第二話:男爵領の把握
暮らしていた伯爵領を立ち、馬車に揺られる事十日。
領主館に着いた当日から、今年十八歳になったお兄様が新領主として腕を振るわれ始めたのは一月前。
お兄様はこの一月、領地の把握に、年若い家令と領地経営の報告書を読み込んでいらした。
私はもうすぐ十四歳になるけれど。女の子は領地経営に口は挟めないから。
仕方ないから領地を馬で巡って、実際に領地を見て廻った。
「まあ! じゃあこの牛は、普通、出荷までに五年程度かかるのが三年で出荷できるのね?」
「はい。ちょっと脂も多く、甘い脂の肉になります。最近はちょっと人気になってきております」
これは、『ブランド牛』になるのでは?
力を入れて良い物ね。
次は内包物の入った水晶が採掘されるようになった、歴史のある採掘現場ね。
◇
「赤針ルチル」
掌の上に、先程無限収納にしまった石が出て来たわ。間違いなく、これは赤針ルチル! これ、今、あちこちで探している石よ!
「これ! 今、とても人気のある石だわ。これは高値で取引されるから、売り出す準備をしておいて」
「へ? こんな、中に不純物が入った物が、ですか?」
「そうよ。昔、隣国のご兄弟王子殿下方が、この石のお蔭で子宝に恵まれたそうなの。それからというものこの石は、子宝の欲しい王侯貴族や裕福な家でもてはやされているのよ」
監督官は疑いの眼差しだけれど、パワーストーンというものがあるのですって。これはその一種類で、とても人気のある種類なんだから。
◇
気になっていた報告の場所を訪ねてみれば、意外と悪くない。いえ、寧ろ良い話になりそうな物も多かったわ。
食糧は数年前から、小麦を栽培するより、ここの気候に合う作物の栽培へ移行しているから、少しすれば結果が出るはず。
一ヶ月の間に見て回った物の事を考えながら、館への帰路に着く。
先代の家令が亡くなり、年若い後継の家令がその任に着いてから、我が家はあっという間に傾いた。
先代の嫡子は、年若くして優秀と評価されていたのに……。お父様は、「君は、まだ若いから」と、家令に任せている領地経営に乗り出し、ことごとく失敗。
その度に貧乏になり、高価なドレスや宝石といった物は買い与えられなくなり……。やがて食事も質素になり、家財も減り…………
そんな状態にあっても教育だけは質を落とさず、最後まで力を入れて下さって助かったわ。これだけは感謝ね。
我が家の不幸は、お父様は良い物の方を選び取る才能がなかった事ね。若い家令が進めようとしていた事が、良い事の内の一つだったというのに……
そんなお父様は、男爵領に移ると同時に、お兄様に跡をお譲りになられたのは良い判断だわ。
お兄様が領主となり、新体制の元、きっと豊かな領地にしてみせますわ!
誤字報告、ありがとうございます。
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