖母様が。領地経営が軌道に乗ると、お兄様は公言通り、私と幼い弟妹たちに家庭教師を付けて下さったの。
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